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戸惑う竜と執行団その猟犬の遠吠え
【Proceedings.09】戸惑う竜と執行団その猟犬の遠吠え.02
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「なぜ月子はあんな奴を傍に置いて…… どうして」
ボクじゃないんだ、巧観はその言葉を飲み込む。
そして、巧観は、戊亥巧観は理解できないとばかりに嘆いて見せる。
生徒会執行団のメンバーもあらかた退室し、今は道明と巧観だけが部屋に残っている。
道明からすればこの部屋は自室のような物であるし、巧観は自主的にこの部屋の掃除を買って出ており、今も後片付けをしているだけだ。
道明は暇を持て余しながら妹の相手をし、巧観は掃除をしながら月子について嘆く、ここではよく見れる日常風景でしかない。
「それはお前が月子君の下着を盗もうとしているのを、月子君本人に見られたからだよ。当然の結果じゃないか」
戊亥巧観の兄、戊亥道明が当たり前だとばかりにその理由を指摘する。
「クソッ、まさかそれで、それだけで、ここまで軽蔑されるとは思わなかった」
巧観はそう言って、肩をワナワナと震わせる。
後悔はしてもしきれない、そんな様子だ。
「だいたい、お前が男装してるのも月子君が好きだからだろう? なんでそんなことをしたんだ?」
道明が呆れる様にそう言うが、
「つい…… 出来心です…… 月子の匂いが、ボクを惑わせるんです…… いえ、それでもボクと月子の仲なら見つかっても、いつもの喧嘩で済ませると……」
と、巧観は悔いるようにそう言った。
巧観は喧嘩する程仲がいい、と考えていたが、月子からすれば、顔を合わせれば絡まれ因縁を付けられる厄介な幼馴染でしかなかった。
その事に巧観は全く気付いていない。
そんな相手に自分の下着を盗まれそうになったのだ。
拒絶されてもおかしくはない。
また別の理由で、月子はそう言ったことには特に厳しかったりもするのだが。
「何でそう思ったんだ、巧観…… 普段は無駄に真面目なのに、月子君のことに対してだけは常識が抜け落ちてしまうんだ」
やはり道明は巧観に呆れたように、ため息交じりに言った。
ただ道明も巧観のことを邪険にはしていない。少々いろんな意味で心配はしているが。
彼にとっても大事な妹であることは変わらない。
「だって、ボクだって女ですよ! なら下着を盗むくらいスキンシップの内じゃないですか!」
巧観はそう主張するが、実際、その時の場面は本当に月子から相当な白い目で、いや、嫌悪する目で巧観は見られていた。
少なくとも月子はそうは捕らえてくれなかったようだ。
「いや、それを世間ではスキンシップとは言わない。それにお前は下手に男装しているので余計に嫌悪感がな……」
そう言って愚かな妹を道明は哀れむ。
生徒会長としても、それしかできない。
当時は大事にならないように裏で手を回しはしたが、流石に二人の関係修復まではどうにもならない。
今となっては道明にもできることはない。
「くそう、アイツだって脚々言ってるのに!」
巧観は負け犬のように吠える。
「まあ、葵君は巧観とは違うからな」
普段の印象が、と道明は続けたかったが、
「顔ですか!」
と、巧観に言われて、それもあると、道明自身が納得してしまう。
天辰葵の、あの美少女としての容姿は、元から中性的な容姿の巧観とはそもそも受け取る側のイメージが違う。
「それと雰囲気? まあ、葵君が言うには自分は受けだから、月子君を襲うことはない、と宣言しているのも大きいのでは? とりあえず下着をこっそり盗む変態よりはマシじゃないかな」
道明は巧観に現実を理解させてやる。
一晩部屋を共にしている月子の様子を見る限り、葵は月子に手を出していないのだろう。
それと実際に下着泥棒という暴挙に出てしまった巧観とはそもそもが違う。
巧観はわなわなと肩を震わせながら、涙目になるだけだ。
