それなりに怖い話。

只野誠

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はいすいこう

はいすいこう

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 女が風呂に入ってシャワーを浴びていると、ゴボゴボと音を立てて排水口に水が流れ込む。
 もう古いアパートだ。
 音が鳴るのもわかる。
 大きく少し臭う排水口だ。

 でも、それはいつものことだ。
 特に女にとって気にすることではない。

 だが、その日は違った。
 ゴボゴボゴボ、という音に紛れて、おーい、おーい、と人の声が、確かに人の声が排水口から聞こえて来たのだ。
 水が流れているので、聞こえにくいが確かに人の声だ。
 恐らくは男だが確信を持てるほど、その声は鮮明ではない。
 だが、人間の声であることは確かだった。

 流石に女も驚く。
 そして、排水口に視線を向ける。
 大きいとは言え、人が入れるはずもない。
 それどころか、腕を突っ込むことすらできやしない。

 女は一瞬だけパニックになるが、排水口、その先の排水管を通じてその先の人の声が聞こえているのだと思った。
 なので、女は浴びていたシャワーを止め、排水口に向かって返事をする。
 どうかしましたか? と。
 女も馬鹿げている、そう思いつつも排水管の先の人物が何か困っていたらと、そう思ってただ。
 だが、返ってきた返事は女の想像していない物だった。
 シャワーを止めたせいか、先ほどよりも少しだけ鮮明に聞こえる。

 私は排水管に住むものだが、最近汚れが酷い、掃除してくれないか。

 そんな言葉だった。
 女はその言葉を理解するのに時間がかかった。
 その言葉の意味を理解してなお、意味が分からなかった。

 排水管に住んでいる。
 直径十センチにも満たない配管の中に住んでいる。
 理解できるわけがない。

 恐怖よりも先に理解できないと言った感情の方が女の中で勝る。
 そこで、女は普通に掃除すればいいのですか? と聞き返してしまう。
 そうすると、掃除の方法は任せる、とにかく臭くて叶わん、掃除してくれ、と返事が返ってきた。

 女もそう言えば、排水管の掃除などしばらくしていなかった、そう思い返す。
 そして、素直に、明日配管用の洗剤を買ってきます、と答える。
 そうすると、頼んだぞ、と返事が返ってきた。

 女はお風呂の、体を洗っていた途中だったが、泡だけ流してお風呂を出る。
 そして、体を拭き、髪の毛を乾かしながら考える。
 無論、答えなど出るわけがない。

 だが、排水口から聞こえる声は悪い物にも思えなかった。
 それに排水管の掃除をすること自体悪い頃ではない。

 そんなことを考えながら、女はその日は眠りにつく。
 次の日、排水管用の洗剤を買ってきた女はそれを使い、排水口と排水管を綺麗に掃除する。
 たしかにかなり汚れていた。
 これではさぞ臭っていたことだろう。

 掃除をし終えて水を流す。
 いつもより多めに流す。
 掃除し終えると排水口から漂う臭いもなくなっていた。
 
 女はそれから排水口の掃除を定期的にするようになった。
 排水口から声が聞こえてくることはもうない。

 だが、やはり女は結局排水口の声が何だったのかはわからないままだ。



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