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揺蕩う竜と運命を招き入れる猿
【Proceedings.64】揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.01
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ここは永遠の学園の園、神宮寺学園。
絶対にして完全なる学園。
桜舞う常春の学園。
その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。
「凄かったですね、流石に私も驚きました」
「景清、また強くなっていましたね」
「うーん……」
「シャベルコ、どうしました?」
「いえ、月子ちゃんがとうとう決心してくれたみたいなんですが心配で心配で」
「あー、あの子、ちゃんと戦えるんですか?」
「いえ、バニーちゃんも動いてくれるので、そこは問題ないですよ」
「あら、じゃあ、あのえげつない神刀が見れるんですね?」
「あー、あの…… えげつない刀ですね」
「どうなるかは楽しみですね」
「「「クスクスクスクス……」」」
桜の花が舞う桜並木を二人が仁王立ちしている。
そして、滝のように涙を流している。
一人は美しい均整の取れた肉体美を持つ男、牛来亮。
もう一人はむさ苦しいほどの筋肉に、なぜか上半身裸で女物のブラジャーをつけている丑久保修だ。
彼らは泣いている。
男泣きしている。
彼らが敬愛してやまない喜寅景清が負けたからだ。
ただ、勝負自体は彼らとても納得のいくものだった。
だからこそ、彼らは泣いているのだ。
だが、なぜこんな場所で仁王立ちして泣いているのか、それは誰にも分らない。
彼ら自身にも分からない。
申渡月子は、まだ一度も使われていない空き教室に卯月夜子を呼び出していた。
「珍しいわね、月子ちゃんの方から呼び出してくれるだなんてん」
いつものバニー姿で夜子は嬉しそうにそう言った。
姉妹だけあって、親友である申渡恭子によく似ている。
性格はまるで正反対のようだが。
「夜子様。お力をお貸しください」
月子は礼儀正しく深く頭を下げて助力を乞う。
夜子は少し驚いた顔を見せる。
デュエルを徹底的に避けていた、月子の方から行動に出るとは思ってもみなかったからだ。
もし頼るとしても別の人物だと思っていたというのもある。
それに夜子は自分が頼られるという意味を理解している。
「あら、と、いうことは葵ちゃんと戦う心の準備ができたということかしらん?」
夜子もすぐに悟る。
その時が来たのだと。
忘れているかもしれないが、申渡月子もデュエリストなのだ。
月子自身も葵に倒されなくては、葵は絶対少女にはなれない。
ただ、月子も葵にわざと負ける気はない。
やるならば、本気で勝負をする。
いや、それどころの覚悟ではない。月子はそれ以上の決意を胸に今この場にいる。
申渡月子は気高い少女なのだから。
「はい」
月子は決意に満ちた表情で頷く。
「そう、それはよかったわ。唯一つ条件がありますよん」
「なんでしょうか……?」
夜子の魅惑で少し意地悪そうな笑顔に、嫌な予感を感じつつ、月子もその条件を飲むしかない。
自分がデュエルで勝ち進むには、夜子の力を頼るしかないのだから。
「最近、月子がやさしいと思ったらいないんだけど? 巧観はなにか知っている?」
暇そうにしながら葵は巧観に月子の居場所を聞く。
「知ってるというか、そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
と、巧観は何気なく答える。
「なぜ…… 巧観には話して私には話してくれないんだ!」
葵はそう言って嘆くのだが、巧観は白い目で葵を見る。
ただし、葵の言葉に答えたのは綾だった。
「そりゃ…… 面倒だからでしょう…… あなた、自分がめんどくさい女だという自覚はないの?」
綾はトッピングで茹で卵を乗っけたスープカレーを食べながら、葵を刺すように見ながら言った。
綾としては面白くない。
最近、いや、酉水ひらり戦以来というべきか、月子の葵への態度が明らかに変わった。
それまでは葵の気持ちに答える様子はまるでなかったのに、最近はまんざらでもない、そんな表情も見せているのだ。