そして、
「そ、そんな馬鹿な!」
と、やはり負け犬のように吠えるしか巧観にはできなかった。
「まあ、ボクから見ればどっちもどっちな気はするが、好きにすればいいさ」
道明は本当にどうでもいいようにそう言った。
「月子、私とデュエルをしないかい?」
おもむろに葵にそう言われ、
「しません」
と、月子は即答する。
正直、月子は葵に勝てる気がしない。
特に、剛健一實を一刀両断した太刀筋は間近で見ていた月子でさえ、認識すらできなかった。
ともなれば、月子が葵と決闘したところで、負けるのは必須であり、負ければ何を命令されるか分かったものではない。
なら、月子がやることは変わらずに誰ともデュエルをしないことだ。
月子はそうやって今まで自分を守って来た。
「そうか、なら諦めよう。月子が嫌がるなら、私からはもう申し込まないよ」
葵はそう言って、月子にニッコリと微笑みかける。
月子も随分とあっさり引き下がると思ったが、それは恐らく本当のことだ。
葵は月子に付きまといはするが、嫌がることはしてこない。
昨日の晩も月子は身に危険を感じながらも、葵が何かしてくることはなかった。
むしろ、ベッドに横になったと思ったら、葵はそのまま朝まで死んだように熟睡していたくらいだ。
なにかと気にしている月子のほうが馬鹿らしくなるほどだ。
ただ葵は微笑みながらも、本当に残念そうな表情は見せている。
「そ、そうですか」
とはいえ、まだ付き合いは浅い、昨日の今日で葵の本性がどのようなものなのか、月子には測りかねている。
いや、こんな相手だ。
付き合いが浅くなくとも理解できるものではないのかもしれない。
「ああ、しつこくするのは良くないからね」
「もう十分にしつこくなされていると思いますが?」
月子が困ったようにそう言うが、葵はそんな月子に優しく笑いかけるだけだ。
「そう? なら気を付けるよ、月子。ところで、月子はあの戌亥巧観という男を大分嫌っているようだったけど、何かされたの?」
月子は巧観が男装しているだけで実は女ということは知っている。
が、なぜ男装しているかまではわからないでいる。
もしかしたら、巧観は男になりたいのかもしれない、なら、訂正するのもどうかと思いその点は訂正しないでおく。
月子は気高い少女だ。おいそれと人の秘密を話すような女ではない。
それにどうせ同じ女子寮に住んでいるのだ。
そのうち顔を合わせ、そのことに葵も気づくだろうと。
その時の葵がどういった反応するか、月子も少しだけ楽しみではある。
「い、いえ、まあ、されたことはされましたが…… よくよく考えるとあれはどういう意図があったのか……」
月子にはなぜ巧観が自分の下着を盗もうとしていたのかが理解できない。
だが、その現場を見てしまったとき、その時の巧観の顔はものすごい絶望の、この世の終わりのような表情を浮かべていた。
そのことから、いたずらやいつもの嫌がらせで、下着を盗もうとしていたのではないことだけは月子にも分かっている。
だとしたら、なぜ巧観が自分の下着を盗もうとし、それを見られ、あんなにも絶望的な表情を見せたのか。
月子は色々思うことはあるが、悩んだ挙句、頭痛がしてきたので理解するのをやめたのだ。
だから、今も理解できない。しようとすらしていない。
それはそれとして、許せないことであるし、なんか気持ち悪かったので巧観を拒絶した。
月子の悩みの種は巧観だけではないのだから。
「ふーん、私が見るに、あの巧観という男、月子のことを好きなんじゃないかな?」
葵はそう言って、月子の顔を覗き込んでくる。
葵は月子の反応から月子が巧観のことをどう思っているのか、知りたいようだ。
「巧観が? やっぱりそうなんですかね…… だからあんなことを? そう思うと…… ただの悪戯だったと言われた方がまだマシでした……」
葵にそう言われ、理解するのをやめていた思考が再び動き始める。
たしかにあの時の巧観の表情はそういうことが一番しっくりくると。
