学院の魔女の日常的非日常

只野誠

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西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由

西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由 その5

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 宿に泊まり日が変わると、町の中でも闇の小鬼の噂が流れているのをミア達も耳にした。
 安宿の食堂でさえ、ひそひそとその話をしている者達もいる。
 そんな話を聞きならもミア達が朝食を取っていると、探したぞ、と声を上げて宿の食堂にエリックが入って来た。
 そして、情報交換をすると騎士隊の情報でも、昨日スティフィが言っていた事が事実だと確認できた。
「後、ニ、三日でその外道種がこの町まで来るらしいぞ」
 エリックはそう言って、エリック自身も軽い朝食を宿の食堂で注文する。
「それ、騎士隊の正式な情報?」
 と、スティフィが確認する。
 デミアス教の情報ではいつリグレスに闇の小鬼が襲来するのかまではわからなかった。
 一晩明けて新しい情報が届いたのだろう。
 後でスティフィも新しい情報を仕入れに行かなければならない。
「ああ。んで、騎士隊もこの町の防衛にもちろん参加するんだが、俺もその防衛に参加させてもらうことになった」
 エリックはそう言ってスティフィとミアを交互に見た。
 その顔はまるで、偉いだろ、褒めていいぞ、と、そう言葉には出してないが、そう言う顔をエリックはしている。
「私達は魔術学院に帰りたいんだけど?」
 だが、スティフィがそんな素直に褒めるわけもない。
 そもそも偉いとも思っていない。
 そんなスティフィは素直に希望を伝える。
「んー、騎士隊の偉い人に事情を話せば帰してくれるかもな。ただアレだよ、魔術学院からもリグレスへ援軍が派遣されるんだけど、なんかその中にカリナさんも来るらしいぞ」
 予想と違っていたスティフィの反応をエリックは全く気にせずに、新しい情報を伝える。
 その情報はスティフィをかなり驚かす。
 カリナは魔術学院でも、その姿をあまり人前には見せない。
 その巨体だけに人目を引くことをカリナ自身が十分にわかっているからだ。
 そのカリナがリグレスまでくるとは相当な事だ。
 そう言う事なのだろう、それほどの事態なのだろう、とスティフィは改めて事の大きさを噛み締める。
 闇の小鬼だと侮ってはいたが、相手は外道の王の一人だ。
 スティフィが考えているほど容易い相手ではないのかもしれない。
「あの巨女が? それは…… この町にいたほうが安全なのかしら?」
 スティフィはその情報を得て考える。
 今回は手伝えないと宣言しているディアナより、カリナの方が頼りになるのでは、と。
 ならば、魔術学院よりもカリナが来るリグレスの町の方がより安全かもしれない。
「どうしますか、スティフィ?」
 ミアもそれは考えているらしく、スティフィに確認してくる。
 だが、スティフィ自身、判断が付かない。
 スティフィとて外道の王という存在と対峙したことはない。
 どうなるかまるで想像がつかない。
「荷物持ち君が居ればいつでも逃げ出せることは逃げ出せるのよね…… もう少し情報が欲しいわね」
 そもそもカリナがこの町に来るという情報も、情報元はエリックだ。
 あまり信頼するのも危険かもしれない。
 せめて情報の裏を取ってから判断したい。
「ダーウィック教授と連絡取れてるんですよね? 判断を仰いだらどうですか?」
 スティフィが珍しく即座に判断できていないので、ミアはそんなことを提案した。
 わからないことはわかる人に聞けばいい。
 そのこともミアが魔術学院で学んだ当たり前のことだ。
「それも手ね…… ちょっと判断がつかないからそうするわ。それに、ここにミアが居ることも運命の一つな気がするわ」
 スティフィの常識で考えれば、魔術学院にいち早く行くのが正しいのだが、今回はディアナの言葉が引っかかる。
 どういう風にディアナがミアに言ったのか、スティフィにはわからないのだが、ディアナが今回は手助けできない、とミアにわざわざ伝えたことは事実なのだ。
 なら、ディアナの力を当てにするのは間違いだろう。
 その上で、数々の最近に起きたことを考慮すると、ミアが今、こうしてリグレスの町に滞在していることが運命の様にスティフィには思えて来る。
「運命ですか?」
 ミアがきょとんとした表情でスティフィに聞き返して来る。
「そうよ。それに今回は手伝えないと言ったディアナがいる学院より、巨女が来るリグレスの方が安全かもしれないわね」
 少なくとも始祖虫相手にはそうだ。
 後は闇の小鬼だ。
 聞いた話では一匹一匹は大した戦闘力はないはずだが、スティフィも実物を見たわけでも対峙したわけでもない。
 だが、それが千匹という規模になるとスティフィにも容易に判断が付かない。
「ついでに俺は西門の防衛をするぞ」
 スティフィが黙り考え込んだので、エリックは聞かれてもないことを自慢げに話す。
「東からくるのに西門なの?」
 そこへスティフィが突っ込むが、
「まあ、まだ訓練生ではあるからな」
 と、エリックは少し残念そうにそう答えるだけだ。
 エリックもまだ訓練生なので、当たり前と言えば当たり前の話だ。
 主戦場となると予想されている東門の方に、正式な騎士隊でもない訓練生を配置するわけもない。
 既に外道種との実戦経験もあるエリックは別かもしれないが、訓練生をいきなり実戦に狩りだすのは逆に足手纏いになりかねない。
「それもそうか」
 スティフィもエリックの言葉に納得する。
「私達も西門の防衛くらい手伝ったほうが良いでしょうか?」