それは些細な変化だ。
いつも月子を見続けて来た綾でなければ気づけないほど些細な変化だ。
綾はそれが、その些細な変化が、とても面白くないのだ。
いつかそれが大きなうねりになる気がして不安で仕方がないのだ。
「綾にだけは言われたくないんだけど?」
と、クリームチーズパスタをフォークでグルグルと巻きながら葵は答えた。
だが、葵はいつまでもフォークをグルグルと回し一向に口に入れようとはしない。
最近は月子との仲も良好だと思っていたのに、置いて行かれ、行き先も教えてもらえなかったことに拗ねているようだ。
巧観は天蕎麦のえび天を頬張る。
上はカリカリの衣、下はそばつゆを吸ってしっとりと柔らかく、十分に出汁の利いたそばつゆを含んだ天ぷらはとても美味しい。
エビ自体も新鮮で弾力に富み、火を通しすぎない絶妙の火加減だ。
そんなえび天を一かじりし、残りを暖かいそばつゆに揺蕩う蕎麦の上に置く。
そして、今は頬張ったえび天をカリカリと音を鳴らし今は味わう。
ただ、味わう。
十分に堪能し、噛み砕いたそれを巧観は飲み込む。
そして、口直しにとそばを啜る。
そば粉だけで打たれた十割蕎麦。
鰹出汁と昆布出汁の合わせ出汁が、深いコクを生み出している。
醤油の旨味と味醂の旨味が合わさり合いそこにほのかに感じさせる砂糖の甘味。
それらが香りとなり、巧観の喉から鼻へと通り抜けていく。
それに満足し巧観は、ハァ、と満足げに息を吐き出す。
食堂の入口から入ってくる月子と夜子の姿を目に止める。
巧観はすぐにめんどくさいことになる。
と、分かり顔を顰めた。
顔を顰めたところでもう逃げ場はないし、行く場所もない。
「バァニィガァル……」
と、葵は敵意を剥き出しにしてそう言うのだが、その視線は夜子の網タイツに釘付けだ。
それで月子の機嫌が若干悪くなっているのだが、網タイツに夢中な葵はそのことに気づいてはいない。
綾だけが不機嫌そうな月子に気づき嫌な顔を浮かべる。
「葵様、私とデュエルをしてください」
月子はめんどくさいことになる前に、葵が網タイツを見て雪国の車窓とか訳の分からないことを言いだす前に、本題を切り出した。
「私と月子が? なぜ?」
と、葵にしては珍しく理解していないという風に聞き返す。
「お忘れかもしれませんが、私もデュエリストです。葵様が絶対少女になるならば、わたくしと会長、その二人をデュエルで倒さなければなりません」
意を決したように月子は葵に告げる。
デュエリストも残すところ、自分と会長のみだと。
「なるほど。そう言えばそういう話だったね」
葵は未だに絶対少女になれば願いが叶う、そんな話は信じてはいない。
だが、今の葵は理解できている。
絶対少女になることが、一つの鍵であることを。
葵は、天辰葵は本能でそれを理解しているのだ。
「会長、戌亥様はまだ動かないようですし」
喜寅景清が敗れたというのに戌亥道明は行動を起こす気配をまるで見せない。
恐らくは最後まで行動を起こすつもりはないのだろう。
「巧観、巧観兄は動かないの?」
葵は一応、妹である巧観に確認する。
「うーん、まだ静観を決め込んでいるみたい」
巧観は少し考えた後、そう伝えた。
巧観は喜寅景清が負けた後は、兄である戌亥道明の出番だとばかり思っていたが、道明はまるで動く素振りを見せない。
それどころか、生徒会室にこもりっきりだ。
「そうか」
「それでも、葵様がわたくしを倒せば、動かざるえません」
月子は確信を持ってそう言った。
たしかに月子の言うことは確かなのだろう。
葵もそう思う。
ただ、月子の隣にいる夜子というバニーガールはいただけない。
けしからん、と葵は声を大にして言いたい。
そして、そのけしからん網タイツを履いた御身足を眺めていたいと。
「それで、月子のデュエルアソーシエイトはバァニィガァルね……」
そう言いつつも葵の視線は夜子の脚に釘付けだ。
これは葵が悪いわけではない。
夜子が悪いのだ。
夜子の網タイツを履いた脚が美しすぎるからいけないのだ。
「こればっかりはどうしようもありませんので」
と、そんな葵を見て、月子は少し不機嫌に、そして、いろんな意味を込めてそう言った。
「そこで一つ、良いことを教えてあげるわん」
そこで魅惑的にほほ笑んでいただけの夜子、卯月夜子が言葉を発する。