だが、月子は巧観が女であることを知っている。
そんなはずはあるわけがないと、と考えたところで、嫌なものを思い出し、首を振りその妄想を振り払ってから、月子は葵を見る。
葵には今のところ、何かされたわけではない。
身の危険は感じてはいるが、葵が実際に何か強引にしてくるようなことはない。
葵のことだ、その気になれば月子に断る隙を見せずに色々とやり込むこともできるのであろうが、葵はそうはしない。
それが、葵の言う通り自分を求めて欲しいからなのかは、月子にはわからないし、やはり理解したい問題でもない。
ただ、同性同士でもあるのか、と、あってしまうのか、と月子は考えてしまう。
「何をされたの?」
「聞かないでください」
心配そうにそう聞かれたので、月子も笑顔でそう葵に返す。
そして、月子は、考えても仕方がないことだと、やはり理解することをやめた。
「じゃあ、聞かないよ。ところでこの学園の授業はいつから始まるんだい?」
「授業…… ですか?」
そう聞かれた月子は少し悩む表情を見せた。
それはそうだ。ここは学園で月子も葵も生徒なのだから。
だが、月子とて最後にいつ授業を受けたのか、それが思い出せない。
ただ、今はまだ春休みのはずだ。それだけは間違いがない。
なら気にしても仕方がないことだ。
「だって、ここは学園だろう?」
葵は月子の反応に妙な違和感を感じる。
「まあ、そのうちはじまるんじゃないんですか。あまり気にしなくても、そのうちお知らせが来ますよ。それまでは春休みですよ」
そう言って月子は微笑んだ。
葵も月子の笑顔に満足し、それ以上追及することをやめる。
葵からすれば、月子が笑顔ならそれでいいのだ。
それ以外は些細な事でしかない。
「そうなんだ」
そう言って、葵は月子の笑顔を堪能する。
━【次回議事録予告-Proceedings.10-】━━━━━━━
不穏な女が突如現れ、ついに巧観が、事態が動き出す。
生徒会執行団の猟犬と言われた巧観の牙がつけ狙うのは誰か。
運命が蠢動し、回り始めた学園に何が起きるというのか?
いや、何も起きないのか。
━次回、戸惑う竜と執行団その猟犬の遠吠え.03━━━━
ボクじゃないんだ、巧観はその言葉を飲み込む。
そして、巧観は、戊亥巧観は理解できないとばかりに嘆いて見せる。
生徒会執行団のメンバーもあらかた退室し、今は道明と巧観だけが部屋に残っている。
道明からすればこの部屋は自室のような物であるし、巧観は自主的にこの部屋の掃除を買って出ており、今も後片付けをしているだけだ。
道明は暇を持て余しながら妹の相手をし、巧観は掃除をしながら月子について嘆く、ここではよく見れる日常風景でしかない。
「それはお前が月子君の下着を盗もうとしているのを、月子君本人に見られたからだよ。当然の結果じゃないか」
戊亥巧観の兄、戊亥道明が当たり前だとばかりにその理由を指摘する。
「クソッ、まさかそれで、それだけで、ここまで軽蔑されるとは思わなかった」
巧観はそう言って、肩をワナワナと震わせる。
後悔はしてもしきれない、そんな様子だ。
「だいたい、お前が男装してるのも月子君が好きだからだろう? なんでそんなことをしたんだ?」
道明が呆れる様にそう言うが、
「つい…… 出来心です…… 月子の匂いが、ボクを惑わせるんです…… いえ、それでもボクと月子の仲なら見つかっても、いつもの喧嘩で済ませると……」
と、巧観は悔いるようにそう言った。
巧観は喧嘩する程仲がいい、と考えていたが、月子からすれば、顔を合わせれば絡まれ因縁を付けられる厄介な幼馴染でしかなかった。
その事に巧観は全く気付いていない。
そんな相手に自分の下着を盗まれそうになったのだ。
拒絶されてもおかしくはない。
また別の理由で、月子はそう言ったことには特に厳しかったりもするのだが。
「何でそう思ったんだ、巧観…… 普段は無駄に真面目なのに、月子君のことに対してだけは常識が抜け落ちてしまうんだ」
