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挑む竜と神に弓引く大猪
【Proceedings.71】挑む竜と神に弓引く大猪.01
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ここは永遠の学園の園、神宮寺学園。
絶対にして完全なる学園。
桜舞う常春の学園。
その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。
「あれは愛なんですか? だとしたら私の知っている愛とは大分違いますよ?」
「強いというか、常識外れですね……」
「葵ちゃん、凄い子ですね。期待が持てますね」
「それはそうと、とうとう最後の最後に会長の出番ね……」
「彼はなんだかんだでよくやってくれてますよ」
「そうですね、彼のおかげで時間を稼げました」
「はいはい、私が全部、悪いんですよね?」
「そうは言ってないですよ、キクコちゃん」
「まあ、デュエルは見もの…… ですよね?」
「どうなるかは楽しみですね」
「「「クスクスクスクス……」」」
剣道場にて鍛錬に励む者がいる。
喜寅景清だ。
約束の為、更なる強者となるための鍛錬だ。
その喜寅景清の相手は牛来亮と丑久保修の両名だ。
喜寅景清は二人を相手しても、まるで引けを取らない。
むしろ、二人相手に喜寅景清は押している。
「二人とも、ぬるいぞ」
と、景清が叱咤を飛ばす。
「すみません! 喜寅さん!」
と、亮が答えて気合を入れなおす。
そんな亮を修は横目で見つつ、ニヤリと笑う。
「そうだぞ、亮! まだまだだ!」
と、なぜか修も亮を叱咤する。
「おまえもだ。修」
少し呆れるように景清は修に声をかける。
「はい!」
と、修も今度は素直に返事を返す。
汗だくになりつつも三人の修業は続き終わりは見えない。
「ねえ、巧観…… あの二人は今何をしているのかしらね……」
巳之口綾は呆然として本格派チキンカレーを食べながら、戌亥巧観に声をかける。
無論、トッピングの茹で卵はつけている。
チキンカレーに茹で卵を少し浸して、それをペロリと丸呑みにする。
そして、少し呆れ気味の巧観の返事を待つ。
「あのバカップル達は、やっぱりいちゃついてるんじゃないかな。まさか月子があんなになるだなんて想像できなかったよ」
うんざりしたように巧観も答える。
巧観が呆れているのは葵と月子へだ。あの二人は今、バカップルといっても過言でないのだ。
巧観は一度、ざる蕎麦をずるずると啜る。
そして、思い返す。
あのバカップルのことを。
まさか月子があんなになるだなんて、巧観も思っていなかっただけに驚きを隠せなかったが、そのバカップル振りに既には呆れ果てている。
人目を気にせずところどころでイチャイチャしだす。
それを注意したら今度は寮の部屋に篭りイチャイチャしだした。
もう月子を諦めた巧観でも何とも言えない気分になっている。
今も月子を追いかけている綾からしたらたまったものではないだろう。
「そうね…… まさか月子様が葵相手にあんなにもデレるだなんて……」
そう言って、綾は遠い目をする。
その視線の先は虚無しかない。
巧観と違い綾は未だに月子を想い追いかけている。
ついでにデュエルに敗北した命令で、葵も追いかけていたりもする。
ということは自然と見てしまうのだ。
愛する者が別の誰かといちゃつく姿というものを。
「昔の月子からは想像できないよね」
巧観も遠い目をする。
「はぁ……」
と、綾は深いため息を吐きだす。
「ため息はわかるけど、綾ももう諦めなよ」
巧観は綾の気持ちがわかるだけに綾を見ているのが痛々しい。
綾の気持ちが巧観には痛いほどわかる。
だが、今の葵と月子は完全に愛し合うバカップルとなってしまったのだ。
