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うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇
【Proceedings.26】うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇.05
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葵は天岩戸となったロッカーの扉を開こうとする。
中で綾が必死に抑えているのでその扉は開かない。
いや、無理にでも開けることはできるだろうが、それはそれで問題が深くなる気がするので、やはり無理やり開けることはできない。
今このパンドラのロッカーを開けても、厄災しか出てこない、中に希望は残っていないのだ。
少なくとも今は開けてはならない。葵もそう感じ取っていた。
「綾、気にすることはないよ。五万円くらい、巧観が用意してくれるさ」
葵が無責任にそんなことを言いだす。
ついでに葵にはそんなに手持ちがないので自分が出すとは言えない。
「え? ボク!? ボクももうお小遣いないから無理だよ」
巧観としても葵とのリベンジで酉水ひらりを何度も頼っており財布の中身が心もとないのだ。
他人のために五万も差し出せる余裕はない。
だが、綾がショックを受けているところはそこではない。
「ま、前までは、さ、三万…… だったのに……」
今まではだいたい三万円で受けていたのに、一気に二万円も値上がりしたのだ。
しかも、その理由が気持ち悪いから、というのだ。
繊細で後ろ向きな綾がショックを受けないはずがない。
「いや、綾は気持ち悪くなんかないよ。十分に美しいと私は思うよ」
すかさず葵がフォローするが、絶望の淵にいる綾にその言葉は届いていない。
「それにひらりちゃんにまで、気持ち悪いって思われていたなんて……」
綾はそう言って掃除用具入れのロッカーの底に体育座りをした。
なんだかんだで自分に付き合ってくれていた酉水ひらりには少なくとも嫌われてはいない、そう思っていただけに綾のショックは大きい。
暗いジメジメとした生乾きの雑巾の匂いがあふれるロッカーの底で綾はメソメソと涙を流し始める。
ロッカーから負と孤独のオーラがあふれ出て来る。
「いや、ひらりは割とそういう事、隠さずにズバズバと言ってくるタイプだぞ」
そこへ空気を読まない生徒会執行団の猟犬、巧観がそう言ってしまう。
「やっぱりそれがひらりちゃんの本心ってことなのね……」
悲壮な綾の声がロッカーの奥底から響く。
「あっ、いや…… そ、そんなことは」
慌てて巧観が取り繕うとするが、もちろん後の祭りだ。
天岩戸は祭りで開かれたというが、この祭りは開かれないほうの祭りだ。
「これは参ったな。こうなったらこの場で私と月子がいちゃついて、ロッカーから綾が自分から出てくるように仕向けるアマノウズメ作戦をするしかないね」
そう言って葵が私利私欲に走ろうとしたところに、
「しませんよ?」
と、月子が白い目で葵を見ながら声をかけた。
「あっ、月子、どうしてここへ?」
流石の葵も少しばかり狼狽している。
巧観はともかく月子がここに来れるのは葵からしても予想外だ。
「ふっふっふー、私の情報網を甘く見ないでください!」
と、月子の影から茜が飛び出す。
「あ、茜!?」
それで葵も納得する。
たしかに新聞発行団の情報網を持ってすればこの場所も容易に特定できることだろう。
その方法は葵にはわからないが。
「フフフッ、任せてください! 次のデュエルの為なら、この猫屋茜が動きますよ!」
自信に満ちた顔で茜はない胸を張った。
「でも、茜ではデュエルアソーシエイトにはなれないだろう?」
そう突っ込んだのは巧観だ。
「そうです! 私が直接手伝うのではなく資金の提供のほうをガンバリマス! そんなわけでカンパです! 私がカンパしてきます! 安心してください! 私は交友関係は超幅広いので! 五万位すぐに集めますよ!」
「つまり、皆の力を集めて葵に立ち向かうのか?」
巧観がそう言って、熱く拳を握りしめた。
「み、皆の力!? す、素敵な言葉ね…… その力で巨悪を打倒すのね……」
ロッカーと絶望の中の綾にわずかながらに希望の火が灯る。
パンドラのロッカーに宿ったそれが最後の希望だ。
この希望を消して潰えてはならない。
それはすべての終焉を意味する。
運命は停滞し、永遠に動き出すことはなくなるのだ。
「私が悪役に? まあ、いいよ。とりあえずデュエルで決着を受けようじゃない?」
葵としても、もう収集がつかないので、さっさとデュエルをして終わらせてしまいたい心境だったのかもしれない。
少し雑ではあったがそう言って、何のためにデュエルをするのか、もうわけもわからない状況ではあるのだが、葵はデュエルをする覚悟を決める。
「すみません…… 二万六千五百二十七円しか集まりませんでした……」