やはり道明は巧観に呆れたように、ため息交じりに言った。
ただ道明も巧観のことを邪険にはしていない。少々いろんな意味で心配はしているが。
彼にとっても大事な妹であることは変わらない。
「だって、ボクだって女ですよ! なら下着を盗むくらいスキンシップの内じゃないですか!」
巧観はそう主張するが、実際、その時の場面は本当に月子から相当な白い目で、いや、嫌悪する目で巧観は見られていた。
少なくとも月子はそうは捕らえてくれなかったようだ。
「いや、それを世間ではスキンシップとは言わない。それにお前は下手に男装しているので余計に嫌悪感がな……」
そう言って愚かな妹を道明は哀れむ。
生徒会長としても、それしかできない。
当時は大事にならないように裏で手を回しはしたが、流石に二人の関係修復まではどうにもならない。
今となっては道明にもできることはない。
「くそう、アイツだって脚々言ってるのに!」
巧観は負け犬のように吠える。
「まあ、葵君は巧観とは違うからな」
普段の印象が、と道明は続けたかったが、
「顔ですか!」
と、巧観に言われて、それもあると、道明自身が納得してしまう。
天辰葵の、あの美少女としての容姿は、元から中性的な容姿の巧観とはそもそも受け取る側のイメージが違う。
「それと雰囲気? まあ、葵君が言うには自分は受けだから、月子君を襲うことはない、と宣言しているのも大きいのでは? とりあえず下着をこっそり盗む変態よりはマシじゃないかな」
道明は巧観に現実を理解させてやる。
一晩部屋を共にしている月子の様子を見る限り、葵は月子に手を出していないのだろう。
それと実際に下着泥棒という暴挙に出てしまった巧観とはそもそもが違う。
巧観はわなわなと肩を震わせながら、涙目になるだけだ。
そして、
「そ、そんな馬鹿な!」
と、やはり負け犬のように吠えるしか巧観にはできなかった。
「まあ、ボクから見ればどっちもどっちな気はするが、好きにすればいいさ」
道明は本当にどうでもいいようにそう言った。
「月子、私とデュエルをしないかい?」
おもむろに葵にそう言われ、
「しません」
と、月子は即答する。
正直、月子は葵に勝てる気がしない。
特に、剛健一實を一刀両断した太刀筋は間近で見ていた月子でさえ、認識すらできなかった。
ともなれば、月子が葵と決闘したところで、負けるのは必須であり、負ければ何を命令されるか分かったものではない。
なら、月子がやることは変わらずに誰ともデュエルをしないことだ。
月子はそうやって今まで自分を守って来た。
「そうか、なら諦めよう。月子が嫌がるなら、私からはもう申し込まないよ」
葵はそう言って、月子にニッコリと微笑みかける。
月子も随分とあっさり引き下がると思ったが、それは恐らく本当のことだ。
葵は月子に付きまといはするが、嫌がることはしてこない。
昨日の晩も月子は身に危険を感じながらも、葵が何かしてくることはなかった。
むしろ、ベッドに横になったと思ったら、葵はそのまま朝まで死んだように熟睡していたくらいだ。
なにかと気にしている月子のほうが馬鹿らしくなるほどだ。
ただ葵は微笑みながらも、本当に残念そうな表情は見せている。
「そ、そうですか」
とはいえ、まだ付き合いは浅い、昨日の今日で葵の本性がどのようなものなのか、月子には測りかねている。
いや、こんな相手だ。
付き合いが浅くなくとも理解できるものではないのかもしれない。
「ああ、しつこくするのは良くないからね」
「もう十分にしつこくなされていると思いますが?」
月子が困ったようにそう言うが、葵はそんな月子に優しく笑いかけるだけだ。
「そう? なら気を付けるよ、月子。ところで、月子はあの戌亥巧観という男を大分嫌っているようだったけど、何かされたの?」
月子は巧観が男装しているだけで実は女ということは知っている。
が、なぜ男装しているかまではわからないでいる。
もしかしたら、巧観は男になりたいのかもしれない、なら、訂正するのもどうかと思いその点は訂正しないでおく。
