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甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ

【Proceedings.45】甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.03

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「つまりデュエル開催という事ですね!」
 不意に背後から現れた猫屋茜は嬉しそうにそう言った。
 それに対して巧観は驚きを隠せないでいる。
「また不意に人が急に湧いて出た…… 綾はともかく茜まで、どうなってるんだよ!」

 だが、そんなことは茜にとってどうでもいいことだ。
 いつデュエルを開催するのか、そちらのほうが大事だからだ。
「話をまとめると、今度は葵さんとひらりさんですね! いつです!? いつやりますか!? なるべくは明日以降でお願いしたいです! 準備とかあるでの!」
 前回も不意打ちのような急なデュエルだった。
 その為、事前の準備もできず、直前で校内放送をしてどうにか人を集めたのだ。
 まあ、デュエル開催時にはすごい地鳴りがするので、それでも観客の生徒はなんだかんだで集まってくるのだが。
「じゃあ、明日以降でいいよー、ひらりは割と暇だし」
「私も。茜の準備が整い次第でいいよ。ああ、でも、バイトの時間はずらしてくれると助かるかな」
 とはいえ、ここのバイトはかなり融通を聞かせてくれる。
 バイトを急に休んでもセルサービスに移行するだけと言うのもあるが、生徒の事情を、特にデュエルともなれば、そちらを優先してくれる。

「ありがとうございます! では、明日のお昼過ぎ、二時あたりでどうですか?」
 茜は葵のバイトのことを考え、食堂を混む時間をさけ、更に休憩する時間も考慮して昼の二時という時間を指定する。
「あーい」
「わかった。それでいいよ」
 ひらりも葵も、それで了承をする。

「依頼人が晶さんと言うことは、ひらりさんのデュエルアソーシエイトも晶さんですか?」
 宣伝のためにそれだけは確認しておかないといけない、と、茜は聞く。
「うんー」
「なるほど! 私は準備がありますので、これにて!」
 と、これは忙しくなる、とばかりに猫屋茜はどこかへ走っていった。

「茜ちゃん、お金も貰えないのに毎回がんばるねー」
 そんな茜を見てひらりは疑問に思う。
 よくも毎回給料も出るわけではないのに、あれほど熱心になれるものだと。
「茜の他に放送部、いや、放送団か、って、居ないの?」
 と、葵が巧観に聞く。
 葵は茜しか放送団の団員を見たことがない。

「昔はいたみたいだけど、今は茜一人だね。学園の秘密を追って、いや、追いすぎて? 退団させられたって聞いたな。詳しくは知らないけど。まあ、元から茜はデュエル担当だったんだけど」
 巧観はそう言って、更に昔からあんなんだよ、とも付け加える。
「へー、じゃあ、趣味みたいなものなのかな」
「じゃないかな」
「好きでやっているならいいね」
 葵は笑顔でそう言った。

 そんな葵に対し、急にひらりはじっと葵の顔を見て唐突に、いや、何かを思い出したかのように、
「ねえ、葵ちゃん。葵ちゃんの弱点ってなにー?」
 と、聞き始めた。
「フフッ、それはね」
 葵はそう言ってひらりに顔を近づける。
「それはー?」
 と、ひらりも聞き返し、葵に顔を近づける。
 そして、ひらりは間近で見てなお美しい葵の顔に驚く。
「麗しい女性の脚さ。そして、下半身だよ」
 と、したり顔で葵は言った。
「まあ、確かにそうですが……」
 それに困った表情の月子も不本意ながら同意する。

 だが、ひらりは知っている。
「それは弱点じゃなくて好物じゃない?」
 と、いうこと当たり前のことを。
「そうともいうね」
「じゃあ、ひらりが脚だしたら、デュエルで手を抜いてくれる?」
 そう言ってひらりはわざと足が見えるように脚を組む。
 色素が薄いその白く美しく柔らかそうな脚を。
 先ほど葵の膝を触っていたその脚を見せつけるように足を組む。

 それは葵の視線を釘付けするには十分な仕草だ。
「フフッ、約束しよう」
 と、葵は笑顔で簡単に、そして、軽率に約束をする。
「葵様…… 何良い笑顔で約束しているんですか」
 月子がそう突っ込むが、葵は涼しい笑顔でそれを聞き流す。

