28 / 41
▼【第二十八話】 表情が消えた。
しおりを挟む
家に戻った僕らはたこ焼きを焼く準備に取り掛かる。
高い蛸だとばれたら、怒られる気がしたので茹蛸はもう切って用意してある。
聞かれたら正直に話すしかないので、茹蛸のことは聞かれないことを祈る。
準備と言っても生地を作って焼くだけなのだけれど。
それでも、僕が不器用だから、色々失敗してしまうけど、それを遥さんが笑ってくれる。
僕も自然と笑顔になる。
たこ焼き器の電源を入れ、丸いくぼみに油を塗る。
生地を流し込んで、天かすと紅ショウガを入れる。
「まずはたこ焼きらしく蛸からいきましょう!」
と、遥さんが提案してくれる。
僕は国産天然もの蛸を惜しみなく入れていく。
千枚通しが二本あったので、一本ずつ僕と遥さんで持って焼けるのを待つ。
生地の焼けるいい匂いが台所に立ち込める。
もうそろそろひっくり返す頃か、と遥さんと話しながら千枚通しで生地を突いていると、そこで遥さんのスマホが鳴る。
その瞬間、遥さんから表情が消えた。
今まで楽しそうだったのに、急に表情が消えた。
「ごめんなさい」
と、遥さんは僕に謝って、そのまま、居間のほうへ行きスマホで通話を始める。
僕は聞かないようにしてたけど、どうしても気になる。
遥さんのあの感情がなくなる表情を見てしまうと、どうしても気になって仕方がない。
遥さんは、日曜なのに、とか、今出先で、とか言ってる。相手の声は流石に聞こえない。
しばらくして、真っ青な顔をした遥さんが帰ってくる。
そして、
「ごめんなさい、急用ができました。この埋め合わせは必ずします。本当にごめんなさい」
遥さんは泣きそうな表情でそういった。
「急用なら仕方がないです。大丈夫です」
と、声をかけ、
「駅まで送ります」
と、少し間を置いて告げる。
こんな表情の遥さんをそのまま返すわけにはいかない。
たこ焼き器の電源を落とす。
「いや、でも……」
「送ります」
僕は強い口調でそう言うと、遥さんは頷いた。
送っている最中遥さんはずっと項垂れていて無言だった。
そのまま遥さんは挨拶もなしに駅へと消えていった。
なんの電話だったんだろう。
気になって仕方がない。
けど、僕に遥さんのプライベートにまで立ち入る権利はない。
僕は友人の一人にすぎない。
僕は家に帰りたこ焼きを焼く。
さっきまで幸せに包まれていると思っていたのに、今、僕の家はどんよりとしている。
たこ焼きを食べるが味がしない。
ソースをいくらかけても味がしない。
「さっきまであんなに楽しかったのに」
自然と口から声が漏れる。
僕は黙々と一人でたこ焼きを食べていく。
あの遥さんの表情はなんだったんだろう。
気になる、気になって仕方がない。
僕は、自分の部屋に行き放置しているゲームのチャットに、戻りました、と打ち込む。
一斉に、質問が飛んでくる。中には、茜って誰ですか? なんて質問もある。
個別チャットでマッダーさん、平坂さんから、遥まだいるの? と質問が来たので、急に電話が来て急用ができたと帰りました、と返す。
しばらく間があって、それで帰しちゃったの? と返事が返ってきた。
どういう意味なんだろうか。やはり無理にでも引き留めるべきだったんだろうか。あの表情は尋常じゃない気がする。
ただご家族に何かあったかもしれない、そう考えれば、あの反応も納得できる。
だから僕は、なにか尋常ではない感じでしたので、と返事をする。
平坂さんからは、まあ、そうだろうね、とだけ返ってきた。
それ以後、平坂さんからの個別チャットは来なくなった。後はギルドチャットで差しさわりのない範囲で事情を淡々と話していく。
平坂さんは何か知っているんだろうか?
