AIと十字館の殺人

八木山

文字の大きさ
上 下
13 / 31
破章

カード

しおりを挟む
いついかなる時も、ホウレンソウでワンチームでワンフォアオール。
そう枕草子にも書いてある。

タナミチはとりあえず二人に分かったことを伝えた。

「その注射器は皮下注射用のものだが、中でも特殊なタイプだな」

とアカイタが言った。
流石薬学部である、面目躍如と言わんばかりにペラペラと続けた。

「・・・要するにその注射器は、人の体ならどこに刺してもいい薬品専用ってことだ」
「詳しいわね、どこかで見たの?」

アサクラはあからさまにアカイタをじろりと睨むと、「専攻だからな」とプイとそっぽを向いてしまった。

「俺ならこの部屋にそんな危険物があるならさっさと処理しておく」
「殊勝にも、自分は見つけてないってことを言いたいわけだ」

アサクラに煽られた彼の表情は見えない。
タナミチはナカガミのカードもテーブルの上に置く。
残念ながら指紋の類は調べられないが、それでも彼らの反応を見ることには意味があるはずだ。

・・・ところが誰も何も言わない。
見かねたアカイタが、アサクラに声をかける。

「どうした、ソレにかざさないのか」
「え、あぁ、うん・・・」

上の空だったのかどうにも歯切れの悪いアサクラは、テーブルの上に備え付けられた機械にナカガミのカードをかざした。

「うん、ダメみたい」
「ドアは。ナカガミの部屋のドアだ」

アカイタに言われるがままにアサクラは開きっぱなしのドアを閉じるべく機械にかざす。
しかし反応はない。

「部屋の主が死んだからカードが使えなくなっているのかも」
「部屋の中にカードがある状態で死んだら二度とカードは揃わなくなる。それを避けたかったのかもな」

アサクラは「わかんないわよ、そんなの」と小さく呟きながら、カードをテーブルに戻した。
そこでタナミチも、テーブルの上に置かれたメモに初めて気づくのだった。

「ここより出るなら家より名を奪え。アルベン=ベヒルシアノン 0」

印刷された文字が書かれた、A4サイズの紙。

「ほら0って書いてあるでしょ?私たちのカードにも数字が書かれてたから、なんとなーく誰かのカードキーで開くんじゃないかって思ったんだけどね」

アサクラは恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く。
0はアルベン。1はアサクラ。2はナカガミ。4はタナミチ。となるとアカイタは3、ってことになるのか?

「でも今のとこ全滅。あーあ、飢え死にしちゃうのかな、私たち。なーんてことを考えたから自殺した、ってことはないかな。ナカガミさんはこの毒を見つけて、この状況に絶望して自ら命を絶ったってこともあるわけでしょ?」

自殺かどうかはわからないが、死因ははっきりした。
毒殺。しかし出所が分からない。

そしてここから出るヒントもおぼろげに見えてきた。
「家より名を奪え」というメッセージ。

問題は、どちらから片付けるかだな・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十字館の犠牲

八木山
ミステリー
大学生の主人公は、気付いたら見知らぬ白い部屋で目を覚ます。 死体と容疑者に事欠かない、十字の建物。 主人公は脱出し、元の生活に戻れるのか。 キャラの立ち絵は五百式立ち絵メーカー、それ以外の画像はすべてDALL-Eを使っています。 ■登場人物 全員が窓のない建物に閉じ込められている。 日向向日葵(ひゅうがひまわり) 20歳。配信者。 仰木扇(おおぎおうぎ) 20歳。大学生。 黒須十(くろすつなし) 20歳。大学生。 猫原にゃんこ(ねこはら) 20歳。警察官。部屋で死亡していた。

推理の果てに咲く恋

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。 話も合うし、お酒の趣味も合う。 彼女のことを、もっと知りたい。 ・・・どうして、いつも長袖なんだ? ・僕(北野) 昏寧堂出版の中途社員。 経営企画室のサブリーダー。 30代、うかうかしていられないなと思っている ・黒川さん 昏寧堂出版の中途社員。 総務部のアイドル。 ギリギリ20代だが、思うところはある。 ・水樹 昏寧堂出版のプロパー社員。 社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。 僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。 ・プロの人 その道のプロの人。 どこからともなく現れる有識者。 弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

こちら、ときわ探偵事務所~人生をやり直したいサラリーマンと、人生を取り返したい女探偵の事件ファイル~

ひろ法師
ミステリー
「あなたを救いたいのです。人生をやり直したい……そう思いませんか?」 会社を辞め、途方に暮れる元サラリーマン、金谷律也。人生をやり直したいと思っていた彼の目の前にNPO団体「ホワイトリップル研究所」と名乗る白装束を纏った二人組が現れる リツのこれまでの行動を把握しているかのごとく、巧みな話術で謎の薬“人生をやり直せる薬”を売りつけようとした。 リツは自分の不幸を呪っていた。 苛烈なノルマに四六時中の監視。勤めていた会社は碌なもんじゃない。 人生のどん底に突き落とされ、這い上がる気力すら残っていない。 もう今の人生からおさらばして、新しい人生を歩みたい。 そんなリツに、選択肢は残されていなかった。 ――買います。一つください 白装束が去った直後、ホームズのような衣装をまとい、探偵となった幼なじみ神原椿と、なぜか小学生の姿になった妹の神原紅葉が部屋に乱入。 ―― この薬、絶対飲んじゃ駄目よ。飲んだら最後、あなたは……消されるかもしれない なぜ薬を飲んではいけないのか。そして、なぜ消されるのか。 白装束の奴らは何者で、その目的とは。 消えた人はどこに行くのか。 陰謀渦巻くサスペンス・ミステリーが始まる……! ※10月より毎週土曜夜6時30分公開予定

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

処理中です...