9 / 49
24年8月21日 師父李の電脳中華寄席2024~夏は赤・南にドラ~
俺はダイエットコークとコークの味の違いが判らないが君はどうだ。
しおりを挟む
俺が炭酸飲料を手に席に戻ると、温まった鉄皿に乗せられたチョリソーがテーブルの上に追加されていた。
注文した張本人は「あちっ、あちっ」と跳ねる油に苦戦している。
チョリソー、か。話の続きにはちょうどいい。
「お前先生から『二人で漫才しない?』って言われたとき思わなかったか?『もしかしてだけど、もしかしてだけど』って」
「・・・は?ホントはおいらのチョリソーをツッコミたいんじゃないの~ってか?」
「お前はわかってたんだろ、あの大道具のノッポが何も本気で大きなイチモツを欲しがってたわけじゃないって」
「・・・なんだよ、物造のことを庇わなかったのを責めたいのかよ」
バツが悪そうにする湯本に、俺は首を横に振った。
やはり湯本は鈴木教諭の趣味にまたがるムジュンに気付いていない。
確かに物造が大道具係に左遷されたことで空いた穴にすっぽりとハマったのが湯本なのだが、この際それはどうでもいいのだ。
「休日に漫才ライブに行くような人間なら、どぶろっくのネタくらい知ってていいと思わないか」
「・・・先生はお笑いに詳しくなかったって言いたいなら、そりゃ早計だと思うぜ?演劇畑の出身なんだからコントばっか見てたのかもしれないじゃないか。それこそ、ダウ9000とかさ」
「それもおかしいんだよ」
・・・そもそもどぶろっくも、キングオブコント優勝者なのだ。
「え、ダウ9000コントだって言うの、そんなにおかしいか?お前、陣内智則?」
「違う、お前の舞台度胸を鍛えるんなら、スタイルの近い漫才じゃなくコントで出るべきだったはずだ」
「・・・おう?それ漫才コントじゃダメか?」
目の前の馬鹿は、まるでアシカみたいに間の抜けた顔にお似合いな間の抜けた声を漏らした。
てんでダメだな、コイツには勘もないらしい。
なら、過去のこいつの地道な努力を信用するしかないか。
湯本がまとめてきた資料をめくると、二人が8月3日に「アップルパイ」と言うコンビ名で初めて出演したライブについても書かれていた。
みんなの漫才ライブ。略して「みんざら」。
趣味としてのお笑い、プロになるための練習の舞台として、ほぼ毎週都内のどこかで開催されている
目的が目的なだけあってアマチュア芸人や学生芸人だけが参加できるのだが、MCだけはプロの芸人が来るようだ。
参加形式は漫才か漫談に限定されているようで、やはりコントで出ることはできない。
主催は「おい加藤」と言う人物で、「電脳中華警備隊」というお笑いコンビとしても活動している。
俺は3日に下北沢で開かれたvol108のビラを見ていて、知っている名前があることに驚きを隠せなかった。
「MC、『力の奔流』じゃん」
「俺もたまげたよ、楽屋にいてもオーラビンビンでさ!」
身振り手振りを交えてMCの二人の辣腕を褒めたたえる湯本。
だがこうなるのは無理もない、「力の奔流」は、多少お笑いをかじっていれば興奮しないわけがないビッグネームだ。
「力の奔流」とはヒスパニック系ハーフキャラのツッコミのサイモンと、パニックホラー系ボケのカワタの二人組によるお笑いコンビであり、最近は神保町の劇場番長として知られている。
昨年のM-1で準々決勝まで進出し、CDEお笑いグランプリも準決勝まで進出した、いわゆる「今キテる実力派漫才師」なのだ。
「湯本。先生は『力の奔流』が目的だった、そう思い当たる節はないか?」
「いや、どうだろう」と、湯本は片手でスマホをいじりながら、もう片方の手でチョリソーを口に放り込んだ。「先生、特に二人には興味なかったみたいだったし。楽屋で絡むとかもなかったけどな」
鈴木教諭には最近彼氏ができた。
相手が今を時めくお笑い芸人なら、何かトラブルに巻き込まれてもおかしくないと思ったのだが。
眉をひしゃげて考え込む俺に、湯本は「なあなあ」とのんきに声をかける。
「その主催の相方の『師父李』ってやつも蒲田で今日ライブを開いてるらしいんだけど、行ってみないか?」
注文した張本人は「あちっ、あちっ」と跳ねる油に苦戦している。
チョリソー、か。話の続きにはちょうどいい。
「お前先生から『二人で漫才しない?』って言われたとき思わなかったか?『もしかしてだけど、もしかしてだけど』って」
「・・・は?ホントはおいらのチョリソーをツッコミたいんじゃないの~ってか?」
「お前はわかってたんだろ、あの大道具のノッポが何も本気で大きなイチモツを欲しがってたわけじゃないって」
「・・・なんだよ、物造のことを庇わなかったのを責めたいのかよ」
バツが悪そうにする湯本に、俺は首を横に振った。
やはり湯本は鈴木教諭の趣味にまたがるムジュンに気付いていない。
確かに物造が大道具係に左遷されたことで空いた穴にすっぽりとハマったのが湯本なのだが、この際それはどうでもいいのだ。
「休日に漫才ライブに行くような人間なら、どぶろっくのネタくらい知ってていいと思わないか」
「・・・先生はお笑いに詳しくなかったって言いたいなら、そりゃ早計だと思うぜ?演劇畑の出身なんだからコントばっか見てたのかもしれないじゃないか。それこそ、ダウ9000とかさ」
「それもおかしいんだよ」
・・・そもそもどぶろっくも、キングオブコント優勝者なのだ。
「え、ダウ9000コントだって言うの、そんなにおかしいか?お前、陣内智則?」
「違う、お前の舞台度胸を鍛えるんなら、スタイルの近い漫才じゃなくコントで出るべきだったはずだ」
「・・・おう?それ漫才コントじゃダメか?」
目の前の馬鹿は、まるでアシカみたいに間の抜けた顔にお似合いな間の抜けた声を漏らした。
てんでダメだな、コイツには勘もないらしい。
なら、過去のこいつの地道な努力を信用するしかないか。
湯本がまとめてきた資料をめくると、二人が8月3日に「アップルパイ」と言うコンビ名で初めて出演したライブについても書かれていた。
みんなの漫才ライブ。略して「みんざら」。
趣味としてのお笑い、プロになるための練習の舞台として、ほぼ毎週都内のどこかで開催されている
目的が目的なだけあってアマチュア芸人や学生芸人だけが参加できるのだが、MCだけはプロの芸人が来るようだ。
参加形式は漫才か漫談に限定されているようで、やはりコントで出ることはできない。
