それなりに怖い話。

くらいまどのむこう

くらいまどのむこう

　男は夜寝る前に用を足しにトイレへと行く。
　トイレには小さな窓がある。
　ちょうど男が用を足そうとすると真ん前に来る小さな窓だ。
　そこから見えるものは真っ暗な闇だけだ。

　他に何も見えない。

　トイレの中は少しオレンジがかった淡い光が付いているが、そのすぐ先、窓の先は真っ暗闇だ。
　男は特に何も考えずに、寝る前に用を足すとき、その窓の外の闇を見ていた。

　昼間なら、隣の家の壁が見える場所だ。
　数メートル先には壁があるはずなのだが、今は闇しか見えない。
　その闇は永遠と続くかのように深い闇だ。
　一寸先も見えない。

　ただ、稀にその闇から視線を感じるときがある。
　男は気のせいだと、そうわかっていても、そう感じてしまう時がある。

　男が用を足し終わり、トイレから出るときだ、視線を強く感じたので、トイレの電気を消した後、つい振り返ってしまう。

　そこには確かに、暗い窓があるだけだ。
　他には何も見えない。
　男は、少し気になってトイレの電気をつけ直してみる。
　それで何かわかるようなことはない。

　窓の先にには闇しかない。
　そこで男も気づく。

　ああ、闇が自分を見ていたのか、と。

　窓の外には闇しかないのだ。
　なら、自分を見ている視線は、やはり闇の物なのだと、男はそれを理解する。

　だから、男はその視線を気にするのを辞めた。
　気にしても仕方のないものなのだから。