項垂れた茜がそう言って集まった金額を封筒に入れて渡してくれた。
一時間程度の時間でそれだけ集まれば十分すぎるものだ。
「ああ、うん、茜は頑張ったよ。逆によくこの短時間でそれだけの金額を集めてくれたよ」
葵もそう言って封筒を受け取り、ロッカーの通気口のスリットから封筒を入れた。
ガシャン、と結構な音がしてロッカーの中に小銭の多い封筒が落ちていく。
まるで大きな貯金箱のようだ。
誰もそう思いはしたが口に出さなかった。
「けど、どうするんだよ、足りない分は……」
巧観がそう言って渋い表情を見せる後、おおよそ二万四千円ほど足りない。
「わ、わたしの…… こんなわたしのためにそれほどの金額が…… 残りの金額は自分で払うわ。そして、巨悪である天辰葵を成敗して囚われの月子様をお救いするわ! それがわたしの使命…… なんだわ」
ロッカーに落ちた封筒の重さに、彩は涙を流して感動してそう決意した。
無論、重いのは小銭が多かったせいではあるが。
それはそれとして、天辰葵こそが悪であり、自分こそが正義であると綾はそう確信していた。
なぜ綾がそう確信したのか、やはり綾自身よく理解していない。
でも、民意が、これだけの金額が自分のために集められたという、想いに応えなくてはと、綾は使命感に駆られる。
理解していないが、もうそういう雰囲気だったのだ。
そうしないと綾自身もロッカーで一生を過ごさなければならない気がしていたからだ。
「別にわたくしは囚われないですし、どっちが勝っても同じような結末にしかならないのでは?」
と、月子だけが現実を直視していた。
巧観は巳之口綾にかかわるのは時期尚早だったと後悔し、葵も収集がつかなくなったこの場をどうするか持て余していた。
綾も綾で感情の整理がまるでついていない。
理由はともかくこれはもうデュエルで決着をつけるしかない、結局は月子以外の全員が現実を直視せずそう結論づけたのだ。
とりあえず困ったらデュエルで解決したら良いと。
「月子! やっと綾がやる気になったんだ、少し黙って!」
巧観がせっかく話がまとまっているのにと必至で月子をいさめる。
デュエルというゴールがやっと見えてきているのだ。
ロッカーという天岩戸がやっと開きかけているのだ、再び固く閉じてしまったら、この物語は、この運命は、ここで終わってしまう。
それだけは避けなければならない。
「え? は、はい? 巧観、なんか目的変わって来てませんか?」
月子だけがそう言ってみたが誰一人として月子の問いに答える者はいなかった。
皆、とりあえず早く終わらしたいと、そう願っていた。
━【次回議事録予告-Proceedings.27-】━━━━━━━
パンドラのロッカーが開き、災いと希望は解き放たれるのか?
天岩戸が開き、やっと運命が蠢動し始める、のか?
━次回、うざ絡む竜と絡みつく孤独の毒蛇.06━━━━
中で綾が必死に抑えているのでその扉は開かない。
いや、無理にでも開けることはできるだろうが、それはそれで問題が深くなる気がするので、やはり無理やり開けることはできない。
今このパンドラのロッカーを開けても、厄災しか出てこない、中に希望は残っていないのだ。
少なくとも今は開けてはならない。葵もそう感じ取っていた。
「綾、気にすることはないよ。五万円くらい、巧観が用意してくれるさ」
葵が無責任にそんなことを言いだす。
ついでに葵にはそんなに手持ちがないので自分が出すとは言えない。
「え? ボク!? ボクももうお小遣いないから無理だよ」
巧観としても葵とのリベンジで酉水ひらりを何度も頼っており財布の中身が心もとないのだ。
他人のために五万も差し出せる余裕はない。
だが、綾がショックを受けているところはそこではない。
「ま、前までは、さ、三万…… だったのに……」
今まではだいたい三万円で受けていたのに、一気に二万円も値上がりしたのだ。
しかも、その理由が気持ち悪いから、というのだ。
繊細で後ろ向きな綾がショックを受けないはずがない。
「いや、綾は気持ち悪くなんかないよ。十分に美しいと私は思うよ」
すかさず葵がフォローするが、絶望の淵にいる綾にその言葉は届いていない。
「それにひらりちゃんにまで、気持ち悪いって思われていたなんて……」
綾はそう言って掃除用具入れのロッカーの底に体育座りをした。
なんだかんだで自分に付き合ってくれていた酉水ひらりには少なくとも嫌われてはいない、そう思っていただけに綾のショックは大きい。
暗いジメジメとした生乾きの雑巾の匂いがあふれるロッカーの底で綾はメソメソと涙を流し始める。
ロッカーから負と孤独のオーラがあふれ出て来る。
「いや、ひらりは割とそういう事、隠さずにズバズバと言ってくるタイプだぞ」
そこへ空気を読まない生徒会執行団の猟犬、巧観がそう言ってしまう。
「やっぱりそれがひらりちゃんの本心ってことなのね……」
悲壮な綾の声がロッカーの奥底から響く。
「あっ、いや…… そ、そんなことは」