まるで周りのことなど全く目に入らない、二人だけの世界となってしまっているのだ。
その姿を見せられ続けられれば綾の精神は持たないに違いない。
「嫌よ。わたしはそもそも月子様を見ているのが好きなだけだもの…… そりゃ…… 誰かの物になって欲しくはなかったけど。後、舐めたいだけなのよ……」
そう、綾は遠い目をしたまま呟くように話す。
「そ、そうなのか。まあ、強くは言わないけど。けどね、綾」
そんな綾に巧観は真剣に目線を向ける。
友人となった綾に伝えなければならないことがある。
「なに……」
巧観の視線に気づき、綾も巧観に視線を返す。
「舐めたい、って、願望は人に言わない方が良いと思うよ?」
と、巧観は当たり前のアドバイスを送る。
それに対して綾は目を見開く。
「そ、そうなのね…… ありがとう…… 気づかなかったわ……」
そして、まるで気が付かなかったというような反応を綾はする。
「気づいてなかったんだ……」
「それはそうと、巧観兄は動かないの……? 月子様と葵が付き合いだして結構経つのだけど?」
そう、月子と葵が戦ってから、もうしばらく時は経ったのだが、戌亥道明は生徒会室に閉じ籠ったまま出てこない。
巧観も心配になるほどだが、生徒会室にいる巧観の兄、戌亥道明は生徒会室の椅子の上で瞑想しているだけだ。
「イメージトレーニング中なのかな? 今は勝てるビジョンが浮かばないって言ってたけど」
巧観は知ってることを素直に綾に伝える。
景清との試合前でも、あそこまで悩む兄を見たことなかった巧観自身も意外と思っている。
「巧観兄は…… そう言うタイプ…… だったかしら? 確かに以前からも慎重ではあったけども」
それに対して綾はそこまで慎重だったか? と思い返す。
たしかに慎重な人間ではあったが、そこまでかと言われると綾の記憶の中の戌亥道明という人物とはどこかイメージが違う。
綾の言葉に対して、
「確かにね。昔はもう少し…… いや、どうなんだろう? なんで兄様はそんなに勝ちに拘っているのかな。もう何度も優勝しているのに……」
と、巧観はポツリとつぶやく。
「あれ? 優勝してたかしら?」
巧観の言葉に綾は疑問を持って聞き返す。
「え? あれ? ボクそんなこと言った? ごめん、ぼぉっとしてたかも……」
そうだ。
巧観の兄であり生徒会執行団、会長の戌亥道明は、少なくとも巧観と綾の記憶の中では、デュエルを勝ち上がり優勝したことないはずなのだ。
ないはずなのだ。
だが、巧観の無意識下の兄、道明は何度も、それこそ何度も何度も優勝している気がしてならない。
「葵……」
と、月子がその最愛の人の名をしっとりと呼ぶ。
「なんだい、月子」
それに対して、間近で見つめ合っている葵は返事をする。
何か喋れば二人の息が互いの顔にかかり合うほどの距離だ。
それでも二人が離れ合うことはない。
「葵」
と、もう一度月子がその名を呼ぶ。
「なんだい、月子」
それに対して満足そうに葵が答える。
「呼んだだけですよ」
笑顔で月子がさらに返事を返す。
「私の名を呼んでくれて、嬉しいよ、月子」
その笑顔に葵も笑顔を返す。
「そうですか、ならもっと呼んであげませんとね」
そう言って月子は少しいたずらな笑みを浮かべる。
「できれば、呼び捨ててほしいよ」
月子の笑顔に背筋をゾクゾクさせながら、葵は要望を告げる。
その要望に月子は少し困った表情を作る。
「どうしても篭ってしまいます」
「なにがだい? 月子」
少し困った月子の顔をじっと見つめて葵が聞く。
「それを言わせるつもりですか?」
少し拗ねたように月子は顔を赤らめる。
「言わせたいね、月子」
それを見た葵は是が非でも聞きたい、そんな表情を見せる。
「もう……」
と、顔を赤らめつつも、葵の耳元へ口を寄せ、その胸の想いを告げる。月子は告げる。
二人だけの親密な時間が流れていく。
━【次回議事録予告-Proceedings.72-】━━━━━━━
