それなりに怖い話。

只野誠

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たなのあいだ

たなのあいだ

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 男は眼が悪い。
 悪いと言ってもコンタクトレンズや眼鏡をすれば、普通に見える程度の視力だ。

 ただそれらがないと、大体の物はぼやけて見える。
 そんな男の話だ。

 男は夜遅くまでパソコンで作業をしていた。
 時計を見ると深夜の一時になろうかと言う時間だ。
 男はパソコンでの作業を止め、寝る準備を始める。
 明日も仕事だ。
 それを想うと寝るのも気が重い。

 男は眼鏡を取り机の上に置き、洗面台にむかい、歯を磨く。そして、トイレに行き自室に戻る。

 男の部屋には物が多い。
 整理整頓されてないわけじゃないが、物が多く少し雑多で乱雑だ。

 男も自分の部屋に入るたびにそう思うのだが、寝る前にそんなことを考えても仕方がない。
 男は部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。
 直前までパソコンの画面を見ていたせいか、なかなか男は寝付けない。

 ふと、暗闇の中で男は眼を開く。
 何か気になるものがあったわけではない。
 ただただ、なんとなくベッドに横になりながら目を開いてしまった。

 うっすらと部屋と家具の輪郭が見えるほどの暗さ。
 あちらこちらから、電子機器の光が見え隠れする。

 ルーターの電源は絶えず点滅していて、少し目障りだ。

 男がそんなことを考える。
 そして、目を再び閉じようとする。

 その時だ。
 男は気づく。

 いくつかある棚、それの一つの四段目にぼやっとした黄色い光が並んで二つ見える。

 あんな所に光を発するような物があったかと、男は思い返すが男の記憶ではそんなものはない。
 と、言うよりあの辺りにはコンセントがなかったので、そもそもそのようなものは置いてない。

 蓄光型の蛍光塗料でもあったか、と思うがそんな感じの光り方ではない。
 豆電球より小さい麦電球、小学校の理科の実験でしか見たことの無いような、そんな電球のような光り方をしている。

 なにか電池で光る様なものでもあったのか、と男は思う。
 それも電池が切れかけているのか、光り方が不安定だ。
 光が弱まったり強まったりを不定期に繰り返している。

 その光を見ていて男は不思議に思う。
 その二つの光の距離の感覚は変わっていないのだが、なぜかその光が動いているように見える。

 棚の中を行ったり来たりしているように見える。
 モーターか何かで動くおもちゃなら、駆動音くらいはしそうなものだが、それすら聞こえてこない。

 男は不思議に思って、起き上がり部屋の電気を着ける。
 そして棚の方を見る。

 それは黒く丸い塊だった。
 だが、眼鏡をしていない男にはそれが何だかよくわからない。

 男は目を細めて凝らす。
 そうして、ようやく理解する。

 それは人の顔だ。
 土色をした人の顔で、眼だけがわずかに光を発している。

 それが棚の中で、棚の敷居に当たり、行ったり来たりしている。
 男はそれを不気味に思いながらもじっと見つめる。

 恐怖はあった。
 いや、それしかなかったのかもしれない。
 男はそれを顔と認識すると考えるのやめて固まってしまったのだから。

 声も出せずただ立ち尽くし、棚の中で行ったり来たりする顔を見続けた。
 やがてその顔は解けるように消えていったように男には見えた。
 男の視界はぼやけているので、それすらもよくはわからない。

 その後、男は茫然としていたが、時計が二時近い時間を表示していたので、男は部屋の電気を消し、ベッドにもぐりこんで目を閉じた。
 今度は暗闇の中で目を開けることはしない。



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