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完全無欠の竜と神ならぬ春の来訪神

【Proceedings.83】完全無欠の竜と神ならぬ春の来訪神.06

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「私が、我が? 人食いの化け物だと?」
 そう言って神宮寺雅が憎々し気に天辰葵を睨む。

「そうだ。お前は神などではない。その力を、仮初の力を与えられた、いや、利用しているだけの一人間に過ぎない」
 天辰葵の見立てでは神宮寺雅は神ではない。
 ただ、確かに神に近い力を神宮寺雅は持っている。
 正確には神を捕らえてしまっている。
 話を聞く限りそれは偶然であり、神宮寺雅も臨んだことではない。
 恐らくは初代絶対少女と呼ばれる未来望の妹。
 その願いが、強すぎた願いが、神をも捕らえ、この空間に縛り付けてしまっているだけだ。
 神宮寺雅はそれを初代絶対少女を通して利用しているだけに過ぎない。
 ある意味、神宮寺雅すらも完全な被害者だ。
 初代絶対少女の願いにより神を演じさせられている、操り人形に過ぎないのだから。
 だから、この神宮寺雅は天辰葵の敵ですらない。
 今、彼の胸の中で眠っている初代絶対少女こそが、この異変の真の元凶であることに天辰葵も気づいている。
 そして、その願いの要、触媒となっているのが、神宮寺雅の手に持つ神刀、天道白日なのだ。
 あの神具があったからこそ、絶対少女の願いが神を捕らえて置くほどの力となっているのだ。

「ハハッ、なにを言っている。私は、我は、神だ。だから、この学園を作れたのだ。見よ、今、世界で時が止まってないのはこの学園だけだ。時が止まった古い世界は終わり、私の、我の、創る新しい世界が始まるのだ。古い世界などその糧にすればよいだけだ」
「世界は終わってなどいない。春を告げる神がこの学園に捕らえられてしまった為、一時的に停滞しているだけの話だ。まったく勘違いも甚だしいな」
 例え春を告げる神がこのまま帰ってこなくとも、そのうち新しい神が生まれ代わりを果たす。
 なので外の世界のことは実は問題はない。
 それはそれとして、狂った神がいるのであれば、天辰葵はその神を斬り捨てなければならない。
 そう言う役割を持っている、この世でもっとも罰当たりな神殺しの巫女なのだ、天辰葵という少女は。

「何と生意気な小娘だ! 神である、私に、我にむかいそんなことを言うなどとはな」
 神宮寺雅はそう言って憎々し気に天辰葵を睨む。
 その姿は確かに神というには器が小さい。
「事実だよ。だって、お前の中に、魂には、神性はいないもの」
 天辰葵は神宮寺雅を一目見た時から、ある意味安心している。
 神宮寺雅は神ではない。
 神宮寺雅の中にあるのは虚ろな虚無だけだ。
 今回の相手は神の力を借りているだけの存在であり神自身ではないのだと。
 いや、この神宮寺雅という男に魂すらない。
 恐らく初代絶対少女と一つになった時に、人間としての神宮寺雅は既に死んでいる。
 今の神宮寺雅は初代絶対少女の願いにより暴走し、神を演じ続けているだけの、その願いにより動かされている、ただの傀儡に過ぎない。

「何を馬鹿なことを……」
 だが、初代絶対少女の願いにより道化を演じさせ続けられている神宮寺雅はその事に気づけない。
 気づくわけもない。
 もう自分の意志などもない。ただ神を演じているに過ぎないのだから。
 初代絶対少女が思い描いた神を、自分の意志とは無関係に演じ続けているだけの哀れな存在だ。
「天辰の家はね、神を狩る一族なんだ。世界で唯一神を狩ることを許された一族なんだよ」
 天辰葵は少し切なそうにそういった。
 だから、天辰葵は神に祈らない。いや、祈れない。
「だから、滅神流……」
 後ろで控えていた申渡月子が納得したようにその名をつぶやく。
 神を滅する剣技であると。
「そうだよ、月子」

「神を狩るだと? 何を馬鹿な……」
 だが、神宮寺雅はそのことを理解できない。
 ただ神を演じさせられている神宮寺雅はそんなものの存在を理解することなどできない。
「まあ、神と言っても、神の道から外れ狂ってしまった神を狩るだけれどもね。はじめは春を告げる神が狂ってしまったのかと思っていたけれど、そんなことはなかったね。これはよかったよ」
 そう言って天辰葵は胸をなでおろす。
 春を告げる神が狂っていてしまったら、天辰葵でもその狂神を狩れるかどうかわからなかったが、その力を利用している人間というだけであればなにも問題はない。
「なに?」
 ただ、神宮寺雅も天辰葵の言葉に動揺が隠せない。
 自分の力の源が、春を告げる神だと見破られている。
 その事に動揺を隠せないでいる。
「春を告げる神は、おまえの、いや、初代絶対少女の願いを叶えたとき。多分その時に、かな? その力を全て初代絶対少女、いや、当時の巫女に奪われてしまったんだよ。その力の結晶がその神刀、天道白日だね」
 そして、この学園の異変が、世界を巻き込んで始まったのだ。
「未来にだと?」
「そう、未来望の妹だっけ? その人にね。あまりにもその願いが強かったのだろうね。その願いに、今も春を告げる神は囚われてしまっただけだよ、その天道白日を願いの触媒としてね」

