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うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇
【Proceedings.28】うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇.07
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「生徒会長! 刀の説明お願いいたします!」
前回が前回だったので猫屋茜は期待を込めて生徒会長の戌亥道明に事前に話を通しておいたのだ。
生徒会長ならばまともな解説役になってくれると。
「それ毎回やる必要ある? まあ、いいさ。有名百銭は財布の中身が多ければ多いほど強化される刀だよ。その強化に上限はないと言われているね。お金を持っているならば、本当に恐ろしい刀さ」
財布に入っている現物のお金という制限はあるが、その強化に上限はなく、金額次第ではすべての神刀の祖である天道白日にも迫る力まで強化される本当に恐ろしい刀だ。
ただ今回は巳之口綾がそこまでお金を持っているとも思えない。
「けど、デュエルで一番見る刀ですよね!」
猫屋茜からすれば、お金さえ払えば誰のデュエルアソーシエイトになる酉水ひらりの体から顕現する刀だ。
最もデュエルで見る刀の一つであることは確かだ。
「まあ、そうだね。デュエルアソーシエイトに困ったときはひらり君を頼ればいい、デュエリストの間でもそう言う認識だからね。お金を払えば誰のデュエルアソーシエイトにでもなってくれるのは都合が良いからね」
ある意味円滑にデュエルが回ってくれる要因の一つでもある。
酉水ひらりはデュエリストの間でも重宝されている人材だ。
「ですよね。では、月下万象の方は?」
猫屋茜のその質問に、戌亥道明はからかうように微笑みを浮かべる。
「月というものはね、太陽の光を浴びて初めて輝くんだよ」
猫屋茜の想像していた解説とは違う言葉に、しばしあっけに取られる。
「え? いきなりどうしたんですか? 確か完全無欠の力でしたよね?」
月下万象の能力は完全無欠の能力のはずだ。
なのに、生徒会長はわけのからないことを言っている。
だが、刀の解説はここまでと、戌亥道明は話を続ける。
「さあ、解説はここまでだ。せっかくのデュエルだ。見逃してはいけない。なにせ綾君は……」
「綾君は?」
戌亥道明が意味深に言葉を濁すので、猫屋茜も気になって仕方がない。
「まあ、見てなよ。古武術が一つ、活蛇流の本物の剣術というものを」
戌亥道明は知っている。
巳之口綾が人を斬るための古武術剣法の道場の跡取り娘であることを。
「活蛇流……」
その言葉に猫屋茜がゴクリと生唾を飲み込む。
「いくわよ、巨悪! 天辰葵!」
普段から想像できない凛とした声を響かせて、皆の力を背負い巳之口綾はこの場に立つ。
本当はこんな目立つ場所に立ちたくはないのだが、猫屋茜が集めてくれた金額のと想いの力で巳之口綾はその場に立っていられるのだ。
「いいよ。いつでも来なよ、綾」
そう言って天辰葵は刀を構えた。
巳之口綾から殺気にも似た気配を天辰葵も感じ取ったのだ。
今までの相手とは違う、明確な殺意。
それを乗せた剣法の使い手であると天辰葵にはわかる。
なので、天辰葵も最初から刀を構える。侮れる相手ではない。
「軽々しく、わたしの名を呼ばないで欲しいわ」
そう言って綾は片手突きの構えをする。
だが、腰は落とさず逆に背を伸ばす、高い位置から低い位置を狙うような、とても奇妙な構えだ。
まるで鎌首をもたげる蛇のような、そんな構えだ。
そんな奇妙な構えなのに、天辰葵の神速をもってしても踏み込めないほど隙が無い。
