12 / 16
竜狩り奇譚
竜狩り奇譚:【第十二話】疾走と様子見と初遭遇
しおりを挟む
竜が移り住んだ塔が見える。
太古の大灯台だったとも言われる塔でかなりの大きさと高さだ。
肉眼でもその頂上に竜が止まっているのが確認できるほど竜も大きい。
その竜は塔の屋上で丸まって寝ているようにその背中が見える。
海沿いの崖に建てられた塔は白亜の外壁をした美しくも不思議な塔だ。
ただどこの町からも立地が悪く、度々魔物が住み着くため放置されていた塔でもある。
周囲が深い森と高い山脈に囲まれていたためサイアグラスから実際の距離はそうでもないのだが、徒歩で行くとかなり苦労する。
しかも海岸沿いはすべてかなりの崖になっていて、船からの上陸も不可能だ。
一言でいうと、やはり立地が悪い。
それに何かと曰く付きの塔で、ある時代は悪い魔法使いが住み、ろくでもない実験を繰り返したとか、別の時代には怪鳥が住み着き、船や旅人を襲うようになったなどの逸話がある塔だ。
そう言う意味では、今回の竜も怪鳥の時とそう変わりない。まだ船が襲われたという話は聞かないが、それも時間の問題だろう。
元々竜は人を襲い金品を集める生物なのだから。
ただ今いる場所から塔までは遮蔽物が一切ない。その上塔まではかなり距離がある。
いや、恐らくは今いる森が塔の近くまで、つい最近まではあったのだろう。
竜の吐息の跡だろうか。
辺りには一面焦げ付いている大地しかない。
ここで大型機械弓でも使ったのだろうが、その燃え跡すら残っていない。
たまに溶けて原形も定かではない鉄の部品が落ちていたりするくらいだ。
それだけ竜の吐く炎の吐息の火力が凄まじいという事なのだろう。
古代の魔術によって造られた塔であるのならば、もしかしたら竜の火の吐息にも耐えれるかもしれない。
竜も自分の吐息で焼け落ちるような場所に住みはしないはずだ。
なので、一応は塔まで行けば一旦は落ち着ける、かもしれない。
塔が焼け落ちるようであれば、そもそも勝負にはならない。
「まだ寝ているようだな。一気に塔まで行きたいが……」
ギョームがそう言うが、塔まではかなり距離がある。
「地上では戦わないんですか?」
カディジャがギョームに聞くと塔の上の竜から視線を外さずにギョームが答える。
「地上ではまず勝ち目はないぞ。高度がありすぎて大弓でも大した効果は見込めん。一方的に空から火を噴かれて終わりじゃ」
「では、どうするんですか?」
コラリーがギョームに質問する。
何度もか戦ったことがあるというギョームの経験を今は頼るほかはない。
「竜を襲うのは巣にいるのを襲うのが基本じゃ。それに竜は地表からそれほど高く飛べるわけでもない。だからサンドワームからも逃げ出したんじゃな。あの塔の屋上もそれなりに広いようじゃしな、塔の屋上からなら大弓も十分な効果があるはずじゃ」
「本当にギョーム殿は竜にお詳しいですな」
サービも感心したように言っているが、その眼は少し疑いの目を向けている。
その疑いはギョームが話した内容にではなく、なぜそこまで詳しいのか、という方向でだが。
「まっ、まあな……」
ギョームはまた喋りすぎたと顔をしかめる。
しかし、今から相手にする竜は有益な情報を黙っておいて勝てる相手でもない。
「ここには死者の怨念がありますが瞬時に焼かれ死んでいるので呪術の種としてはあまり良い物ではないですね」
サイモンがこの辺りで死んだ者達の気配を察してそう言った。
恐らくは竜に返り討ちにあった者達のものだろう。呪術師であるサイモンの目には今も炎に包まれ苦しんでいる魂が見えている。
ただあまりにも一瞬で焼け死んでいるため、苦しみはあっても恨む気持ちがなく呪術用の触媒としてはあまり良いものではない。
「……と、とりあえず、今は竜が起きる前に最低限、塔に入ることを考えましょう」
サイモンのこの国では禁呪とされている死霊術ともとれる発言をコラリーは聞かなかったことにして、素早く塔に行くことを提案する。
「そうじゃな。まずは塔に行くぞ」
ギョームの掛け声で一行全員が走り出す。
だが走り出してすぐに、寝ていたはずの竜が鎌首をもたげるように顔を上げる。
そして、こちらを明確に視認する。
「あやつめ、起きやがった! 急げ! 走れ! 全力で走れ!!」
ギョームが大声でそう叫んで走り出す。
