それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
上 下
23 / 370
おはかのまえ

おはかのまえ

しおりを挟む
 A子は毎日三十分もかけて自転車通学をしていた。
 バスもあるが、学校行きのバスが止まるバス停までがまず遠い。
 というのも、通っている高校が森と田んぼのど真ん中にあるためだ。

 A子が住んでいるところは普通の住宅地なのだが、その高校がある場所はそんな場所だった。
 そちらに行くバス自体の本数も少なく、そのバス停自体もAの自宅からは遠い。
 ついでに電車だと、高校の付近に駅はなく更に遠回りになり余計に時間が掛かる。

 そんな場所にある高校にA子は三十分も時間をかけて自転車で通っていた。

 ある程度通っていると近道も分かってくる。
 林の中の遊歩道的なところを突っ切るルートもあるが、女であるA子はそのような場所は避けていた。
 A子が通るルートはなるべく人通りがある通りを通る。

 それが最低条件だ。
 ただどうしても高校の付近はその条件を満たしにくかった。
 なにせ畑と森しかないようなところに建てられている高校なのだから。

 それでもA子は比較的人通りの多い場所を通る。
 のだが、どうしても一カ所、近道をする上で通らなければならない場所があった。

 それがお墓の前だ。

 ぽつんと三基だけ、お墓が立っている。
 一つはとても古いお墓。もう一つは大きく立派なお墓。もう一つはそれらの中間のような、そんなお墓だった。
 それが三基ならんで立っている。
 その前の道も地面が露出した、いうならば泥道になっている。
 その道を必ず通らなくてはいけない。
 ついでに付近には街灯もない。
 A子も暗くなるとその道は使わずに一番の大通りを通って帰る。
 ただ大通りと言えど歩行者用の道路がある様な道ではない。
 どちらかというと大型のトラックが道すれすれを走っていく、そんな危険な通りなのだ。
 だから、普段は大通りを避けてA子は帰っていた。
 日が落ちるほど暗くなるとしかなく遠回りの大通りで帰っていた。
 
 大通りを避け近道を使うなら、三つ並んだお墓前を通らないといけない。

 ついでに、お墓のある方は、お墓以外雑木林、お墓の前は田んぼ、お墓と田んぼの前を泥道が通っている。
 もちろん街灯もないもない。
 そんな道だった。
 幸いなことにその泥道は精々三十メートルくらいでそれほど距離はない。
 すぐに民家と街灯と、ついでになぜが二頭だけ飼われている牛舎がある場所に繋がっている。
 そこさえ、お墓の前さえ通れればそれほど問題のない近道なのだ。
 
 それだけならいいのだが、たまにだがその墓の前を通ると、自転車のライトが消えるときがあった。

 その頃のライトは、自転車の前輪を回すことで着くタイプのライトであったため、泥道を通ることで車輪に泥が付着しそれでライトの発電機が空回りをしてライトが一時的につかなくなる、とA子は父親からそう説明を受けていた。
 そして、それをA子も信じていた。
 なので、それほど気には止めてはいなかったのだが、何度かそのお墓の前を通るときだけ自転車のライトが消えると言うことがあった。
 それもあってA子は暗くなると、その近道は使わない事にしていたのだ。

 その日は部活で遅くなった。
 日も完全に落ち真っ暗だった。
 ただその日は部活で非常に疲れており、A子は近道で帰りたかった。
 ちょっと真っ暗な道を通るだけで、後は車もそれほど通らない道を自転車で通るだけだ。
 A子は近道を使うことを考えていて、実際に近道に行くルートを通ってしまった。

 大通りを避け、一応は舗装さえた田んぼ道に入り、小さな橋を通り、林の脇道を行き、お墓の前を通る。
 ただそれだけだ。

 お墓の前の泥道に差し掛かった時、その日も自転車のライトが消えた。
 A子は泥がついて、空回りしているだけ、と自分に言い聞かせてお墓の前を通り過ぎる。
 その時、どこからともなく、

「眩しいぞ」

 という声が聞こえて来た。
 野太い男の声だった。
 しかも、それは高い位置、とてもじゃないが、人がいるはずもない、高い、何もない位置から聞こえて来たのだ。
 A子は焦りながらも自転車を漕ぐことはやめない。
 すぐにお墓の前を通り過ぎ、民家がある場所へとたどり着く。
 その頃には自転車のライトも勝手に直っている。

 それ以来、その近道は日が暮れてなくともA子は使わなくなった。



 
しおりを挟む
▼【作品集】

▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。


それなりに怖い話。
さっくり読める。


絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。



▽【完結済み】

一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
五人の魔法少女の物語。
最初から最後までコメディ。


四十二歳の冴えない男が、恋をして、愛を知る。
八万字程度、四十一話
田沼という男が恋を知り、そしてやがて愛を知る。


竜狩り奇譚
八万字程度、十六話
見どころは、最後の竜戦。


幼馴染が俺以外の奴と同棲を始めていた
タイトルの通り。
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

【実体験アリ】怖い話まとめ

スキマ
ホラー
自身の体験や友人から聞いた怖い話のまとめになります。修学旅行後の怖い体験、お墓参り、出産前に起きた不思議な出来事、最近の怖い話など。個人や地域の特定を防ぐために名前や地名などを変更して紹介しています。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

処理中です...