それなりに怖い話。

只野誠

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さけのかめ

さけのかめ

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 祖父の家には立派な瓶がある。
 広間の出窓に置かれた立派な瓶がある。
 茶色く大きなとても年季の入った瓶だ。
 それには少年にはどの種類かもわからないが酒が入っている。

 少年が祖父の家に遊びに行くと宴会が開かれ、その瓶の酒が振舞われる。
 大人たちはその酒をありがたがって飲んでいる。
 ほんのり茶色く濁ったその酒を。

 大人たちが宴会に夢中になっていると少年は暇になる。
 たまに少年に酒を注がせようと声を掛けられる、それくらいだ。
 今も少年はグラスを受け取り瓶の前に居る。

 瓶の蓋を開ける。
 コルクでできた蓋で、この瓶用に特注で作らせたものだと祖父が自慢していた。
 蓋を開けるとムワッとした酒の匂いが少年の顔にかかる。

 少年は何でこんなものを大人たちはありがたがって飲むんだ、と思いつつも瓶用の長いお玉杓子で酒をすくってグラスに注いでやる。
 ほんのり茶色く、琥珀色に濁っている酒だ。
 少年が匂いを嗅いでも、到底美味しそうに思えない。
 それを持って祖父のところへ少年は帰る。
 そうすると祖父は少年の頭を撫でてにこりと笑い、
「おまえも味見するか?」
 と声をかけた。
 少年は首を横に振る。
 とてもじゃないがおいしそうではないし、飲みたいとは思わなかった。

 しばらくして、また酒を瓶から注いでくれと祖父に少年は頼まれる。
 少年は素直に祖父からグラスを受け取り、瓶のところまで行く。
 瓶の蓋を開ける。
 そして、今まで酒の匂いが嫌いだったのでしていなかったが、瓶の中を覗き込む。
 酒の匂いが顔にかかる。
 それと同時に瓶の中に何かがあることに気づく。
 人の顔のようだが、人ではない。それは面だ。お面が瓶の中の酒の水面に映りこんでいる。
 老人がにこやかに笑っているお面が少年には見えたのだ。
 少年は驚き、後ろ側に尻もちをつく。

 少年は知らないだろうが、少年が見たものは能面の翁面というものだ。
 
 少年は瓶の中にお面がある、と叫んだ。
 祖父が寄って来て少年の頭を撫でる。
 そして、少年に告げる。
「おまえ、あの面が見えたのか? あれは酒の神様だ。おまえは良い呑兵衛になるぞ」
 祖父は上機嫌にそう言った。

 少年は大人になり確かに呑兵衛になった。



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