探偵内海は宝船を仕舞いこむ

八木山

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十八丈島殺人事件

この世の全ての答えを知る天才

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@2023年12月17日 01:39

都内、灯火学会本部、地下2F。
灯明党所属の参議院議員、山田浅野丞は、久方ぶりに心から頭を下げた。
党内外から恨まれる仕事をしてきた自覚はある。
自分が狙われるのは仕方がない。
だが、目に入れても痛くないほどにかわいがってきた孫娘が巻き込まれるのだけは避けたかった。

「ヨシノ様。どうか、どうか十八丈島の事件の犯人を教えてくださいませ」
「どちらさまですか?」

格式ばった豪奢な椅子に大尉葛和利するヨシノは、目の前でみすぼらしく膝を地につけ、頭を下げる老人に見覚えがなかった。

灯火学会という宗教法人におけるヨシノの立場は、「予言者」。
キリスト教で言うところのヨハネであり、幸福の科学で言うところのエルカンターレである。
当の本人が特定の宗教観を持っているわけでもなければ、灯火学会の掲げる宗教的理想に合意したわけでもない。

「そこにいるだけで祭り上げられている」、これが最も実態に近しい。

「以前、あなたに選挙支援をしていただいた灯火学会員の山田浅野丞でございます」
「ああ、はぁ、さん。それで?」

白服の青年が自分たちの雇い主のことを正確には思い出したわけではないのは、傍らに立つスーツの男たちも一目でわかった。
一政党の幹事長といえど、ヨシノからしてみればいつの間にわらわらとたかってくる有象無象の一人にすぎないのだ、覚えているはずもない。

「今しがた、十八丈島で殺人事件が起きたとの知らせを受けました。殺人犯がいる絶海の孤島に、私の孫娘がいるのです。その犯人は誰なのか、教えていただけないでしょうか」

山田は事前に同じく十八丈島にいる相野刑事からの報告内容をヨシノに共有している。
ヨシノはそれを見たのだろうか、「めんどうですね」と小さく呟き、手元にあるフリップに何か文字を書き始めた。

「出来ました」

『出来ました』?何が?
山田たちの疑問をよそに、「ほら、お題」とヨシノは促す。
慌てて山田は、言った。

「十八丈島の殺人事件の犯人とは?」
「犯人は御木本」

クルリとひっくり返したフリップには、黒いインクで「多分みきもっさん。プリン賭けるし」と書かれている。

「あ、ありがとうございます!!!」

山田は何度も頭を下げると黒服の一人、秘書の墨岡とともに部屋を出、廊下で耳打ちする。

「ふぁ、ふわ~~!犯人分かったぁ~~↑」
「犯人分かりましたね!さすがヨシノ様・・・あれが天才の頭脳か」
「でもなんかすっげぇ不安そう~!ヨシノ様」
「プリンて。小学校で給食食べてるんですかね」
「給食の配膳員みたいな服装だけど今年で29だぞあの人。そりゃあない」
「でも全然トリックが分かりませんよ。ダイイングメッセージも、殺害の順序も」
「確かに、気になってきたかも」
「ヨシノ様に聞いてみたらどうですか」
「ん~・・・ま聞いてみる?孫にいい恰好したいしね?」

山田は再び部屋に入る。

「失礼します」
「ええと、山川さんルビでしたっけ。まだ何か?」

ヨシノがわざと間違えているのは明々白々だった。

「いい加減、うんざりしているんですよ。聞けばなんでも答えると思われている方があまりに多いので」
「しかしですね、刑事事件における逮捕にはそれなりの根拠が必要でして・・・」
「まあ、いいですよ」決して山田には目を向けず、髪をいじくるヨシノ。「この教団をおもちゃにするのも、なかなか楽しかったですし。それで?」
「はい、ええとですね。御木本が殺害したにもかかわらず、ダイイングメッセージはベトナム人のクプク氏を名指しするものだったが、それはどうしてなのでしょうか?」

スポンジでフリップの文字を消し、再び何かを書き始めるヨシノ。

「はい」

何故だ、何故手を挙げるんだヨシノ!

「ダイイングメッセージはどうして御木本を差していなかった?」
「現場には森秋教授自身によって、作り物の血糊やダイイングメッセージが準備されていたかrンフw」

フリップの裏側で、ヨシノは笑っていた。
そうか、そういえば森秋と言う男が自分に会いに来ていたじゃないか。
まさかこんな形で巡ってくるとはね。

「既婚者である森秋教授がそのことを隠し、何故浅子さんの婚約者を決めるパーティに参加したのか。それはパーティの中で行うはずだった推理ゲームの仕掛け人だったからです。元々は島正のレプリカがジャケットの背中に刺さった森秋教授は見つかる予定でした」
「そのための血糊とダイイングメッセージだというのか」
「ええ。犯人は部屋がそんなことになっているとは知らず、電気を消し後ろから襲いかかった。電気をつけて初めて偽の血痕とダイイングメッセージに気が付き、これ幸いとクプク氏のヘアゴムをくすねて現場に置いた。そして左手で握った本物の島正を森秋教授の死体に振り下ろしたんです」

山田は感心していた。

「だから、血糊の上には足跡が二つあるが、本物の血痕の上には一つしか足跡がない」
「そういうことです。これでもういいですか、

ちらりとヨシノの方を見ると、不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。

「これからぽこーらの配信を見ないと行けないので」

山田はすぐさま何度も「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」と頭を下げ、そのまま部屋から出ていく。
そして墨岡に再びひしひそと耳打ちをした。

「ぽこーら?甲賀流忍者ではなく?社長でもなく?」
「ヨシノ様、お忙しいんですね・・・」

釈然としないが、真相にたどり着いた。
すぐさま山田は孫娘にSNSで連絡をした。

「御木本に、告発しようと思ってる」
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