僕は、あんな遥さんをもう見たくない。
高い蛸だとばれたら、怒られる気がしたので茹蛸はもう切って用意してある。
聞かれたら正直に話すしかないので、茹蛸のことは聞かれないことを祈る。
準備と言っても生地を作って焼くだけなのだけれど。
それでも、僕が不器用だから、色々失敗してしまうけど、それを遥さんが笑ってくれる。
僕も自然と笑顔になる。
たこ焼き器の電源を入れ、丸いくぼみに油を塗る。
生地を流し込んで、天かすと紅ショウガを入れる。
「まずはたこ焼きらしく蛸からいきましょう!」
と、遥さんが提案してくれる。
僕は国産天然もの蛸を惜しみなく入れていく。
千枚通しが二本あったので、一本ずつ僕と遥さんで持って焼けるのを待つ。
生地の焼けるいい匂いが台所に立ち込める。
もうそろそろひっくり返す頃か、と遥さんと話しながら千枚通しで生地を突いていると、そこで遥さんのスマホが鳴る。
その瞬間、遥さんから表情が消えた。
今まで楽しそうだったのに、急に表情が消えた。
「ごめんなさい」
と、遥さんは僕に謝って、そのまま、居間のほうへ行きスマホで通話を始める。
僕は聞かないようにしてたけど、どうしても気になる。
遥さんのあの感情がなくなる表情を見てしまうと、どうしても気になって仕方がない。
遥さんは、日曜なのに、とか、今出先で、とか言ってる。相手の声は流石に聞こえない。
しばらくして、真っ青な顔をした遥さんが帰ってくる。
そして、
「ごめんなさい、急用ができました。この埋め合わせは必ずします。本当にごめんなさい」
遥さんは泣きそうな表情でそういった。
「急用なら仕方がないです。大丈夫です」
と、声をかけ、
「駅まで送ります」
と、少し間を置いて告げる。
こんな表情の遥さんをそのまま返すわけにはいかない。
たこ焼き器の電源を落とす。
「いや、でも……」
「送ります」
僕は強い口調でそう言うと、遥さんは頷いた。
送っている最中遥さんはずっと項垂れていて無言だった。
そのまま遥さんは挨拶もなしに駅へと消えていった。
なんの電話だったんだろう。
気になって仕方がない。
けど、僕に遥さんのプライベートにまで立ち入る権利はない。
僕は友人の一人にすぎない。
僕は家に帰りたこ焼きを焼く。
さっきまで幸せに包まれていると思っていたのに、今、僕の家はどんよりとしている。
たこ焼きを食べるが味がしない。
ソースをいくらかけても味がしない。
「さっきまであんなに楽しかったのに」
自然と口から声が漏れる。
僕は黙々と一人でたこ焼きを食べていく。
あの遥さんの表情はなんだったんだろう。
気になる、気になって仕方がない。
僕は、自分の部屋に行き放置しているゲームのチャットに、戻りました、と打ち込む。
一斉に、質問が飛んでくる。中には、茜って誰ですか? なんて質問もある。
個別チャットでマッダーさん、平坂さんから、遥まだいるの? と質問が来たので、急に電話が来て急用ができたと帰りました、と返す。
しばらく間があって、それで帰しちゃったの? と返事が返ってきた。
どういう意味なんだろうか。やはり無理にでも引き留めるべきだったんだろうか。あの表情は尋常じゃない気がする。
ただご家族に何かあったかもしれない、そう考えれば、あの反応も納得できる。
だから僕は、なにか尋常ではない感じでしたので、と返事をする。
平坂さんからは、まあ、そうだろうね、とだけ返ってきた。
それ以後、平坂さんからの個別チャットは来なくなった。後はギルドチャットで差しさわりのない範囲で事情を淡々と話していく。
平坂さんは何か知っているんだろうか?
僕は、あんな遥さんをもう見たくない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる