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甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ

【Proceedings.46】甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.04

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 前回のデュエルと同じメンバーが、もう池なんて言わなくていいんじゃないかな? 素直に湖でいいじゃない、と言うくらい大きな池の前に集まっている。
 天辰葵と申渡月子。
 相対するは、酉水ひらりと丁子晶だ。

 四人は見つめ合う、訳でもない。
 対戦する相手は違えど前回と似たようになっている。

 余裕があり、笑みを浮かべ楽しそうにしている天辰葵。
 少しムッとした表情を浮かべている申渡月子。
 今日も眠そうでやる気がまるで感じられない酉水ひらり。
 そして、ただ一人、今回はデュエルアソーシエイトにもかかわらずやる気に満ちている丁子晶だ。

「まさかお金を払ってまでリベンジしてくるとはね」
 天辰葵が丁子晶に声をかける。
「確かに、キミは強いよ」
 声をかけられた丁子晶は鋭い目つきで天辰葵を睨んでそう言った。

 それに対して、天辰葵は臆することはなく、
「もう葵ちゃんと呼んでくれないのかい?」
 と、微笑んで返した。

 それを少しの間睨み返し、
「ふん! また女装できるよになったら呼んであげますよ! 今はそんなことは良いんです! 確かにリベンジは難しいけど今のひらりなら……」
 丁子晶は言い返す。
 今の酉水ひらりなら、天辰葵も十分に倒せる、そう丁子晶は本気で考えている。
 確かに天辰葵は強い。
 だが、弱点も多いのも事実だ。

「えー、ひらりじゃ無理だよ」
 と、やるきのない酉水ひらりは、デュエル前から既に疲れたようにそう言った。

「ひらり! そんなこと言わずに! 作戦を色々教えたろ!」
 そんな酉水ひらりに丁子晶は檄を飛ばす。
「あー、葵ちゃんを誘惑する作戦でしょー、効果てきめんだったよー」
 酉水ひらりはそれをこの場で、天辰葵の前で言ってしまう。
「ひらり! それをここで言うなよ!」
 丁子晶は慌てて注意するが既に遅い。

「さ、作戦!?」
 と、それを聞いた天辰葵は茫然とした表情を見せる。
 天辰葵は騙されやすい。
 特に女子からの言葉には、それが嘘とわかっていてもあえて騙されに行くくらい騙されやすいのだ。
 そして、騙されたと知ると、普通にショックを受ける。
 これもまた葵の弱点の一つだ。
 事実、天辰葵は笑みが不自然になっている。
「あー、安心していいよ。確かに作戦だったけど、葵ちゃんを気に入っているのは嘘じゃないからー」
 酉水ひらりは手をひらひらさせながらそう言った。
「ほ、ほほぅ……」
 それで天辰葵は立ち直る。それを信じる。何度でも信じてしまう。
 それが嘘かどうかなど、天辰葵にとってはどうも良い事なのかもしれない。
「葵様! しっかりしてください!」
 落ち込み、立ち直り、浮かれている天辰葵を申渡月子が叱咤する。

「ま、まあ、良いよ。作戦は上手く行っているようだし…… ひらり! 宣誓だ!」
 その様子を見て、なんでこんな奴に負けたんだと後悔する丁子晶だった。



「あー、はいはい、ええっと、酉水ひらりは天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込むよー」
「私、天辰葵は酉水ひらりとの決闘をデュエリストとして受ける!」

 デュエルの宣誓がなされると、湖、いいや、池の底から地響きが響いてくる。

 水しぶきが上がり、池が二つに割れて行く。
 水底から円形闘技場がせり上がってくる。
 水しぶきが霧となり、辺りを白く包んでいく。

 そして、どこからともなく、いや、水底に沈んでいたはずの円形闘技場から聞こえてくる。
 神の如き旋律のハーモニーが。
 円形闘技場少女合唱団だ。
 多くの異なる声が一つになり、調和と確かなる絆、そのハーモニーが織りなす美しく折り重なった旋律。
 それぞれの声がしっかりと独自の色を持ちながらも、全体を聞くことで一つの完成された芸術品を思い起こさせるほどの歌声が聞こえてくる。
 その歌われている歌詞はともかくだ。
 そのハーモニーは、合唱は、歌声だけは、どこまでも素晴らしいのだ。

「決闘決闘決闘決闘! その時が来たー!」
「決闘決闘決闘決闘! 今こそたちあーがれー!」
「決闘決闘決闘決闘! 雌雄を決するときだー」

 だが、その完璧なまでのコーラスを歌う円形闘技場少女合唱団を見たものは誰もいない。
 逆光により黒い影となり、彼女たちを確認することは誰にもできない。
 してはいけない。

 荘厳な雰囲気の漂う重々しくも静寂でいて神々しい、そんな部屋に黒い皮張りの椅子の上に、今はこの部屋の主はいない。
 バニーガールの衣装を身に包んだ女のみが一人孤独に部屋に佇んでいる。
「クソ、逃げられたか……」
 殺意と怒りに満ちた表情で卯月夜子は、普段からは想像もできない顔でそう言い捨てた。

 絶対少女議事録の「議事」の字が様々な字へと変わり最終的に「疑似」へと変わる。
 そんな絶対少女議事録、いや、今は絶対少女疑似禄を片手に戌亥道明は解説席に座る。
「会長、疲れた顔をしてますね」
 猫屋茜は疲労がたまり目に下に隈を作っている会長にマイクテスト代わりに話しかけた。
「まあね。最近夜子君からのアプローチがどうも激しくてね」
 戌亥道明はそう言ってため息をつく。
 卯月夜子の問いに、戌亥道明は今は答えることはできない。
 その時が来たら、戌亥道明とて話すことではある。
 まだその時ではないのだ。
 ただ、その時と言うのが来るのかどうか、それは戌亥道明にもわからない。

