変な漫才~これネタバレなんですけど、人が死にます~

八木山

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24年8月19日

俺は客側にもマナーが必要だと思うが君はどうだ

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夏休みである。
18歳の男女ともなればキャッキャムフフな思ひ出づくりに奔走する、夏休みである。

だが俺は学校に来ている。それも勉強をしに。

休めてなくないか?とは言うまい。
特進科の夏期講習とは、甲子園球児にとっての夏の大会予選に近いのだから。
夏の模試とは、全国の学生が鎬を削り合う、知恵と知識のインターハイなのだ。
それに向けてシャーペンという名のバットを振り回し、消しゴムと言う名のボールを投げ合う。
一日に、7コマもだ。
(なら受験本番は何かだと?オリンピックに決まっている。・・・3年に1度だけど)


仕方がないのだ、その分学費も安いし。
特進科の学生は毎年この時期になると必ず自分にそう言い聞かせているのである。

品川高校はいくつかの学科が存在するマンモス校だ。
俺のいる特進科は普通科とは校舎が分かれているため、学校生活で普通科の生徒と会うことは滅多にない。
それこそ、学食や体育館と言ったインフラにいる時か、さして気の入らない委員会活動くらいなものだ。


では部活はどうなのかというと。
この夏期講習に代表されるように、特進科の1日の授業は一律7コマ。
多くても6コマの普通科の生徒と比べると、部活動へのハードルは非常に非情に高い。
例えば、演劇部やオケ部といった文科系の部活はパート連や基礎連の時間が丸ごと授業と被っている。
同じ部活にいて特進科の方が有利だなんて、クイズ研究部以外に聞いたことがないくらいだ。


だが、それが進学かの学生にとっては好都合でもあった。
要は読み合わせのような通しの練習、言ってみれば「外野が見ていて一番おもしれ―パート」が始まるのだから。


特進科の学生には、観客として彼らの練習する講堂を訪れるものは少なくない。
かくいう俺も、「ロミオ役があってない」「今どき涙頂戴脚本か」「衣装が地味!」「金返せ!」と辛らつな意見を監督陣に投げかけては講堂から追い出されることも、しばしあった。
夏の暑さと非青春的拘束に鬱憤のたまった今日この頃は、なおさらである。

すらっと伸びた手足は、緊張のせいでまるで針金細工。
綺麗に整った顔は能面のように動かない。
・・・いや動かせよ、一応役者だろ。
舞台上で誰もが目を引くルックスなのに、セリフを一言も貰えない男。それが湯本だった。

「なあ君、いつも来てるけど、俺の演技はどう思う?」

最初に話しかけてきたのは湯本だった。
まともに声を聞いたのも、初めてだった。
さぞかし舞台映えしただろう、涼やかな声だ。

「あれは演技って言うのか?」
「痛烈だな」
「何かを演じてこそ演技だろ、あれじゃただのお前の素じゃないか」
「事実だが、言い方ってものがあるだろ」

そんなこんなで湯本とは、基本は一方的に野次り謗りこき下ろす関係が出来上がっていた。
一応は、俺にとって数少ない友人である。


さて。
『焼肉食べ太郎』が勝手に悲劇(あるいは喜劇)を演じた休み明けの演劇部の練習に、湯本はこなかった。
というか、副顧問である鈴木教諭も来ていない。

鈴木教諭と言えば、物理的にも精神的にも圧倒的な包容力あるいは容積を誇り、「歩く風船」の異名で知られた学校のマドンナである。
彼女も演劇部のOGであり、滅多に顔を出さない顧問の教頭に代わり実質的に演劇部の監督をしているのだが、その監督がいないことで講堂全体が浮足立っているのは見て明らかだった。

そんな中、一人の部員が口にした言葉に全員が耳を疑った。

「フウセン、ぶっ倒れたって聞いたぜ」
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