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24年8月24日 新ネタ卸市場
俺は追う立場より追われる立場の方が好きだが君はどうだ
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自分達の代わりに舞台に立った2つの躍動する筋肉にまるっきり魅せられた俺と湯本は、ライブ会場から少し離れた場所で、色竜嬢が現れるのを待っていた。
流石に鈴木教諭が亡くなったことを伝えれば、協力してくれるはずだという、思惑を胸に。
湯本が自販機でジュースを買いに行ってくるとその場を離れてすぐ、彼女は現れた。
彼女は舞台に立ったまんまのスーツ姿で、ぴっしりと女性的な肉感を伴った足に張り付くようなスキニーパンツ。
ふ~ん、エッチじゃん。
・・・で、湯本は?
彼女が俺に抱いている印象と言えば、「蒲田で出待ちしてきたクソガキ」程度のものだろうが、せめて顔も知りのアイツにはいてほしいのだが。
チラリと自販機の方を見ると、顎に手を当てながら何を買うか呑気に悩んでいやがるのだ。
蓋つきの飲み物なら何でもいいだろ!
そうこうする間にも、彼女は駅の方へと歩いていく。
仕方ない、せめて見失わないように追いかけよう。
最悪、駅でばったり鉢合わせた体で済ませるしかない。
SNSで湯本にその旨を伝え、俺も物陰から踏み出て、彼女をそっと追う。
そして、追ううちに気付く。
彼女を尾行する人影が、もう一人いる。
夏だというのに野球帽をかぶり、長袖のワイシャツに袖を通し、ゆったりとしたジョガーパンツを履いた背の高い男。
手元のスマホばかり見ているかと思えば、色竜嬢が横断歩道で立ち止まるとその少し手前で立ち止まり、キョロキョロと建物を探すような挙動をするのだ。
一方で、色竜嬢が角を曲がると見失わないように、早足になって後を追うのだ。
・・・間違いなく尾行している。
俺もいつの間にか色竜嬢ではなく、無意識にその男のことを追いかけるようになっていた。
「おい」
後ろからかけられた低い男の声に、俺はピクリと体を震わせてから足を止める。
何時の間にか、肩に手が乗っている。
夢中になりすぎて、何か落としたことに気付かなかった?
いや、違う。肩の手は、乗っているなんてもんじゃない。
確かにその手は俺を逃がすまいとしっかり力が込められていた。
「お前してんの、尾行?ならちょっと裏路地行こう?」
ゆっくり振り返ると、パーカーのフードを目深にかぶった30手前ほどの男が立っていた。
首にはギラギラとした黄色い輝きを放つ金属製のチェーンをかけ、達磨の様な丸い目の上の眉を薄く刈り揃え、腫れぼったい唇には痛々しい(本当に痛いのかは知らない)ピアスがついている。
一瞬のことでよく見えなかったが、俺を捕まえていた手の甲には、何かの動物のタトゥーが入っているようにも見えた。
・・・バレた。
というか、コイツ、どこかで見たことが・・・
いや、それよりも、今は誤魔化さなければ。
内申点、内申点が!
「アイツってなんです?流行なら自分も追いかけてますけど」
「グレーのパンツに締まったヒップ。
追いかけるストーカーのゴミクズ。
確保対象と得てる確証。
これ以上路上で続かない談笑」
・・・ラッパー!本物のストリートのヒップホッパーだ!!
思い出した!この男、色竜嬢と『わけなかったわ』を組んでいるラッパーの男だ!
これは、渡りに船・・・なのか?
いや、状況は最悪な気がする。
助けてくれー湯本ー、と言う心の声に呼応したのか、トテトテと両手に空き缶を持ったバカが折よく俺に追いついた。
何故蓋つきの飲み物にしない!そしてどちらもプルタブを開けた!
「おーい、置いてくなよ~」
「助けてくれ、不審者に絡まれてる。ネットに拡散して俺が死んだらコイツを警察に突き出してくれ」
「いや、その人色竜さんの相方のマサムネギさんだろ?せっかくだし話聞こうよ」
ダメだこいつ!
「共犯者の登場か?」
無邪気な顔でズズズと缶飲料を飲む湯本を見つめながら、『マサムネギ』と呼ばれた男は、気怠そうに首をゴキリと鳴らした。
その顔は確かに敵意に満ちていた。
このままだと、一気に事件の核心に近付ける気がする一方で、およそ身体的苦痛を伴うことも避けられまい。
そう思わせる確信犯のような、ケダモノのような目。
湯本は一瞬で状況を判断したのか、渋い顔つきになったかと思うと、口の中の炭酸飲料をボホッとマサムネギの顔に吹きかけた。
そして一瞬のスキを突き方を掴む手を振り払うと、俺たちは一目散に駅へと逃げていったのだった。
「待てコラ殺すぞ、そこの馬鹿!高かったんだぞこのパーカー!」
後ろでマサムネギが叫んでいる。
駅のホームに滑り込み電車に乗り込んでもなお、俺たちの上がった息は整わない。
湯本は「やべえだろ」と何度もぶつぶつ呟いて、そっと俺から離れた別の車両へと歩いて行った。
俺はそれに何も言えず、単語帳を開くのだった。
・・・少しでも早く日常に戻るために。
流石に鈴木教諭が亡くなったことを伝えれば、協力してくれるはずだという、思惑を胸に。
湯本が自販機でジュースを買いに行ってくるとその場を離れてすぐ、彼女は現れた。
彼女は舞台に立ったまんまのスーツ姿で、ぴっしりと女性的な肉感を伴った足に張り付くようなスキニーパンツ。
ふ~ん、エッチじゃん。
・・・で、湯本は?