下手に踏むこめば神速でも痛い目を見ると天辰葵の直感がそう告げている。
「片手突き? 巧観で見すぎたな」
そう言って相手を挑発しつつ天辰葵は笑いつつ様子を伺い、警戒を怠らない。
逆に気を抜けば射殺される。
そんな気配を今の巳之口綾からは天辰葵も感じずにはいられない。
「活蛇流、蛇活走々!」
それは異様な突きだった。
剣を縦に突き立て、天辰葵の足を、足の甲を狙う様な高所から突き下ろす突きだった。
木の枝から獲物に飛び掛かる一匹の毒蛇の如き一撃の突き。
無論、天辰葵はそれを簡単にかわすことが出来る。
天辰葵にとって、それは容易いことだ。
狙われた左足をそっと下げる。それだけで済むことだ。
突きならば、それで隙も生じるはずだと天辰葵は備える。
だが、突き下ろされた突きは切先を、床で器用に滑らすように反射させることで突き自体も反射し跳ねあがる。
まるで床に投げられたボールが跳ねるように、地に隠れ潜んでいた蛇が飛び掛かるように、その突きは見事に床で反射し今度は天辰葵の喉元を狙う。
天辰葵もまさか突きが床で反射するとは考えてなかった。
そんな無茶苦茶な突きがあるもんかと疑う話だが、実際に鋭くたやすく命を奪いかねないほどの鋭い突きが天辰葵を襲う。
けれど、天辰葵の反射神経からすれば、その反射した予想外の突きすらもかわすのは容易いなのだ。
天辰葵はその反射された突きを見切りかわす。
そして、今度こそ反撃をしようとするまさにその時、天辰葵は目にする。
右片手突きだったはずの突きが、突き上がる瞬間に刀の柄に左手も添えられ両手持ちに変化しているのを。
そして、突き終えた瞬間、巳之口綾の左手に力が入る。
突きあげてからの袈裟懸け斬り。
それを天辰葵は寸前のところでかわす。
だが、かわしきれない。
技の切れが天辰葵の想像を超えていた。
もし、二回目の突きで反撃していれば、天辰葵でも手痛い一撃をその身に受けていたことだろう。
天辰葵の制服の一部が切り裂かれる。
鎖骨のあたりに鋭い痛みを天辰葵は感じる。
「やるね」
と、天辰葵が素直に巳之口綾の実力を認める。
遊んでいられる相手ではない。
巳之口綾は訓練を受けた剣士だ。
力任せの剣技ではない。
才能だけに頼った技ではない。
積み重ねられた歴史を受け継いだ正当な殺人剣法の使い手なのだ。
今までの相手とはわけが違う。
神速だけで翻弄できる相手ではない。
「突き、突き、斬りの連続三段攻撃、これが綾君のもとっとも得意とする蛇活走々という技さ。その名の通り蛇が走る如くの連続技。途中で反撃しようもなら逆にやられていたね。初見だろうにそこは流石と言うべきか」
戌亥道明が蛇活走々を披露した巳之口綾と、それを初見でかわし切った天辰葵の両名を褒める。
「なるほど、これが古武術なのですね!」
猫屋茜が感心し、そう実況が入った直後だ。
巳之口綾の手に持つ刀、有名百銭にヒビが入る。
そして、パリンと自ら割れた。
「有名百銭は強力な刀だが、一振りごとに財布の中から金を奪う妖刀でもある。財布の中の金がなくなると……」
戌亥道明が少し悲しそうに解説する。
もっとこの試合を見ていたかった、そう言う様な表情を浮かべる。
「え?」
猫屋茜が驚愕の声を上げる。
「金の切れ目が縁の切れ目ー」
酉水ひらりはそう無気力に言い放ち、ぱたりと床に倒れた。
「悔しいわ、わたしの負けよ……」
そう言って、割れた刀を手に巳之口綾は項垂れる。
「え?」
と、天辰葵にしては珍しく素の表情でそう言った。
「さっきの三連続技でわたしの軍資金は尽きたのよ…… さあ、わたしに命令しなさいよ! すればいいじゃない!」
巳之口綾は 綾は自暴自棄のようにそう言い捨てた。
「あっ、うん。じゃ、じゃあ…… んー、これからは私も追えばいいよ」
あっけにとられながらも葵はそう言って綾に微笑みかけた。
