絶対少女議事録 ~蟹座の私には、フェチニズムな運命を感じられずにはいられない~

只野誠

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時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊

【Proceedings.52】時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.03

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 未来望は屋上で物思いにふけっている丁子晶に声をかけた。
 そうして返って来た言葉が、
「なんですか、望君。まさか、力は貸してくれなかったのに力を貸してと言うんですか?」
 だった。
 それに対して、望は晶に笑顔を向ける。
「そうだよ。晶、キミの力が必要なんだ」

「クッ、よくそんなことが。けど…… 望君なら…… デュエルアソーシエイトになるのは良いですけど、勝ったときは……」
 晶は即座に考えを切り替え、結論を出す。
 力を貸してくれなかったのに力を貸すのは癪だが、この未来望という男が恐ろしく強い事だけは事実だ。
 この未来望であるならば、天辰葵を倒すことも容易いと。

「天辰さんの命令を撤廃させるんだろ?」
 望はただでさえ細い目を更に細くして笑顔を浮かべてそう言った。
「はい!」
 と、晶は元気に返事をするが、した後で少しバツの悪そうな顔をする。
 酉水ひらりに、女装していなけばしないほうがいいよ、と注意されたからだ。

「それで構わないよ。ただ、自分は負けるけどね」
 望は笑顔でそう言った。
「望君が、ですか?」
 その言葉を晶は信じられない。
 この目の前の男に勝てる人間はそう居るものではない。
 ただ、あの天辰葵という人物であれば、それすらも可能に思えてしまう。
 そう思わせる何かが、天辰葵にあることも事実だ。
「ああ、そうだよ」
「嘘でしょう? 正直三強の中で望君が一番……」
 一番強い。
 少なくとも晶はそう思っている。
 
「いや、そんなことはないさ。それに自分が勝っても意味はないんだよ。それでは希望につながらないのさ」
 望はそう言って遠い目をして空を見上げる。
「たまに望君、希望希望と言い出すときありますよね? なんなんですか?」
 晶は顔をしかめてそう聞いた。
 望はたまに希望がどうのとこうのと、言い出すときがある。
 普段は特に気にも留めない晶だが、今日は気になったので聞いてみた。
「希望は希望だよ。晶や自分の中からは失われたものだよ」
「は? 望君はともかく失っていませんけど? アイドルになるんです!」
 それに対しては晶は強く反論する。
「そうかい? それはいいね。とてもいいね」
 そう言って望は笑った。



「と、言うわけでデュエルを申し込むよ、天辰さん、自分とデュエルをしてくれないかい?」
 丁子晶からデュエルアソーシエイトの許可をもらい、その足で望は葵に会いに食堂へと来ていた。
「えっと、ああ、生徒会室にいた生徒会執行団の…… 誰だっけ」
 確か、生徒会室に呼ばれたときに居た一人だ。
 その時は…… 葵は網タイツしか覚えていない。
 バニーガールの、卯月夜子の、網タイツのことしか頭に残っていない。
「未来だ。未来望だよ。生徒会執行団では、生活部長の役職についているよ」
 と、細目の優男、望が覚えられていなかったことを気にも留めずに挨拶をする。

「とうとう望さんまで出て来たか……」
 と、巧観が自分のことのように緊張してそう言った。
「巧観、この人、有名人なの?」
 巧観がひどく緊張しているようなので、葵は巧観にそう聞き返す。
 葵から見た望という男は、それほど強いようには思えない。

「そうだよ。初代絶対少女の兄にして、三強と呼ばれるデュエリストの一人だよ」
「ふーん」
 そう言って、葵はも一度、望を、未来望を見る。
 体を鍛えているわけでもない。
 武術か何かをやっている様子もない。
 そうなると、葵に心当たりがあるのは、その身に宿っている神刀の強さだ。
 それはここ数回のデュエルで葵も痛いほど実感している。

「最初に言っておくね。天辰さん、君は勝つよ。自分は絶対に負けることになる」
 望はそう自信があるように断言した。
「ふー…… え? 私が勝つの? 普通そう言うのは逆じゃない?」
 葵が煽られた、と思って返事をしようとしたところで気づく。
 望が言ったのは勝利宣言ではなく、敗北宣言だったということに。

「いや、君が勝つのは決定事項だよ」
 そう言って望はニコニコとほほ笑んでいる。
「あー、うん。巧観! 何なのこと人?」
 葵でもよくわからなかったので、こういう時は巧観が解説してくれるとばかりに巧観を頼る。
 こういうことを巧観も甘んじて受け入れているから、巧観は生徒会執行団の猟犬から、天辰葵の飼い犬になったなどと言われている。

