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十八丈島殺人事件
IQは200を超える天才
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@2023年12月9日 13:43
大学教授である森秋は、静岡県のとある場所を訪れていた。
知り合いの口から時々語られる「天才」がいるという施設だ。
森の中の開けた場所にひっそりとたたずむ、巨大な角砂糖にも似た建物。
さながら自分は、その中にいる奇人の放つ甘美な香りに誘われた蟻と言ったところだろうか。
グルリと、外観を一周する。
ドアノブ以外には窓の類は一つもないし、人の気配も感じられない。
ただ壁の白さが、ここが放置された廃墟ではなく、間違いなく人の手入れが入っていることを物語っていた。
冬の澄んだ空気の中、せせらぎの音とツグミか何かの声だけが耳に入る。
意を決して、森秋はドアを開けた。
そこはマンションのような、というかマンションの部屋だった。
漫画、人形、パソコン、ゴミ。
ガラクタか、あるいは何か意味があるのか、床や壁には様々なものが散らかっている。
(いた)
上下とも白い服を着た、艶のある短い黒髪を中央で分けた若い男が、壁際に置かれたソファの上に座っていた。
彼は、一心不乱にスケッチブックに向かっている。
「あなたが、ヨシノさんですね」
男が、ゆっくりと顔を持ち上げる。
白い顔には、こちらには興味の一切なさそうな目玉がくっついていた。
だが森秋のゼミにいる無気力な学生とは違う。
なるほど、雰囲気だけなら確かに「天才」と言われるのもよくわかる。
「ええ、そうですけど」
「どんな問いにも答えを出せると聞いたけど」
「頑張らないといけない場合は、相応の対価を頂きますけどね」
そう言いながらヨシノは愛着などまるで内容に、パサリと床にスケッチブックを落とす。
そこには森秋の似顔絵が書かれていた。
(・・・ヘタクソだが、確かに私の顔だ)
森秋は今日この時間にここに来ることなど、誰にも一度も話していない。
「・・・まずは聞いてほしい」
「どうぞ」
森秋はヨシノに経緯を話した。
友人の姪である山田浅子という女性が、婚約者を探している。
自分は結婚しており、もちろん浅子嬢と結婚しようとは思わない。
浅子嬢の父曰く、「賢く勇気のある者」を娘が見定められるような市悔いが欲しいというのだ。
森秋は友人に言った。
海に囲まれた孤島で起きた殺人事件を解決した人間ならどうだろう、と。
友人はそれはいいと喜んだが、問題は殺人事件の起こし方など二人とも知らなかったのだ。
「なるほど、僕に謎を作ってほしい、と」
「君なら造作もないだろう?」
「ですが、初めての相談です。面白い」
ヨシノはスケッチブックを拾い上げ、一枚めくって筆を走らせる。
屋根から滴り落ちる水とテグスを利用して、部屋に立っている被害者の背中に短刀が刺すトリック。
現場は密室、それに犯人のアリバイも保持される。
ミステリの出来としては完璧に近い。
「感想、お待ちしますよ」
全てのトリックを話し終えたヨシノはそれだけ言って少しだけ笑い、今度はラップトップを開き、カタカタと何かを打ち込み始めた。
スピーカーから、「ヒ●キンTV レークイエーム」とどこかで聞いたような音声が流れる。
森秋は自分に割かれた時間が終わったことに気付き、そそくさと部屋を出、さっさと車のエンジンをかけた。
車を走らせながら、森秋は考えていた。
被害者は自分がやろう。
白いジャケットなら血糊もよく映えるだろう。
トリックの都合で犯人はある程度力持ちでないといけないが、それも山田家のコネで演者を探せばいい。
ふと思いつく。
ヨシノと言う男は確かに天才だが、あの頭脳が悪用されたらどうなる?