主催は「おい加藤」と言う人物で、「電脳中華警備隊」というお笑いコンビとしても活動している。
俺は3日に下北沢で開かれたvol108のビラを見ていて、知っている名前があることに驚きを隠せなかった。
「MC、『力の奔流』じゃん」
「俺もたまげたよ、楽屋にいてもオーラビンビンでさ!」
身振り手振りを交えてMCの二人の辣腕を褒めたたえる湯本。
だがこうなるのは無理もない、「力の奔流」は、多少お笑いをかじっていれば興奮しないわけがないビッグネームだ。
「力の奔流」とはヒスパニック系ハーフキャラのツッコミのサイモンと、パニックホラー系ボケのカワタの二人組によるお笑いコンビであり、最近は神保町の劇場番長として知られている。
昨年のM-1で準々決勝まで進出し、CDEお笑いグランプリも準決勝まで進出した、いわゆる「今キテる実力派漫才師」なのだ。
「湯本。先生は『力の奔流』が目的だった、そう思い当たる節はないか?」
「いや、どうだろう」と、湯本は片手でスマホをいじりながら、もう片方の手でチョリソーを口に放り込んだ。「先生、特に二人には興味なかったみたいだったし。楽屋で絡むとかもなかったけどな」
鈴木教諭には最近彼氏ができた。
相手が今を時めくお笑い芸人なら、何かトラブルに巻き込まれてもおかしくないと思ったのだが。
眉をひしゃげて考え込む俺に、湯本は「なあなあ」とのんきに声をかける。
「その主催の相方の『師父李』ってやつも蒲田で今日ライブを開いてるらしいんだけど、行ってみないか?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』
M‐赤井翼
ミステリー
赤井です。
「元女子プロレスラー新人記者「安稀世《あす・きよ》」のスクープ日誌」シリーズも4作目!
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!』を公開させていただきます。
昨年末の「予告」から時間がかかった分、しっかりと書き込ませていただきました。
「ん?「焼飯の金将」?」って思われた方は12年前の12月の某上場企業の社長射殺事件を思い出してください!
実行犯は2022年に逮捕されたものの、黒幕はいまだ謎の事件をモチーフに、舞台を大阪と某県に置き換え稀世ちゃんたちが謎解きに挑みます!
門真、箱根、横浜そして中国の大連へ!
「新人記者「安稀世」シリーズ」初の海外ロケ(笑)です。100年の歴史の壁を越えての社長射殺事件の謎解きによろしかったらお付き合いください。
もちろん、いつものメンバーが総出演です!
直さん、なつ&陽菜、太田、副島、森に加えて今回の準主役は「林凜《りん・りん》」ちゃんという中国からの留学生も登場です。
「大人の事情」で現実事件との「登場人物対象表」は出せませんので、想像力を働かせてお読みいただければ幸いです。
今作は「48チャプター」、「400ぺージ」を超える長編になりますので、ゆるーくお付き合いください!
公開後は一応、いつも通り毎朝6時の毎日更新の予定です!
それでは、月またぎになりますが、稀世ちゃんたちと一緒に謎解きの取材ツアーにご一緒ください!
よ~ろ~ひ~こ~!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
10日間の<死に戻り>
矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
尖閣~防人の末裔たち
篠塚飛樹
ミステリー
元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。
緊迫の海で彼は何を見るのか。。。
※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無断転載を禁じます。
天使の顔して悪魔は嗤う
ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。
一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。
【都市伝説】
「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」
そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。
【雪の日の魔物】
周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。
【歌う悪魔】
聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。
【天国からの復讐】
死んだ友達の復讐
<折り紙から、中学生。友達今井目線>
【折り紙】
いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。
【修学旅行1~3・4~10】
周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。
3までで、小休止、4からまた新しい事件が。
※高一<松尾目線>
【授業参観1~9】
授業参観で見かけた保護者が殺害されます
【弁当】
松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。
【タイムカプセル1~7】
暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号
【クリスマスの暗号1~7】
赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。
【神隠し】
同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック
※高三<夏目目線>
【猫は暗号を運ぶ1~7】
猫の首輪の暗号から、事件解決
【猫を殺さば呪われると思え1~7】
暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪
※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる