絶対少女議事録 ~蟹座の私には、フェチニズムな運命を感じられずにはいられない~

只野誠

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嫉妬に燃える竜と跳ね飛ぶ逆立ち兎

【Proceedings.33】嫉妬に燃える竜と跳ね飛ぶ逆立ち兎.05

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 天辰葵は手に持った蛇腹剣、蛇頭蛇腹を持て余し立ち尽くす。
 流石に天辰葵もこの剣でどう戦って良いのか判断が付かない。
 しかも、その剣から滴る唾液は、女性の衣服のみを溶かすのだと言う。
 それを下手に振り回すこと自体、自分の制服を溶かす行為でもある。
 これでは容易に攻撃するどころか、試しに振り回すこともできない。

「ちょっと、これは予想にしてなかったけれど、めっちゃ有利じゃないん?」
 卯月夜子はそう言った。
 何も考えずにそう言った。

 卯月夜子。
 その魅惑的な笑みを浮かべるバニーガール姿がよく似合った大人びた雰囲気を持つ少女は誰もが一目を置いている。
 元申渡恭子のデュエルアソーシエイトであり、また彼女自身デュエリストとして、申渡恭子と共にデュエルを荒らしまくった女だ。
 それだけではなく裏で暗躍し、密談を交わし、デュエルを有利に動かす策士としても周りから評価されている。

 そう、周りからは評価されている女だ。
 それは生徒会長である戌亥道明の評価ですらそうだ。

 けれども、申渡恭子の評価は違う。
 もしこの場に申渡恭子が居れば、こう言っただろう。

 夜子はただの脳筋ちゃんよ、と。

 密談が好きなわけではない。
 ただおしゃべりが好きなだけで暗躍しているわけではない。
 いつも笑顔を讃えているのも何も考えてないだけだ。
 ただそれだけの、物事をすべて力尽くですべてを解決するタイプの人間だ。

 魅惑的な笑みを浮かべているだけで、その実何も考えてない。
 今回も、天辰葵が申渡月子のことを好きそうだから、申渡月子を自分のデュエルアソーシエイトにすれば一方的に攻撃できないんじゃないかしらん? 程度の考えで天辰葵に戦いを挑んだのだ。
 神速の対策など何もありはしない。何も考えていない。
 そもそも対策など考えない。問題ごとは力で解決するタイプの人間だからだ。
 ただ単に元々月下万象は自分の愛刀だったのに、というその思いからの行動だ。
 もちろん、申渡恭子を探し出したいとも考えている。
 だが、それ以上のことは何一つ考えていない。
 彼女自身が言った、三つの理由以外、本当になにも考えていないのだ。
 彼女の言葉はすべて裏表のない真実なのだ。

 卯月夜子。
 彼女は何も考えてはいない。
 そもそも、学園で堂々とバニーガール姿をしている時点で気づいて欲しい。
 なにか少しでも考えているのであれば、学園内でそんな恰好はしていないと言うことに。

 だからこそ、底なしの考えなしだからこそ、心底能天気な申渡恭子の親友であったのだと。

 そのことを周りの人間は知らない。
 すべて、彼女の魅惑的な笑みが包み隠してしまうから。
 何か企んでいると、勝手に思ってしまうから。
 そういうが表情をしているだけで、何一つ考えていないことを知る者は今は誰もいない。

「いざ、尋常に!」
 と、卯月夜子が声をかける。
 それに天辰葵は慌てて、
「しょ、勝負ぅ!?」
 と答えてしまう。

 そして、デュエルが始まる。

 卯月夜子は感じていた。
 月下万象の力がひどく増していることに。
 自分が使っていた時とは比べ物にならないほど、その力が増していることに。
 この刀を使っていれば、天辰葵も連戦連勝になるはずだと実感するほどに。
 それを卯月夜子は異変と捉えず、何も考えずに、絶好調と、刀の絶好調ととらえ、自身も元気に跳ねる。

「悪いけど、すぐに決着つけるわよん!」
 卯月夜子はそう言ってハイヒールで、カツカツカツと足音を響かせて駆ける。
 走りにくいはずのハイヒールで円形闘技場を脱兎の如く駆ける。

「あっ、綾! この武器はどうやって使うんだ!」
 天辰葵は慌てて、巳之口綾にこの武器の扱い方を聞く。
「さ、さあ? わ、私もこんなものが自分の体の中に宿っているとは思いもよらなかったわ……」
 自分の身体から出て来た神刀を奇妙なものでも見るような目で巳之口綾はそう言った。
 それと蛇頭蛇腹を見て、なんとも扱いにくそうな武器ね、と、巳之口綾自身が心底思う。
 天辰葵も、これは本格的にダメかもしれないとそう感じざるを得ない。
「くっ、な、なんとかなれ!」
 そう言って涎滴る蛇頭蛇腹を天辰葵は卯月夜子に向けて振るう。
 振るわれた蛇頭蛇腹は周囲に涎を飛ばしながらではあるが、思いのほか狙い通りまっすぐに卯月夜子に襲いかかる。

