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容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛

【Proceedings.17】容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.03

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「今日だ。そして、できるだけ早い方が良い」
 スケジュールを決めようとしている茜に向かって修が要望をだす。
「今日ですか!? わ、わかりました! 急いで準備しますね! なら放送団にも協力してもらわないと! じゃあ…… えーと、三時からでいいですか!?」
 茜は大慌てで食堂の時計を見る。
 食堂の時計は十二時四十二分を指している。
 後、およそ二時間だ。
「うむ」
 と、修が頷くのを確認した茜はデュエルの準備に取り掛かるため、凄い勢いで走って行った。
 走り去る茜の後姿を見て、修はそれにも満足する。
 あの気合の入りようであれば、良いデュエルの場を用意してくれるであろうと。
「今日やるの? 明日かと思ってたけど」
 ただ葵の方はカルボナーラを食べ終わり、デザートの特製プリンを食べながら、少し気だるそうにそう言った。

「今日なら勝てる」
 修はまるで確信があるようにそう言った。
「なぜ? もしかして占いとか?」
 余りに修が確信めいていたが、その理由を葵は理解できずに聞き返す。
「否。我は今、万全のステータスでこの場にいる。ならば、今日ならば、おまえにも勝てる。我はこの日を待っていたのだ。我が筋肉が整う時をな」
 そう言って、全身の筋肉をその場で収縮して見せた。
「ふーん。そうなんだ。調子良さそうだね、筋肉」
 葵は脈動する筋肉を見ながらそいった。
 修の筋肉は飾り物の筋肉ではない。
 実戦に近い修練を重ね、それにより得た実戦的な筋肉だ。
 だからなのだろうか、全身筋肉ではあるが、マッチョと言う感じではない。
 その筋肉には機能美にも似た、無駄のない造形美を感じさせている。
「そうだ。筋肉だ! 筋肉はすべてを解決する。すべからくすべてた! 大いに育った筋肉は当然のごとく全てを解決する。それはまさに神である。神は筋肉に宿る。そして、その筋肉の原動力こそが…… 愛だ!」
 修はそう断言した。
 それを理解できたのはこの場では修だけだ。
 他の者は誰一人として理解できない。
 だが、そんなことはどうでもいいことだ。

「そう。わかった。けど三時か。あと二時間ちょっと暇だな。月子、時間を潰せる場所を知らない?」
 葵も会話にならないと思い月子に話をふる。
 恐らく修という男と真面目に話し合う意味は何もない。
 それこそ、デュエルで決着をつければいいだけだ。
「ここでお茶でも飲んでたらいいんじゃないんですか? 中央の池も近いですし」
 我関せずの月子はそう言った。
 とはいえ、葵がデュエルに行くのであれば、月子も赴く気ではある。
 葵が、その真偽はともかくとして、願いで姉を探してくれる、そう言ってはいるのだ。
 なら、月子とて葵に付き合わねばならない。
「確かに。ここは学園だしね。遊べるような場所はないか」
 そう言うが、葵は自分が何年何組か、それすらしない。
 知らされてない。
 ただ葵にとってそれは些細なことだ。大して気にする様な事ではない。
「ならば、我は亮を、我が心の友である亮を呼んでくる。次ぎ会うときは、我は修羅となっているだろう。心せよ」
 修はそう言うと腕を組んだまま立ち上がり、背を向けて去っていった。

 葵はその姿を見送って、
「うーん」
 と、唸る。
「どうしたんですか?」
 と月子が声を掛ける。
「どうも男、特にああいった大男だとやる気が出ないんだよね」
 そう言って、葵はテーブルに上半身を投げだし、横を向き月子を見た。
 そのだらけた姿さえ優雅に思える。
「いえ、まあ、いいですけど…… 勝てるんですか? 今回は負けてもそれほどディメリットはなさそうですが」
 やる気のなさそうな葵を見て月子はどうも心配になる。
「負けはしないよ。あれでしょう? 私が負けると、デュエルアソーシエイトの月子に負荷がかかるんでしょう? そんなことさせられないよ」
 葵は行儀悪くテーブルによっかかりながら、月子にそう言って微笑みかける。
「それは、そうですか…… わたくしもそれは体験したことがないのでわかりませんが、確かに負荷がかかるんですよね。どうなんですか巧観?」
 どういった負荷がかかるのか、月子には想像できない。
 修やあの生徒会長にも相当な負荷がかかっていたようだ。
 ただ事ではすまされないのだろう。

