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時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊
【Proceedings.51】時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.02
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卯月夜子は勇み足で今日も生徒会室に向かっていた。
その表情は殺気に満ちている。
バニーガールの衣装のハイヒールを響かせて廊下を進む。
今日も今日とて生徒会長である戌亥道明を問い詰めるつもりだ。
それを止めようとする恐れ知らずの者はいない。
ただ一人を除いて。
未来望。
細目の優男。卯月夜子の前に立ち、彼女の歩みを止める。
「なに?」
怒りに満ちた、返答次第では容赦しないといった気迫の一言が夜子から発せられる。
常人であればその一声で震えあがり逃げ出していたかもしれない。
そんな夜子に向かい望は声をかける。
「あまり会長を虐めないでやってくれるかな」
その気迫すらの望は受け流し、夜子が敵視している会長を擁護するようなことを言った。
夜子の鋭い刺すような気が、望に突き刺さる。
それでも望は朗らかに笑みを浮かべているだけだ。
「……」
無言の圧。
殺気以上の凶悪な気が夜子から発せられ、望に突き刺さる。
だが、望はそれすらを意に介さない。
そして、更に望は言葉を続ける。
怒りに身を任せ、バーサーカーとかした夜子に向かってだ。
「キミはさ、恭子さんのデュエルアソーシエイトだったんでしょう?」
余りにも望に敵意がないので、夜子も少しだけ正気に戻る。
「そうよ」
と、少しばつが悪そうに答える。
「なら、君は既に知っているはずだよ。恭子さんがどうなったのか。絶対少女になったその者のその後、デュエルアソーシエイトだけは…… 本来は知っているはずだよ」
望は告げる。
その言葉を聞くと、突き刺すような気迫が夜子から急激に失われる。
「私が…… 知っている……? そんなはずは……」
夜子にそんな記憶はない。
だが、申渡恭子が絶対少女となった時、確かに自分もその横に居たことは思い出せる。
そして、その後どうなったのか、そこがどうしても曖昧となっている。
どうしても何も思い出すことが出来ない。
それに今まで、望に指摘されるまで気づくことすらできなかった。
その事にも夜子は驚愕しだす。
「ただ、ちょっと忘れているだけさ。ごまかされてね。希望を胸に思い出そう。会長はキミの敵なんかじゃない」
望はただでさえ笑っているような顔で更に微笑む。
夜子に向かいそれを告げる。
「何を言って……」
夜子も混乱している。
何が何だか理解できないでいる。
ただ、望の言っていることは間違っていないように、そう感じられている。
「まずは落ち着こう。希望を忘れてはいけない。憎悪や憤怒では真実は見えてこないよ」
だが、夜子の視線は今だ鋭い。
会長なんかよりも、今目の前に未来望の方が真実を知っているのではないか、そのように夜子には思えて来るからだ。
「あなた、何を知っているの?」
戸惑いながらも、夜子は望を睨む。
だが、その視線からは迷いも生じている。
今は怒りだけに囚われているわけではない。
「自分も妹のデュエルアソーシエイトだっただけだよ。いや、あの頃はそんな呼び名ではなかったけどね」
そう言って、未来望は少し悲しそうに笑った。
「思い出す……」
確かに望の言うことはその通りなのだ。
夜子は、知っているはずなのだ。
申渡恭子の隣に、彼女が絶対少女になった時に、夜子はその隣に確かにいたはずなのだ。
何かを忘れている。
いや、忘れさせられている。
それは事実だ。
それを思い出せれば、確かに会長などを問いただす必要もない。
「そう。希望を忘れてはいけない。希望だけが頼りだ。希望だけが……」
そう言って、望は夜子に背を向けて去っていく。
「わかったわ。少し思い出す努力をしてみますわん」
平静をやっと取り戻した夜子は普段通りの魅惑的な笑みを浮かべてそう言った。
「うん、それでいい。希望を忘れないで」
最後に望は振り向いて、笑顔を残して去っていった。
葵と月子の桜並木デートの次の日のことだ。
「はぁ、確かにあの桜並木は好きですが、流石に七周はきついですね……」
月子は脚をさすりながらそう言った。
「一周三十分以上だもんね。お疲れ様」
巧観も当たり前だと同意する。
「流石に脚が…… 今日はバイトを休みにさせてもらいました」
この脚では十二時台のラッシュアワーを乗り切れないと思った月子は事前にそれを伝えている。
食堂側もそれを二つ返事で承諾し、葵の確認をとって、葵も今日のバイトは休みになっている。
流石の葵とは言えど、一人で十二時台を乗り切るのは難しい。
「ごめんよ、月子。つい浮かれてしまって」
葵も相当へこんでいるようで、落ち込みながらそう言った。
「いえ、楽しかったことは楽しかったですよ。ただ加減をですね……」
月子も四時間以上も歩くことになるとは、思っても見なかった。
ただ話ながら桜並木を四時間以上も歩いただけなのだ。
それでも葵が楽しそうにしていたので、月子もそれに付き合ってしまっただけだ。
「月子も我慢して付き合うから」
と、巧観に言われ、月子も何とも言えない笑みを返すことしかできない。
「いえ、わたくしから誘ったことですし、ご褒美ですし……」
と、月子は笑顔でそう答えた。
「それでも言ってほしかったよ、月子」
そんな月子を覗き込むように葵はそう言った。
「わ、わかりました、これからは無理はしません」
月子も答える。
「どそうしたの、綾。無言で虚空を見つめて」
ふと巧観が横を見ると虚空を見つめる綾がいた。
「やっぱり顔なのね……」
巧観の視線に気づいた綾はそうポツリと言葉を漏らした。
「いや、月子は顔で人を判断しないだろ? どっちかと言うと押しの強さのような?」
それに対して巧観は真面目に答える。
綾も何か反応が欲しくてその言葉を言ったわけではないが。
「押しの強さ…… わたしにはどちらにせよ、無理な話ね」
そう言って、綾はそのまま頬けている。
葵と月子が仲良くなったので、現実逃避でも始めているのかもしれない。
巧観も、今は少し綾はそっとしておいた方がよさそうだと判断する。
「けど、四時間近く? 以上? それくらいだよね、二人で何を話していたの?」
葵と月子に振り返り巧観がそう聞くと、
「それは……」
と、葵が答えようしたのを月子が止める。
そして、
「秘密ですよ」
と、月子は笑顔でそう言った。
━【次回議事録予告-Proceedings.52-】━━━━━━━
未来望は丁子晶の力を借りようとする。
そして、希望を待望するする羊は竜と相対する。
その時、再び運命は蠢動し始める。
━次回、時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.03━
その表情は殺気に満ちている。
バニーガールの衣装のハイヒールを響かせて廊下を進む。
今日も今日とて生徒会長である戌亥道明を問い詰めるつもりだ。
それを止めようとする恐れ知らずの者はいない。
ただ一人を除いて。
未来望。
細目の優男。卯月夜子の前に立ち、彼女の歩みを止める。
「なに?」
怒りに満ちた、返答次第では容赦しないといった気迫の一言が夜子から発せられる。
常人であればその一声で震えあがり逃げ出していたかもしれない。
そんな夜子に向かい望は声をかける。
「あまり会長を虐めないでやってくれるかな」
その気迫すらの望は受け流し、夜子が敵視している会長を擁護するようなことを言った。
夜子の鋭い刺すような気が、望に突き刺さる。
それでも望は朗らかに笑みを浮かべているだけだ。
「……」
無言の圧。
殺気以上の凶悪な気が夜子から発せられ、望に突き刺さる。
だが、望はそれすらを意に介さない。
そして、更に望は言葉を続ける。
怒りに身を任せ、バーサーカーとかした夜子に向かってだ。
「キミはさ、恭子さんのデュエルアソーシエイトだったんでしょう?」
余りにも望に敵意がないので、夜子も少しだけ正気に戻る。
「そうよ」
と、少しばつが悪そうに答える。
「なら、君は既に知っているはずだよ。恭子さんがどうなったのか。絶対少女になったその者のその後、デュエルアソーシエイトだけは…… 本来は知っているはずだよ」
望は告げる。
その言葉を聞くと、突き刺すような気迫が夜子から急激に失われる。
「私が…… 知っている……? そんなはずは……」
夜子にそんな記憶はない。
だが、申渡恭子が絶対少女となった時、確かに自分もその横に居たことは思い出せる。
そして、その後どうなったのか、そこがどうしても曖昧となっている。
どうしても何も思い出すことが出来ない。
それに今まで、望に指摘されるまで気づくことすらできなかった。