 それを卯月夜子は跳躍してかわす。
 涎のことは卯月夜子にももちろん聞こえていたので、余裕を持って大きくかわす。
 お気に入りのバニースーツを溶かされでもしたら厄介だ。
 ショックで寝込んでしまうかもしれない。

 卯月夜子と天辰葵、両名が考えていたより、蛇頭蛇腹はまっすぐ速く飛び、その間合いは広い。
 だが、それだけに一度避けてしまえば、後は隙だらけになる。

 卯月夜子は床をハイヒールで強く床を蹴り、脱兎の如く一瞬で天辰葵に肉薄する。
 そして、天辰葵の直前で更に跳躍し、空中で体を反転し更に回転を加え回転力を加えた一撃を天辰葵の首めがけて放つ。

「跳躍飛翔跳び! 回転首ちょんぱ打首獄門斬!」
 ちょっと馬鹿っぽい技名を空中で回転しながら叫んで、卯月夜子は天辰葵の首を狙って月下万象を振るう。
 自ら回転することで威力を高めた一撃ではあるが、わざわざ相手の目の前で跳んで空中で回転することでせっかくの速攻性は薄れる。
 その上で相手の首を狙っている。
 もし、卯月夜子が蛇頭蛇腹、その刃と刃を結ぶワイヤーを最初に狙っていたら、また話は違っていたのかもしれない。
 だが、卯月夜子が狙ったのは天辰葵の首なのだ。
 これがデュエルと分かりつつも卯月夜子はそうやって、立ちふさがる物を力尽くでねじ伏せて来た脳筋なのだ、これが卯月夜子の本質なのだ

 天辰葵はそれを無理やり神速を使い距離を取ってかわす。

 その結果どうなったのか。

 制御を失った蛇頭蛇腹は暴走し、その涎を周囲にぶちまけながら不規則にのたうち回った。
 それを見た申渡月子は無言で一早く円形闘技場の入口まで逃げだし、バニーガールの衣装を溶かされたくない卯月夜子が慌てて跳躍して距離を取る。
 天辰葵は飛散した涎を、華麗な身のこなしで見切り見事にすべて避けきる。

 ぼぉーと何も考えずに立っていた巳之口綾だけが、まともにその涎の飛沫を浴びる。
 そして、シュゥ~と言う音と共に綾の制服を穴あきにする。

「こ、これは…… なんていう威力でしょうか、小さな飛沫程度でも制服を溶かすには十分な威力のようです」
 猫屋茜が、穴あきになっていく巳之口綾見て恐れ慄きつつも、それを実況する。
「はぁ、今回はまともなデュエルを見れると思ったんだがね。まあ、好きにすればいいさ」
 と、戌亥道明は深いため息と共に、半ばあきらめてそう言った。

「ヒィィィィ! せ、制服に穴が!! ちょ、ちょっと! こっちに飛ばさないでよ!」
 被害を被った巳之口綾が空いた穴を手で隠しながら天辰葵に文句を言う。
「そ、そんなこと言ったって! これはそう簡単に制御何てできないよ!」

「や、やるわね、葵ちゃん…… まさかこんな手で来るなんて思いもしなかったわん」
 周囲に飛び散った涎の多さに卯月夜子も慄きながらそう言った。

「一歩間違えばいろんな意味で大惨事だな。大丈夫なのかこのデュエルは」
 戌亥道明が何かに配慮しながらそう言った。
「さ、さあ…… あれも神刀なんですよね? 会長!?」
 猫屋茜が心配そうにそう聞くが、
「ボクに聞かないでくれ。ボクにだって知らないことはあるさ。けど、早々に決着がついてくれることを願うばかりだよ」
 生徒会長、戌亥道明とてそう言うしかなかった。
 このデュエルは学園の催し物としては余りにも相応しくない。




━【次回議事録予告-Proceedings.34-】━━━━━━━


 まともなデュエルはあるのか、ないのか。
 それはキミの眼で確かめてくれ。


━次回、嫉妬に燃える竜と跳ね飛ぶ逆立ち兎.06━━━
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▼【作品集】

▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。


それなりに怖い話。
さっくり読める。


絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。



▽【完結済み】

一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。


四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。


竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。


幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
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