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揺蕩う竜と運命を招き入れる猿
【Proceedings.66】揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.03
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【Proceedings.66】揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.03
四人は学園中央の池の前で集まる。
一人は、申渡月子。
一人は、卯月夜子。
二人ともバニーガールの衣装を着てその場に立っている。
堂々とした卯月夜子に対し、申渡月子は少し恥ずかしそうに立っている。
相対しているのかどうか、少々不安だが、相対している二人は、天辰葵と巳之口綾だ。
二人のことは言うまでもない。
バニー姿の申渡月子に見惚れて完全に腑抜けている。
勝負になるのか不安なほど腑抜けている。
それも仕方のないことだ。
卯月夜子がしっかりと申渡月子の為に作ったオーダーメイドのバニーの衣装なのだ。
似合わないはずがない。
申渡月子はさっさとはじめるつもりでデュエルの宣誓を行う。
「わたくし、申渡月子は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込みます」
それに対し、天辰葵は顔を赤らめて宣誓を返す。
「私、天辰葵は申渡月子を、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、月子を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います!」
天辰葵は宣言をした。
だが、学園の池は割れない。
変化はなし。
変化があるとしたら、申渡月子の顔が真っ赤に染まったくらいだ。
「ちょっと、真面目にやって欲しいのだけれどん?」
と、卯月夜子が天辰葵に語り掛けるが、天辰葵は元より大真面目ですが、という表情しか浮かべていない。
天辰葵の視線は申渡月子に釘付けだ。
巳之口綾も何か反応するかと思いきや、バニー姿の申渡月子に見惚れていて、さっきのも聞こえていないようだ。
「あ、葵様、そ、そういう戯言は…… 勝って…… 勝ってからにしてください!」
顔を真っ赤にしながら、申渡月子は何とか声を絞りだした。
「わかったよ、月子。勝つよ」
天辰葵はそう言って申渡月子に笑いかける。
「もう一度行きます。わたくし、申渡月子は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込みます」
「私、天辰葵は申渡月子との決闘をデュエリストとして受ける!」
今度こそ、湖と思えるばかりの巨大な池の中央より揺れは始まる。
それは地響きとなり辺りに響き渡る。
池の水面が割れ、水底よりも円形闘技場が浮き上がってくる。
それと同時にどこからか、歌声が、合唱が、ハーモニーが、聞こえてくる。
それは完全調和された完璧な合唱だ。
それもそのはず、その歌の主は円形闘技場少女合唱団なのだから。
円形闘技場少女合唱団の歌声はどこか人智を超えている。
歌詞はともかく、素晴らしい歌声であり、合唱であり、そのハーモニーを、地響きにも負けずに響き渡らせているのだ。
「決闘決闘決闘決闘! その時が来たー!」
「決闘決闘決闘決闘! 今こそたちあーがれー!」
「決闘決闘決闘決闘! 雌雄を決するときだー」
その奏でられる歌詞はともかく、円形闘技場少女合唱団の歌声はどこまでも素晴らしい。
だが、彼女らの姿を見た者はいない。
いるわけがない。
荘厳な雰囲気の漂う重々しくも静寂でいて神々しい、そんな部屋に黒い皮張りの椅子はくるくると回っている。
だが、部屋の主はいない。
誰もいない。
猫屋茜と共に実況席へと急いでいる戌亥道明の持つ絶対少女議事録の『議事』の文字が様々な文字へと変わっていく。