「そんな誤解される様な事言っていいんですか?」
「間違ってはいないだろ?」
 そう言って、この場に卯月夜子が居たら首跳ねかれない発言をする。

「いや、間違ってると思いますよ?」
「そうかい。まあ、好きにすればいいさ。今日は…… ひらり君と晶のペアか。これはこれで面白いね」
 前回のデュエルを見れなかったので、今回は是が非でも見たいと、戌亥道明は思っていた。
 天辰葵が、どうあの厄介な神刀の幻影観力を攻略するのか、それは見ものだ。
「でも、前回とほとんど変わらないんですよね」
 猫屋茜はそう言って前回のデュエルを思い浮かべる。
 前回は前回で盛り上がりはしたが、猫屋茜としてはいささか物足りない。
 なにせ、一般人である猫屋茜には、デュエルで何をやっているかよくわかっておらず実況もろくできていないのだから。
「晶とひらり君が入れ替わっただけか。なら、解説も一つでいいね」
 そもそも、この解説に必要性をまるで感じていない戌亥道明はいきなりその大部分を端折りにきた。

「えぇ…… まあ、そうなんですけど」
 事実なだけに猫屋茜もそれは認めざる得ない。
「そもそも解説や実況いらないだろ?」
「い、いりますよ! 私の存在意義を奪わないでくださいよ!」
 生徒会長にそう言われて猫屋茜は必死に抵抗する。

「はいはい、では解説ね、解説。晶、丁子晶に宿る神刀だね。その名は幻影観力。自由自在に幻影の分身を創ることが出来る厄介極まりない神刀だね」
「はい、晶さんはその力を引き出すことが上手なデュエリストと言うことで、幻体と実体を自由に入れ替えることが出来ると言う凄いデュエリストでしたね」
 前回、未来望の受け売りだが猫屋茜は思い出しながら付け加える。

「まあ、それはある意味、幻影観力の奥義のような物で、ひらり君には幻体と実体の入れ替えはまず無理だろうね」
 あれは幻影観力と相性が良い丁子晶だからできていたことで、他人がおいそれとできる事ではない。
 戌亥道明の最終奥義と言える技ですら容易に無効化できる、いや、天敵と言って良い能力だ。
 それが弱いわけがないし、易々と使われるのは厄介極まりない話だ。

「え? そうなんですか?」
「まあ、無理だろうよ。それでも自在に幻体を出せるのは強いことには変わりないよ」
 幻体をつくりだし、実体と共に斬りかかるだけでも、一対一のデュエルではかなりの有利となるのは間違いがない。
 ただそんな単純な使い方はしないだろう。
 特にデュエルアソーシエイトに丁子晶がいるならばだ。
「そうですよね」
 と、猫屋茜もその解説で納得する。
 猫屋茜としては分身が出せるなら、それだけで強い、そんな認識ではあるが。
「後の解説はもう省くよ? いいだろ?」
 戌亥道明はこれ以上の解説はデュエルに水を差すだけだと早々に切り上げる。
「ええー、まあ、仕方がないと言えばそうですけど……」
 猫屋茜は不満そうではあるが、戌亥道明が言うことももっともだ。
 なぜなら、猫屋茜と戌亥道明が話している間に、四人は円形闘技場のステージに上がっているのだから。
「それにほら、神刀召喚の儀がもう始まるよ」



 酉水ひらりがやる気がなさそうに前に出る。
 丁子晶がそれに続く。
 酉水ひらりは丁子晶を見て、せっかく顔が良いのに性格があんまり好きではない、と思いつつ、その肩に両手を乗せる。
 そして、酉水ひらり自ら顔を近づける。
 丁子晶はそれをまっこうから口で受けようとするが、酉水ひらりはそれをかわし頬に軽くキスをする。
 丁子晶の頬が輝きだし、刀の柄が現れる。
 酉水ひらりはそれを無造作に、乱雑に引き抜く。
 乱雑に引き抜かれた丁子晶は痛そうな表情を見せるが、酉水ひらりは気にしない。

 それは美しい透明の、磨かれた硝子のような刀身を持つ神刀だった。
 酉水ひらりはそれを天に掲げる。

「影を魅惑し幻に生を! 幻影観力!」



 天辰葵は申渡月子に恭しく跪く。
 今日は申渡月子の機嫌が悪いらしく、少しばかり拗ねた表情を見せ見下す。
 天辰葵にとってはそれもご褒美だ。
 天辰葵は喜びに打ち震えながらも優雅で可憐に、申渡月子の靴と靴下を丁寧に脱がせ、その白く美しい足を露わにさせる。
 そして、天辰葵はそれを心底美しいように眺めた後、熱く深く爪先にキスをする。
 申渡月子の爪先が輝きだし、刀の柄が現れる。
 それを天辰葵はゆっくりと丁寧に、優しく抜き放ち、天に掲げその名を告げる。

「月の下では何事も仔細なし! 月下万象!」




━【次回議事録予告-Proceedings.47-】━━━━━━━


 無敵要塞と化した酉水ひらり。
 手も足も出せない天辰葵はそれでも微笑みを絶やさない。


━次回、甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.05━━
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