AIと十字館の殺人

八木山

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序章

本棚

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待て待て、早まるな、俺よ。
外に出ることが正解とは限らないぞ。

俺は「誰か」によってこの窓のない部屋に運ばれた、それは間違いない。
そしてこのドアの先に、その「誰か」が罠を張っている可能性もある。

カードに気を取られていたが、それ以外にもこの状況に対するヒントがあるかもしれない。
この先に何があるかわからない以上、情報は多いに越したことはないのだ。

何より今のところこの部屋にいれば安心そうだし、外に出られることが分かっている。
焦る必要はない。


となるとやっぱり調べないといけないのは本棚だよな。
多くの本を具に見るのは面倒だが、それだけ情報がある可能性も高いってことだ。


もう一度本棚の本を見やる。
漫画にエッセイに・・・論文まで混じっている。
見慣れない名前の本の中に、一つだけ知っている名前が紛れ込んでいた。

「お、東方卍アベンジャンーズ」

妖怪や怪異と同じ名前の美少女がタイムリープしながら最高の仲間を集めてヒロインの死を回避する・・・というような内容で、アニメや実写映画にもなった、ファンシー×ヤンキーな漫画だ。
タナミチは読んだことはなかったが、名前だけは知っていた。
手に取ってみるものの、その一冊は12巻で、話の流れが分からないのでまるで面白くない。
他の本も1冊で終わるもの以外、シリーズがそろっているものは一つもない。

しかも、白い部屋に閉じ込められたこの状況に見合うような内容でもない。
手から光の弾幕を出して壁をぶち破るなんてことはできないのだ。


本棚に戻そうとして、気付く。
背表紙には「912」と書かれたシールが貼られていた。
よく見ると歯抜けの3桁の番号が、左から右に行くにつれて昇順に並んでいる。
853「ムゲン裁判」と982「つづきの物語」の間に、東アベを戻す。

それ以外の本もめくっていくが、本の中身が極端に専門的なものだったり、あるいは外国の言語で書かれていたりと、読む前に脳みそが泡を拭いてしまう。
かろうじて読める本も画集や料理本、絵本だったりだ。
結局エッセイや小説といった娯楽物を中心に読み進めるが、この状況を解決する糸口は見当たらない。
書き込みの類もなければ、栞や付箋も折込もない。

・・・完全にノーヒントじゃないか。

もしかしたらこの部屋についてのヒントは存在しないんじゃないか?
と訝しみながらも、タナミチは部屋を見渡す。
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