 神宮寺雅は言った。
 初代絶対少女が願ったのだと。
 それで一つになったのだと。それに神すらも巻き込まれてしまって引き起こされたのだ。

「その神自体は狂っていない? という事ですか?」
 申渡月子もやっとこの物狩りの全容が少しづつ見えて来た。
「そうだよ、月子。神は今もこの空間にいる。いや、この空間のそのものが春を告げる神だね。ここは神の御心、その物だ。心は穏やかで狂ってなどいない。澄み渡る空で夏が来ることを切望している」
 たしかに、この空間は静かで穏やかだ。
 この空間自体が神だというのであれば、確かに狂っているようには思えない。
 この空間に何もないのは、神の力を全て天道白日という刀に奪われているからだ。
「ハッ、たわけたことを。ならば、私は、我は、何だというのだ!」
 だが、そんなことを、自らを神と自称する神宮寺雅は認められるものではない。
 自分は新しき神として生まれ変わったのだ。
 新しき神故に新しき世界を作らねばならないのだ。
 どんな犠牲を払おうとも。
 いたいけな少女を贄として喰らい続けようとも。

「ただの人。それも人食いのね。いや、それも正しくはない。あなたも狂わされてしまっただけだ。巫女は願ったんでしょう? 神に。神を巻き込んで、あなたと一つになりたいと」
 改めて天辰葵に人食いと言われ、神宮寺雅は顔を顰める。
 今までそんなことを考えたこともなかった。
 ただ神である自分に捧げられた物を受け取っただけだ。
 これはそう言う儀式だったのだ、神宮寺雅にとって。
 それも自らを新しき神だと思っている神宮寺雅からすれば、当たり前のことでしかなかったのだ。

「そして、叶えられた……」
 申渡月子はそういって、神宮寺雅の胸に並ぶ三つの顔、そのうちの自分の姉の眠る顔を見る。
 眠るように安らかな顔を讃えはいるが、やはり異様な姿だ。
 これが神の姿であるわけがない。
「文字通り一つにね。神は巫女の願いを正確に理解できなかったんだよ。人と神ではその認知に大きな隔たりがあるからね。神は人の願いを本来は無視するもんだよ」
 初代絶対少女がどのような気持ちで、その願いを神に願ったのかはわからない。
 だが、それがすべての始まりだ。
 そして、その恐らく、その願いの結び目が神刀、天道白日だ。
 どんなに強い願いであろうとも人一人の願いで神をここまで捉えることはできない。
 神を捉えて置くための触媒、それが本物の神刀であり神具である、天道白日。
 そして、その方法が記されていたのが今は絶対少女議事録という少女趣味な日記帳となってしまっている神示書だ。

「その結果、生まれたのが……」
 申渡月子は化け物を見る目で神宮寺雅を見る。
「神に巫女と一つになることを目的とし、自らを神と勘違いした化け物が誕生してしまった、というわけさ」
 神宮寺雅も被害者だ。
 初代絶対少女、最初の巫女の願いにより歪められてしまったに願いの結果に過ぎない。

「何をバカな! そんなわけがあるわけない」
 と、神宮寺雅は戯言とそれらの言葉を斬り捨てる。
 当たり前だ。
 神の力で演じさせられている道化だ。
 そのような言葉で迷うような操り人形ではない。
 もう元々の本人の意志も魂もないのだ。正気に返ることもない。
「私はこう見えて専門家だよ。きっかけは初代絶対少女の願い。それに至るまでの方法が記された神示、絶対少女議事録と、本物の神刀である天道白日こそが、神をこの学園に捕らえている触媒だね」
 巫女である初代絶対少女は神示にかかれた方法で、神具である神刀を用いて、この儀式を、祭りを起こった。
 その儀式、祭りの中心にあり、神の力を奪っているのが、天道白日なのだ。
 神刀、天道白日を折らない限り、この学園だけの世界は崩壊しないし、春を告げる神は解放されることもない。

 だが、たとえそれが真実であったとしても、神宮寺雅はそんなことを認められない。
「はぁ、これだから人間は世迷言を……」
 そうため息をついて天道白日を構える。
 そして、この無礼な巫女を倒し、贄として得るために。
 新しい世界を創造していくために。
 それが新しい神の摂理なのだからと。

「刀が、天道白日という刀が中心なのは間違いがない。あとは神示が学園が出来たときにでも改編されたのかな? まあ、それはどっちでもいいかな。その神刀を折ればいいだけの話さ、それですべてが終わる。いつものデュエルと何も変わりはないね」
 あの神宮寺雅が持つ神刀をへし折れば、すべて通常に戻る。
 この学園自体が神の中で思い浮かべられた戯言に過ぎなくなる。
 新しき神、新しい世界などなかったことになる。
 逆にこのままこの世界が残り続けたら、それこそ新しい世界になりかねない。
 それは神々の争いにまで発展してしまうことだ。

「結局は変わらない、私が、我が神であるという事も。勝てばよいだけの事だ」
 結局はこの戦いの勝者がすべてを得る。
 その事に違いはない。

 ただ、天辰葵は笑う。
 ほほ笑む。
 優雅に、余裕があるように、ただ微笑む。
「それはないよ。神でもないあなたが私に、神狩りの巫女に勝てると思っているの?」
 そして、神宮寺雅を否定する。

「ハハハハッ、私は、我は、神だ。そして、神刀、天道白日も我が手にある! 私が、我が、負ける通りなどない!」
 神宮寺雅も笑う。
 自分の勝利を確信し高らかに笑う。

「結局は、相手の神刀を折れば勝ち…… なのですね?」
 少し心配そうに申渡月子は天辰葵に確認する。
 そうすればきっと姉の魂も解放されるのだろうと、そう申渡月子にも思える。
「そうだよ。それでこの学園は夢のように崩壊し、春を告げる神が解放され、停滞していた世界が動きだす」
 天辰葵も月下万象を構え、神宮寺雅を迎え撃つ。





━【次回議事録予告-Proceedings.84-】━━━━━━━


 決着の末、一つの妄想が終わりを告げ、春が訪れる。


━次回、完全無欠の竜と神ならぬ春の来訪神.07━━━
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