「え? あー、ボクも経験したことないからわからないかも……」
 月子に聞かれた巧観も曖昧な表情を見せる。
 巧観の記憶では、それを経験した記憶はない。

「あれ? そう言えば…… 巧観がデュエルアソーシエイトの時で負けたときは…… なかったでしたっけ?」
 月子は記憶を手繰るが、確かに巧観がデュエルアソーシエイトとして参加して負けたときの記憶は思い出せない。
「無いはずだよ。ボクは兄様の、特別なデュエルアソーシエイトだからね」
 巧観は自慢げにそう言った。
 戌亥道明は妹である巧観を使うとき、それは本当に特別な試合の時だけだ。
 絶対に負けられないような。
 その時だけ、戌亥道明は妹を使う。

「ふーん。あっ……」
 その話を聞いた直後、葵は視線を感じる。
 自分へ向けられた視線ではない。月子に向けられた視線に葵は気づいた。
「どうしたんですか?」
 葵の急に真剣な表情を見せたので、月子がそう聞くと、葵は月子の目を手で優しく隠した。
「月子は見なくていいよ。巧観」
 そう言って、葵は目線だけで巧観に、巳之口綾が来ていることを知らせる。
 猫屋茜が隠れていた柱、とはまた別の柱に、巳之口は体の半分だけをだし、こちらを、いや、月子をじっと見つめている。
「え? あっ、アイツ…… わかった行ってくる」
 巧観も巳之口を確認し、猟犬のごとく駆けていく。
 そうすると巳之口は柱の影にスッと身をひそめた。
 巧観がその柱まで駆けていくが、柱に着いたところで左右を見渡す。
 もう既に巳之口はいないようだ。
 巧観はその場で匂いを嗅ぎ、巳之口を、巳之口綾を追跡しだす。
「なにが? あっ、ああ、わかりました。ありがとうございます。そこまで気を使ってくれなくとも、これはわたくしの問題ですので」
 月子も巳之口が来ていたのだと察する。
 ただ、これは月子と巳之口の問題だ。
 葵や巧観にどうにかしてもらおうとは思わない。月子は自分がどうにかしないといけない問題だとしっぱりと分かっている。
 ただ巳之口は月子が近づいても逃げてしまうため、話し合いにもならずこのような関係が続いている。
「なら、私の問題でもあるよ、月子。さて、デュエルに向けて少し昼寝でもするかな。膝枕を……」
「ダメです」
 それはそれとして、月子は葵を甘やかすつもりなど一切ない。



「亮よ。デュエルを取りつけて来た。今日の三時。十五時だ。行けるな?」
 修はそう言って一心不乱に素振りをして、汗を流している亮に見惚れながら声を掛ける。
「ああ、修。いつもすまない。僕のために」
 亮は素振りをやめ、汗を拭う。
「気にするな。これも愛のためだ」
 修は汗を拭う亮を見て、頬を染めながらそう言った。
「そうか。だが、あの天辰葵、ただ者ではないぞ。修、勝てるのか?」
 亮は確かにあの時、怒りに身を任せていた。
 だとしても、天辰葵の斬撃の速度はどこかおかしい。
 あまりにも速すぎる。
「わかっている。我も無策ではない。あやつと巧観の試合を何度も見た。それでも勝てると、今日なら確実に勝てると悟った」
 だが、それでも修はあの天辰葵に勝てると確信を持って言うのだ。
「おお、流石我が友、修! して、その理由は?」
 その理由は亮とて気になることろだ。
「今日の我の下着が紫だからだ!」
 自信満々に修はそう言った。



━【次回議事録予告-Proceedings.18-】━━━━━━━


 修羅の如き形相で天辰葵の前に立つ丑久保修。
 そして、実況したくてたまらない猫屋茜。
 運命が蠢動し始めるとき、何かが起きる。


━次回、容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.04━━━━
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