猪は慎重に見極める。
見極めたら後はただ走り込む。
だが、それはただの猪の話だ。
━次回、挑む竜と神に弓引く大猪.02━━━━━━━━
絶対にして完全なる学園。
桜舞う常春の学園。
その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。
「あれは愛なんですか? だとしたら私の知っている愛とは大分違いますよ?」
「強いというか、常識外れですね……」
「葵ちゃん、凄い子ですね。期待が持てますね」
「それはそうと、とうとう最後の最後に会長の出番ね……」
「彼はなんだかんだでよくやってくれてますよ」
「そうですね、彼のおかげで時間を稼げました」
「はいはい、私が全部、悪いんですよね?」
「そうは言ってないですよ、キクコちゃん」
「まあ、デュエルは見もの…… ですよね?」
「どうなるかは楽しみですね」
「「「クスクスクスクス……」」」
剣道場にて鍛錬に励む者がいる。
喜寅景清だ。
約束の為、更なる強者となるための鍛錬だ。
その喜寅景清の相手は牛来亮と丑久保修の両名だ。
喜寅景清は二人を相手しても、まるで引けを取らない。
むしろ、二人相手に喜寅景清は押している。
「二人とも、ぬるいぞ」
と、景清が叱咤を飛ばす。
「すみません! 喜寅さん!」
と、亮が答えて気合を入れなおす。
そんな亮を修は横目で見つつ、ニヤリと笑う。
「そうだぞ、亮! まだまだだ!」
と、なぜか修も亮を叱咤する。
「おまえもだ。修」
少し呆れるように景清は修に声をかける。
「はい!」
と、修も今度は素直に返事を返す。
汗だくになりつつも三人の修業は続き終わりは見えない。
「ねえ、巧観…… あの二人は今何をしているのかしらね……」
巳之口綾は呆然として本格派チキンカレーを食べながら、戌亥巧観に声をかける。
無論、トッピングの茹で卵はつけている。
チキンカレーに茹で卵を少し浸して、それをペロリと丸呑みにする。
そして、少し呆れ気味の巧観の返事を待つ。
「あのバカップル達は、やっぱりいちゃついてるんじゃないかな。まさか月子があんなになるだなんて想像できなかったよ」
うんざりしたように巧観も答える。
巧観が呆れているのは葵と月子へだ。あの二人は今、バカップルといっても過言でないのだ。
巧観は一度、ざる蕎麦をずるずると啜る。
そして、思い返す。
あのバカップルのことを。
まさか月子があんなになるだなんて、巧観も思っていなかっただけに驚きを隠せなかったが、そのバカップル振りに既には呆れ果てている。
人目を気にせずところどころでイチャイチャしだす。
それを注意したら今度は寮の部屋に篭りイチャイチャしだした。
もう月子を諦めた巧観でも何とも言えない気分になっている。
今も月子を追いかけている綾からしたらたまったものではないだろう。
「そうね…… まさか月子様が葵相手にあんなにもデレるだなんて……」
そう言って、綾は遠い目をする。
その視線の先は虚無しかない。
巧観と違い綾は未だに月子を想い追いかけている。
ついでにデュエルに敗北した命令で、葵も追いかけていたりもする。
ということは自然と見てしまうのだ。
愛する者が別の誰かといちゃつく姿というものを。
「昔の月子からは想像できないよね」
巧観も遠い目をする。
「はぁ……」
と、綾は深いため息を吐きだす。
「ため息はわかるけど、綾ももう諦めなよ」
巧観は綾の気持ちがわかるだけに綾を見ているのが痛々しい。
綾の気持ちが巧観には痛いほどわかる。
だが、今の葵と月子は完全に愛し合うバカップルとなってしまったのだ。
まるで周りのことなど全く目に入らない、二人だけの世界となってしまっているのだ。
その姿を見せられ続けられれば綾の精神は持たないに違いない。
「嫌よ。わたしはそもそも月子様を見ているのが好きなだけだもの…… そりゃ…… 誰かの物になって欲しくはなかったけど。後、舐めたいだけなのよ……」
