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第8話 神算鬼謀
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全員を再び広場に集め、手錠をかけられたままのヴェリスは話し始める。
「大上を殺した犯人は・・・村長、あんただな」
「な、何を根拠に!」
ヴェリスは鋭い眼光だけで、村長を黙らせた。
「順を追って説明してやる。まずそもそも、あの男はどうして狼の頭を乗せられて死んでいたのか。犯人は大上《おおかみ》という名前と、奴が人を食う殺人者という事実を元に狼男に見立てたんだ」
占い師の女は、話の本筋を飲み込みかねて、思わず聞いてしまった。
「狼男・・・?月を見て狼に変身するっていう、あの?でも、何のために?」
「もちろん、この事件を何かに似せ、自分が犯人ではないと隠すためだ。さて、霊媒師よ、閉鎖的な村で朝起きたら人が死んでいる状況。登場するのは占い師、霊媒師、村長、狼男。これらの内容から、何を思い浮かべる?」
霊媒師の男は、少し考えて答える。
「・・・まさか、人狼?」
人狼とは、テーブルゲームである。
村人たちの中に隠れた人狼を、1日1回の話し合いで候補を1人決め処刑し、その日の夜に人狼は村人を1人噛み殺す、というものだ。
太った女は「焼酎の・・・?」と小さくつぶやいたが、眞露ではない。
ヴェリスは満足そうに頷き、続けた。
「そのとおりだ。事実、面白いほどにこの事件は人狼の役職通りに進んだ。霊媒師が死者の身元を当て、占い師が霊媒師の無実を言い当てた。が、本来このゲームにおいて占い師と霊媒師は、人狼による身分偽装がよく行われる、つまり疑われる可能性が高い役職ってことだ」
霊媒師の男は親指だけで太った女を指し示す。
「俺と、この女が疑わしいってことか?この詐欺師まがいはともかく、俺が霊媒系Vtuberなのはもうご理解いただけたと思うけど?」
棚卸御霊のファン「霊まん」であり、ガチ恋勢だった青年は改めてその事実を聞いて、落胆を隠せなかった。
「止めてくれ、それは俺に効く。できれば嘘であって欲しかったくらいなんだから」
「ごめ~んぱっ★」
恐ろしい速度で傷に塩を塗り込む霊媒師の男。
太った占い師の女は見かねて、「続けて続けて」とヴェリスの背中をさすった。
甲斐あってか、ヴェリスの魂は煉獄より現世へと再び戻ってきたようだ。
「まあともかくだ、この事件が人狼の見立てだと前提して、村長の言動において不自然なものが一つあった。そう、疑われたときにとっさに出た『俺はフリーメイソンだぞ』、だ」
巡査は「あの~」と話を遮った。「申し訳ないんですけど、フリーメイソンって何ですか?」
「現実に存在する有名な秘密結社の一つだと思っていい。が、人狼においては全く別の役職になる。簡単に説明すると、ゲームにおいて自分がフリーメイソンだと発言し、否定されなかった場合はその人物は村人側確定となるんだよ。これも御霊の配信で・・・覚え・・・うっ・・思い出したら涙が・・・」
補足すると、人狼におけるフリーメイソン、あるいは共有者は、お互いが村人と知る二人一組の役職である。
一人が名乗り出当た痕に偽物が出た場合、隠れているもう片方がそれを否定し黒陣営を吊ることができるため、
積極的に身分を明かすことがセオリーとされている。
「それなら私は無実じゃないか!人狼というゲームだとフリーメイソンは正義の味方なんだろう?」
ヴェリスは人狼を知らないふりをする村長を尻目に、「とんでもない狸だ」と心の中で侮蔑する。
「大方その理解で間違いないが、今回に限っては逆だ。犯人は自分が犯人じゃないと思わせるために、最も人狼から遠いフリーメイソンを自称したんだよ。そもそもアンタがフリーメイソンじゃないのは、ここにもう一人が名乗り出ていない時点で明白だ」
「違うもん!俺フリーメイソンだもん!」と駄々をこねる村長を脇に、霊媒師の男が尋ねた。
「ならどうして頭に狼を乗せたんだ?人狼に見せかけるなら、それこそ顔にペイントするとか、いろいろやりようがあっただろ」
「斧をわざわざ放置するためだ。村長の持ち物だと一目でわかる凶器をあえて杜撰に扱うことで、自分に罪を擦り付けようとした第三者がいた、と演出する目的だった。それに狼頭も斧も、ちゃんとは管理されていないばかりか、むしろ『千の剣』である俺を犯人にするにはうってつけだった」
確かに狼の頭はヴェリスの泊まっていた宿に飾ってあったものだし、刃物の扱いにたけたヴェリスなら斧で切り落とすのも容易だ。
実際、一度はそう疑われている。
「まさか」村長は焦りと困惑の入り混じった顔を向けた。
最初こそ冗談で言っているのだろうと思っていたわずかな余裕は、今やすっかり影をひそめていた。
「それだけで言っているのか」
「いや、消去法で見てもお前しか犯行は不可能なんだよ」
汗を浮かべながら、村長ははげた頭をぽりぽりとせわしなく掻きむしった。
「な、なんだと・・・?消去法・・・!?ひどいな、どうして私は消去されていない?」
「いいか、仰向けに倒れた大上の遺体には争った形跡がない。つまり、正面から一発で殺害したことになる。巡査と占い師は、その体格から斧を扱って大上を殺害できない。それが可能な体格を持っているうちの1人、霊媒師の男は夜間に明確なアリバイがあった。残るは俺とアンタだが、そもそも俺は昨日ここに来たばかりで、宿には戸もあったがアンタの家には行ってない。つまり、斧の場所など知る機会がなかった。となればアンタしか犯行が可能だった人間はいない」
村長は狼狽えた。
「バ、バカな・・・だとすれば大上と犯人は正面から向き合っているってことになるだろ?なら知り合いの方が疑わしいだろ!それっぽい情報を持っていた霊媒師の方が怪しいじゃないか!私はそもそも大上っていう逃走犯のことすら知らなかったんだぞ?」
「仮に知っていたとしても物理的に実行できないんだ。あんたが言ってるのは、如何にドラゴンに詳しかろうとクレイドル・コアを持っていなければドラゴン殺しは成しえない、ってことだ」
ドラ・・・ん?クレイドル・・え?何?最後の例え話、本当にいる?
首を傾げる一行だが、やっと巡査は自分の役目を思い出したのか、ヴェリスの手錠を外した。
「なるほど、お見事な名推理でした」
「まあな、かつて幾万の軍勢を滅ぼした俺だ、この程度、造作もない」
巡査は村長に両手を差し出すように指示する。
「おかしい!おかしいじゃないか!クレイドルなんちゃらって何だ!ワシはやってない、やってないんだー!たすけてくれー!フリーメイソーン!」
しかし抵抗むなしく、霊媒師の男に取り押さえられた村長の両手には、改めてその手錠はかけられたのだった。
「大上を殺した犯人は・・・村長、あんただな」
「な、何を根拠に!」
ヴェリスは鋭い眼光だけで、村長を黙らせた。
「順を追って説明してやる。まずそもそも、あの男はどうして狼の頭を乗せられて死んでいたのか。犯人は大上《おおかみ》という名前と、奴が人を食う殺人者という事実を元に狼男に見立てたんだ」
占い師の女は、話の本筋を飲み込みかねて、思わず聞いてしまった。
「狼男・・・?月を見て狼に変身するっていう、あの?でも、何のために?」
「もちろん、この事件を何かに似せ、自分が犯人ではないと隠すためだ。さて、霊媒師よ、閉鎖的な村で朝起きたら人が死んでいる状況。登場するのは占い師、霊媒師、村長、狼男。これらの内容から、何を思い浮かべる?」
霊媒師の男は、少し考えて答える。
「・・・まさか、人狼?」
人狼とは、テーブルゲームである。
村人たちの中に隠れた人狼を、1日1回の話し合いで候補を1人決め処刑し、その日の夜に人狼は村人を1人噛み殺す、というものだ。
太った女は「焼酎の・・・?」と小さくつぶやいたが、眞露ではない。
ヴェリスは満足そうに頷き、続けた。
「そのとおりだ。事実、面白いほどにこの事件は人狼の役職通りに進んだ。霊媒師が死者の身元を当て、占い師が霊媒師の無実を言い当てた。が、本来このゲームにおいて占い師と霊媒師は、人狼による身分偽装がよく行われる、つまり疑われる可能性が高い役職ってことだ」
霊媒師の男は親指だけで太った女を指し示す。
「俺と、この女が疑わしいってことか?この詐欺師まがいはともかく、俺が霊媒系Vtuberなのはもうご理解いただけたと思うけど?」
棚卸御霊のファン「霊まん」であり、ガチ恋勢だった青年は改めてその事実を聞いて、落胆を隠せなかった。
「止めてくれ、それは俺に効く。できれば嘘であって欲しかったくらいなんだから」
「ごめ~んぱっ★」
恐ろしい速度で傷に塩を塗り込む霊媒師の男。
太った占い師の女は見かねて、「続けて続けて」とヴェリスの背中をさすった。
甲斐あってか、ヴェリスの魂は煉獄より現世へと再び戻ってきたようだ。
