それなりに怖い話。

只野誠

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のびるて

のびるて

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 少女は受験勉強を夜遅くまでしていた。
 もう十二時も周り、そろそろ寝ようかと少女がそう考えていた。
 寝る準備をするために、勉強机から目を離し時、少女は声も出せずにギョッとした。

 自分のベッドの下から、手が出てきている。
 
 白い手だ。
 細く青白い手がゆっくりとまっすぐ、ベッドの下から出てきている。
 少女は声も出せずに固まり、それをじっと凝視していた。

 すぐにそれが人間の手ではないことがわかる。
 その手は人間のものにしたら長すぎる。
 また関節がない。
 腕の部分は棒のようにも思える。
 そんな手なのだから。

 その手はまっすぐ伸びていく。
 それが少女に向かいまっすぐ伸びてくるのであれば、少女もすぐに叫び声をあげていたかもしれない。
 だけど、そのはベッドの下からまっすぐ伸び、向かいの壁を目指すかのようにゆっくりと伸び続けている。

 その手は若干ではあるが、震えるように、ただ手の形が変わるわけでもなく伸びていく。
 既に出ているだけでも腕の部分が一メートル以上ある。
 青白く細い腕がだ。

 それが今もベッドの下から伸びている。

 ついにその手がベッドの向かいの壁に到達する。
 三メートルはあるかと思えるその手は壁を触り始める。
 ペタペタと触り、壁を確かめる。
 そうしたら、今度は手がベッドの下へと戻り始めた。
 ゆっくりとゆっくりと。

 少女はそれを凝視しながら、その場に立ち尽くす。
 もし音でもなって、手に気づかれでもしたらと思うと、体が震えだしそうになる。
 それを必死にこらえて、手が完全にベッドの中に隠れるのを待った。

 そして、手が隠れた瞬間、少女は走り出す。
 部屋から出て両親の寝室へ逃げ込む。

 そして、ベッドの下から手が出てきたことを告げる。

 両親が慌てて少女の部屋に行き、まず父親が遠くからベッドの下を覗き込む。
 何もいない。
 季節外の洋服をしまっている収納ケースが二つ置いてあるだけだ。
 人が隠れられるような場所もない。

 父親は念のため、他の隠れられそうな場所を探し出す。
 そこで母親が来てベッドの下を覗き込む。

 母親は収納ケースと収納ケースの間を見てしまった。
 母親は悲鳴を上げる。

 父親が慌てて収納ケースをベッドの下から出すがそこにはもう何もいなかった。
 その日は母親は収納ケースと収納ケースの間に何が居たか少女には話さなかった。

 その日以来、少女は両親の部屋でしばらくは一緒に寝るようになり、母親の勧めで少女の部屋は別の部屋に移され、少女の部屋だった部屋は空き部屋となった。

 母親が何を見たのか、少女が知ったのは少女の高校受験が終わってからだ。
 母親が収納ケースと収納ケースの間に見たものは、無数の手で構成された人間の顔のような物だったとのことだ。
 それが衣装ケースの間に潜んでいたのだ。
 問題はその衣装ケースと衣装ケースの間は五センチ程度の隙間しかなかったことだ。
 そのような隙間にそんなものがいれば誰だって悲鳴くらい上げるものだ。



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