 ミアがそんなことを言いだしたので、スティフィはあからさまに嫌な顔をする。
「魔術学院からの援軍っていつ来るの? あと他に誰が来るのかわかる?」
 このままリグレスの町にいるならば、ミアが西門の防衛を手伝うのはもう決まったような物だ。
 ミアの事だからなんだかんだ理由をつけて、防衛に参加するだろう。
 ただリグレスの町はかなり巨大な都市だ。
 千人規模の相手でも、東側から来た連中が西門まで到達することまずはないと予想できる。
 それでも、いざというときの為にスティフィは戦力の確認をしておきたい。
「えっと、まずカリナさんだろ? ローラン教授とカーレン教授が派遣された援軍の指揮をとるらしい。ハベル隊長は竜との連絡役だから来ないって聞いたな」
「ローラン教授は、まあ、そうよね。アイツは太陽の戦士団だし率先して参加するわよね。カーレン教授も良く外道狩りに参加してるわよね?」
 光の三貴神、その中の一柱である太陽神の仕える教団、太陽の戦士団に属しているのがローラン教授だ。
 時が来たら暗黒神と戦うのと同時に、外道を殲滅するのも彼らの使命だ。
 ローラン教授が参加するのは最もな話だ。
 だが、カーレン教授もそう言った荒事によく自ら参加している。
 使徒魔術が得意なだけに荒事に参加するのはわかる話だが、神を信じておらず悪魔崇拝者であるカーレン教授が率先して外道種を狩る理由はない。
 外道種が生きとし生きる者の敵と、そう決めたのは神だと言われているのだから。
「カーレン教授は真面目ですからね」
 と、ミアは勝手に断言する。
 ミアのその言葉にスティフィは曖昧な笑みを浮かべるだけだ。
「カーレン教授って、アレだろ? 悪魔崇拝者だろ?」
 エリックが何の気なしにそんなことを言う。
「珍しいわよね。神を信じずにその御使いだけを信じるとか」
 それにスティフィも同意する。
 神の御使い、その中でも自由意志を持つ御使いを、魔術的には悪魔と呼ぶ。
 一般的な意味での悪魔ではないし、その悪魔崇拝者とはまた違う。
 邪悪な存在という意味での悪魔という言葉も一般的にもちろんあるのだが、今回の場合は魔術的な分類での悪魔という意味だ。
 カーレン教授の悪魔崇拝者というのは、自由意志を持つ御使いの崇拝者というだけで、単に邪悪な存在を崇拝する人間という意味ではない。
 だが、御使いが仕えるべき神が確かに存在するこの世界で、その御使い、悪魔のみを崇拝する者は極端に珍しい。
「サリー教授もそうじゃないですか」
 ミアがそう言って反論するが、それには語弊がある。
 サリー教授は、神を恐れているだけだ。
 ミアがサリー教授を悪魔崇拝者だと勘違いしたのは、魔術的に天使というのは、御使い自体の自由意志を持たない神に管理された御使い、つまりは天使という存在は神の意志そのものなのだ。だから、神も天使もサリー教授が恐れているからだ。
 それをミアが勘違いしただけだ。
「あの人はただ神を怖がっているだけで信じてないわけじゃないわよ」
 なんだかんだで人は魔術を扱う上で、神より御力、魔力を拝借しなければ魔術を行使することはできない。
 魔術師は学者であり神官でもあるのだ。
 それは神を恐れているサリー教授とて変わりはしない。
「とりあえず今日も、この宿に居ましょうか。私に今できることはなさそうです」
 ミアは使命に満ちた目でそう言った。
 スティフィの見立てでは、すでにミアは西門の防衛戦に参加することを決めているようだ。
 スティフィが人知れずため息を吐きだす。
 防衛戦をするにしても、どうやっても殺せない外道相手にどうすれば勝ちになるのか、それはスティフィにも判断が付かない。
 それでも、いざとなったら荷物持ち君とミアに憑く大精霊の力で逃げ出すことくらいは余裕だろう。
「この宿、西門から近いし俺も泊まっていいか?」
 エリックがそんなことを聞いて来たので、スティフィは明らかに嫌そうな顔を隠さずにする。
 安宿だけあって部屋も小さい。路銀のことを考えて一人部屋を二人で借りているのでただでさえ狭い。
 ミア達が借りている部屋にエリックまで泊まる場所はない。
「勝手にしなさいよ。でも部屋は別にしてよね」
 スティフィは冷ややかな目でそう言った。
「マジかよ…… 野営では気にしてなかったじゃないか」
 確かにそれもそうで、野営では特に気にすることなく一つの天幕で三人とも生活していた。
 だから、エリックもこの宿でも同室のつもりでいた。
「だからよ。あんた隙あれば夜這いしようとしてたじゃない!」
 そこへスティフィがエリックを見下すようにそんなことを言う。
「なっ! そ、そんなことしようとしてたんですか!」
 それを聞いたミアが顔を真っ赤にして反応する。
「いや、だってさ、スティフィちゃんがあまりにも魅力的だから! それに俺だって我慢してたぞ」
 だが、エリックとしては我慢していたことを褒めて欲しいとばかりにそう言い切る。
「その割には欲情してるのが駄々洩れなのよ」
 スティフィがそう言うと、エリックはすぐに反論する。
「でも実際はちゃんと我慢してたぞ」
 偉業を成し遂げたかのように誇らしげにエリックは語るがスティフィは相手にしない。
「とにかく、部屋は別、いい?」
 スティフィが真顔でそう言うと、エリックも諦めた顔をする。
「わかったよ。じゃあ、部屋とってくる」
 そう言って、宿屋の受付にとぼとぼと歩いて行った。
「夜這い…… ですか……」
 その歩き去るエリックの後姿を見ながらミアは茫然とそう言った。
「大丈夫よ、ミアは別に狙われてないから」
「そ、そうですか……」
 スティフィの言葉に釈然としない物を感じつつ、ミアは安心もする。
「じゃあ、私も連絡入れて来るから」
 そう言って、スティフィも席を立つ。
 デミアス教の連絡網を使い、ダーウィックの意向を聞くつもりだ。
「はい」
 と、ミアはそう返事をして、自分に何ができるのかを考える。