今から引き返しても森ごと焼かれて終わりだ。唯一助かるには塔が竜の吐息に耐えると信じて逃げ込むしかない。
ギョームは全身甲冑に覆われているにも関わらずかなりの速度で走る。
恐ろしい身体能力だが、それを楽々とカディジャが追い抜いて行く。
三番手をコラリーが必死に走り、その後ろに大弓を背負ったサイモンが続く。
最後に少し遅れてサービが死に物狂いでついていく。
一行に気づいた竜は翼を広げすぐに塔から滑り降りるように飛び立つ。
その様子からギョームの言うように、地表からそれほど高く飛べないのだという事がわかる。
恐らくはあの塔の高度が竜が飛べる高度の限界付近なのだろう。
だが、塔から滑るように飛び立ち、朝日に照らされた竜はどこまでも幻想的で、美しく、その鑢のようでありながらも紅く艶のある鱗が日の光を反射して燃えているかのように見える。
見事なまでの赤竜だ。
まるでその造形は絵画の一枚に見えるほど優雅なものだった。
その竜が一吠えする。
雷のような轟音が響き渡る。
その咆哮で竜に見とれていた一行も現実に引き戻される。
竜はギョーム達の上空で旋回し狙いをつける。
まずは先行しているカディジャに狙いをつけ急降下してくる。
竜がカディジャを一飲みにしようと口を大きく広げ、燃える舌をチラつかせている。
それを見たカディジャはすぐに弓を構え、竜の鱗を鏃とした矢を番える。
大きく開けた竜の口に目掛けてカディジャは弓を射る。
まるで迫りくる竜にまるで恐怖を抱いていないかのようなカディジャは、弓を放った後、即座に反転して竜の口からギリギリのところでかわして見せる。
竜が獲物を取り逃し、地表に降り立った瞬間を狙い、二番手を激走していたギョームが精霊の力が籠った斧槍を竜の後ろ足に向けて振り下ろす。
ただギョームが斧槍を振り下ろした場所は厚い鱗に覆われており大した攻撃にもならない。
いくつかの逆立ったような鱗を叩き割るに留まる。
それでもギョームはこの斧槍でも竜と戦えるという実感を得ることができた。
竜の後ろ足、その部分の強靭な鱗をたたき割れるのであれば、十分に竜に通じる武器である。
ギョームも斧槍を打ち込んだ後、即座に身を引いて距離を取る。
竜の反撃を警戒してのことだったが、竜は口から血を流し再び空に舞い上がった。
「竜の口の中に矢を当てたのか、相変わら凄まじい弓の腕じゃな」
ギョームがガデイジャの弓の腕とその度胸に感嘆の言葉を述べる。
竜に狙われて恐怖すらしないで、そのような曲芸じみた弓の腕を披露するカディジャの精神力は異常ともいえるほどだ。
「口蓋垂を打ち抜いてやりましたよ!」
嬉しそうにカディジャはそう言う。やはり竜に対する恐怖は微塵もないようだ。
「とにかく今のうちに塔に逃げ込むぞ」
そう言ってギョームとカディジャは再び走り出す。
二人が竜に対応している間にコラリーが先頭を直走る。
そこへ怒り狂った竜が喉を膨らませる。
チャンスとばかりにカディジャが弓を番える。
それを見た竜がカディジャに背を向けコラリーのみに狙いをつける。
「あの竜! 賢い!!」
と、カディジャが叫ぶ。
「当たり前じゃ、竜は元々人間などよりもずっと賢いぞ! コラリー避けろ! 火の吐息が来るぞ!!」
ギョームが叫ぶがコラリーに逃げ場などない。
遮蔽物も何もない。
ただコラリーは全力で走るしかない。
「炎で燃え死んだ怨念達よ、我が怨嗟の種を礎とし、その恨みを存分に晴らせ! 燃炎憾縛念呪」
そこへサイモンが走りながら呪術を披露する。
カディジャが殺した盗賊の怨念、呪術としては極上の触媒を用い、この場で竜に焼き殺された者達の念を強化して竜に向かわせその恨みをぶつけさせる。
竜に瞬時に殺されて、その怨嗟もないうちに死んだはずの魂達が、サイモンが収集していた極上な怨嗟の種に反応して、嘆き悲しみ恨みを得て強大な呪術の塊となり竜に向かっていく。
その姿は燃える怨霊ともいうべきモノの集合体で、数十にも及ぶ燃える怨霊が一つになって竜に向かっていくように見えた。
それに気づいた竜が嫌がるように、正確には、急にたかられた羽虫を振り払うように、空中で暴れる。
竜に被害を与えられるようなものではないが、竜の気をそらすにしては十分だ。
ただカディジャが弓を構えて喉を狙おうとするが、竜がカディジャの方向に喉を見せることはなかった。