慌てて巧観が取り繕うとするが、もちろん後の祭りだ。
天岩戸は祭りで開かれたというが、この祭りは開かれないほうの祭りだ。
「これは参ったな。こうなったらこの場で私と月子がいちゃついて、ロッカーから綾が自分から出てくるように仕向けるアマノウズメ作戦をするしかないね」
そう言って葵が私利私欲に走ろうとしたところに、
「しませんよ?」
と、月子が白い目で葵を見ながら声をかけた。
「あっ、月子、どうしてここへ?」
流石の葵も少しばかり狼狽している。
巧観はともかく月子がここに来れるのは葵からしても予想外だ。
「ふっふっふー、私の情報網を甘く見ないでください!」
と、月子の影から茜が飛び出す。
「あ、茜!?」
それで葵も納得する。
たしかに新聞発行団の情報網を持ってすればこの場所も容易に特定できることだろう。
その方法は葵にはわからないが。
「フフフッ、任せてください! 次のデュエルの為なら、この猫屋茜が動きますよ!」
自信に満ちた顔で茜はない胸を張った。
「でも、茜ではデュエルアソーシエイトにはなれないだろう?」
そう突っ込んだのは巧観だ。
「そうです! 私が直接手伝うのではなく資金の提供のほうをガンバリマス! そんなわけでカンパです! 私がカンパしてきます! 安心してください! 私は交友関係は超幅広いので! 五万位すぐに集めますよ!」
「つまり、皆の力を集めて葵に立ち向かうのか?」
巧観がそう言って、熱く拳を握りしめた。
「み、皆の力!? す、素敵な言葉ね…… その力で巨悪を打倒すのね……」
ロッカーと絶望の中の綾にわずかながらに希望の火が灯る。
パンドラのロッカーに宿ったそれが最後の希望だ。
この希望を消して潰えてはならない。
それはすべての終焉を意味する。
運命は停滞し、永遠に動き出すことはなくなるのだ。
「私が悪役に? まあ、いいよ。とりあえずデュエルで決着を受けようじゃない?」
葵としても、もう収集がつかないので、さっさとデュエルをして終わらせてしまいたい心境だったのかもしれない。
少し雑ではあったがそう言って、何のためにデュエルをするのか、もうわけもわからない状況ではあるのだが、葵はデュエルをする覚悟を決める。
「すみません…… 二万六千五百二十七円しか集まりませんでした……」
項垂れた茜がそう言って集まった金額を封筒に入れて渡してくれた。
一時間程度の時間でそれだけ集まれば十分すぎるものだ。
「ああ、うん、茜は頑張ったよ。逆によくこの短時間でそれだけの金額を集めてくれたよ」
葵もそう言って封筒を受け取り、ロッカーの通気口のスリットから封筒を入れた。
ガシャン、と結構な音がしてロッカーの中に小銭の多い封筒が落ちていく。
まるで大きな貯金箱のようだ。
誰もそう思いはしたが口に出さなかった。
「けど、どうするんだよ、足りない分は……」
巧観がそう言って渋い表情を見せる後、おおよそ二万四千円ほど足りない。
「わ、わたしの…… こんなわたしのためにそれほどの金額が…… 残りの金額は自分で払うわ。そして、巨悪である天辰葵を成敗して囚われの月子様をお救いするわ! それがわたしの使命…… なんだわ」
ロッカーに落ちた封筒の重さに、彩は涙を流して感動してそう決意した。
無論、重いのは小銭が多かったせいではあるが。
それはそれとして、天辰葵こそが悪であり、自分こそが正義であると綾はそう確信していた。
なぜ綾がそう確信したのか、やはり綾自身よく理解していない。
でも、民意が、これだけの金額が自分のために集められたという、想いに応えなくてはと、綾は使命感に駆られる。
理解していないが、もうそういう雰囲気だったのだ。
そうしないと綾自身もロッカーで一生を過ごさなければならない気がしていたからだ。
「別にわたくしは囚われないですし、どっちが勝っても同じような結末にしかならないのでは?」
と、月子だけが現実を直視していた。
巧観は巳之口綾にかかわるのは時期尚早だったと後悔し、葵も収集がつかなくなったこの場をどうするか持て余していた。
綾も綾で感情の整理がまるでついていない。
理由はともかくこれはもうデュエルで決着をつけるしかない、結局は月子以外の全員が現実を直視せずそう結論づけたのだ。
とりあえず困ったらデュエルで解決したら良いと。
「月子! やっと綾がやる気になったんだ、少し黙って!」
巧観がせっかく話がまとまっているのにと必至で月子をいさめる。
デュエルというゴールがやっと見えてきているのだ。
ロッカーという天岩戸がやっと開きかけているのだ、再び固く閉じてしまったら、この物語は、この運命は、ここで終わってしまう。
それだけは避けなければならない。
「え? は、はい? 巧観、なんか目的変わって来てませんか?」
月子だけがそう言ってみたが誰一人として月子の問いに答える者はいなかった。
皆、とりあえず早く終わらしたいと、そう願っていた。
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