その事にも夜子は驚愕しだす。
「ただ、ちょっと忘れているだけさ。ごまかされてね。希望を胸に思い出そう。会長はキミの敵なんかじゃない」
望はただでさえ笑っているような顔で更に微笑む。
夜子に向かいそれを告げる。
「何を言って……」
夜子も混乱している。
何が何だか理解できないでいる。
ただ、望の言っていることは間違っていないように、そう感じられている。
「まずは落ち着こう。希望を忘れてはいけない。憎悪や憤怒では真実は見えてこないよ」
だが、夜子の視線は今だ鋭い。
会長なんかよりも、今目の前に未来望の方が真実を知っているのではないか、そのように夜子には思えて来るからだ。
「あなた、何を知っているの?」
戸惑いながらも、夜子は望を睨む。
だが、その視線からは迷いも生じている。
今は怒りだけに囚われているわけではない。
「自分も妹のデュエルアソーシエイトだっただけだよ。いや、あの頃はそんな呼び名ではなかったけどね」
そう言って、未来望は少し悲しそうに笑った。
「思い出す……」
確かに望の言うことはその通りなのだ。
夜子は、知っているはずなのだ。
申渡恭子の隣に、彼女が絶対少女になった時に、夜子はその隣に確かにいたはずなのだ。
何かを忘れている。
いや、忘れさせられている。
それは事実だ。
それを思い出せれば、確かに会長などを問いただす必要もない。
「そう。希望を忘れてはいけない。希望だけが頼りだ。希望だけが……」
そう言って、望は夜子に背を向けて去っていく。
「わかったわ。少し思い出す努力をしてみますわん」
平静をやっと取り戻した夜子は普段通りの魅惑的な笑みを浮かべてそう言った。
「うん、それでいい。希望を忘れないで」
最後に望は振り向いて、笑顔を残して去っていった。
葵と月子の桜並木デートの次の日のことだ。
「はぁ、確かにあの桜並木は好きですが、流石に七周はきついですね……」
月子は脚をさすりながらそう言った。
「一周三十分以上だもんね。お疲れ様」
巧観も当たり前だと同意する。
「流石に脚が…… 今日はバイトを休みにさせてもらいました」
この脚では十二時台のラッシュアワーを乗り切れないと思った月子は事前にそれを伝えている。
食堂側もそれを二つ返事で承諾し、葵の確認をとって、葵も今日のバイトは休みになっている。
流石の葵とは言えど、一人で十二時台を乗り切るのは難しい。
「ごめんよ、月子。つい浮かれてしまって」
葵も相当へこんでいるようで、落ち込みながらそう言った。
「いえ、楽しかったことは楽しかったですよ。ただ加減をですね……」
月子も四時間以上も歩くことになるとは、思っても見なかった。
ただ話ながら桜並木を四時間以上も歩いただけなのだ。
それでも葵が楽しそうにしていたので、月子もそれに付き合ってしまっただけだ。
「月子も我慢して付き合うから」
と、巧観に言われ、月子も何とも言えない笑みを返すことしかできない。
「いえ、わたくしから誘ったことですし、ご褒美ですし……」
と、月子は笑顔でそう答えた。
「それでも言ってほしかったよ、月子」
そんな月子を覗き込むように葵はそう言った。
「わ、わかりました、これからは無理はしません」
月子も答える。
「どそうしたの、綾。無言で虚空を見つめて」
ふと巧観が横を見ると虚空を見つめる綾がいた。
「やっぱり顔なのね……」
巧観の視線に気づいた綾はそうポツリと言葉を漏らした。
「いや、月子は顔で人を判断しないだろ? どっちかと言うと押しの強さのような?」
それに対して巧観は真面目に答える。
綾も何か反応が欲しくてその言葉を言ったわけではないが。
「押しの強さ…… わたしにはどちらにせよ、無理な話ね」
そう言って、綾はそのまま頬けている。
葵と月子が仲良くなったので、現実逃避でも始めているのかもしれない。
巧観も、今は少し綾はそっとしておいた方がよさそうだと判断する。
「けど、四時間近く? 以上? それくらいだよね、二人で何を話していたの?」
葵と月子に振り返り巧観がそう聞くと、
「それは……」
と、葵が答えようしたのを月子が止める。
そして、
「秘密ですよ」
と、月子は笑顔でそう言った。
━【次回議事録予告-Proceedings.52-】━━━━━━━
未来望は丁子晶の力を借りようとする。
そして、希望を待望するする羊は竜と相対する。
その時、再び運命は蠢動し始める。
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