それなりに怖い話。

只野誠

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だんごさま

だんごさま:02

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 本来は一週間ほどその親戚の家に泊まる予定だったのだが、その日の家に少女とその母は帰宅することなった。
 危険な神様ではないが、念のためと言うことで。
 それとこちらの地方、特に海には近づかないほうが良い、とまで言われた。

 まだ幼い少女にはよく理解できなかったが、昨日、来ていたあれは実はあまり良い物なのかもしれない、と少女も当時は思うようになっていた。

 ただ少女は普段は海のない県に住んでおり、その事件があって以来海自体にもいかなくなっていた。
 少女が次に海に行ったのは、少女が高校を卒業し、卒業旅行で行った時だ。
 本当は沖縄にまで行きたかったが、予算不足から別の場所、少女の母の妹、その旦那、要は少女の親戚の例の田舎がある地方が選ばれた時だ。

 県名を聞いて少女もそのことを思い出したが、もう何年も経っているし、そんなものを今はもう信じていない。
 あれもただの夢だったのだと、今は思っていた。
 それに同じ県ではあるが場所自体はかなり離れている。
 少女もそれほど気にすることもない。

 一日目は特に海に入らずに観光をし、二日目から少女達は海で遊んだ。

 その夜のことだ。

 少女達はそれなりのホテルに泊まっていた。
 参加者が全員女子であったため、安宿ではなく親がそれなりの場所を選んだ結果だ。

 海沿いのホテルだけあって海側はの窓は広く取られている。
 それなりに大きな窓だ。
 夜はカーテンで隠しているが雨戸などはない。
 そんな部屋だ。

 深夜少女は目を覚ます。
 やはり窓側が明るい。
 月明かり、と言うだけでは説明できないほど明るい。
 そこに人影が現れる。

 少女達が泊まっている階は五階だ。
 ベランダ所か何のとっかかりもないような場所に、千鳥足のように揺れながら黒い人影がカーテンに映し出される。
 しかも、そのカーテンは遮光カーテンだ。
 普通ならカーテンに人影など映し出されるわけはない。
 訳はないのだが、少女には実際に人影が透けて見えたのだと言う。

 その人影はやはり人間のような足があり、体は腹の部分まででその上は魚の頭のようにとんがっていた。
 その人影は少女の記憶と同様に、窓のすぐ近くまで来て座り込む。
 もちろん座り込む場所などもないはずなのだが、少女にはその人影が座り込んだように見えたのだ。

 そして、くぐもった声で、水の中から語り掛けるような泡立った声で、うがいをしながら話すような不快な声で、蛙の鳴き声のような響き渡る声で話しかけて来た。

 やはり、その者はだんご様の使いで、ダンゴ様は少女を嫁にしたい、とまだ考えている。
 どうにかダンゴ様の嫁になって貰えないか。
 神の嫁など大変名誉なことだ。

 昔ながらの言葉と地方の方言が入り混じった言葉でそう少女は言われた。
 少女はそれに対して、断ったはずだ。
 嫁になる気はない。
 と、きっぱりと伝える。

 そうするとその使いの者は、そうかそうか、と言葉を残してあわただしく去っていった。

 次の日も海で遊ぶ予定はあったが、少女は海には入らず砂浜で過ごした。
 にもかかわらずその日の晩に、少女はまた目を覚ます。
 またカーテンがちゃんとしまっているにもかかわらず窓の外が明るい。

 けど、その日はいつもの人影ではなく、巨大なうごめく何かとしか言えない、そんな巨大な影が見えていた。
 ただ聞こえてくる声は昨日の声と変わらない。

 迎えに来てやって共にいこう、そんなことをやはり昔の難しい言葉で言われる。

 少女は、無理です、ごめんなさい、と泣きながらそう言うと、光が徐々に少なりあたりが暗くなっていった。
 そして、かすかに消えるような声で、許してほしければ、海に握り飯を供えよ、と少女の耳に聞こえた。

 少女は朝になったら、すぐにコンビニへ走り、おにぎりを買えるだけ買って、近くの浜辺は人の目が気になったので少し歩いた先にある岩場まで行って、そこにビニール袋ごと大量のおにぎりを置いた。
 少女は両手を合わせて、これで勘弁してください、と祈ったときだ。

 少女の足元をぬるりと動く何かが触っていった。
 少女が驚いて目を開けると、大きな蛸が少女の足にその触手伸ばすように居た。

 少女が慌てて逃げると、少女がいた場所に大きな波が覆い被さりその大きな蛸や大量のおにぎりをさらって行った。

 それで約束は守られたのか、以後、少女が海に入っても夜に何かが少女を訪ねて来ることはなくなった。
 ただあの蛸が少女を助けたのか、逆に海へいざなおうとしていたのか、それはわからない。
 それでも少女は大人になった今でも年に一度は海へ行き、おにぎりを供えているのだと言う。



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