そして、それは最後に『疑似』の文字へと落ち着く。
絶対少女議事録が絶対少女疑似録へと変わったのだ。
偽りの時間が始まる。
水底よりも現れた円形闘技場の階段を二組が登る。
片方は卯月夜子と申渡月子。
二人のバニーだ。
卯月夜子が申渡月子を上手くリードし、慣れないハイヒールの月子を庇うように階段を登る。
もう片方は天辰葵と巳之口綾だが、階段を登っていく申渡月子を見ていて自らは階段を登っていない。
二人とも腕を組み、頷きながら申渡月子を見ているだけだ。
申渡月子が見えなくなったところで、我先にと二人は荒々しく、まるで小学生男子のように先を争い階段を上って行った。
「さあ、ついに沈黙の乙女、月子さんがデュエルのステージに立ちました! でも、なんでバニーの姿なんでしょうか?」
猫屋茜はマイクのテスト替わりとばかりに音量を調整しつつその言葉を告げる。
そして、疑問に思ったことも告げる。
なぜ、申渡月子がアニー姿なのか。
猫屋茜もその場に居たはずでその理由を聞いているはずなのだが、猫屋茜はそんな疑問を持っている。
デュエル開催の事しか頭にない証拠とでもいうのだろうか。
「そうだね、やっとデュエルに参加してくれたね。それを望ましいことだとは…… まあ、ボクには言えないけどね」
会長、戌亥道明は少しだけ困ったようにそう言った。
ここだけの話、今回のデュエル全体を通して、申渡月子がデュエルに参加していないことは、戌亥道明にとってはとても都合の良いことだった。
だが、転校生、天辰葵によってそれも終わりを告げる。
けれども、天辰葵は戌亥道明が待ちに待っていた人物なのかもしれない。
期待と不安、それが戌亥道明の中で渦巻いている。
戌亥道明はバニーの衣装には触れない。断じて触れない。
「どうしてですか?」
戌亥道明の言葉に不思議そうに猫屋茜は不思議そうに聞き返す。
「決着が着いてしまうからさ」
戌亥道明はうんざりした表情で本音を言う。
この本音を理解できる人間はほとんど皆無だ。
「決着ですか?」
「ああ、いや、来るべきして来た。そういう事かもしれないがね」
ただ、天辰葵は、未来望ではないが希望そのものかもしれないのも事実だ。
喜寅景清との戦いでほぼ確信に変わったとは言え、最後は自分で、戌亥道明自身の手で確かめなくてはならない。
「どういうことですか?」
猫屋茜には会長の言っていることは理解できていない。
それはおかしい事ではない。
特に、この神宮寺学園では、なおのことだ。
「どうでもいいことだよ。解説は良いのかい?」
あまり猫屋茜に興味を持たれるのも不味いと戌亥道明は話題を変える。
「あっ、お願いします!」
それに猫屋茜も飛びつく。
そんなわけで戌亥道明も解説を始める。
「まあ、何というか、今回の見せ場は卯月夜子くんの神刀だよ。あれは反則級の、チートのような代物だよ」
戌亥道明はそう言って目を細める。
あの神刀は、チートのような性能をした神刀だ。
初見殺しも甚だしいのに、知っていても対処も出来ない。
そんな神刀なのだ。
「え? そうなんですか? 確か、申渡月子さんの姉、申渡恭子さんが使っていた刀ですよね?」
猫屋茜にもその知識はある。
あるのだが、それがどんな神刀だったか、猫屋茜にはどうしても思い出せない。
そして、そのことに疑問すら思わない。
「そうだよ。あれにはボクもやられたよ」
やられたというか、対処のしようがない。
そう、戌亥道明は思いつつも、天辰葵ならどうにかできてしまう気がしている。
いや、天辰葵は既に実績があるともいえる。
「あれ? 会長戦ったことありましたっけ?」
猫屋茜の記憶では猿渡恭子と戌亥道明のデュエルの記憶はない。
だが、それはおかしなことだ。
申渡恭子は前回のデュエルで全勝し、絶対少女になったのだから。
そして、戌亥道明も前回のデュエルに出場している。
二人は戦っている、そのはずなのだが、その記憶を猫屋茜は思い出せずにいる。
「もちろんだよ」
「あれ? えーと、なら私も知っているはず? あれ?」
と、猫屋茜は混乱しだす。
記憶があいまいで上手く思い出すことができない。
「あまり深く考えてはダメだよ、茜くん」