結局森秋はこの時、まさか自分が死ぬとは思いもしなかったし、そのたくらみの正で現場が大いに混乱したとも考えもしなかったのだった。
大学教授である森秋は、静岡県のとある場所を訪れていた。
知り合いの口から時々語られる「天才」がいるという施設だ。
森の中の開けた場所にひっそりとたたずむ、巨大な角砂糖にも似た建物。
さながら自分は、その中にいる奇人の放つ甘美な香りに誘われた蟻と言ったところだろうか。
グルリと、外観を一周する。
ドアノブ以外には窓の類は一つもないし、人の気配も感じられない。
ただ壁の白さが、ここが放置された廃墟ではなく、間違いなく人の手入れが入っていることを物語っていた。
冬の澄んだ空気の中、せせらぎの音とツグミか何かの声だけが耳に入る。
意を決して、森秋はドアを開けた。
そこはマンションのような、というかマンションの部屋だった。
漫画、人形、パソコン、ゴミ。
ガラクタか、あるいは何か意味があるのか、床や壁には様々なものが散らかっている。
(いた)
上下とも白い服を着た、艶のある短い黒髪を中央で分けた若い男が、壁際に置かれたソファの上に座っていた。
彼は、一心不乱にスケッチブックに向かっている。
「あなたが、ヨシノさんですね」
男が、ゆっくりと顔を持ち上げる。
白い顔には、こちらには興味の一切なさそうな目玉がくっついていた。
だが森秋のゼミにいる無気力な学生とは違う。
なるほど、雰囲気だけなら確かに「天才」と言われるのもよくわかる。
「ええ、そうですけど」
「どんな問いにも答えを出せると聞いたけど」
「頑張らないといけない場合は、相応の対価を頂きますけどね」
そう言いながらヨシノは愛着などまるで内容に、パサリと床にスケッチブックを落とす。
そこには森秋の似顔絵が書かれていた。
(・・・ヘタクソだが、確かに私の顔だ)
森秋は今日この時間にここに来ることなど、誰にも一度も話していない。
「・・・まずは聞いてほしい」
「どうぞ」
森秋はヨシノに経緯を話した。
友人の姪である山田浅子という女性が、婚約者を探している。
自分は結婚しており、もちろん浅子嬢と結婚しようとは思わない。
浅子嬢の父曰く、「賢く勇気のある者」を娘が見定められるような市悔いが欲しいというのだ。
森秋は友人に言った。
海に囲まれた孤島で起きた殺人事件を解決した人間ならどうだろう、と。
友人はそれはいいと喜んだが、問題は殺人事件の起こし方など二人とも知らなかったのだ。
「なるほど、僕に謎を作ってほしい、と」
「君なら造作もないだろう?」
「ですが、初めての相談です。面白い」
ヨシノはスケッチブックを拾い上げ、一枚めくって筆を走らせる。
屋根から滴り落ちる水とテグスを利用して、部屋に立っている被害者の背中に短刀が刺すトリック。
現場は密室、それに犯人のアリバイも保持される。
ミステリの出来としては完璧に近い。
「感想、お待ちしますよ」
全てのトリックを話し終えたヨシノはそれだけ言って少しだけ笑い、今度はラップトップを開き、カタカタと何かを打ち込み始めた。
スピーカーから、「ヒ●キンTV レークイエーム」とどこかで聞いたような音声が流れる。
森秋は自分に割かれた時間が終わったことに気付き、そそくさと部屋を出、さっさと車のエンジンをかけた。
車を走らせながら、森秋は考えていた。
被害者は自分がやろう。
白いジャケットなら血糊もよく映えるだろう。
トリックの都合で犯人はある程度力持ちでないといけないが、それも山田家のコネで演者を探せばいい。
ふと思いつく。
ヨシノと言う男は確かに天才だが、あの頭脳が悪用されたらどうなる?
結局森秋はこの時、まさか自分が死ぬとは思いもしなかったし、そのたくらみの正で現場が大いに混乱したとも考えもしなかったのだった。
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