「それが命令ね…… わ、わかったわ…… 命令は絶対だものね、それに従うわ…… でも、決してわたしの心と皆の想いはあなたなんかに屈しないわ! いずれあなたを倒して見せるんだから」
そう言って綾は微笑んだ。
なぜなら、葵の下した命令は月子をつけまわすことをやめろとは言わなかったのだから。
つけまわす対象に天辰葵も加えろ、と、そうしか言わなかったのだから。
それはそれとして、綾も負けたのは悔しいし消化不良なので再戦を誓う。
「あっ、うん…… あれ? 本当に終わったの?」
勝者であるはずの葵ですら、いや、勝者だからこそ、勝った実感がまるでないように葵は言う。
まあ、実際あるわけがない。
「です。あっ、そう言えば巧観が使っていた時は有名百銭の自滅は見ていませんでしたね。巧観はああ見えて良いとこのお嬢様ですからね」
葵の問いに答えるように月子がそう言った。
「ああ、うん? 本当にこれで終わりなの?」
と、最後にもう一度葵がそう聞いた。
「えぇ…… す、すいません…… もう少し、もう少し私が頑張ってカンパを集められていたら……」
茜が泣きながら実況席から謝る。
だが、これは仕方なかったことなのだ。
なにせ色々と急すぎたし、誰も訳が分からないのだから。
「なんにせよ、とりあえず円形闘技場から出よう。このままでは全員、水底行きだ」
こんなことならもっとカンパしてやればよかったと、そう思いながら戌亥道明はそう言った。
このデュエルは、この運命はもう役割を終えたのだ。
「で、結局、綾は変わってないじゃないか。今もあっちの柱からこっちを見ているじゃないか」
巧観がそう言って柱の影から見ている綾を指さす。
今までと違う事と言えば、それで綾が逃げ出すことはなくなったくらいだ。
いや、
「だって…… 眺める対象が二人になったんだもの……」
と、綾が消え入りそうな声ではあるがそう答えた。
これは大きな変化かもしれない。
「え? あっ、そう言えば月子を諦めるように言ってないじゃないか! ボクの時は諦めろって命令した癖に!」
巧観はそう言って今度は葵に噛みつき始める。
「あれは月子のお願いだったからね。私は無理やり言うことを聞かせるのはあまり好きじゃなくてね」
それに対して葵はそう言って極上の笑顔を巧観に向ける。
「はあ、まあ、良いですけども……」
これはこれでよかったのではないかと、月子も思う。
変人が周りに一人増えたところで、今の月子からすれば何の変化もないことだ。
「これからは綾に見せつけながらイチャイチャしようじゃないか、月子」
そう言って優雅に笑いかけて来る葵を月子は相手にしない。
「嫌ですよ。それより綾様もこっちで一緒にお茶でも飲みませんか?」
その代わり、新しい変人に、いや、友人に声をかける。
「……」
だが、綾からの返事は返ってこない。
「嫌でしたら良いですけど?」
と、少し残念そうに月子がそう言うと、綾は顔を赤らめながら、
「……ないから…… お金、もうないから……」
と、言って来た。
それはそうだ。だからこそ有名百銭は自ら折れたのだ。
「それくらい…… 巧観がおごってくれますよ、ねえ? 巧観」
月子は少し悩んだあげく冗談のようにそう言って綾に笑いかけ、そして、巧観にも笑いかける。
「な、なんで? ボクも今はあんまり余裕ないんだけど?」
そう言いつつも、巧観は嫌な顔をしない。
「私もないよ」
と、葵が笑顔で告げる。
「実はわたくしもないんですよ」
更に月子も笑顔でそう告げる。
笑顔で告げたが葵も月子も本当にお金に余裕はない。
「じゃあ、仕方がないなぁ、今回だけだよ、好きな物頼んでこっち来なよ」
そして、その事を知っている巧観が折れて綾に向かいそう言った。
「いいの?」
「もう友達でしょう」
巧観のその言葉は綾に今まで見たことのない笑顔を浮かばせた。
