それなりに怖い話。

只野誠

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ごうう

ごうう

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 空が鳴る。
 厚く雲に覆われた空がゴロゴロとなる。

 少年はもうすぐ雨が降ると、予感していた。
 激しい雨が、すぐに止みはするが、とても激しい雨が、雷と共にやってくると。

 少年は胸を高鳴らせた。
 雷が激しく鳴っているのに?

 少年は、今、家の窓から外を見ているからだ。
 安全な家の中から、空が鳴り、空が光るのを見ていたからだ。

 雨も雷も、少年には届かない。
 だから、少年は安心し、胸を高鳴らせて、この少しの非日常を楽しんでいるのだ。

 空が光る。
 少し遅れてゴロゴロゴロと空が鳴る。
 雷が落ちるのを、少年は今か今かと待ちわびる。

 するとすぐに空が光、閃光が天から地へと落ちる。
 即座に地を揺らすような爆音と地響きを響き渡らせる。

 かなり近くに雷が落ちたようだ。

 少年がその衝撃に感動していた時だ。
 家の電気が一斉に消える。

 今まで明るく安全だった少年の家にまで、非日常はその手を伸ばしてきたのだ。
 少年は停電に驚く。
 暗くなった室内を見る。
 電気がついていない家は、外よりも暗く薄気味が悪い。

 薄暗くなった室内に少年が目を奪われていると、少年の後ろで空が光、また轟音と地響きを聞く。
 雷がまた落ちたのだ。

 その時、確かに少年は見た。

 雷の閃光に照らされて、窓に映る二つの影を。
 一つは少年のものだ。
 では、もう一つは?

 少年は恐る恐るもう一つの人影の方を見る。
 そこにはなにかがいた。
 窓に張り付いて少年を凝視するなにかがいた。
 それは雨合羽を、黄色い雨合羽を着た何かだった。
 少年は驚く。
 そして、少年は、その黄色い雨合羽を着た何かにむかい、誰ですか? と声をかける。
 だが、少年の家はマンションで、ここは五階だ。
 普通に考えれば、人が入り込める場所ではない。
 確かに黄色い雨合羽を着ているなにかが立っている場所はベランダだ。
 人は立てる。
 でも、ここは五階なのだ。
 そこに雨合羽を着たようなものが入り込めるはずもない。

 そして、その黄色い雨合羽を着たなにかは、少年の問いには答えない。
 ただただ、ニヤニヤと黄色い雨合羽を着たなにかは少年を凝視するだけだ。

 雨がぽつぽつと降り始める。
 それはすぐに豪雨となる。
 少年の家の窓を叩きつけるような、そんな豪雨となる。

 黄色い雨合羽を着たなにかも雨に濡れる。
 そうすると、その黄色い雨合羽は雨に打たれて溶け始める。
 まるで絵具が洗い流されるように、雨に打たれその黄色い雨合羽を来た何かは溶けて消えていく。

 少年はその様子をただ茫然と見ていた。
 人のような何かが雨に濡れ、溶けていく様をじっくりと見てしまったのだ。

 黄色い雨合羽を着た何かが全て洗い流された後、家の電気が着く。
 その頃にはもうベランダには何も残っていなかった。

 それ以来、少年は雨に濡れるのが極端に怖くなった。
 自分も溶かされるのではないか、洗い流されるのではないか、そう考える様になったからだ。



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