彼女が俺に抱いている印象と言えば、「蒲田で出待ちしてきたクソガキ」程度のものだろうが、せめて顔も知りのアイツにはいてほしいのだが。
チラリと自販機の方を見ると、顎に手を当てながら何を買うか呑気に悩んでいやがるのだ。
蓋つきの飲み物なら何でもいいだろ!
そうこうする間にも、彼女は駅の方へと歩いていく。
仕方ない、せめて見失わないように追いかけよう。
最悪、駅でばったり鉢合わせた体で済ませるしかない。
SNSで湯本にその旨を伝え、俺も物陰から踏み出て、彼女をそっと追う。
そして、追ううちに気付く。
彼女を尾行する人影が、もう一人いる。
夏だというのに野球帽をかぶり、長袖のワイシャツに袖を通し、ゆったりとしたジョガーパンツを履いた背の高い男。
手元のスマホばかり見ているかと思えば、色竜嬢が横断歩道で立ち止まるとその少し手前で立ち止まり、キョロキョロと建物を探すような挙動をするのだ。
一方で、色竜嬢が角を曲がると見失わないように、早足になって後を追うのだ。
・・・間違いなく尾行している。
俺もいつの間にか色竜嬢ではなく、無意識にその男のことを追いかけるようになっていた。
「おい」
後ろからかけられた低い男の声に、俺はピクリと体を震わせてから足を止める。
何時の間にか、肩に手が乗っている。
夢中になりすぎて、何か落としたことに気付かなかった?
いや、違う。肩の手は、乗っているなんてもんじゃない。
確かにその手は俺を逃がすまいとしっかり力が込められていた。
「お前してんの、尾行?ならちょっと裏路地行こう?」
ゆっくり振り返ると、パーカーのフードを目深にかぶった30手前ほどの男が立っていた。
首にはギラギラとした黄色い輝きを放つ金属製のチェーンをかけ、達磨の様な丸い目の上の眉を薄く刈り揃え、腫れぼったい唇には痛々しい(本当に痛いのかは知らない)ピアスがついている。
一瞬のことでよく見えなかったが、俺を捕まえていた手の甲には、何かの動物のタトゥーが入っているようにも見えた。
・・・バレた。
というか、コイツ、どこかで見たことが・・・
いや、それよりも、今は誤魔化さなければ。
内申点、内申点が!
「アイツってなんです?流行なら自分も追いかけてますけど」
「グレーのパンツに締まったヒップ。
追いかけるストーカーのゴミクズ。
確保対象と得てる確証。
これ以上路上で続かない談笑」
・・・ラッパー!本物のストリートのヒップホッパーだ!!
思い出した!この男、色竜嬢と『わけなかったわ』を組んでいるラッパーの男だ!
これは、渡りに船・・・なのか?
いや、状況は最悪な気がする。
助けてくれー湯本ー、と言う心の声に呼応したのか、トテトテと両手に空き缶を持ったバカが折よく俺に追いついた。
何故蓋つきの飲み物にしない!そしてどちらもプルタブを開けた!
「おーい、置いてくなよ~」
「助けてくれ、不審者に絡まれてる。ネットに拡散して俺が死んだらコイツを警察に突き出してくれ」
「いや、その人色竜さんの相方のマサムネギさんだろ?せっかくだし話聞こうよ」
ダメだこいつ!
「共犯者の登場か?」
無邪気な顔でズズズと缶飲料を飲む湯本を見つめながら、『マサムネギ』と呼ばれた男は、気怠そうに首をゴキリと鳴らした。
その顔は確かに敵意に満ちていた。
このままだと、一気に事件の核心に近付ける気がする一方で、およそ身体的苦痛を伴うことも避けられまい。
そう思わせる確信犯のような、ケダモノのような目。
湯本は一瞬で状況を判断したのか、渋い顔つきになったかと思うと、口の中の炭酸飲料をボホッとマサムネギの顔に吹きかけた。
そして一瞬のスキを突き方を掴む手を振り払うと、俺たちは一目散に駅へと逃げていったのだった。
「待てコラ殺すぞ、そこの馬鹿!高かったんだぞこのパーカー!」
後ろでマサムネギが叫んでいる。
駅のホームに滑り込み電車に乗り込んでもなお、俺たちの上がった息は整わない。
湯本は「やべえだろ」と何度もぶつぶつ呟いて、そっと俺から離れた別の車両へと歩いて行った。
俺はそれに何も言えず、単語帳を開くのだった。
・・・少しでも早く日常に戻るために。
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