そう、綾は遠い目をしたまま呟くように話す。
「そ、そうなのか。まあ、強くは言わないけど。けどね、綾」
そんな綾に巧観は真剣に目線を向ける。
友人となった綾に伝えなければならないことがある。
「なに……」
巧観の視線に気づき、綾も巧観に視線を返す。
「舐めたい、って、願望は人に言わない方が良いと思うよ?」
と、巧観は当たり前のアドバイスを送る。
それに対して綾は目を見開く。
「そ、そうなのね…… ありがとう…… 気づかなかったわ……」
そして、まるで気が付かなかったというような反応を綾はする。
「気づいてなかったんだ……」
「それはそうと、巧観兄は動かないの……? 月子様と葵が付き合いだして結構経つのだけど?」
そう、月子と葵が戦ってから、もうしばらく時は経ったのだが、戌亥道明は生徒会室に閉じ籠ったまま出てこない。
巧観も心配になるほどだが、生徒会室にいる巧観の兄、戌亥道明は生徒会室の椅子の上で瞑想しているだけだ。
「イメージトレーニング中なのかな? 今は勝てるビジョンが浮かばないって言ってたけど」
巧観は知ってることを素直に綾に伝える。
景清との試合前でも、あそこまで悩む兄を見たことなかった巧観自身も意外と思っている。
「巧観兄は…… そう言うタイプ…… だったかしら? 確かに以前からも慎重ではあったけども」
それに対して綾はそこまで慎重だったか? と思い返す。
たしかに慎重な人間ではあったが、そこまでかと言われると綾の記憶の中の戌亥道明という人物とはどこかイメージが違う。
綾の言葉に対して、
「確かにね。昔はもう少し…… いや、どうなんだろう? なんで兄様はそんなに勝ちに拘っているのかな。もう何度も優勝しているのに……」
と、巧観はポツリとつぶやく。
「あれ? 優勝してたかしら?」
巧観の言葉に綾は疑問を持って聞き返す。
「え? あれ? ボクそんなこと言った? ごめん、ぼぉっとしてたかも……」
そうだ。
巧観の兄であり生徒会執行団、会長の戌亥道明は、少なくとも巧観と綾の記憶の中では、デュエルを勝ち上がり優勝したことないはずなのだ。
ないはずなのだ。
だが、巧観の無意識下の兄、道明は何度も、それこそ何度も何度も優勝している気がしてならない。
「葵……」
と、月子がその最愛の人の名をしっとりと呼ぶ。
「なんだい、月子」
それに対して、間近で見つめ合っている葵は返事をする。
何か喋れば二人の息が互いの顔にかかり合うほどの距離だ。
それでも二人が離れ合うことはない。
「葵」
と、もう一度月子がその名を呼ぶ。
「なんだい、月子」
それに対して満足そうに葵が答える。
「呼んだだけですよ」
笑顔で月子がさらに返事を返す。
「私の名を呼んでくれて、嬉しいよ、月子」
その笑顔に葵も笑顔を返す。
「そうですか、ならもっと呼んであげませんとね」
そう言って月子は少しいたずらな笑みを浮かべる。
「できれば、呼び捨ててほしいよ」
月子の笑顔に背筋をゾクゾクさせながら、葵は要望を告げる。
その要望に月子は少し困った表情を作る。
「どうしても篭ってしまいます」
「なにがだい? 月子」
少し困った月子の顔をじっと見つめて葵が聞く。
「それを言わせるつもりですか?」
少し拗ねたように月子は顔を赤らめる。
「言わせたいね、月子」
それを見た葵は是が非でも聞きたい、そんな表情を見せる。
「もう……」
と、顔を赤らめつつも、葵の耳元へ口を寄せ、その胸の想いを告げる。月子は告げる。
二人だけの親密な時間が流れていく。
━【次回議事録予告-Proceedings.72-】━━━━━━━
猪は慎重に見極める。
見極めたら後はただ走り込む。
だが、それはただの猪の話だ。
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