そのわずかな時間を得て、先頭を走るコラリーが特殊な言語を口にする。
「ルー・アウタ・エト・セルラ・カン・ヤムト・エンラ・シトラ・シニン・ケトム! 大いなる大海より静寂と共に訪れる停滞の魔霧よ。我が呼びかけに応じ顕現せよ!」
コラリーが呪文を唱えるとコラリーから白い霧が大量に湧き出て意志ある煙幕のように竜に纏わりついていく。
本来ならこの霧に囚われた相手の動きを封じる魔術ではあるが、竜にはその効果がまるでない。
ただそれでも霧としての目くらまし程度なら役に立ってくれるはずだ。
「あやつめ、本当に言語魔術まで使えおったのか!」
「流石コラリーさんですね、今のうちに塔まで走り込みましょう!」
ギョーム、ガデイジャ、サイモンが再び塔を目指し走り出す。
その後へ既にばてて来ているサービが続く。
コラリーの呼び出した停滞の霧は目を眩ませると共に本来は相手を束縛する効果がある魔の霧である。
異常に高い魔法抵抗を持つ竜には効かなくとも、竜に纏わりついているサイモンの呪霊ともいえるものを束縛する。
それは呪霊を介して無理やり竜を束縛するような形となる。
竜の力は凄まじく竜が暴れるごとに炎の呪霊が形を崩れていく。
ただ一時的にではあるが竜を束縛していることは事実で空を高速で飛んでいた竜はバランスを崩し崖の下へ、そして、海へと落ちて行った。
「さあ、今のうちに!」
コラリーが叫び、再び走り出す。
太古の大灯台だったとも言われる塔でかなりの大きさと高さだ。
肉眼でもその頂上に竜が止まっているのが確認できるほど竜も大きい。
その竜は塔の屋上で丸まって寝ているようにその背中が見える。
海沿いの崖に建てられた塔は白亜の外壁をした美しくも不思議な塔だ。
ただどこの町からも立地が悪く、度々魔物が住み着くため放置されていた塔でもある。
周囲が深い森と高い山脈に囲まれていたためサイアグラスから実際の距離はそうでもないのだが、徒歩で行くとかなり苦労する。
しかも海岸沿いはすべてかなりの崖になっていて、船からの上陸も不可能だ。
一言でいうと、やはり立地が悪い。
それに何かと曰く付きの塔で、ある時代は悪い魔法使いが住み、ろくでもない実験を繰り返したとか、別の時代には怪鳥が住み着き、船や旅人を襲うようになったなどの逸話がある塔だ。
そう言う意味では、今回の竜も怪鳥の時とそう変わりない。まだ船が襲われたという話は聞かないが、それも時間の問題だろう。
元々竜は人を襲い金品を集める生物なのだから。
ただ今いる場所から塔までは遮蔽物が一切ない。その上塔まではかなり距離がある。
いや、恐らくは今いる森が塔の近くまで、つい最近まではあったのだろう。
竜の吐息の跡だろうか。
辺りには一面焦げ付いている大地しかない。
ここで大型機械弓でも使ったのだろうが、その燃え跡すら残っていない。
たまに溶けて原形も定かではない鉄の部品が落ちていたりするくらいだ。
それだけ竜の吐く炎の吐息の火力が凄まじいという事なのだろう。
古代の魔術によって造られた塔であるのならば、もしかしたら竜の火の吐息にも耐えれるかもしれない。
竜も自分の吐息で焼け落ちるような場所に住みはしないはずだ。
なので、一応は塔まで行けば一旦は落ち着ける、かもしれない。
塔が焼け落ちるようであれば、そもそも勝負にはならない。
「まだ寝ているようだな。一気に塔まで行きたいが……」
ギョームがそう言うが、塔まではかなり距離がある。
「地上では戦わないんですか?」
カディジャがギョームに聞くと塔の上の竜から視線を外さずにギョームが答える。
「地上ではまず勝ち目はないぞ。高度がありすぎて大弓でも大した効果は見込めん。一方的に空から火を噴かれて終わりじゃ」
「では、どうするんですか?」
コラリーがギョームに質問する。
何度もか戦ったことがあるというギョームの経験を今は頼るほかはない。
「竜を襲うのは巣にいるのを襲うのが基本じゃ。それに竜は地表からそれほど高く飛べるわけでもない。だからサンドワームからも逃げ出したんじゃな。あの塔の屋上もそれなりに広いようじゃしな、塔の屋上からなら大弓も十分な効果があるはずじゃ」
「本当にギョーム殿は竜にお詳しいですな」
サービも感心したように言っているが、その眼は少し疑いの目を向けている。
その疑いはギョームが話した内容にではなく、なぜそこまで詳しいのか、という方向でだが。