「いや、望さんは不思議な人で…… そう言う人なんだよ」
 と、巧観からも、そんな曖昧な返答が返ってくる。
「男の不思議ちゃんは趣味じゃないですよ」
 それを聞いた葵はとりあえず、そう言って望を煽る。
 煽れば少しくらいこの男の本性が知れると思ったからだが。

「ハハハッ、男自体、キミは趣味じゃないでしょう」
 と、逆にそう言い返されてしまう。
「へぇー、どうしてそう思うんだい」
 と、葵は少し苦しそうにそう言い返すが、そんなことは既に分かり切ったことだ。
「葵…… 逆にどうしてそう思われないと思っているの?」
 葵の返事は巧観にまで突っ込まれる始末だ。
 葵の今までの行動を少しでも見ていれば、そんなことはすぐにわかることだ。

「趣味の話をしに来たわけじゃないよ。で、どうするんだい? まあ、君は受けるんだけどね。これも決定事項だよ」
 そう言って望は朗らかに笑う。
 その笑顔はまるで春の陽気のように朗らかだ。
「いや、まあ、確かにそうだけど……」
 葵は釈然としない。
 ついでに月子は無言でお茶を啜っている。
 特に注意を促したりする気は今回はない様だ。
 なにより、あともう少しでデュエリスト全員に勝つことができる。
 それはすなわち、絶対少女までもう少しということだ。
 ここまで来たら月子も止めるようなことはしない。
 葵を信じ、葵に託すだけだ。

「つまり! デュエルってことですね!」
 と、言うところで猫屋茜が急に現れ話に入り込んでくる。
「ま、また茜が急に湧いて出た!」
 それに巧観が驚く。

 巧観が茜の出現に驚いていたので、
「戌亥さん、キミもデュエリストとしてもう少し自覚を持つべきだよ」
 と、望は巧観に注意を促す。
「望さんに言われると、否定できない……」
 たしかに巧観は最近物凄く腑抜けてしまったいる気がする。
 生徒会の猟犬などと呼ばれていたのが嘘のようだ。
「そんな強い人なの?」
 と、まだ疑わしいと葵は再度、巧観に確認するが、
「自分はそんなに強くないよ」
 それに答えたのは望自身だ。
 
「嘘ですよ、望さんは三強と言われている人ですよ」
 それに白い眼を向けて巧観が訂正する。
「三強ね。他の二人は…… 巧観兄と、あの虎みたいな人か」
 と、思い当たる人物を上げる。
 あの二人は葵の目から見ても確かに強者だ。
 少なくとも武術を、それも人を殺めることを目的とした武術を学んでいると葵には感じられる。
「うん、よくわかったね」
 笑顔で望が答えるが、もうそれくらいしかデュエリストも残っていない。

「もうそれしか残ってないじゃないか」
 葵はそれをそのまま伝える。
 そうじゃなくとも、その二人は葵から見ればすぐにわかる。
 葵の目から見て、もう一人強者を選ぶなら、綾を、巳之口綾を葵は選ぶだろう。
「そういえば、そうか」
 と、確かに消去法ですぐわかることだと望も理解する。

「まあ、受けるよ」
 また話が別のほうへと流れそうだったので今度は葵が修正し、そして、その話を終わらせる。

「で、いつですか!」
 今度は黙って成り行きを見ていた茜がメモ片手に話に入り込んでくる。
 彼女にとってはデュエル開催が決まってからが忙しい。
「アハハ、猫屋さんは元気だね。いつでも良いよ。明日の昼過ぎとか、明日の昼過ぎとか、明日の昼過ぎとか」
 と、未来望はいつでもいいよと言いながら、指定しているような物言いをした。
 だが、その時間帯は確かに葵も空いているし、茜にとっても十分に時間が取れる時間帯だ。

「その時間になにか?」
 ただ、気になった葵はそう聞くのだが、
「いや、そう決まっているだけだよ。自分が負けるのが決まっているようにね」
 と、望は朗らかに笑いながら返すだけだった。
「なんかやりずらい人だな」
 と、葵は顔を顰める。



 未来望。
 牡羊座で四月一日生まれでA型の男。
 生徒会執行団では生活部長をしている。
 初代絶対少女の兄と言われている男で、彼は希望を失っている。




━【次回議事録予告-Proceedings.53-】━━━━━━━


 竜と希望を失った羊の運命が交差し、運命が蠢動し始める。


━次回、時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.04━
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▼【作品集】

▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。


それなりに怖い話。
さっくり読める。


絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。



▽【完結済み】

一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。


四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。


竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。


幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
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