四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。

只野誠

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▼【第十話】 希望を抱いてしまった。

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 告白、と言えるものではないけど、酔った勢いで思いを遥さんに伝えてしまった。
 何やってるんだ。
 けど、なんで保留にしてくれたのだろう。
 その場で「ごめんなさい」と言ってくれるだけで良かったのに。
 そのことをギルドの仲間に相談したら、アサシンのマッダーさんだけ、遊ばれてるんだよ、と言っていた。
 けど、他の人たちは意外と脈ありなんじゃない? と言ってくれた。
 まあ、そんなことはないと頭でわかっていても、そう言われると、どうしてもにやけてしまう自分がいる。
 
 この時に、一縷の希望を抱いてしまった、のかもしれない。
 
 けど、冷静に考えればそんなことはない。
 振られて終わりだ。
 苦しくもだえる時間が伸びただけなのかもしれない。
 現実はそんなものだ。
 現実は僕に優しくないし、仮に遥さんと僕が付き合うことになったら、彼女に恥をかかしてしまうだけだ。
 僕みたいなのと一緒に歩くだけで、彼女が後ろ指を指されて恥をかいてしまう。
 僕には不釣り合いだ。
 まあ、僕のレベルが低すぎて僕に見合う女性なんているはずがないんだけども。
 それに、付き合うって言ったって、何をしていいかすら僕にはわからない。
 たぶん中学生よりも劣っている。僕にも年齢的にはそれくらいの子供がいてもおかしくないのに。
 僕はここ十数年、このMMOのゲームしかしてこなかったのだから。
 僕にはそれしかないのだから。
 だけど、ふと考えてしまう。
 遥さんが他の男と一緒にいるところを。それだけで僕は落ち着きがなくなりどうしょうもなく苦しくなる。
 何とも言えない、どうしょもならないほど嫌な気分に陥る。それを僕は認めることができないほどに。
 けど、彼女の口から今はフリーだという言葉を聞けている。
 僕はそれだけで、僕に何の関係もないと分かっていても安心して、そして、嬉しくなってしまう。
 本当に僕はダメな奴だ。
 ゲームをやっていなかったら、少しでも容姿やお洒落に気を使っていたら、僕にもチャンスはあったのだろうか?
 そもそも年齢も離れすぎている。
 ふと年齢という言葉から、結婚という言葉が連想してしまう。無駄なこととわかっていても、一度よぎってしまうともう止まらない。
 まだ付き合ってすらいないのに。どうせ振られて終わりなのに。何も知らないような相手に何を考えているんだ。
 元々誰ともする気も、するつもりもなかったけど、もし、仮に、仮にだけど、遥さんと結婚できたら、それは僕にとって、それだけで、とても、とても嬉しくも素晴らしいことなんだと思う。
 一度そう思ってしまうと、それがどうしても欲しくなってしまう。
 具体的なことはなにもわからないのに、どうしても、それに向かって手を伸ばしてしまう。
 無論、そんなことにはならないことはわかってる。わかってるんだ。
 でも、手に入らないからこそ、人は足掻き苦しんでまで手を伸ばしてしまうんだろ? そういうものなんだろ?
 どうしても、手に入れたいと、そう思ってしまう。

 なんで、こんなにも好きになってしまったんだろう。それすらもわからないのに。

 今からでも……
 振られるという死刑執行を待つ僕が? 今から何ができるっていうんだ。身だしなみを整えるって言ったって何をどうすればいいのかもわからない。
 そんな男に何ができる。
 お洒落のおの字だってわからない僕が?
 服なんか寒くなければ良い、と、そう考えているような僕に今更何ができるっていうんだ。
 けど、遥さんが他人の物になるのは嫌だ。嫌なんだ…… どうしょうもなく、想像するだけでも耐えれないほどに嫌なんだ。
 なんで、こんな、叶いもしない恋で、こんなつらい思いをしなくちゃいけないんだ。
 畜生……
 でも、この思いは大切にしたい。
 なんで、そんな風に思えてしまうんだ……
 なによりも、何よりも、大切にしたい。大切にしなければならない、そう思えてしまうんだ。
 相手のことなんてろくに知らないのに。
 遥さんがどんな性格なのかも、どんな人なのかも、僕は何にも知らないのに。

 どうして、こんなにも愛しいのだろうか。

 僕は馬鹿だ。
 少しでも望みがあれば、それに縋り、すべてを賭けてみたくなってしまった。
 けど、どうせ僕の人生など、何もない人生だ。
 なら、すべて賭けてしまってもいいかもしれない。失うものは元々ない。
 遥さんにはそう思える何かを、僕は既に感じてしまっている。
 ただ誠一郎。これだけは間違えるな。
 遥さんを困らせるようなことだけは、迷惑をかけるようなことだけは、絶対にしてはいけない。
 だからこそ、早く決着をつけなければならない、これ以上この想いが大きくなる前に。自分でどうにかできるうちに。
 たとえ彼女が他人の物になっても、僕がどうこうする権利は元々ないんだ。
 それだけは忘れてはいけない。彼女に迷惑だけはかけてはいけない。
 それさえ守ればいい。
 やれることを全部やろう、無様に足掻こう、その結果何も手に入れられなくてもいい。
 僕には元から何もなかったのだから。失うものだとないのだから。
 自分の気持ちに向き合おう。たとえこの気持ちが幻聴からくる勘違いであっても、構いやしない。
 僕のすべてを賭けるんだ。
 けど、何からやったらいいか、まるで分らない。検討すらつかない。
 ギルドの皆に相談もしたいけど、最初で最後の悪あがきくらい自分で見つけて実行してみたい。
 それが失敗だっていい。自分でやるんだ。すべて自分の力で、自分の責任で、自分を賭けるんだ。思い残しが無いように。
 けど、何をやったらいいんだろうか。
 とりあえず今日も明日は休みだ。
 ゆっくりと考えよう。
 それに、久しぶりの家の掃除だけでも始めよう。少しでもまともな人間に戻れるように。
 お風呂も沸かそう。
 久しぶりに家の雨戸も開けよう。外の空気を取り込もう。

 けど、やっぱり父さんと母さんの部屋だけは、まだに入れない。
 鼻の黒ずみもやっぱり落ちやしない。



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