「まあともかくだ、この事件が人狼の見立てだと前提して、村長の言動において不自然なものが一つあった。そう、疑われたときにとっさに出た『俺はフリーメイソンだぞ』、だ」
巡査は「あの~」と話を遮った。「申し訳ないんですけど、フリーメイソンって何ですか?」
「現実に存在する有名な秘密結社の一つだと思っていい。が、人狼においては全く別の役職になる。簡単に説明すると、ゲームにおいて自分がフリーメイソンだと発言し、否定されなかった場合はその人物は村人側確定となるんだよ。これも御霊の配信で・・・覚え・・・うっ・・思い出したら涙が・・・」
補足すると、人狼におけるフリーメイソン、あるいは共有者は、お互いが村人と知る二人一組の役職である。
一人が名乗り出当た痕に偽物が出た場合、隠れているもう片方がそれを否定し黒陣営を吊ることができるため、
積極的に身分を明かすことがセオリーとされている。
「それなら私は無実じゃないか!人狼というゲームだとフリーメイソンは正義の味方なんだろう?」
ヴェリスは人狼を知らないふりをする村長を尻目に、「とんでもない狸だ」と心の中で侮蔑する。
「大方その理解で間違いないが、今回に限っては逆だ。犯人は自分が犯人じゃないと思わせるために、最も人狼から遠いフリーメイソンを自称したんだよ。そもそもアンタがフリーメイソンじゃないのは、ここにもう一人が名乗り出ていない時点で明白だ」
「違うもん!俺フリーメイソンだもん!」と駄々をこねる村長を脇に、霊媒師の男が尋ねた。
「ならどうして頭に狼を乗せたんだ?人狼に見せかけるなら、それこそ顔にペイントするとか、いろいろやりようがあっただろ」
「斧をわざわざ放置するためだ。村長の持ち物だと一目でわかる凶器をあえて杜撰に扱うことで、自分に罪を擦り付けようとした第三者がいた、と演出する目的だった。それに狼頭も斧も、ちゃんとは管理されていないばかりか、むしろ『千の剣』である俺を犯人にするにはうってつけだった」
確かに狼の頭はヴェリスの泊まっていた宿に飾ってあったものだし、刃物の扱いにたけたヴェリスなら斧で切り落とすのも容易だ。
実際、一度はそう疑われている。
「まさか」村長は焦りと困惑の入り混じった顔を向けた。
最初こそ冗談で言っているのだろうと思っていたわずかな余裕は、今やすっかり影をひそめていた。
「それだけで言っているのか」
「いや、消去法で見てもお前しか犯行は不可能なんだよ」
汗を浮かべながら、村長ははげた頭をぽりぽりとせわしなく掻きむしった。
「な、なんだと・・・?消去法・・・!?ひどいな、どうして私は消去されていない?」
「いいか、仰向けに倒れた大上の遺体には争った形跡がない。つまり、正面から一発で殺害したことになる。巡査と占い師は、その体格から斧を扱って大上を殺害できない。それが可能な体格を持っているうちの1人、霊媒師の男は夜間に明確なアリバイがあった。残るは俺とアンタだが、そもそも俺は昨日ここに来たばかりで、宿には戸もあったがアンタの家には行ってない。つまり、斧の場所など知る機会がなかった。となればアンタしか犯行が可能だった人間はいない」
村長は狼狽えた。
「バ、バカな・・・だとすれば大上と犯人は正面から向き合っているってことになるだろ?なら知り合いの方が疑わしいだろ!それっぽい情報を持っていた霊媒師の方が怪しいじゃないか!私はそもそも大上っていう逃走犯のことすら知らなかったんだぞ?」
「仮に知っていたとしても物理的に実行できないんだ。あんたが言ってるのは、如何にドラゴンに詳しかろうとクレイドル・コアを持っていなければドラゴン殺しは成しえない、ってことだ」
ドラ・・・ん?クレイドル・・え?何?最後の例え話、本当にいる?
首を傾げる一行だが、やっと巡査は自分の役目を思い出したのか、ヴェリスの手錠を外した。
「なるほど、お見事な名推理でした」
「まあな、かつて幾万の軍勢を滅ぼした俺だ、この程度、造作もない」
巡査は村長に両手を差し出すように指示する。
「おかしい!おかしいじゃないか!クレイドルなんちゃらって何だ!ワシはやってない、やってないんだー!たすけてくれー!フリーメイソーン!」
しかし抵抗むなしく、霊媒師の男に取り押さえられた村長の両手には、改めてその手錠はかけられたのだった。
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