━【次回議事録予告-Proceedings.29-】━━━━━━━
運命が蠢動し、それに合わせて兎が跳ねて暗躍する。
運命が狂い、竜が嫉妬に吠える。
━次回、嫉妬に燃える竜と跳ね飛ぶ逆立ち兎.01━━━
前回が前回だったので猫屋茜は期待を込めて生徒会長の戌亥道明に事前に話を通しておいたのだ。
生徒会長ならばまともな解説役になってくれると。
「それ毎回やる必要ある? まあ、いいさ。有名百銭は財布の中身が多ければ多いほど強化される刀だよ。その強化に上限はないと言われているね。お金を持っているならば、本当に恐ろしい刀さ」
財布に入っている現物のお金という制限はあるが、その強化に上限はなく、金額次第ではすべての神刀の祖である天道白日にも迫る力まで強化される本当に恐ろしい刀だ。
ただ今回は巳之口綾がそこまでお金を持っているとも思えない。
「けど、デュエルで一番見る刀ですよね!」
猫屋茜からすれば、お金さえ払えば誰のデュエルアソーシエイトになる酉水ひらりの体から顕現する刀だ。
最もデュエルで見る刀の一つであることは確かだ。
「まあ、そうだね。デュエルアソーシエイトに困ったときはひらり君を頼ればいい、デュエリストの間でもそう言う認識だからね。お金を払えば誰のデュエルアソーシエイトにでもなってくれるのは都合が良いからね」
ある意味円滑にデュエルが回ってくれる要因の一つでもある。
酉水ひらりはデュエリストの間でも重宝されている人材だ。
「ですよね。では、月下万象の方は?」
猫屋茜のその質問に、戌亥道明はからかうように微笑みを浮かべる。
「月というものはね、太陽の光を浴びて初めて輝くんだよ」
猫屋茜の想像していた解説とは違う言葉に、しばしあっけに取られる。
「え? いきなりどうしたんですか? 確か完全無欠の力でしたよね?」
月下万象の能力は完全無欠の能力のはずだ。
なのに、生徒会長はわけのからないことを言っている。
だが、刀の解説はここまでと、戌亥道明は話を続ける。
「さあ、解説はここまでだ。せっかくのデュエルだ。見逃してはいけない。なにせ綾君は……」
「綾君は?」
戌亥道明が意味深に言葉を濁すので、猫屋茜も気になって仕方がない。
「まあ、見てなよ。古武術が一つ、活蛇流の本物の剣術というものを」
戌亥道明は知っている。
巳之口綾が人を斬るための古武術剣法の道場の跡取り娘であることを。
「活蛇流……」
その言葉に猫屋茜がゴクリと生唾を飲み込む。
「いくわよ、巨悪! 天辰葵!」
普段から想像できない凛とした声を響かせて、皆の力を背負い巳之口綾はこの場に立つ。
本当はこんな目立つ場所に立ちたくはないのだが、猫屋茜が集めてくれた金額のと想いの力で巳之口綾はその場に立っていられるのだ。
「いいよ。いつでも来なよ、綾」
そう言って天辰葵は刀を構えた。
巳之口綾から殺気にも似た気配を天辰葵も感じ取ったのだ。
今までの相手とは違う、明確な殺意。
それを乗せた剣法の使い手であると天辰葵にはわかる。
なので、天辰葵も最初から刀を構える。侮れる相手ではない。
「軽々しく、わたしの名を呼ばないで欲しいわ」
そう言って綾は片手突きの構えをする。
だが、腰は落とさず逆に背を伸ばす、高い位置から低い位置を狙うような、とても奇妙な構えだ。
まるで鎌首をもたげる蛇のような、そんな構えだ。
そんな奇妙な構えなのに、天辰葵の神速をもってしても踏み込めないほど隙が無い。
下手に踏むこめば神速でも痛い目を見ると天辰葵の直感がそう告げている。
「片手突き? 巧観で見すぎたな」
そう言って相手を挑発しつつ天辰葵は笑いつつ様子を伺い、警戒を怠らない。
逆に気を抜けば射殺される。
そんな気配を今の巳之口綾からは天辰葵も感じずにはいられない。
「活蛇流、蛇活走々!」