戌亥道明はそう優しく声をかける。
「は、はい! えっと、なんですっけ? 解説です! 解説!」
声をかけられた猫屋茜は、思い出そうとすることをやめる。
そうするとモヤモヤした記憶がすっきりとどうでもよくなる。
そんな猫屋茜を見つつ、戌亥道明は再び解説を始めるが、
「とは言ってもね、月子くんがステージに立つのは稀…… いや、今回は今日が初めてか」
と、何やら思い出しながらつぶやく。
「え? えーと、そうですね。私の記憶ではそうです!」
猫屋茜の記憶では申渡月子がデュエルのステージに立ったのは今日が初めてのはずだ。
デュエリストとして初めてのはずだが、以前にも申渡月子がデュエリストとしてステージに立っていたような気がしてならない。
再び猫屋茜の記憶に靄がかかり始める。
「そうだね、なので、どんなデュエリストであるか…… わからないね」
と、戌亥道明は猫屋茜が戸惑う様子を見ながら言った。
「うっ、そ、そうですね……」
その言葉を発すると、猫屋茜の頭の中の靄は消えていく。
「そして、葵くんと綾くんのペアはもう一度見ているよね?」
「はい! 蛇腹剣…… でしたっけ? 凄い剣でしたね!」
確かそんな種類の異様な剣だった。
「ああ、ある意味凄い剣だったね」
だが、戌亥道明もその神刀の能力が衣服を溶かすとかどうでもいい能力なので、何とも言えない感情になる。
実際は女性の衣服だけでなく、男性の衣服どころか、鎧や神刀すら侵食する粘液なのだが、巳之口綾の衝撃的な発言で、戌亥道明にすらもそう認識されてしまっている。
「えーと、なら、夜子さんの神刀というのは?」
猫屋茜はならば、夜子の中に宿る神刀のことを聴こうとする。
この戌亥道明をもってして、チート能力と言わしめる神刀。
その能力は気になる。
「能力を紹介してしまうのは、ネタバレだろ? まあ、そこは実際に見てくれとしか言えないが、本当にチートだよ、あの神刀は」
うんざりした表情で戌亥道明は解説するのを拒む。
「そうなんですか?」
「そうだよ。あの望ですら、防ぎようがないね」
そう、未来を知る望ですら、発動してしまえば防ぎようがない。
だから、申渡恭子は勝ち進んでしまった。
絶対少女になってしまったのだ。
「へ? 未来を知っている望さんですらですか?」
猫屋茜が驚いた表情を見せる。
「ああ、そうだよ。ほら、神刀召喚の儀が始まるよ」
二人のバニー、卯月夜子と申渡月子が見る目合う。
ダンスでも踊るように軽く抱き合い、卯月夜子が反るように背筋を伸ばす。
申渡月子はそれを支え、そして、広く開いた胸元へ唇を寄せ、軽くキスをする。
卯月夜子の胸元が光出し、そこから刀の柄が現れる。
申渡月子はそれを慎重に、気高く抜き放ち、天に掲げ、その神刀の名を告げる。
「首を落とすことが本懐なり! 首跳八跳!」
申渡月子と卯月夜子の神刀召喚の儀を見た、天辰葵は面白くない。
嫉妬の炎にその身を、その脳みそを焼かれていた。
だからだ。突如、何の予兆もなく天辰葵は巳之口綾のスカートをめくり上げる。
「へぇ?」
と、間の抜けた声を巳之口綾があげる。
天辰葵はお構いないしに、巳之口綾のめくり上げられたスカートが降りる前に、巳之口綾が履いている黒タイツを無理やり脱がす。
勢いあまって下着まで脱がしそうになったが、巳之口綾が何とかそれを食い止める!
「ま、また! い、いきなり! な、なにするのよ!」
と非難の声を上げるが、天辰葵は容赦しない。
露になった巳之口綾の白い太ももへとキスをする。
ついでに強く吸ってキスマークを残してやる。
「やっ、何やってんのよ!」
さらに避難の声が上がるが、輝きと共に巳之口綾の太ももから現れた刀の柄を強引に引き抜く。
それはもう、ジャラジャラと蛇腹剣を抜く。
そして、それを天に掲げる。
「蛇の道を究めん! 蛇頭蛇腹!」
天辰葵も少し自棄になりながら、その神刀の名を告げる。
━【次回議事録予告-Proceedings.67-】━━━━━━━
生徒会長、戌亥道明をもってしてチート神刀と言わしめたその能力は?
申渡月子のデュエリストとしての能力は?
いや、それ以前に履きなれないハイヒールで申渡月子は戦えるのか?
━次回、揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.04━━━━━
四人は学園中央の池の前で集まる。
一人は、申渡月子。
一人は、卯月夜子。
二人ともバニーガールの衣装を着てその場に立っている。
堂々とした卯月夜子に対し、申渡月子は少し恥ずかしそうに立っている。
相対しているのかどうか、少々不安だが、相対している二人は、天辰葵と巳之口綾だ。
二人のことは言うまでもない。
バニー姿の申渡月子に見惚れて完全に腑抜けている。
勝負になるのか不安なほど腑抜けている。
それも仕方のないことだ。
卯月夜子がしっかりと申渡月子の為に作ったオーダーメイドのバニーの衣装なのだ。
似合わないはずがない。
申渡月子はさっさとはじめるつもりでデュエルの宣誓を行う。
「わたくし、申渡月子は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込みます」
それに対し、天辰葵は顔を赤らめて宣誓を返す。
「私、天辰葵は申渡月子を、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、月子を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います!」
天辰葵は宣言をした。
だが、学園の池は割れない。
変化はなし。
変化があるとしたら、申渡月子の顔が真っ赤に染まったくらいだ。
「ちょっと、真面目にやって欲しいのだけれどん?」
と、卯月夜子が天辰葵に語り掛けるが、天辰葵は元より大真面目ですが、という表情しか浮かべていない。
天辰葵の視線は申渡月子に釘付けだ。
巳之口綾も何か反応するかと思いきや、バニー姿の申渡月子に見惚れていて、さっきのも聞こえていないようだ。
「あ、葵様、そ、そういう戯言は…… 勝って…… 勝ってからにしてください!」
顔を真っ赤にしながら、申渡月子は何とか声を絞りだした。
「わかったよ、月子。勝つよ」
天辰葵はそう言って申渡月子に笑いかける。
「もう一度行きます。わたくし、申渡月子は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込みます」
「私、天辰葵は申渡月子との決闘をデュエリストとして受ける!」
今度こそ、湖と思えるばかりの巨大な池の中央より揺れは始まる。
それは地響きとなり辺りに響き渡る。
池の水面が割れ、水底よりも円形闘技場が浮き上がってくる。
それと同時にどこからか、歌声が、合唱が、ハーモニーが、聞こえてくる。
それは完全調和された完璧な合唱だ。
それもそのはず、その歌の主は円形闘技場少女合唱団なのだから。
円形闘技場少女合唱団の歌声はどこか人智を超えている。
歌詞はともかく、素晴らしい歌声であり、合唱であり、そのハーモニーを、地響きにも負けずに響き渡らせているのだ。
「決闘決闘決闘決闘! その時が来たー!」
「決闘決闘決闘決闘! 今こそたちあーがれー!」
「決闘決闘決闘決闘! 雌雄を決するときだー」
その奏でられる歌詞はともかく、円形闘技場少女合唱団の歌声はどこまでも素晴らしい。
だが、彼女らの姿を見た者はいない。
いるわけがない。
荘厳な雰囲気の漂う重々しくも静寂でいて神々しい、そんな部屋に黒い皮張りの椅子はくるくると回っている。
だが、部屋の主はいない。
誰もいない。
猫屋茜と共に実況席へと急いでいる戌亥道明の持つ絶対少女議事録の『議事』の文字が様々な文字へと変わっていく。
そして、それは最後に『疑似』の文字へと落ち着く。
絶対少女議事録が絶対少女疑似録へと変わったのだ。
偽りの時間が始まる。
水底よりも現れた円形闘技場の階段を二組が登る。
片方は卯月夜子と申渡月子。
二人のバニーだ。
卯月夜子が申渡月子を上手くリードし、慣れないハイヒールの月子を庇うように階段を登る。
もう片方は天辰葵と巳之口綾だが、階段を登っていく申渡月子を見ていて自らは階段を登っていない。
二人とも腕を組み、頷きながら申渡月子を見ているだけだ。
申渡月子が見えなくなったところで、我先にと二人は荒々しく、まるで小学生男子のように先を争い階段を上って行った。
「さあ、ついに沈黙の乙女、月子さんがデュエルのステージに立ちました! でも、なんでバニーの姿なんでしょうか?」
猫屋茜はマイクのテスト替わりとばかりに音量を調整しつつその言葉を告げる。
そして、疑問に思ったことも告げる。
なぜ、申渡月子がアニー姿なのか。
猫屋茜もその場に居たはずでその理由を聞いているはずなのだが、猫屋茜はそんな疑問を持っている。
デュエル開催の事しか頭にない証拠とでもいうのだろうか。
「そうだね、やっとデュエルに参加してくれたね。それを望ましいことだとは…… まあ、ボクには言えないけどね」
会長、戌亥道明は少しだけ困ったようにそう言った。
ここだけの話、今回のデュエル全体を通して、申渡月子がデュエルに参加していないことは、戌亥道明にとってはとても都合の良いことだった。
だが、転校生、天辰葵によってそれも終わりを告げる。
けれども、天辰葵は戌亥道明が待ちに待っていた人物なのかもしれない。
期待と不安、それが戌亥道明の中で渦巻いている。
戌亥道明はバニーの衣装には触れない。断じて触れない。
「どうしてですか?」
戌亥道明の言葉に不思議そうに猫屋茜は不思議そうに聞き返す。
「決着が着いてしまうからさ」
戌亥道明はうんざりした表情で本音を言う。
この本音を理解できる人間はほとんど皆無だ。
「決着ですか?」
「ああ、いや、来るべきして来た。そういう事かもしれないがね」
ただ、天辰葵は、未来望ではないが希望そのものかもしれないのも事実だ。
喜寅景清との戦いでほぼ確信に変わったとは言え、最後は自分で、戌亥道明自身の手で確かめなくてはならない。
「どういうことですか?」
猫屋茜には会長の言っていることは理解できていない。
それはおかしい事ではない。
特に、この神宮寺学園では、なおのことだ。
「どうでもいいことだよ。解説は良いのかい?」
あまり猫屋茜に興味を持たれるのも不味いと戌亥道明は話題を変える。
「あっ、お願いします!」
それに猫屋茜も飛びつく。
そんなわけで戌亥道明も解説を始める。
「まあ、何というか、今回の見せ場は卯月夜子くんの神刀だよ。あれは反則級の、チートのような代物だよ」
戌亥道明はそう言って目を細める。
あの神刀は、チートのような性能をした神刀だ。
初見殺しも甚だしいのに、知っていても対処も出来ない。
そんな神刀なのだ。
「え? そうなんですか? 確か、申渡月子さんの姉、申渡恭子さんが使っていた刀ですよね?」
猫屋茜にもその知識はある。
あるのだが、それがどんな神刀だったか、猫屋茜にはどうしても思い出せない。
そして、そのことに疑問すら思わない。
「そうだよ。あれにはボクもやられたよ」
やられたというか、対処のしようがない。
そう、戌亥道明は思いつつも、天辰葵ならどうにかできてしまう気がしている。
いや、天辰葵は既に実績があるともいえる。
「あれ? 会長戦ったことありましたっけ?」
猫屋茜の記憶では猿渡恭子と戌亥道明のデュエルの記憶はない。
だが、それはおかしなことだ。
申渡恭子は前回のデュエルで全勝し、絶対少女になったのだから。
そして、戌亥道明も前回のデュエルに出場している。
二人は戦っている、そのはずなのだが、その記憶を猫屋茜は思い出せずにいる。
「もちろんだよ」
「あれ? えーと、なら私も知っているはず? あれ?」
と、猫屋茜は混乱しだす。
記憶があいまいで上手く思い出すことができない。
「あまり深く考えてはダメだよ、茜くん」
戌亥道明はそう優しく声をかける。
「は、はい! えっと、なんですっけ? 解説です! 解説!」
声をかけられた猫屋茜は、思い出そうとすることをやめる。
そうするとモヤモヤした記憶がすっきりとどうでもよくなる。
そんな猫屋茜を見つつ、戌亥道明は再び解説を始めるが、
「とは言ってもね、月子くんがステージに立つのは稀…… いや、今回は今日が初めてか」
と、何やら思い出しながらつぶやく。
「え? えーと、そうですね。私の記憶ではそうです!」
猫屋茜の記憶では申渡月子がデュエルのステージに立ったのは今日が初めてのはずだ。
デュエリストとして初めてのはずだが、以前にも申渡月子がデュエリストとしてステージに立っていたような気がしてならない。
再び猫屋茜の記憶に靄がかかり始める。
「そうだね、なので、どんなデュエリストであるか…… わからないね」
と、戌亥道明は猫屋茜が戸惑う様子を見ながら言った。
「うっ、そ、そうですね……」
その言葉を発すると、猫屋茜の頭の中の靄は消えていく。
「そして、葵くんと綾くんのペアはもう一度見ているよね?」
「はい! 蛇腹剣…… でしたっけ? 凄い剣でしたね!」
確かそんな種類の異様な剣だった。
「ああ、ある意味凄い剣だったね」
だが、戌亥道明もその神刀の能力が衣服を溶かすとかどうでもいい能力なので、何とも言えない感情になる。
実際は女性の衣服だけでなく、男性の衣服どころか、鎧や神刀すら侵食する粘液なのだが、巳之口綾の衝撃的な発言で、戌亥道明にすらもそう認識されてしまっている。
「えーと、なら、夜子さんの神刀というのは?」
猫屋茜はならば、夜子の中に宿る神刀のことを聴こうとする。
この戌亥道明をもってして、チート能力と言わしめる神刀。
その能力は気になる。
「能力を紹介してしまうのは、ネタバレだろ? まあ、そこは実際に見てくれとしか言えないが、本当にチートだよ、あの神刀は」
うんざりした表情で戌亥道明は解説するのを拒む。
「そうなんですか?」
「そうだよ。あの望ですら、防ぎようがないね」
そう、未来を知る望ですら、発動してしまえば防ぎようがない。
だから、申渡恭子は勝ち進んでしまった。
絶対少女になってしまったのだ。
「へ? 未来を知っている望さんですらですか?」
猫屋茜が驚いた表情を見せる。
「ああ、そうだよ。ほら、神刀召喚の儀が始まるよ」
二人のバニー、卯月夜子と申渡月子が見る目合う。
ダンスでも踊るように軽く抱き合い、卯月夜子が反るように背筋を伸ばす。
申渡月子はそれを支え、そして、広く開いた胸元へ唇を寄せ、軽くキスをする。
卯月夜子の胸元が光出し、そこから刀の柄が現れる。
申渡月子はそれを慎重に、気高く抜き放ち、天に掲げ、その神刀の名を告げる。
「首を落とすことが本懐なり! 首跳八跳!」
申渡月子と卯月夜子の神刀召喚の儀を見た、天辰葵は面白くない。
嫉妬の炎にその身を、その脳みそを焼かれていた。
だからだ。突如、何の予兆もなく天辰葵は巳之口綾のスカートをめくり上げる。
「へぇ?」
と、間の抜けた声を巳之口綾があげる。
天辰葵はお構いないしに、巳之口綾のめくり上げられたスカートが降りる前に、巳之口綾が履いている黒タイツを無理やり脱がす。
勢いあまって下着まで脱がしそうになったが、巳之口綾が何とかそれを食い止める!
「ま、また! い、いきなり! な、なにするのよ!」
と非難の声を上げるが、天辰葵は容赦しない。
露になった巳之口綾の白い太ももへとキスをする。
ついでに強く吸ってキスマークを残してやる。
「やっ、何やってんのよ!」
さらに避難の声が上がるが、輝きと共に巳之口綾の太ももから現れた刀の柄を強引に引き抜く。
それはもう、ジャラジャラと蛇腹剣を抜く。
そして、それを天に掲げる。
「蛇の道を究めん! 蛇頭蛇腹!」
天辰葵も少し自棄になりながら、その神刀の名を告げる。
━【次回議事録予告-Proceedings.67-】━━━━━━━
生徒会長、戌亥道明をもってしてチート神刀と言わしめたその能力は?
申渡月子のデュエリストとしての能力は?
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