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それはそこにいる
それはそこにいる:06
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陽の光があろうと、他に人がいようと、お構いなしに、それは様々な場所に千尋の前に現れた。
例のポーズをして、微動だせずに、先回りしているかのように現れるのだ。
交差点の先に、鏡の中に、窓の中に外に、道の先に、振り返るとそこに、階段の上に下に、改札の向こうに、どこにでも。
千尋は本格的に錯乱し、安全な場所はお札に守られている自室だけだと思うようになっていた。
部屋に戻り、部屋に篭るしか自分は助からないのだと思っていた。
千尋は例の存在におびえて逃げながらも、何とか最寄り駅の近くまで返ってこれていた。
既に昼は回っている。
朝から逃げ回り炎天下の中を千尋は走り続けている。
千尋の精神も体力も限界を迎えようとしていた。
恐る恐る周りを注意深く観察し、あの存在がいないことを確かめながら、千尋は自分のアパートへと向かった。
いつものコンビニを超えて、例の廃神社に差し掛かる。
千尋には真昼間にもかかわらず、その廃神社が薄気味悪くて仕方がなかった。
だが、あの存在はいない。
あの薄気味悪い女はいない。
廃神社の前にいない。
千尋は残りの体力を振り絞って廃神社の前を走り抜ける。
そして、アパートにたどり着き、震える手で自室の鍵を開ける。
電気のつけっぱなしの部屋。
開けた玄関のドアにはまだお札がちゃんとつけられている。
だが、つけられたままの電灯の下に、それは佇んでいた。
まるで待ちわびるかのように。
部屋の中に佇んでいた。
千尋はそこで限界を迎え意識を失った。
夢の中で、あの女がゆっくりと歩いて近づいて来る。
目を手で隠して、掌をこちらに見せながら。
そして、動けない千尋に顔を近づけ、その手の平を伸ばしてくる。
千尋が目覚めると頭部に酷い痛みを感じていた。
そして、真っ暗だ。
何も見えない。
そして、周りが騒がしい。
母や父、弟の叫ぶ声や泣き啜る声が聞こえる。
千尋が目覚めたことで、千尋も自分に何が起きたのか聞かされる。
自分は部屋の前で、目をくりぬかれた状態で倒れていた所を発見されたとのことだ。
くり抜かれた眼球は発見できず、目はもう見えないとのことだ。
それを聞いた千尋は安心していた。
もうあの存在を見ることはないのだと、安心していた。
これで、あの存在から解放されたのだと。
その夜、千尋は夢を見る。
いや、夢だか現実だか、それを千尋に区別することはもうできない。
それは耳元から感じられた。
生臭いのに冷たい息。
それが千尋の耳に吹きかかる。
そして、ボコボコと言う水の中から言うような、かすれたような、泡立つような、聞き取りずらい、そんな声で確かにそれはそう言った。
「づぎはみみをじょうだい」
例のポーズをして、微動だせずに、先回りしているかのように現れるのだ。
交差点の先に、鏡の中に、窓の中に外に、道の先に、振り返るとそこに、階段の上に下に、改札の向こうに、どこにでも。
千尋は本格的に錯乱し、安全な場所はお札に守られている自室だけだと思うようになっていた。
部屋に戻り、部屋に篭るしか自分は助からないのだと思っていた。
千尋は例の存在におびえて逃げながらも、何とか最寄り駅の近くまで返ってこれていた。
既に昼は回っている。
朝から逃げ回り炎天下の中を千尋は走り続けている。
千尋の精神も体力も限界を迎えようとしていた。
恐る恐る周りを注意深く観察し、あの存在がいないことを確かめながら、千尋は自分のアパートへと向かった。
いつものコンビニを超えて、例の廃神社に差し掛かる。
千尋には真昼間にもかかわらず、その廃神社が薄気味悪くて仕方がなかった。
だが、あの存在はいない。
あの薄気味悪い女はいない。
廃神社の前にいない。
千尋は残りの体力を振り絞って廃神社の前を走り抜ける。
そして、アパートにたどり着き、震える手で自室の鍵を開ける。
電気のつけっぱなしの部屋。
開けた玄関のドアにはまだお札がちゃんとつけられている。
だが、つけられたままの電灯の下に、それは佇んでいた。
まるで待ちわびるかのように。
部屋の中に佇んでいた。
千尋はそこで限界を迎え意識を失った。
夢の中で、あの女がゆっくりと歩いて近づいて来る。
目を手で隠して、掌をこちらに見せながら。
そして、動けない千尋に顔を近づけ、その手の平を伸ばしてくる。
千尋が目覚めると頭部に酷い痛みを感じていた。
そして、真っ暗だ。
何も見えない。
そして、周りが騒がしい。
母や父、弟の叫ぶ声や泣き啜る声が聞こえる。
千尋が目覚めたことで、千尋も自分に何が起きたのか聞かされる。
自分は部屋の前で、目をくりぬかれた状態で倒れていた所を発見されたとのことだ。
くり抜かれた眼球は発見できず、目はもう見えないとのことだ。
それを聞いた千尋は安心していた。
もうあの存在を見ることはないのだと、安心していた。
これで、あの存在から解放されたのだと。
その夜、千尋は夢を見る。
いや、夢だか現実だか、それを千尋に区別することはもうできない。
それは耳元から感じられた。
生臭いのに冷たい息。
それが千尋の耳に吹きかかる。
そして、ボコボコと言う水の中から言うような、かすれたような、泡立つような、聞き取りずらい、そんな声で確かにそれはそう言った。
「づぎはみみをじょうだい」
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