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第1話 村に平和が訪れました
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酷い雷雨を伴った嵐は去っていった。
雲一つない晴天の元、鶏がけたたましく村に朝を告げる。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
いや、朝を告げたのは、村の中心の広場から響いた絹を裂くような悲鳴だった。
それを聞きつけ、ぬかるんだ地面に足を取られながらも、住人たちが家を出てくる。
悲鳴の主であろう、地面にへたり込んだ太った女が指をさす方を見て、全員が息を呑んだ。
ずぶ濡れでダボダボの作業着をきちんと着ている、仰向けに倒れた大男。
それだけなら酔っ払いか何かにも見えたのだろうが、その男の首は、狼になっているではないか。
すかさず頭髪が禿げ上がった初老の男が駆け寄り、男を揺さぶった。
「元気ですか!元気があれば、何でもできる!」
すると、狼の頭はゴロリと転がり、頸椎の見える断面がお目見えするではないか。
これでは元気があるわけがない。
「わ、わぁ!」と情けない悲鳴を上げて、初老の男はその場で腰を抜かし、そのままの姿勢で後ずさった。
おかげでお尻がびちょびちょである。
その様子をスマホで取っていた体格のいい若い男が、その場を形容する実にシンプルな一言を漏らした。
「人が・・・し、死んでる・・・」
誰かに背中を押されて、警官の制服を着た背の小さな男が倒れた死体に突き出される。
「嫌ですよ!いきなりゾンビみたいに起き上がるかもしれないじゃないですか!」
「だったらその腰にぶら下げてるやつの火を噴かせればいいだろ」
ハゲた初老の男に言われ、巡査は仕方なく脈をとり、首を横に振る。
「ダメです村長、死んでます」
「そんなのは見てわかる!」
「争った形跡がないですね・・・病死では?」
「そんなわけないだろ、首が取れてんだから!その男は一体誰なんだ!」
村長と呼ばれたハゲた男に続き、村人たちは騒ぎ立てる。
「ダリナンダアンタイッタイ!」「そうよ!誰なのよ!」「お前は誰だ!俺の中の俺!」「泥棒!税金泥棒!」「騎士の風上にも置けないグズ!」「誤魔化さないでちゃんとしろー!」
巡査は落ち着けと言わんばかりに両手を突き出して、情けのない叫びをあげた。
「わかりました、わかりやしたよぉ!」
そう言うと、身元を確認できるものがないか確かめ始める。
そして作業着のズボンのポケットから財布を見つけ、中身を検めた。
何かカードのようなものを見つけた巡査は、今度は自分の懐から手帳を取り出すと、しきりにめくり始めた。
目当ての頁が見つかったのだろう、顔を持ち上げて全員に聞こえるよう、はっきりと言うのだった。
「この人、指名手配犯です」
そう言いながら、死体の財布から出てきた身分証と手配書を見せる。
「善人のふりして人を殺して食った、恐ろしい殺人鬼ですよ!まさかそれがこんなところで亡くなるとは!」
巡査がどこかに連絡する間、村人たちはひそひそと耳打ちし合う。
「殺人犯がこの村に・・・」「そ、そんな・・・」「だがこんな顔の男、この村にはいなかったしな」「そうよ!」「いるわけないだろ、顔がオオカミだから」「それはそう」
そう言っている間にも少し距離を取り無線でどこかと話していた背の小さい巡査だったが、ついに確証を得たらしい。
オホンと咳払いし、先ほどと同じように堂々と宣言するのであった。
「ええと、確認が取れました。この男は指連続殺人で名手配されていた男で間違いありません。つまり、この村には平和が訪れた、ってことです!」
元から危険にさらされていたとは露知らなかった村人たちは「おお!」と声をそろえる。
しかし、こういう時に一人はいるものなのだ、水を差すヤツが。
「なあ、いいか?」
それまで黙っていたまだ高校生ほどの少年が手を挙げた。
思い思いにタンクトップやら寝巻やらを着ている村人と異なり、腰にはマチェットを差し、関節にはプロテクターをつけた格好(はっきり言って浮いている)をした彼は、たまたまネクロマンサーの女を探す旅の途中に村に立ち寄った旅人なのだ。
「なんだ、ああと、ヴェリス?くんだっけ」
村長に促され、この世界に転生せし国盗りの英雄、世界樹が豊穣をもたらす中世風の異世界『シマス=ペイン』にかつて存在した古代国家『パルケニア』を覇権国家に導いた最強の軍師であり、『千の剣』の異名を持つ大英雄、ヴェリスは言った。
「そんな暢気に構えていていいのか?その男の首を『盗った』奴が、この中にいるんだぜ?」
―――ここは大きな山の斜面にある平和な村。
先日までの嵐の影響で誰も入れなかった、閉鎖的な村。
酷い豪雨で、昨夜は隣の家の物音も聞こえなかった村。
広場を中心に北から時計回りに均等に、村長の家、宿、派出所、若い男の家、太った女の家、廃屋が並ぶ村。
いるのは、ハゲた村長、太った女、若い男、そして異世界転生という名の旅を楽しむ英雄・ヴェリスに巡査を加えた5人と、かつて人間だったはずの死体だけ。