それは異様な突きだった。
剣を縦に突き立て、天辰葵の足を、足の甲を狙う様な高所から突き下ろす突きだった。
木の枝から獲物に飛び掛かる一匹の毒蛇の如き一撃の突き。
無論、天辰葵はそれを簡単にかわすことが出来る。
天辰葵にとって、それは容易いことだ。
狙われた左足をそっと下げる。それだけで済むことだ。
突きならば、それで隙も生じるはずだと天辰葵は備える。
だが、突き下ろされた突きは切先を、床で器用に滑らすように反射させることで突き自体も反射し跳ねあがる。
まるで床に投げられたボールが跳ねるように、地に隠れ潜んでいた蛇が飛び掛かるように、その突きは見事に床で反射し今度は天辰葵の喉元を狙う。
天辰葵もまさか突きが床で反射するとは考えてなかった。
そんな無茶苦茶な突きがあるもんかと疑う話だが、実際に鋭くたやすく命を奪いかねないほどの鋭い突きが天辰葵を襲う。
けれど、天辰葵の反射神経からすれば、その反射した予想外の突きすらもかわすのは容易いなのだ。
天辰葵はその反射された突きを見切りかわす。
そして、今度こそ反撃をしようとするまさにその時、天辰葵は目にする。
右片手突きだったはずの突きが、突き上がる瞬間に刀の柄に左手も添えられ両手持ちに変化しているのを。
そして、突き終えた瞬間、巳之口綾の左手に力が入る。
突きあげてからの袈裟懸け斬り。
それを天辰葵は寸前のところでかわす。
だが、かわしきれない。
技の切れが天辰葵の想像を超えていた。
もし、二回目の突きで反撃していれば、天辰葵でも手痛い一撃をその身に受けていたことだろう。
天辰葵の制服の一部が切り裂かれる。
鎖骨のあたりに鋭い痛みを天辰葵は感じる。
「やるね」
と、天辰葵が素直に巳之口綾の実力を認める。
遊んでいられる相手ではない。
巳之口綾は訓練を受けた剣士だ。
力任せの剣技ではない。
才能だけに頼った技ではない。
積み重ねられた歴史を受け継いだ正当な殺人剣法の使い手なのだ。
今までの相手とはわけが違う。
神速だけで翻弄できる相手ではない。
「突き、突き、斬りの連続三段攻撃、これが綾君のもとっとも得意とする蛇活走々という技さ。その名の通り蛇が走る如くの連続技。途中で反撃しようもなら逆にやられていたね。初見だろうにそこは流石と言うべきか」
戌亥道明が蛇活走々を披露した巳之口綾と、それを初見でかわし切った天辰葵の両名を褒める。
「なるほど、これが古武術なのですね!」
猫屋茜が感心し、そう実況が入った直後だ。
巳之口綾の手に持つ刀、有名百銭にヒビが入る。
そして、パリンと自ら割れた。
「有名百銭は強力な刀だが、一振りごとに財布の中から金を奪う妖刀でもある。財布の中の金がなくなると……」
戌亥道明が少し悲しそうに解説する。
もっとこの試合を見ていたかった、そう言う様な表情を浮かべる。
「え?」
猫屋茜が驚愕の声を上げる。
「金の切れ目が縁の切れ目ー」
酉水ひらりはそう無気力に言い放ち、ぱたりと床に倒れた。
「悔しいわ、わたしの負けよ……」
そう言って、割れた刀を手に巳之口綾は項垂れる。
「え?」
と、天辰葵にしては珍しく素の表情でそう言った。
「さっきの三連続技でわたしの軍資金は尽きたのよ…… さあ、わたしに命令しなさいよ! すればいいじゃない!」
巳之口綾は 綾は自暴自棄のようにそう言い捨てた。
「あっ、うん。じゃ、じゃあ…… んー、これからは私も追えばいいよ」
あっけにとられながらも葵はそう言って綾に微笑みかけた。
「それが命令ね…… わ、わかったわ…… 命令は絶対だものね、それに従うわ…… でも、決してわたしの心と皆の想いはあなたなんかに屈しないわ! いずれあなたを倒して見せるんだから」
そう言って綾は微笑んだ。
なぜなら、葵の下した命令は月子をつけまわすことをやめろとは言わなかったのだから。