 それを見ていた巧観が月子に耳打ちする。
「ねえ、月子。これ本格的にヤバくない? きっとひらりの背後に晶さんついてるよ」
「なるほど。そういう事ですか……」
 たしかに普段無気力のひらりが、葵に対しかなり積極的だ。
 しかも、葵の弱点を的確についてきている。
 おそらく丁子晶の指示通りにひらりは動いているのだろう。

「安心してよ、月子。月子がご褒美くれるなら私は負けないから!」
 月子と巧観がヒソヒソ話で話していたにも関わらず葵はそれを聞き取り会話に入ってくる。
「ご、ご褒美ってなんですか!」
 少し驚きながら月子が反応する。
 月子自身驚いているのだが、葵の言葉に不思議と怒りは感じていない自分がいることに。

 だが、
「ひらりもご褒美あげちゃうよ? それも過激なのを。尻枕が好きなんだっけ? 良いよ。ひらりのお尻使うー?」
 と、急に、月子に対抗するかのように、ひらりがそんなことを言い出した。
「はへっ!!」
 その言葉に葵の顔が崩れる。
 いついかなる時も優雅な天辰葵の顔がいとも簡単に崩れ落ちる。

「ああ、ダメだ。葵の顔が鼻が伸びすぎて崩れていく」
 崩れた葵の顔を見て、巧観は首を横に振った。
「……」
 逆に月子は少し悩むような表情を見せて無言になる。
「月子様? そんな悩ましい顔をなされて…… でも、レア顔だわね。しっかりと観察しておかないと……」
 それに対して綾が月子を凝視しながらそう言って、舌なめずりを始めた。

「ご、ご褒美ですか……」
 そして、月子の口からそんな言葉がもう一度滑り出る。
 たしかに今までにないピンチに月子も思える。
 なにせ葵なのだ。
 葵は自分に甘いように好きな者に対してとことん甘い。
 それこそ、デュエルの勝ちすら簡単に捧げてくれるのだ。
 その対象が自分以外の別の誰かであっても不思議ではない、その事を月子も理解できている。
 

「月子も本気で悩まないでよ!」
 と、巧観に言われてはするが、このままでは戦う前から負けているようなものだ。
「で、でもこのままだと葵様が……」
 だが、月子の口から続く言葉は出てこない。
 いや、出せない。

 葵様が取られてしまう。

 その言葉を出してはいけない。
 葵の気持ちに応えれない月子が出して良い言葉ではない。

 そんな月子を見た巧観が冗談のつもりで、
「あれ? 月子。もしかしてだけど、本当にひらりに焼いてるの?」
 と、言われると月子自身が驚いた表情を見せる。

「!? 月子! 焼いてくれているの!」
 更に葵が反射的にそう言って嬉しそうに月子の顔を覗き込む。
 途端に月子は自分の顔が赤くなっていくのを自覚する。
「ち、違います!!」
 慌てて否定するが、顔を赤く染めていては説得力がない。

「つ、月子様…… やっぱり顔なのね……」
 絶望した表情で綾がそんなことを言う。
「だ、だから違います!!」
 と、更に強く月子は否定する。
 けれども、ここぞとばかりにその言葉にひらりが反応する。

「なら、葵ちゃんのコト。ひらりが貰ってもいいよねー?」
 そう言って、ひらりは月子を優越感のある顔で見る。
「なっ、そ、それは…… あ、葵様のじ、自由なので……」
「月子。月子が嫌なら私は月子だけを見るよ」
 月子が困っていると感じた葵は即座に月子に微笑みかけそう言うのだが。

「あっ、夜子ちゃんだー」
 と、ひらりが声を上げたとたん、
「え! バァニィガァル!? どこ? どこだい!?」
 と、葵がきょろきょろしだした。

「あはははー、嘘だよー、葵ちゃん、浮気者ー」
 そう言ってひらりはお腹を抱えて笑い出した。
 葵はハッ、となって月子のほうをゆっくり見るが、月子は葵と目を合わせない。
「まずいよ、これ本格的に!」
 と、巧観が何度目かの心配しだすのだが、当の月子は、
「もう、知りません……」
 と、そっぽをむくだけだ。

 それでも明日、デュエルは開催される。




━【次回議事録予告-Proceedings.46-】━━━━━━━


 申渡月子は迷い始め、酉水ひらりと天辰葵のデュエルが始まる。
 また一つの運命が絡み合い蠢動し始める。

━次回、甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.04━━
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