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品川区会社員殺人事件
いや絶対ちゃうやろ、もうええわ!
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水を配られていない客は、かすかに「熟女モノのAV」という部分だけが耳に入る。
あのヤクザ、まさか人身売買でもやってるんじゃないだろうな・・・?
と思われているとはつゆ知らず、ポカンとする駒場に内海は続けた。
「おそらく、『襲われそうになった』というのは娘の虚言。そう嘘を吐く理由があるとすれば、自らが明確に殺したるっ!て思って殺したんを隠すためや。俺の目はごまかされへんよ?」
「でもどうして!」
「思うに自分のことを大事に大事に育ててくれた母親に、死んでも知られたくなかったんやろうな」
なら最初から売春をしなければいいのにね、とは言えまい。
彼らは彼らで理由があるのだ。
「それより何でこんな大事なこと、最初に言わんのや!」
駒場は「すいません」と頭を下げるが、被害者のAVの趣向なんて最初に言うわけがないのだ。
元はと言えばすべての情報を引き出してから推理すればいいものを、一つ一つの断片的な情報をもとに推理を組み立てている内海が悪いことに、その場にいる誰もが気付いていなかった。
そんな時だった。駒場の胸元からムー、ムーという振動音が流れ出す。
「すいません、失礼します」
スマホを取りだすと、店の外へと出ていく駒場。
暫くして帰ってきた駒場は「内海さん、凶器が見つかりました!」と駆け込んできた。
「被害者宅の玄関口にあったっていう、ロダンの考える人の像が見つかりました!頭から胸のあたりにかけて、娘の指紋が検出されましたよ」
「ほな握ってガン、これで決まりや!決まり!」
「一応本部長にも内海さんの推理を聞かせてみたんですが・・・」
何を無駄なことを!あの頓珍漢なボンクラに何が分かるというんや!
内海はそう思いながらも、しぶしぶ続きを促す。
「・・・ほななんて言うとった?」
「本部長が言うには、ちょっと早いサンタクロースが殺したってことでしたけど・・・」
「いや、絶対ちゃうやろ!もうええわ!」
▼
その後、内海の言う通り、被害者の娘は自供した。
確かに、母親に知られまいとしてかっとなり、考える人の像で父親を殴ったとのことだ。
母親は、自分と娘を天秤にかけ、娘を選んだ。
彼女の身代わりに、逮捕されることを選んだのだった。
しかし、娘の指紋のついた凶器が見つかったことで事態は一転した。
娘は母親に、自分は「突き飛ばした」と、本当の殺害方法を誤魔化したのだ。
パッと見て流血のない被害者を見て、そしていつのまにか娘の背負ったリュックに入れられた像に気付かなかった。
だから、娘が凶器を処分する前に、母親は指紋をつけておくことができなかったのだ。
わが身可愛さから生まれた錆か、あるいは尊い親子の絆か。
それを裁くのは、警察でも、探偵でも、民意でも世論でもない。
裁けるのは、裁判官だけなのだ。
ちなみに、見つかった考える人の首はへし折られていた。
あのヤクザ、まさか人身売買でもやってるんじゃないだろうな・・・?
と思われているとはつゆ知らず、ポカンとする駒場に内海は続けた。
「おそらく、『襲われそうになった』というのは娘の虚言。そう嘘を吐く理由があるとすれば、自らが明確に殺したるっ!て思って殺したんを隠すためや。俺の目はごまかされへんよ?」
「でもどうして!」
「思うに自分のことを大事に大事に育ててくれた母親に、死んでも知られたくなかったんやろうな」
なら最初から売春をしなければいいのにね、とは言えまい。
彼らは彼らで理由があるのだ。
「それより何でこんな大事なこと、最初に言わんのや!」
駒場は「すいません」と頭を下げるが、被害者のAVの趣向なんて最初に言うわけがないのだ。
元はと言えばすべての情報を引き出してから推理すればいいものを、一つ一つの断片的な情報をもとに推理を組み立てている内海が悪いことに、その場にいる誰もが気付いていなかった。
そんな時だった。駒場の胸元からムー、ムーという振動音が流れ出す。
「すいません、失礼します」
スマホを取りだすと、店の外へと出ていく駒場。
暫くして帰ってきた駒場は「内海さん、凶器が見つかりました!」と駆け込んできた。
「被害者宅の玄関口にあったっていう、ロダンの考える人の像が見つかりました!頭から胸のあたりにかけて、娘の指紋が検出されましたよ」
「ほな握ってガン、これで決まりや!決まり!」
「一応本部長にも内海さんの推理を聞かせてみたんですが・・・」
何を無駄なことを!あの頓珍漢なボンクラに何が分かるというんや!
内海はそう思いながらも、しぶしぶ続きを促す。
「・・・ほななんて言うとった?」
「本部長が言うには、ちょっと早いサンタクロースが殺したってことでしたけど・・・」
「いや、絶対ちゃうやろ!もうええわ!」
▼
その後、内海の言う通り、被害者の娘は自供した。
確かに、母親に知られまいとしてかっとなり、考える人の像で父親を殴ったとのことだ。
母親は、自分と娘を天秤にかけ、娘を選んだ。
彼女の身代わりに、逮捕されることを選んだのだった。
しかし、娘の指紋のついた凶器が見つかったことで事態は一転した。
娘は母親に、自分は「突き飛ばした」と、本当の殺害方法を誤魔化したのだ。
パッと見て流血のない被害者を見て、そしていつのまにか娘の背負ったリュックに入れられた像に気付かなかった。
だから、娘が凶器を処分する前に、母親は指紋をつけておくことができなかったのだ。
わが身可愛さから生まれた錆か、あるいは尊い親子の絆か。
それを裁くのは、警察でも、探偵でも、民意でも世論でもない。
裁けるのは、裁判官だけなのだ。
ちなみに、見つかった考える人の首はへし折られていた。
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