「まっ、まあな……」
ギョームはまた喋りすぎたと顔をしかめる。
しかし、今から相手にする竜は有益な情報を黙っておいて勝てる相手でもない。
「ここには死者の怨念がありますが瞬時に焼かれ死んでいるので呪術の種としてはあまり良い物ではないですね」
サイモンがこの辺りで死んだ者達の気配を察してそう言った。
恐らくは竜に返り討ちにあった者達のものだろう。呪術師であるサイモンの目には今も炎に包まれ苦しんでいる魂が見えている。
ただあまりにも一瞬で焼け死んでいるため、苦しみはあっても恨む気持ちがなく呪術用の触媒としてはあまり良いものではない。
「……と、とりあえず、今は竜が起きる前に最低限、塔に入ることを考えましょう」
サイモンのこの国では禁呪とされている死霊術ともとれる発言をコラリーは聞かなかったことにして、素早く塔に行くことを提案する。
「そうじゃな。まずは塔に行くぞ」
ギョームの掛け声で一行全員が走り出す。
だが走り出してすぐに、寝ていたはずの竜が鎌首をもたげるように顔を上げる。
そして、こちらを明確に視認する。
「あやつめ、起きやがった! 急げ! 走れ! 全力で走れ!!」
ギョームが大声でそう叫んで走り出す。
今から引き返しても森ごと焼かれて終わりだ。唯一助かるには塔が竜の吐息に耐えると信じて逃げ込むしかない。
ギョームは全身甲冑に覆われているにも関わらずかなりの速度で走る。
恐ろしい身体能力だが、それを楽々とカディジャが追い抜いて行く。
三番手をコラリーが必死に走り、その後ろに大弓を背負ったサイモンが続く。
最後に少し遅れてサービが死に物狂いでついていく。
一行に気づいた竜は翼を広げすぐに塔から滑り降りるように飛び立つ。
その様子からギョームの言うように、地表からそれほど高く飛べないのだという事がわかる。
恐らくはあの塔の高度が竜が飛べる高度の限界付近なのだろう。
だが、塔から滑るように飛び立ち、朝日に照らされた竜はどこまでも幻想的で、美しく、その鑢のようでありながらも紅く艶のある鱗が日の光を反射して燃えているかのように見える。
見事なまでの赤竜だ。
まるでその造形は絵画の一枚に見えるほど優雅なものだった。
その竜が一吠えする。
雷のような轟音が響き渡る。
その咆哮で竜に見とれていた一行も現実に引き戻される。
竜はギョーム達の上空で旋回し狙いをつける。
まずは先行しているカディジャに狙いをつけ急降下してくる。
竜がカディジャを一飲みにしようと口を大きく広げ、燃える舌をチラつかせている。
それを見たカディジャはすぐに弓を構え、竜の鱗を鏃とした矢を番える。
大きく開けた竜の口に目掛けてカディジャは弓を射る。
まるで迫りくる竜にまるで恐怖を抱いていないかのようなカディジャは、弓を放った後、即座に反転して竜の口からギリギリのところでかわして見せる。
竜が獲物を取り逃し、地表に降り立った瞬間を狙い、二番手を激走していたギョームが精霊の力が籠った斧槍を竜の後ろ足に向けて振り下ろす。
ただギョームが斧槍を振り下ろした場所は厚い鱗に覆われており大した攻撃にもならない。
いくつかの逆立ったような鱗を叩き割るに留まる。
それでもギョームはこの斧槍でも竜と戦えるという実感を得ることができた。
竜の後ろ足、その部分の強靭な鱗をたたき割れるのであれば、十分に竜に通じる武器である。
ギョームも斧槍を打ち込んだ後、即座に身を引いて距離を取る。
竜の反撃を警戒してのことだったが、竜は口から血を流し再び空に舞い上がった。
「竜の口の中に矢を当てたのか、相変わら凄まじい弓の腕じゃな」
ギョームがガデイジャの弓の腕とその度胸に感嘆の言葉を述べる。
竜に狙われて恐怖すらしないで、そのような曲芸じみた弓の腕を披露するカディジャの精神力は異常ともいえるほどだ。
「口蓋垂を打ち抜いてやりましたよ!」
嬉しそうにカディジャはそう言う。やはり竜に対する恐怖は微塵もないようだ。
「とにかく今のうちに塔に逃げ込むぞ」
そう言ってギョームとカディジャは再び走り出す。
二人が竜に対応している間にコラリーが先頭を直走る。
そこへ怒り狂った竜が喉を膨らませる。
チャンスとばかりにカディジャが弓を番える。
それを見た竜がカディジャに背を向けコラリーのみに狙いをつける。