「なに?」
と、葵は夜子の方を見ながら、夜子の網タイツを、まるで夜子自身ではなく、夜子の脚と話しているかのように、ガン見しながら返事をする。
「月子ちゃんのデュエルアソーシエイトになるにあたり、一つ条件を出したのよん」
夜子がそう言うと、月子の表情が硬く強張る。
流石に月子の変化に、葵が気づき、月子の顔を、その表情を見る。
いつもの魅惑的な笑みを浮かべている夜子がいる。
そこで葵は月子に視線を送るが、月子は葵と目を合わせてない。
深く俯き、顔を少し赤くしている。
「むっ…… なに?」
月子がそんな反応をしているのは葵としては流石に見過ごせない。
葵は微笑むのをやめ、真剣な表情で夜子を問い詰める。
「それは……」
「それは……?」
「つまりデュエル開催ってことですね?」
と、猫屋茜が急にそう言って柱の陰から飛び出してきた。
それを巧観が茜の頭を押さえて、柱の陰に追いやる。
「茜…… 茜はもう少しそこの柱で控えてて」
話がややっこしくなりそうなので、茜には一時的に退場してもらう。
「そ、そんな!?」
と、言いつつ、茜は抵抗むなしく巧観により柱の陰へと押し返されていく。
その様子を無言で一同は見て居たが、
「えーと、で、条件は何?」
葵が話を続けさせる。
「それは月子ちゃんにねん……」
だが、夜子は今の状態を楽しんでいるかのように、もったいぶる。
「月子に!?」
そう言って、葵は生唾を飲み込む。
月子が何とも言えない表情を浮かべて頬を赤く染めているからだ。
「バニーガールの姿で円形闘技場に立ってもらうことよん!」
夜子は告げた。
その事を。
葵の表情が、信じられない、と言う表情を一瞬浮かべる。
そして、次の瞬間、はしたなく崩れゆく口元を手で隠した。
「バァニィガァル!! ナイス! バァニィガァル!! ナイス!!」
そして、口元を手で隠しつつも巻き舌で夜子に感謝を伝える。
「月子様の…… バニーガールを見ることが…… できる!? あ、諦めていたけれども、希望の蝋燭に火はまだ灯るのね…… フフフ……」
綾も涙を流しながら神に感謝を伝えている。
「綾! デュエルアソーシエイトになって!」
葵は即座に綾に頼み込む。
「わ、わかったわ、葵。デュエルアソーシエイトになれば、より近くでバニーガール姿の月子様を観察できるものね」
綾も葵の頼みを速攻で承諾する。
だが、そのことで月子の顔が絶望に歪む。
「え? ちょ、ちょっと待ってください! それは流石に聞いてませんよ?」
「どうしたの月子ちゃん?」
と、夜子が珍しいものでも見るかのように聞き返す。
「どうしたもこうしたも…… 綾様の神刀って、あの衣服を溶かす唾液の神刀ですよね? さ、流石に……」
あんな服を溶かすような訳の分からない神刀と、大勢の前で戦えとか流石に月子も考えてなかった。
あんな使い難そうな神刀、葵も使うわけがないと考えていたのだ。
「大丈夫だよ、月子。私に任せておいて」
だが、葵はなぜかいい笑顔でそう言った。
「なにをです?」
何も理解できずに月子は聞き返す。
「月子の素晴らしいバァニィガァル姿を一ミリも傷つけやさせないから!」
そう言う葵の笑顔は本当に良い笑顔だ。
だが、それだけに、葵だけになんの信用もない。
葵が自分を困らすようなことはしないと、月子もわかってはいるのだが、やはり信用が置けない所もあるのは事実だ。
「葵様、何を言っているんですか?」
月子はそう言うしかなかった。
「でも、実際葵ちゃんはそうやって私に勝ったもんねん」
夜子は魅惑的に、それでいて、少し悔しそうにそう言った。
「えっ、えぇ……」
たしかに葵は夜子のバニースーツをほとんど破損させずに夜子にすら勝っている。
月子にはどう扱っていいかもわからない蛇腹剣を使ってだ。
だからと言って、月子が安心できるわけではない。
申渡月子。
乙女座で誕生日は九月九日。
O型。
第三回のデュエルで絶対少女になった姉を持つ、気高き少女だ。
━【次回議事録予告-Proceedings.65-】━━━━━━━
月子は夜子の力を借りる代わりにとんでもない約束をしてしまったと後悔する。
だが、葵は上機嫌だ。この上なく上機嫌だ。
そして、月子は勝った時と負けた時の条件を葵に提示する……
━次回、揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.02━━━━━
絶対にして完全なる学園。
桜舞う常春の学園。
その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。
「凄かったですね、流石に私も驚きました」
「景清、また強くなっていましたね」
「うーん……」
「シャベルコ、どうしました?」
「いえ、月子ちゃんがとうとう決心してくれたみたいなんですが心配で心配で」
「あー、あの子、ちゃんと戦えるんですか?」
「いえ、バニーちゃんも動いてくれるので、そこは問題ないですよ」
「あら、じゃあ、あのえげつない神刀が見れるんですね?」
「あー、あの…… えげつない刀ですね」
「どうなるかは楽しみですね」
「「「クスクスクスクス……」」」
桜の花が舞う桜並木を二人が仁王立ちしている。
そして、滝のように涙を流している。
一人は美しい均整の取れた肉体美を持つ男、牛来亮。
もう一人はむさ苦しいほどの筋肉に、なぜか上半身裸で女物のブラジャーをつけている丑久保修だ。
彼らは泣いている。
男泣きしている。
彼らが敬愛してやまない喜寅景清が負けたからだ。
ただ、勝負自体は彼らとても納得のいくものだった。
だからこそ、彼らは泣いているのだ。
だが、なぜこんな場所で仁王立ちして泣いているのか、それは誰にも分らない。
彼ら自身にも分からない。
申渡月子は、まだ一度も使われていない空き教室に卯月夜子を呼び出していた。
「珍しいわね、月子ちゃんの方から呼び出してくれるだなんてん」
いつものバニー姿で夜子は嬉しそうにそう言った。
姉妹だけあって、親友である申渡恭子によく似ている。
性格はまるで正反対のようだが。
「夜子様。お力をお貸しください」
月子は礼儀正しく深く頭を下げて助力を乞う。
夜子は少し驚いた顔を見せる。
デュエルを徹底的に避けていた、月子の方から行動に出るとは思ってもみなかったからだ。
もし頼るとしても別の人物だと思っていたというのもある。
それに夜子は自分が頼られるという意味を理解している。
「あら、と、いうことは葵ちゃんと戦う心の準備ができたということかしらん?」
夜子もすぐに悟る。
その時が来たのだと。
忘れているかもしれないが、申渡月子もデュエリストなのだ。
月子自身も葵に倒されなくては、葵は絶対少女にはなれない。
ただ、月子も葵にわざと負ける気はない。
やるならば、本気で勝負をする。
いや、それどころの覚悟ではない。月子はそれ以上の決意を胸に今この場にいる。
申渡月子は気高い少女なのだから。
「はい」
月子は決意に満ちた表情で頷く。
「そう、それはよかったわ。唯一つ条件がありますよん」
「なんでしょうか……?」
夜子の魅惑で少し意地悪そうな笑顔に、嫌な予感を感じつつ、月子もその条件を飲むしかない。
自分がデュエルで勝ち進むには、夜子の力を頼るしかないのだから。
「最近、月子がやさしいと思ったらいないんだけど? 巧観はなにか知っている?」
暇そうにしながら葵は巧観に月子の居場所を聞く。
「知ってるというか、そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
と、巧観は何気なく答える。
「なぜ…… 巧観には話して私には話してくれないんだ!」
葵はそう言って嘆くのだが、巧観は白い目で葵を見る。
ただし、葵の言葉に答えたのは綾だった。
「そりゃ…… 面倒だからでしょう…… あなた、自分がめんどくさい女だという自覚はないの?」
綾はトッピングで茹で卵を乗っけたスープカレーを食べながら、葵を刺すように見ながら言った。
綾としては面白くない。
最近、いや、酉水ひらり戦以来というべきか、月子の葵への態度が明らかに変わった。
それまでは葵の気持ちに答える様子はまるでなかったのに、最近はまんざらでもない、そんな表情も見せているのだ。
それは些細な変化だ。
いつも月子を見続けて来た綾でなければ気づけないほど些細な変化だ。
綾はそれが、その些細な変化が、とても面白くないのだ。
いつかそれが大きなうねりになる気がして不安で仕方がないのだ。
「綾にだけは言われたくないんだけど?」
と、クリームチーズパスタをフォークでグルグルと巻きながら葵は答えた。
だが、葵はいつまでもフォークをグルグルと回し一向に口に入れようとはしない。
最近は月子との仲も良好だと思っていたのに、置いて行かれ、行き先も教えてもらえなかったことに拗ねているようだ。
巧観は天蕎麦のえび天を頬張る。
上はカリカリの衣、下はそばつゆを吸ってしっとりと柔らかく、十分に出汁の利いたそばつゆを含んだ天ぷらはとても美味しい。
エビ自体も新鮮で弾力に富み、火を通しすぎない絶妙の火加減だ。
そんなえび天を一かじりし、残りを暖かいそばつゆに揺蕩う蕎麦の上に置く。
そして、今は頬張ったえび天をカリカリと音を鳴らし今は味わう。
ただ、味わう。
十分に堪能し、噛み砕いたそれを巧観は飲み込む。
そして、口直しにとそばを啜る。
そば粉だけで打たれた十割蕎麦。
鰹出汁と昆布出汁の合わせ出汁が、深いコクを生み出している。
醤油の旨味と味醂の旨味が合わさり合いそこにほのかに感じさせる砂糖の甘味。
それらが香りとなり、巧観の喉から鼻へと通り抜けていく。
それに満足し巧観は、ハァ、と満足げに息を吐き出す。
食堂の入口から入ってくる月子と夜子の姿を目に止める。
巧観はすぐにめんどくさいことになる。
と、分かり顔を顰めた。
顔を顰めたところでもう逃げ場はないし、行く場所もない。
「バァニィガァル……」
と、葵は敵意を剥き出しにしてそう言うのだが、その視線は夜子の網タイツに釘付けだ。
それで月子の機嫌が若干悪くなっているのだが、網タイツに夢中な葵はそのことに気づいてはいない。
綾だけが不機嫌そうな月子に気づき嫌な顔を浮かべる。
「葵様、私とデュエルをしてください」
月子はめんどくさいことになる前に、葵が網タイツを見て雪国の車窓とか訳の分からないことを言いだす前に、本題を切り出した。
「私と月子が? なぜ?」
と、葵にしては珍しく理解していないという風に聞き返す。
「お忘れかもしれませんが、私もデュエリストです。葵様が絶対少女になるならば、わたくしと会長、その二人をデュエルで倒さなければなりません」
意を決したように月子は葵に告げる。
デュエリストも残すところ、自分と会長のみだと。
「なるほど。そう言えばそういう話だったね」
葵は未だに絶対少女になれば願いが叶う、そんな話は信じてはいない。
だが、今の葵は理解できている。
絶対少女になることが、一つの鍵であることを。
葵は、天辰葵は本能でそれを理解しているのだ。
「会長、戌亥様はまだ動かないようですし」
喜寅景清が敗れたというのに戌亥道明は行動を起こす気配をまるで見せない。
恐らくは最後まで行動を起こすつもりはないのだろう。
「巧観、巧観兄は動かないの?」
葵は一応、妹である巧観に確認する。
「うーん、まだ静観を決め込んでいるみたい」
巧観は少し考えた後、そう伝えた。
巧観は喜寅景清が負けた後は、兄である戌亥道明の出番だとばかり思っていたが、道明はまるで動く素振りを見せない。
それどころか、生徒会室にこもりっきりだ。
「そうか」
「それでも、葵様がわたくしを倒せば、動かざるえません」
月子は確信を持ってそう言った。
たしかに月子の言うことは確かなのだろう。
葵もそう思う。
ただ、月子の隣にいる夜子というバニーガールはいただけない。
けしからん、と葵は声を大にして言いたい。
そして、そのけしからん網タイツを履いた御身足を眺めていたいと。
「それで、月子のデュエルアソーシエイトはバァニィガァルね……」
そう言いつつも葵の視線は夜子の脚に釘付けだ。
これは葵が悪いわけではない。
夜子が悪いのだ。
夜子の網タイツを履いた脚が美しすぎるからいけないのだ。
「こればっかりはどうしようもありませんので」
と、そんな葵を見て、月子は少し不機嫌に、そして、いろんな意味を込めてそう言った。
「そこで一つ、良いことを教えてあげるわん」
そこで魅惑的にほほ笑んでいただけの夜子、卯月夜子が言葉を発する。
「なに?」
と、葵は夜子の方を見ながら、夜子の網タイツを、まるで夜子自身ではなく、夜子の脚と話しているかのように、ガン見しながら返事をする。
「月子ちゃんのデュエルアソーシエイトになるにあたり、一つ条件を出したのよん」
夜子がそう言うと、月子の表情が硬く強張る。
流石に月子の変化に、葵が気づき、月子の顔を、その表情を見る。
いつもの魅惑的な笑みを浮かべている夜子がいる。
そこで葵は月子に視線を送るが、月子は葵と目を合わせてない。
深く俯き、顔を少し赤くしている。
「むっ…… なに?」
月子がそんな反応をしているのは葵としては流石に見過ごせない。
葵は微笑むのをやめ、真剣な表情で夜子を問い詰める。
「それは……」
「それは……?」
「つまりデュエル開催ってことですね?」
と、猫屋茜が急にそう言って柱の陰から飛び出してきた。
それを巧観が茜の頭を押さえて、柱の陰に追いやる。
「茜…… 茜はもう少しそこの柱で控えてて」
話がややっこしくなりそうなので、茜には一時的に退場してもらう。
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そう言って、葵は生唾を飲み込む。
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夜子は告げた。
その事を。
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そして、口元を手で隠しつつも巻き舌で夜子に感謝を伝える。
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綾も涙を流しながら神に感謝を伝えている。
「綾! デュエルアソーシエイトになって!」
葵は即座に綾に頼み込む。
「わ、わかったわ、葵。デュエルアソーシエイトになれば、より近くでバニーガール姿の月子様を観察できるものね」
綾も葵の頼みを速攻で承諾する。
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「でも、実際葵ちゃんはそうやって私に勝ったもんねん」
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「えっ、えぇ……」
たしかに葵は夜子のバニースーツをほとんど破損させずに夜子にすら勝っている。
月子にはどう扱っていいかもわからない蛇腹剣を使ってだ。
だからと言って、月子が安心できるわけではない。
申渡月子。
乙女座で誕生日は九月九日。
O型。
第三回のデュエルで絶対少女になった姉を持つ、気高き少女だ。
━【次回議事録予告-Proceedings.65-】━━━━━━━
月子は夜子の力を借りる代わりにとんでもない約束をしてしまったと後悔する。
だが、葵は上機嫌だ。この上なく上機嫌だ。
そして、月子は勝った時と負けた時の条件を葵に提示する……
━次回、揺蕩う竜と運命を招き入れる猿.02━━━━━
0
▼【作品集】
▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。
それなりに怖い話。
さっくり読める。
絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。
▽【完結済み】
一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。
四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。
竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。
幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
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最初から最後までコメディ。
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しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
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セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
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