 夕食前にはダーウィックの指示がスティフィの元に返ってくる。
「ダーウィック大神官様も、そのままリグレスで待機して後は現場の判断で、ですって」
 ダーウィックの指示にしては珍しく現場任せだ。
 もしかしたら、ダーウィックでも判断が付かない事だったのかもしれない。
 神や御使いの思惑が絡みだせば、人はその流れに身を任せるしかない。
 ただカリナがこのリグレスの町に来るのは事実なので、どうにでもなるとそう考えているのかもしれない。
「そうですが。じゃあ、スティフィも西門の防衛に参加ですね」
 ミアはそう言って意気込む。
 人の役に立てるのが嬉しいと言った顔をミアはしている。
「やっぱりそれ、決定事項なんだ」
 スティフィはそう言ってため息をついた。
「はい、既にエリックさんには言ってあります! お給金も出るみたいですよ」
 ミアは喜んでそんなことを言っているが、相手は不死の外道種なのだ。
 それ相手に撃退はできても、勝つと言うことは不可能に近い。
 それがどういうことかミアに理解出来ているか、スティフィは心配している。
「騎士隊払いか。まあ、悪くもなく良くもない相場ってところでしょうね」
 スティフィは恐らく戦闘は起きないであろう西門の防衛につくだけでお金がもらえるのは得だと考える。
 カリナという戦力が来る以上、たとえ相手が不死の外道種であってもどうにかしてくれるだろうと、そう安易に考えている。
「久しぶりの依頼ですね」
 ミアはかなりやる気のようだ。
「学院の掲示板の依頼じゃないんだから……」
 お気楽なミアにスティフィはまたため息を吐きだす。