「あの竜! 賢い!!」
と、カディジャが叫ぶ。
「当たり前じゃ、竜は元々人間などよりもずっと賢いぞ! コラリー避けろ! 火の吐息が来るぞ!!」
ギョームが叫ぶがコラリーに逃げ場などない。
遮蔽物も何もない。
ただコラリーは全力で走るしかない。
「炎で燃え死んだ怨念達よ、我が怨嗟の種を礎とし、その恨みを存分に晴らせ! 燃炎憾縛念呪」
そこへサイモンが走りながら呪術を披露する。
カディジャが殺した盗賊の怨念、呪術としては極上の触媒を用い、この場で竜に焼き殺された者達の念を強化して竜に向かわせその恨みをぶつけさせる。
竜に瞬時に殺されて、その怨嗟もないうちに死んだはずの魂達が、サイモンが収集していた極上な怨嗟の種に反応して、嘆き悲しみ恨みを得て強大な呪術の塊となり竜に向かっていく。
その姿は燃える怨霊ともいうべきモノの集合体で、数十にも及ぶ燃える怨霊が一つになって竜に向かっていくように見えた。
それに気づいた竜が嫌がるように、正確には、急にたかられた羽虫を振り払うように、空中で暴れる。
竜に被害を与えられるようなものではないが、竜の気をそらすにしては十分だ。
ただカディジャが弓を構えて喉を狙おうとするが、竜がカディジャの方向に喉を見せることはなかった。
そのわずかな時間を得て、先頭を走るコラリーが特殊な言語を口にする。
「ルー・アウタ・エト・セルラ・カン・ヤムト・エンラ・シトラ・シニン・ケトム! 大いなる大海より静寂と共に訪れる停滞の魔霧よ。我が呼びかけに応じ顕現せよ!」
コラリーが呪文を唱えるとコラリーから白い霧が大量に湧き出て意志ある煙幕のように竜に纏わりついていく。
本来ならこの霧に囚われた相手の動きを封じる魔術ではあるが、竜にはその効果がまるでない。
ただそれでも霧としての目くらまし程度なら役に立ってくれるはずだ。
「あやつめ、本当に言語魔術まで使えおったのか!」
「流石コラリーさんですね、今のうちに塔まで走り込みましょう!」
ギョーム、ガデイジャ、サイモンが再び塔を目指し走り出す。
その後へ既にばてて来ているサービが続く。
コラリーの呼び出した停滞の霧は目を眩ませると共に本来は相手を束縛する効果がある魔の霧である。
異常に高い魔法抵抗を持つ竜には効かなくとも、竜に纏わりついているサイモンの呪霊ともいえるものを束縛する。
それは呪霊を介して無理やり竜を束縛するような形となる。
竜の力は凄まじく竜が暴れるごとに炎の呪霊が形を崩れていく。
ただ一時的にではあるが竜を束縛していることは事実で空を高速で飛んでいた竜はバランスを崩し崖の下へ、そして、海へと落ちて行った。
「さあ、今のうちに!」
コラリーが叫び、再び走り出す。
0
▼【作品集】
▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。
それなりに怖い話。
さっくり読める。
絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。
▽【完結済み】
一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。
四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。
竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。
幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。
それなりに怖い話。
さっくり読める。
絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。
▽【完結済み】
一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。
四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。
竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。
幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる