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甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ

【Proceedings.44】甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.02

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 また別の日のことだ。
 バイトの休憩時間、天辰葵が茄子とひき肉のボロネーゼを食べていると、食堂に酉水ひらりがやって来て葵の前に座り、色々と話し出した。
 結論から言うと、酉水ひらりは丁子晶の依頼で天辰葵とデュエルするつもりとのことだ。

「とー、言うわけでー、葵ちゃんさー、ひらりとデュエルしてくれないー?」
 やる気がなく眠たそうな色素の薄い女、酉水ひらりは丁子晶から依頼を受け天辰葵とデュエルをする旨を素直に本人に伝えた。
 それに対して初めに反応したのは天辰葵ではなく、戌亥巧観だった。
 生徒会執行団の猟犬ではなく、最近は天辰葵の飼い犬などと呼ばれつつある巧観だ。
「ひらりってデュエルアソーシエイトだけでなく、お金で雇われてデュエルまでするようになったの?」
 そんな傭兵まがいのことまでするとは巧観も思っていなかったから少なからず驚いている。

「んー、そういうわけじゃないよ。負けたときの命令はひらりも怖いしー、でも、葵ちゃんなら酷い命令はしないでしょう?」
 そう言ってひらりは葵を上目遣いで見た。
「……」
 そんなひらりを見て、天辰葵は真剣な表情をして無言で考え込む。
「どうしたんですか? 葵様、そんな考えこんで」
 いつもの葵なら喜んで受けそうな気がしていた月子だが、葵が考え込んでいるのでそう聞くと、
「いや、勝った時になにをしてもらおうかと思って…… 夢が広がるね!」
 そう言って輝かしい笑顔をした。

「ああ、そうですか……」
 月子はいつもの葵で少し安心したと共に落胆もする。
 いや、葵に何かを期待するだけ無駄なことは月子にも分かっている。
 それでも今まで自分のためになんだかんだ戦ってくれて来た葵に、月子はどうしても期待してしまうのだ。
 なにかを。

 ひらりは葵の言葉を聞いて、行儀悪く、その色白の膝を葵に見せるように椅子の上に立てて、
「えー、ひらりの足舐めるのー?」
 と、少し挑発するようにそう言った。
 無論、
「舐める!」
 と、パブロフの犬のように葵は条件反射で即答する。
 そんな葵を見たひらりはニヤリと笑みをこぼし、
「うわー、変態さんだ」
 と、葵をあざ笑うかのそう言った。
 そのひらりの表情は葵にはどストライクだったらしく物凄いうれしそうな顔を浮かべている。

「ああ、うん…… 本当にこの方は……」
 そんな葵を白い目で月子は見る。
 自分とは関係ない、そう思っていても落胆してしまう気持ちがなぜか月子にはある。
「色素の薄い肌、そして、柔らかそうなもちもちの肌…… いいね、ひらり。キミ、いいよ!」
 と、葵はそう言って独り盛り上がる。

「ほんとー? 月子ちゃんどっちが良い?」
「それは月子!」
 そこは即答する葵だ。
 そうしたことで月子の眉が、何かに反応するようにピクっと少しだけ動く。
「あー、即答なんだー、ちょっとショック。ひらりなら色々舐めていいよ?」
 そう言って椅子に片足だけを膝を立てて座っているひらりが、その膝に自分の顔を乗っけて見せる。

「舐めていいの?」
 そう聞き返したのは葵ではなく、どこからともなく湧いて出た巳之口綾だった。
「うわ、綾ちゃんが湧いてでた……」
 本当に急に湧く様に机の下から現れたので、ひらりも含め葵以外の全員が驚く。

「ふふ、それは魅力的だけどね。たしかに私は舐めたくもあるが、私自身が求められたいんだよ」
 葵は少し遠い目をして見せて、それでいて月子を見るようにそう言った。
 月子はそっと目線をずらす。
「うわー、レベル高い変態さんだねー」
 流石にひらりも顔を歪める。

「で、舐めていいわけなの?」
 と、興味津々に綾がもう一度ひらりに聞く。
「綾ちゃんはお金とるよ?」
 と、ひらりが眠たそうな目で言うと、
「そうなってくると、なんだか法になんだか触れそうね……」
 と、綾は真面目な表情でそう言った。
 そして、お金さえ払えば舐め放題なのかとも綾は考える。
 ただ、ひらりは綾の発言に驚いた表情を見せる。
「綾ちゃんってー、法とか気にする人なんだねー」

「で、葵様。受けるんですか? このデュエルを」
 話が別の方向へとどんどん流れていくので、月子が話の軌道修正をする。
 月子にそう聞かれた葵は月子に優しい笑顔を向ける。
「月子のお姉さんを探すためにもね。今、半分を越えたところだし」