 闇の小鬼の王は、まだ遥か先に見える大きな外壁を見てを喜んでいた。
 次はあの大きな町を蹂躙してやると。
 気が遠くなるほど長い間、自分達をあんな辺鄙な場所に閉じ込めていた人間達を殺して殺して、殺し尽くせると、息巻いていた。
 だが、どうしたことか、外壁を守る者の中にとんでもない化け物がいることを、その王は目ざとくも気づく。
 それでも、始祖虫と戦う前であったならば、不死と言うことに身を任せて、そのまま真正面から進軍していただろう。
 闇の小鬼の王も始祖虫との戦いで学んだのだ。
 強すぎる相手とは不死であったとしても戦うべきではないと。
 危うく始祖虫という虫に、群れ全体を殺し尽くされるとこだった。
 始祖虫との戦いは、いや、戦いではない、一方的な始祖虫による虐殺は不死であるはずの闇の小鬼をも殺し尽くす勢いだった。
 闇の小鬼の王は個体を増やすのに専念することで、その始祖虫に対抗した。
 そうしなければ、百数匹という単位では、一瞬で始祖虫に殺され尽くされてしまほどの戦力差があった。
 牙も爪も毒も通じない。そもそも近づくことも逃げ出すことも出来ない。
 何もできず、ただただ感知できないほどの速度の触手で打ちすえられ血煙の様に霧散していくことしかできなかった。
 始祖虫とはそんな相手だった。
 だが、その結果、闇の小鬼地達は気づけば千匹以上の大軍勢となっていた。
 闇の小鬼もここまで増えることはまずない。
 なぜなら飢えるからだ。
 飢えて死ぬことはないが、それでも飢えの苦しさだけは感じる。
 あの半島で千匹以上の群れを維持するのは大変なことで共食いも辞さないと、闇の小鬼の王は考えていたのだが、始祖虫も殺し飽きたのか、食べ飽きたのか、それとも疲れたのか、闇の小鬼達を殺すのを止め移動を開始した。
 その移動に先にあったのが、闇の小鬼達をとても長い年月閉じ込めていた高い壁だっただけだ。
 そして、その壁は始祖虫により完膚なきまでに破壊された。
 闇の小鬼達は歓喜した、ついに解放されたのだと。
 しかも、あのクソ強いどうにもできない虫は地中へと潜って姿を消した。
 人間達の生き残りはいるが、千匹以上にまで増えた今の自分達の敵ではない、と、闇の小鬼達は数と不死に物を言わせて、大破した砦へとなだれ込んだ。
 そして、今に至る。
 この規模になれば、小さな村や街などはどうにでもなった。
 だが、闇の小鬼達も学んだのだ。
 どうあがいても倒せないものは存在すると。
 そんな存在が外壁の上に存在している。
 あれは戦ってはいけない存在だと、今の闇の小鬼の王はそれを理解できている。
 だから、闇の小鬼達は学んだことを実践する。
 強い奴からは逃げれば良い、戦いを避ければ良い、と。



 そして、まず襲われたのが出城的に町の外、その北側に建てられている領主邸と呼ばれる領主ルイの別荘だ。
 白亜の城に火の手が上がる。
 闇の小鬼の性質からしてまず間違いなく東から東門へと攻めて来ると踏んでいた騎士隊は裏をかかれる形となる。
 ただ領主邸に今は領主ルイはいない。
 その別荘にいるのは領主ルイの護衛と数名の召使だ。
 無論、ただの護衛と召使ではないが。
 領主邸では元外道狩り衆達と闇の小鬼達の攻防が一早く始まっていた。
 それが知られるのは闇の小鬼の手ではなく、元外道狩り衆が勢い待った魔術の影響で領主亭邸から火の手が上がった事からだ。
 闇の小鬼の王は焦っていた。
 東門ほどではないが、ここにも鬼のように強い存在が、それも複数名存在していることに。
 それでも、以前の闇の小鬼の王なら、不死の力に頼り時間をかけてゆっくりと領主邸を攻め落としていたことだろう。
 だが、闇の小鬼は始祖虫との戦闘から不死の力に頼り切るのは危険だと学んでしまっている。
 だから、叶わないと悟ると闇の小鬼の王は千匹以上もの群れを三つに分けた。
 東門を攻める群れ。これは囮だ。
 あのクソ強い大きな人間を自分に近づけさせないために。
 もう一つの群れは、この領主邸に群れを残す。
 やはりその鬼強い変な模様を浮かび上がらせた人間達を自分に近づけさせないために。
 最後に本命の闇の小鬼の王のいる群れ。闇の小鬼の王は元の半数ほど、約五百匹ほどを率い外壁を回り西門を目指した。
 これにより、リグレスの町に後世まで伝えられるリグレス西門防衛戦という戦いが繰り広げられることとなる。




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