それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
上 下
293 / 321
くらいへや

くらいへや

しおりを挟む
 少女は俗にいうところの、ひきこもりだった。
 暗い部屋に引きこもり、パソコンとベッドを往復する日々を送っていた。

 少女が引きこもった原因は、まあ、色々あるのだがそれはこの話とは関係がない。
 少女は朝夕に関わらず、雨戸も開けることなく電気もつけることなく、暗い部屋に居続けた。
 無論掃除などもしない。
 部屋は時がたつにつれて荒れ果てて、ゴミに埋もれていく。

 それでも、少女にとっては外の世界よりも居心地が良かった。
 少なくとも自分を気づつけるものはこの暗い部屋にはいなかった。

 今日までは。

 少女はパソコンの前の椅子に膝を抱えて座り込んでいた。
 足を降ろさないのは机の下が既にゴミで埋まっているからだ。

 パソコン、とはいえ、それを使ってゲームをするわけではない。
 少女はゲームが嫌いだ。
 それが少女がいじめられるきっかけとなったからだ。
 だから、少女がゲームにはまることはない。

 パソコンでネットに繋がり、少女は暇を潰す。
 少女でも読める漫画を読み、小説を読み、動画を見て時間を潰す。

 ただそれだけの毎日のはずだった。

 ふと少女は視線を感じる。
 あるはずのない視線を感じる。
 少女は暗い部屋を見回すが誰もいない。
 いや、いる。
 脱ぎ散らかした服の山に、もう行かなくなった学校の制服の下に、何かが潜んでいる。
 それほど大きくはない。

 少女ははじめそれが子犬では、と、そう思えた。
 けど、子犬などがいるわけはない。
 仮にいても鼠くらいだろう。

 だが、それは鼠などではなかった。

 それは脱ぎ散らかされた服の下から手を伸ばし始めた。
 人の手だ。
 あり得ない。
 確かに色々な服が脱ぎ散らかされ山のようにはなっているが、人が隠れられるほど大きくはない。
 だけど、そこから手が伸びてきているのだ。
 人の手がだ。
 長い手だ。
 パソコンの画面の光に照らされた青白く、そして照らされてない部分は真っ黒な手だ。

 それが少女目掛けて伸びてきている。
 少女は咄嗟にベッドの上に飛ぶように移動して、布団の中に潜り込む。
 少しジメジメとした分厚い布団が少女を守る。

 だが、手は少女にむかい伸びて来る。
 そして、布団を掴み引っ張る。

 少女は悲鳴を上げようとするが声がまるでない。
 しばらく誰とも喋ってなかったからだ。
 少女は泣きながら布団を奪われないように強くつかんで抵抗する。

 だけど、恐怖で力が上手く入らない。
 布団はずりずりと引きずられ、ベッドの上から落ちていく。
 布団を取られた少女は最後の力を振り絞り、部屋の外へと逃げ出そうとする。
 そして、部屋の鍵を開け、部屋の外に出る。

 昼間だった。

 陽の光が廊下に差し込んでいる。
 少女は自分の部屋を返り見る。
 もう手は見えない。

 少女は少し迷いはしたが、自分の部屋に戻り雨戸を何カ月ぶりかに開けた。

 それだけで少女は親に褒められた。感謝された。
 少女は自分の部屋に引きこもることはなくなった。
 あの手がトラウマとなっているからだ。
 少女は暗い部屋にはあの手が出ると思い込んでいる。
 だから、今は朝夜に関わらず、寝る時でさえ電気だけは消さなくなった。

 それはともかく少女の生活は少し変わった。
 活動場所が自分の部屋から居間に変わっただけだが。

 それでも少女の両親は娘の顔を見れるようになり、幾分安心したという。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

催眠アプリを手に入れたエロガキの末路

夜光虫
ホラー
タイトルそのまんまです 微エロ注意

追っかけ

山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。

【1行文ホラー】世の中にある非日常の怖い話[完結済]

テキトーセイバー
ホラー
タイトル変更いたしました 恐怖体験話を集めました。かなり短めの1行文で終わります。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

意味が分かると怖い話 考察

井村つた
ホラー
意味が分かると怖い話 の考察をしたいと思います。 解釈間違いがあれば教えてください。 ところで、「ウミガメのスープ」ってなんですか?

処理中です...