それなりに怖い話。

只野誠

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ちょきんばこ

ちょきんばこ

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 少女は貯金箱を持っている。
 今時、珍しい陶器製の貯金箱。
 中身を取り出すには割るしかない、そんな貯金箱だ。

 少女はその貯金箱に小銭を入れていった。
 財布の小銭入れに入りきれないような小銭を入れていく。
 いつしか、そこそこの重さになる。

 ただこの貯金箱を開けても大した金額にはならないことは少女にも分かっている。
 入れている硬貨はだいたい一円や五円なのだから。
 それでも貯金箱を振るとジャラジャラと音がする。
 少女はその音を聞くのが好きだった。

 お金が必要以上に好きな訳ではない。
 少しずつ貯めていった事実が好きなだけだ。
 だから、この貯金箱を少女が割るようなことはない。そのはずだった。

 ある時から、貯金箱を振るとジャラジャラという小銭の音のほかに、カランコロンという乾いた音が聞こえるようになっていた。
 乾いて響くような、硬く軽いものが入っているような、そんな音が聞こえるようになった。

 少女はその音が気になりはしたものの、貯金箱を割るわけにもいない。
 貯金箱の硬貨を入れる穴から覗き込むが見えるわけもない。

 不思議に思いつつも少女にできることはなかった。

 ある日、確か雨の降る日だ。
 少女が自分の部屋にいると、カランコロンという小さな音が聞こえてきた。
 音の出所を探すと、どうも貯金箱からだった。
 貯金箱の中で何かが動いている、動いているというか、暴れている。
 貯金箱自体もたまに少しだけだが動いている。

 まず少女は貯金箱の中に虫が入ってしまった、そう考えた。
 どうしようか、少女が悩んでいると、貯金箱の硬貨を投入する穴から、白いモヤモヤのようなものが出てきた。
 少女がそれに気づき、それを観察すると、その白いモヤモヤも少女に気づき、すっと貯金箱の中へ戻っていった。

 少女は今見たことを両親に伝えた。

 両親はあまり信じなかったが、貯金箱の中に虫でも湧いていたら、と、少女の許可を得て貯金箱を割ることにした。
 虫が巣くっていることを想像して、大きめのタライの中で少女の父親は貯金箱を金づちで割った。

 中から出てきたものは、少しの小銭と、白いなにかの欠片だった。

 まず明らかに小銭の量が少ない。
 小銭を合わせてせいぜい百円あるかないか、それくらいの金額しかない。
 それも不思議なのだが、白いなにかの欠片だ。
 これが全く意味が分からない。

 その欠片の角はすべて丸みがあり、貯金箱の一部ではないことが一目で見えるし、そもそも、それを構成する素材が違う。
 それは軽く硬い。そして、からからに乾いている。
 
 骨と言えば骨のような、そんな物だった。
 ついでに、虫らしきものは一匹もいない。
 
 少女は貯金の中身が減っていることに泣いた。
 父親は仕方なく、少女に新しい貯金箱を買い与え、自分の財布からいくらかその貯金箱へ入れてやった。

 父親は少女の貯金箱から出てきた白い物体をしばらく机の中にいれ保管してしたのだが、いつの間にかにそれは消えていた。
 あれが結局何だったのか、それは少女にも父親にもわからない。

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