つけまわす対象に天辰葵も加えろ、と、そうしか言わなかったのだから。
それはそれとして、綾も負けたのは悔しいし消化不良なので再戦を誓う。
「あっ、うん…… あれ? 本当に終わったの?」
勝者であるはずの葵ですら、いや、勝者だからこそ、勝った実感がまるでないように葵は言う。
まあ、実際あるわけがない。
「です。あっ、そう言えば巧観が使っていた時は有名百銭の自滅は見ていませんでしたね。巧観はああ見えて良いとこのお嬢様ですからね」
葵の問いに答えるように月子がそう言った。
「ああ、うん? 本当にこれで終わりなの?」
と、最後にもう一度葵がそう聞いた。
「えぇ…… す、すいません…… もう少し、もう少し私が頑張ってカンパを集められていたら……」
茜が泣きながら実況席から謝る。
だが、これは仕方なかったことなのだ。
なにせ色々と急すぎたし、誰も訳が分からないのだから。
「なんにせよ、とりあえず円形闘技場から出よう。このままでは全員、水底行きだ」
こんなことならもっとカンパしてやればよかったと、そう思いながら戌亥道明はそう言った。
このデュエルは、この運命はもう役割を終えたのだ。
「で、結局、綾は変わってないじゃないか。今もあっちの柱からこっちを見ているじゃないか」
巧観がそう言って柱の影から見ている綾を指さす。
今までと違う事と言えば、それで綾が逃げ出すことはなくなったくらいだ。
いや、
「だって…… 眺める対象が二人になったんだもの……」
と、綾が消え入りそうな声ではあるがそう答えた。
これは大きな変化かもしれない。
「え? あっ、そう言えば月子を諦めるように言ってないじゃないか! ボクの時は諦めろって命令した癖に!」
巧観はそう言って今度は葵に噛みつき始める。
「あれは月子のお願いだったからね。私は無理やり言うことを聞かせるのはあまり好きじゃなくてね」
それに対して葵はそう言って極上の笑顔を巧観に向ける。
「はあ、まあ、良いですけども……」
これはこれでよかったのではないかと、月子も思う。
変人が周りに一人増えたところで、今の月子からすれば何の変化もないことだ。
「これからは綾に見せつけながらイチャイチャしようじゃないか、月子」
そう言って優雅に笑いかけて来る葵を月子は相手にしない。
「嫌ですよ。それより綾様もこっちで一緒にお茶でも飲みませんか?」
その代わり、新しい変人に、いや、友人に声をかける。
「……」
だが、綾からの返事は返ってこない。
「嫌でしたら良いですけど?」
と、少し残念そうに月子がそう言うと、綾は顔を赤らめながら、
「……ないから…… お金、もうないから……」
と、言って来た。
それはそうだ。だからこそ有名百銭は自ら折れたのだ。
「それくらい…… 巧観がおごってくれますよ、ねえ? 巧観」
月子は少し悩んだあげく冗談のようにそう言って綾に笑いかけ、そして、巧観にも笑いかける。
「な、なんで? ボクも今はあんまり余裕ないんだけど?」
そう言いつつも、巧観は嫌な顔をしない。
「私もないよ」
と、葵が笑顔で告げる。
「実はわたくしもないんですよ」
更に月子も笑顔でそう告げる。
笑顔で告げたが葵も月子も本当にお金に余裕はない。
「じゃあ、仕方がないなぁ、今回だけだよ、好きな物頼んでこっち来なよ」
そして、その事を知っている巧観が折れて綾に向かいそう言った。
「いいの?」
「もう友達でしょう」
巧観のその言葉は綾に今まで見たことのない笑顔を浮かばせた。
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運命が蠢動し、それに合わせて兎が跳ねて暗躍する。
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