月子は気高い少女だ。おいそれと人の秘密を話すような女ではない。
それにどうせ同じ女子寮に住んでいるのだ。
そのうち顔を合わせ、そのことに葵も気づくだろうと。
その時の葵がどういった反応するか、月子も少しだけ楽しみではある。
「い、いえ、まあ、されたことはされましたが…… よくよく考えるとあれはどういう意図があったのか……」
月子にはなぜ巧観が自分の下着を盗もうとしていたのかが理解できない。
だが、その現場を見てしまったとき、その時の巧観の顔はものすごい絶望の、この世の終わりのような表情を浮かべていた。
そのことから、いたずらやいつもの嫌がらせで、下着を盗もうとしていたのではないことだけは月子にも分かっている。
だとしたら、なぜ巧観が自分の下着を盗もうとし、それを見られ、あんなにも絶望的な表情を見せたのか。
月子は色々思うことはあるが、悩んだ挙句、頭痛がしてきたので理解するのをやめたのだ。
だから、今も理解できない。しようとすらしていない。
それはそれとして、許せないことであるし、なんか気持ち悪かったので巧観を拒絶した。
月子の悩みの種は巧観だけではないのだから。
「ふーん、私が見るに、あの巧観という男、月子のことを好きなんじゃないかな?」
葵はそう言って、月子の顔を覗き込んでくる。
葵は月子の反応から月子が巧観のことをどう思っているのか、知りたいようだ。
「巧観が? やっぱりそうなんですかね…… だからあんなことを? そう思うと…… ただの悪戯だったと言われた方がまだマシでした……」
葵にそう言われ、理解するのをやめていた思考が再び動き始める。
たしかにあの時の巧観の表情はそういうことが一番しっくりくると。
だが、月子は巧観が女であることを知っている。
そんなはずはあるわけがないと、と考えたところで、嫌なものを思い出し、首を振りその妄想を振り払ってから、月子は葵を見る。
葵には今のところ、何かされたわけではない。
身の危険は感じてはいるが、葵が実際に何か強引にしてくるようなことはない。
葵のことだ、その気になれば月子に断る隙を見せずに色々とやり込むこともできるのであろうが、葵はそうはしない。
それが、葵の言う通り自分を求めて欲しいからなのかは、月子にはわからないし、やはり理解したい問題でもない。
ただ、同性同士でもあるのか、と、あってしまうのか、と月子は考えてしまう。
「何をされたの?」
「聞かないでください」
心配そうにそう聞かれたので、月子も笑顔でそう葵に返す。
そして、月子は、考えても仕方がないことだと、やはり理解することをやめた。
「じゃあ、聞かないよ。ところでこの学園の授業はいつから始まるんだい?」
「授業…… ですか?」
そう聞かれた月子は少し悩む表情を見せた。
それはそうだ。ここは学園で月子も葵も生徒なのだから。
だが、月子とて最後にいつ授業を受けたのか、それが思い出せない。
ただ、今はまだ春休みのはずだ。それだけは間違いがない。
なら気にしても仕方がないことだ。
「だって、ここは学園だろう?」
葵は月子の反応に妙な違和感を感じる。
「まあ、そのうちはじまるんじゃないんですか。あまり気にしなくても、そのうちお知らせが来ますよ。それまでは春休みですよ」
そう言って月子は微笑んだ。
葵も月子の笑顔に満足し、それ以上追及することをやめる。
葵からすれば、月子が笑顔ならそれでいいのだ。
それ以外は些細な事でしかない。
「そうなんだ」
そう言って、葵は月子の笑顔を堪能する。
━【次回議事録予告-Proceedings.10-】━━━━━━━
不穏な女が突如現れ、ついに巧観が、事態が動き出す。
生徒会執行団の猟犬と言われた巧観の牙がつけ狙うのは誰か。
運命が蠢動し、回り始めた学園に何が起きるというのか?
いや、何も起きないのか。
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