「もう半分以上、六人も倒したのか…… 葵、やっぱりすごいんだな。なんだかんだで負けなしだし」
 巧観が感心するように言った。
 たしかに葵は既に六人のデュエリストを倒している。
 転入生であり今までデュエルなど知らないはずの人間なのに、どうしてここまで勝ち進められたのか巧観には不思議でしょうがない。
「たしかに。こんな順調に勝てるだなんて」
 それを思うと月子も素直に天辰葵という存在を認めざる得ない。
 葵に何か期待してしまうのも仕方がない事なのかもしれない。

「おおー、凄いねー。まあ、ひらりにも勝てるんじゃない?」
 デュエルを申し込んできた本人もそんなことを言っている。
 ひらりとしても晶から金を払われ従っただけで、葵に恨みがあるわけでも、またどうしても勝ちたいわけでもない。

「相変わらずやる気ないんだな、ひらりは」
 と、巧観が呆れたように言った。
「んー、絶対少女になっても不労所得くらいしか願う事ないしなー」
 もしくは大金を貰うか、ひらりにとって願いとはそれくらいの物だ。

 そうなってくると巧観にはわからないことがある。
「じゃあ、なんでひらりはデュエルを?」
 巧観がデュエリストでいる理由は半分以上、兄の為だ。
 まあ、自ら望んでデュエリストになれるものでもないのだが。
「たまーに、したくなるんだよねー、不思議と。しなくちゃいけないって気分になるー、今回はそれに晶が乗っかってきた感じかなー」
 と、ひらり自身が不思議そうにデュエルをする理由を話す。
「確かに。たまにそんな気持ちにボクもなるかも。デュエリストの本能なのか?」
 と、巧観にも同じような感覚があることを思い出す。
「わたくしは…… そんなことはないですが」
 と、月子は不思議そうな顔を見せる。
「月子様はまだデュエリストになって間もないから」
 綾が少し心配するように言った。
 その事から、綾もそう言った気分になるときがあるのだろう。
「私もないな。綾もあるの?」
 葵も月子と同じくないと言うが、葵の場合はデュエルをさんざんやっているのでそう言ったことはないのだろう。
 また月子と同じくデュエリストになりたてたので、影響力がまだ強くないのかもしれない。

「せ、精神修業でどうとでもなるわ…… それにわたしにはデュエルを申し込む方が気が進まないわ…… どうにも恥ずかしくて」
 綾はそう言って恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「綾らしい理由だけど、精神修業でどうにかなるものなのか」
 巧観は難しい顔をする。
 精神修行というのがピンと来てないのかもしれない。
「ひらりには修行とかむーりー」
 ひらりに至ってはすべてを諦めて受け入れるようだ。

「と、和気あいあいとしてますが、ひらり様、敵ですよね?」
 また話が脱線してきたので月子が話を戻そうとする前に、月子はふと思ったことを口にする。
「敵って、たかがデュエルで敵は酷いよー」
 
「す、すいません……」
 月子も自分で言っていて少しひやりとする。
 所詮はただのデュエルなのだと。
 そう思い込みそうになって、月子は改めて思いなおす。
 勝利者が敗者に絶対的な命令を強制できる時点で、ただのデュエルと言っていいものではない。
 やはりデュエルには、何か良からぬものが渦巻いている気がして、それがなにかまでは理解はできないが、あまり良い物には月子には思えない。

「それにひらりはー、葵ちゃんには興味あるんだよねー」
 ただ、月子の思考は、ひらりのその言葉で遮られる。
「興味?」
 と、葵も興味ありそうに笑顔をひらりへとむける。
 その事が月子はなんだかおもしろくない。
「ひらり、やっぱり外見がいい人、好きなのよねー」
 不機嫌そうな月子を見て、ひらりはくすりと笑う。

「やっぱりひらりちゃん…… 外見重視なのね」
 綾が絶望した表情で消ええるようにそう言った。
「そだよー」
 そして、とどめを刺す様にひらりがそれを認める。

「中身は残念ですけどね」
 と、月子が一言付け加える。
「そこなんだよねー、でもねー、綾ちゃんに舐められるのは気持ち悪いけど、葵ちゃんになら、ちょっと舐められてみたいと言うか、足にキスされてみたいというかー」
 ひらりは眠たそうな目で、葵を見ながらそう言った。
 たしかにひらりは丁子晶に言われれ、天辰葵をできるだけ誘惑するようにとは言われている。
 だが、酉水ひらり自身、顔が良い人間は男であれ女であれ、好きというのは本当なのだ。
 そして、素晴らしく顔が良い葵が、自分に跪いて足にキスをしてくれるところを想像すると、ひらりとしてもぞくぞくと来るものがあるのだ。
 ある意味、お似合いの二人なのかもしれない。