この村に、まだ殺人犯はいる。
雲一つない晴天の元、鶏がけたたましく村に朝を告げる。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
いや、朝を告げたのは、村の中心の広場から響いた絹を裂くような悲鳴だった。
それを聞きつけ、ぬかるんだ地面に足を取られながらも、住人たちが家を出てくる。
悲鳴の主であろう、地面にへたり込んだ太った女が指をさす方を見て、全員が息を呑んだ。
ずぶ濡れでダボダボの作業着をきちんと着ている、仰向けに倒れた大男。
それだけなら酔っ払いか何かにも見えたのだろうが、その男の首は、狼になっているではないか。
すかさず頭髪が禿げ上がった初老の男が駆け寄り、男を揺さぶった。
「元気ですか!元気があれば、何でもできる!」
すると、狼の頭はゴロリと転がり、頸椎の見える断面がお目見えするではないか。
これでは元気があるわけがない。
「わ、わぁ!」と情けない悲鳴を上げて、初老の男はその場で腰を抜かし、そのままの姿勢で後ずさった。
おかげでお尻がびちょびちょである。
その様子をスマホで取っていた体格のいい若い男が、その場を形容する実にシンプルな一言を漏らした。
「人が・・・し、死んでる・・・」
誰かに背中を押されて、警官の制服を着た背の小さな男が倒れた死体に突き出される。
「嫌ですよ!いきなりゾンビみたいに起き上がるかもしれないじゃないですか!」
「だったらその腰にぶら下げてるやつの火を噴かせればいいだろ」
ハゲた初老の男に言われ、巡査は仕方なく脈をとり、首を横に振る。
「ダメです村長、死んでます」
「そんなのは見てわかる!」
「争った形跡がないですね・・・病死では?」
「そんなわけないだろ、首が取れてんだから!その男は一体誰なんだ!」
村長と呼ばれたハゲた男に続き、村人たちは騒ぎ立てる。
「ダリナンダアンタイッタイ!」「そうよ!誰なのよ!」「お前は誰だ!俺の中の俺!」「泥棒!税金泥棒!」「騎士の風上にも置けないグズ!」「誤魔化さないでちゃんとしろー!」
巡査は落ち着けと言わんばかりに両手を突き出して、情けのない叫びをあげた。
「わかりました、わかりやしたよぉ!」
そう言うと、身元を確認できるものがないか確かめ始める。
そして作業着のズボンのポケットから財布を見つけ、中身を検めた。
何かカードのようなものを見つけた巡査は、今度は自分の懐から手帳を取り出すと、しきりにめくり始めた。
目当ての頁が見つかったのだろう、顔を持ち上げて全員に聞こえるよう、はっきりと言うのだった。
「この人、指名手配犯です」
そう言いながら、死体の財布から出てきた身分証と手配書を見せる。
「善人のふりして人を殺して食った、恐ろしい殺人鬼ですよ!まさかそれがこんなところで亡くなるとは!」
巡査がどこかに連絡する間、村人たちはひそひそと耳打ちし合う。
「殺人犯がこの村に・・・」「そ、そんな・・・」「だがこんな顔の男、この村にはいなかったしな」「そうよ!」「いるわけないだろ、顔がオオカミだから」「それはそう」
そう言っている間にも少し距離を取り無線でどこかと話していた背の小さい巡査だったが、ついに確証を得たらしい。
オホンと咳払いし、先ほどと同じように堂々と宣言するのであった。
「ええと、確認が取れました。この男は指連続殺人で名手配されていた男で間違いありません。つまり、この村には平和が訪れた、ってことです!」
元から危険にさらされていたとは露知らなかった村人たちは「おお!」と声をそろえる。
しかし、こういう時に一人はいるものなのだ、水を差すヤツが。
「なあ、いいか?」
それまで黙っていたまだ高校生ほどの少年が手を挙げた。
思い思いにタンクトップやら寝巻やらを着ている村人と異なり、腰にはマチェットを差し、関節にはプロテクターをつけた格好(はっきり言って浮いている)をした彼は、たまたまネクロマンサーの女を探す旅の途中に村に立ち寄った旅人なのだ。
「なんだ、ああと、ヴェリス?くんだっけ」
村長に促され、この世界に転生せし国盗りの英雄、世界樹が豊穣をもたらす中世風の異世界『シマス=ペイン』にかつて存在した古代国家『パルケニア』を覇権国家に導いた最強の軍師であり、『千の剣』の異名を持つ大英雄、ヴェリスは言った。
「そんな暢気に構えていていいのか?その男の首を『盗った』奴が、この中にいるんだぜ?」
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先日までの嵐の影響で誰も入れなかった、閉鎖的な村。
酷い豪雨で、昨夜は隣の家の物音も聞こえなかった村。
広場を中心に北から時計回りに均等に、村長の家、宿、派出所、若い男の家、太った女の家、廃屋が並ぶ村。
いるのは、ハゲた村長、太った女、若い男、そして異世界転生という名の旅を楽しむ英雄・ヴェリスに巡査を加えた5人と、かつて人間だったはずの死体だけ。
この村に、まだ殺人犯はいる。
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