「まあ、確かに葵の奴、足舐めるときでさえ優雅だからな」
 と、巧観が恍惚した表情で思い出したようにつぶやいた。
「あー、やっぱりそうなんだ。ひらり本格的に興味向いて来たかもー」
 それを聞いたひらりの期待が高まる。
 足を舐める時ですら優雅だという葵は、いついかなる時も顔が良い人間が好きなひらりの理想の相手ということにもなる。

「ほほう、詳しく聞こう」
 そう言って葵自身もひらりに顔を向ける。
 葵も乗る気のようだ。
「あの…… 葵様。これから戦う方ですよ。戦えるんですか?」
 そんな葵に対して月子は心配そうに声をかける。

 声をかけられた葵はハッとした表情を見せ、
「それは難しいかもしれない…… だから、勝った時に月子が何かご褒美を!!」
 と、笑顔で月子に振り返った。

 節操がない葵に若干の不安といら立ちを覚えつつも、
「え…… ご褒美…… ですか。た、確かに葵様ばかりにデュエルをさせて、わたくしはなにもしてないですからね……」
 と、まじめで誇り高い月子が真剣に悩み始める。
 月子が珍しくご褒美をくれそうな様子なので、葵はここだとばかりに攻める。
「ぜひバァニィガァルの衣装を……」
「それは着ません」
 しかし、月子はそれを即座に否定する。

「ひらりは着ても良いよー、胸の合間にお札とか入れてくれるんでしょうー」
 ひらりは月子が否定したことでほくそ笑み、月子をからかうようにそう言った。
「!?」
 葵が驚いた表情でひらりを凝視する。
「ひらり様、何でわたくしを見ながら言うのですか?」
 さらに月子が険しい表情を見せてそう言った。

 ひらりは少しだけ、月子から視線をずらす。
 月子も相当な美人なだけに睨まれると怖いものがある。
「えー、だって一番のライバルじゃん」
「ライバル? わたくしがですか? なんの?」
 と、月子はまるで見当がつかないようにそう言った。
 葵がライバルというのならばわかる話だ。
 これからデュエルで戦うのだから。だが、ひらりは月子をライバルと言ったのだ。

 それに対し、ひらりはまるで自覚がない月子をあざ笑うかのように、
「葵ちゃんを落とす上でのだよー」
 と、ひらりはニヤつきながら言った。

「なっ!」
 月子が驚きで声を上げる。
 そして、言われて初めて自覚する。
 たしかに、葵の恋敵と言えば、自分であると。
 それを自覚して、月子は顔を赤らめる。
 今まで考えもしてこなかったことだ。

「ひらりさー、葵ちゃんほどの顔の良さなら、ひらりの方からもいける気がするんだよねー」
 顔を赤くし俯いてしまった月子から、ひらりは視線を移し、今度は葵の顔を、その素晴らしく良い顔を覗き込む。
「なっ、そ、それは本当!?」
 と、葵は本当に嬉しそうな表情を見せる。
 葵のその表情が月子には面白くない。

「月子、これやばいよ! 今までで一番のピンチかもしれないよ!」
 巧観が月子にそんなことを言ってくる。
 たしかに、これはピンチだ。
 まさか対戦相手に葵自身が篭絡されようとしているのだから。

「え? い、いえ、わ、わたくしがどうこう言う資格は…… ないので……」
 月子はそんなことを言うが、眼が完全に泳いでいるし、若干しどろもどろだ。
「葵、月子様を裏切る気なの? 許さないわ」
 と、そんな月子を見て、綾は葵を睨むが、
「そう言う綾だって舐めたいって言ってたじゃないか!」
 と、葵にそう言われ、何も言い返せなくなる。
 なにせ酉水ひらりの頬は桃のように滑らかで瑞々しいのだ。
 綾としてもついペロッとしたくなるのだ。
 それはペロリストとして仕方のない性なのだ。

 それらの様子を見て、ひらりは晶の策が上手くいっていると確信する。
「あっ、そうそう晶からのお願いで、ひらりが勝ったら晶の女装を認めてだってさ」
 葵に勝ったときの願いを先に伝えておく。
 これが晶がひらりにバイト代をすべて渡してでも、叶えたいことだったようだ。

「むっ…… それは嫌だな」
 と、葵は思う。
 葵はあくまで女が好きなのだ。
 見た目が女子な男が好きなわけではない。
「じゃあー、ひらりに勝ったときは、ひらりに何してほしいの……?」
 そう言ってひらりは膝を立てている方とは別の足の靴を脱いでから、テーブルの下で脚を伸ばして葵の膝に足の裏で触れる。
「か、考える時間をください!」
 膝を触れられた葵は身を震わせながら、そう言うしかなかった。
 その葵の様子を見てひらりはやはりほくそ笑みながら、葵からそっと足を離す。




━【次回議事録予告-Proceedings.45-】━━━━━━━


 丁子晶のデータにより、天辰葵の弱点を突きまくる酉水ひらり。
 デュエル開始前から天辰葵最大のピンチに申渡月子はどう出るのか?


━次回、甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.03━━
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