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試験が終わった後の夏休みと海でのいつもとちょっと違う日常
試験が終わった後の夏休みと海でのいつもとちょっと違う日常 その11
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第二試合はライアン操者とメイアード操者の対戦だった。
ライアンの操る使い魔は、独特な姿形をしている。
簡単に言ってしまえば虫型、しかも二種類の虫種が混ざり合った異形をしている。
人ほどの大きさの百足のような下半身に、やはり人ほどの大きさほどの蟷螂の上半身。
そんな使い魔だった。ただそれらはあまり見かけない見かけない金属のような材質で作られていて全身鈍く光る銀色で、そこだけは虫とかけ離れている。
百足の足も手、というか、蟷螂の鎌も、いや、全身すべてが鋭い研ぎ澄まされた刃でできているようだ。
様々な姿の使い魔が存在しているが、その中でも異形として飛びぬけている。
対するメイアード操者の使い魔は不定形と呼ばれる形を持たない使い魔で粘度の高い粘液の集合体のような使い魔だ。
粘液その物、その全てを除去するか、核を破壊するか、もしくは魔力切れを起こすかでしか活動停止しない。
ただその分、動きも非常に遅く、力も大して出せず何らかの別の攻撃方法を準備しなければならない。また本当に力がないため複雑な機甲のような重い物を体内に仕込むこともできない。
そのため攻撃にも魔力を消費するような物しか組み込むことは難しい。
様々な可能性はあるが、今のところあまり実用性は無いような使い魔でもある。
使い魔格闘大会に出場すると、大体の場合、泥沼試合になるので、観客からは余り好かれてはいない使い魔の種類でもある。
そんなわけでメイアードの人気は今日も最下位位だ。
「さてさてさてさてぇ~、第二回戦は一番人気のライアン操者と泥沼試合大好きおじさんメイアード操者だ!! で、気になるのは、やはりライアン操者の操る使い魔ですが、あれはグランドン教授がお造りになった使い魔ですよね? あまり見ない型の使い魔ですが、なんという型の使い魔なのでしょうか?」
そう言われたグランドン教授は実況の男を見る。
多少なりとも使魔魔術のことを学んでいることに、少しばかりの感心を持った。
実況の男が言うように、ライアンに貸し出した使い魔は少し特殊な型の使い魔だ。
「ふむ、あの使い魔の名は、レジェドと言いますが、分類する型は今のところありません。実際に、その他で登録した使い魔ですな」
新しく使い魔を作った場合は、魔術学院か騎士隊に申し出て登録しないといけない決まりがある。
これはどの領地でもだ。そう言う決まりになっている。
荷物持ち君もしっかりと泥人形という型で魔術学院に登録してある。
その他という分類は、それまで体系だっていない、新しい種類の使い魔が登録される場所で、その他で認証されるような使い魔は他の分類に比べて厳しい審査となる。
大概の場合は、色々な理由を付けて既存の分類に無理やり分類されることが多い。
そんな中で、グランドン教授の使い魔は、その他という分類に登録された、まさしく新しい種類の使い魔と言うことだ。
「その他ですが。あまりその他の分類はあまり認証されないと聞きますが、レジェドは認証され登録された使い魔なのですね?」
「はい、もちろんです。まあ、見てわかる通り虫種を元として組み合わせた使い魔で、戦闘特化、それも強襲用の使い魔です。実際に、我、自らが操り数種ほどの外道種を単体で屠っている使い魔でもありますな」
実戦での使い魔の使用目的は、大体おとり役か盾役だ。なので頑丈で多様性のある鉄騎が騎士隊でも正式採用されている。
余り攻撃役として用いられることは少ない。それはやはり既存の動きを組み合わせて動いているからで、摂理や常識の外にいるような外道種には、そもそも攻撃自体を当てずらいからだ。
なので盾役が実戦での役割となってくる。
場合により偵察役としても使われることもあるが、操者から離れすぎると動きが緩慢になる為、発見され撃破されることを織り込み済みの場合となる。
そのような理由から、使い魔単体での外道種撃破などはあまり聞かない話だ。
「え? 単体で外道種をですか? それはすごい! そんな実践向きの使い魔をライアン操者にお貸になったようですが、私には、そのー、上手く操れるのでしょうか? 人型からは遠く離れているのでそう操作は難しいように思えるのですが?」
使い魔は、特に繊細な動作も要求されがちな戦闘用の使い魔は人型であることが多い。
それは偏に操りやすいからだ。
足を無駄に増やしたり、手を何本も使い魔につけることは可能だ。
だが人間が基本的に自由に扱え認識できるのは、やはり人と一緒で腕が二本、脚が二つまでなのだ。
それ以上は、意識外になりがちで、ほとんど使われなく、無駄に魔力だけ消費するようなことになりがちである。
それだけでなく操者の方にも影響がでて、あまりにもその使い魔の操作に慣れてしまうと、操者自身が日常生活でないはずの三本目の腕を動かそうとしたりすることがでてくる。
なので、繊細で多彩な動きも要求されるような戦闘用の使い魔は、人と同じ人型であることが多いのだ。
だが、グランドン教授のレジェドという使い魔は人型からは離れた異形をしている。
あそこまで違うと、動かすだけならともかく、戦闘するともなるとかなりの技術と慣れが必要になってくるはずだ。実況の男はそれを気にしているのだろう。
だが、グランドン教授はその点は全く気にしていない。
「なに、心配ありません。ライアン君には夕刻前には貸し与えているので、もう操作も完全に会得している事でしょう。彼はなんだかんだで操者としては天才ですからな」
そう、ライアンは操者と言うことに関しては天才なのだ。
どんな異形の使い魔だろうと、すぐに慣れ、コツをつかみ、その本質を見抜き、巧みに操ることができる。
「天才というのは私もこの眼で見て来たからわかります、教授がそう仰るなら操作に関しては問題ないと言うことでしょうか。ええー、対するは不定形使い魔のメイアード操者ですね。教授の目から見て、メイアード操者の使い魔、ジュルソースはどう見えていますか?」
そう言いつつも、半分悪い意味で名物となっている不定形の使い魔を実況の男は見る。
それにつられたわけでもないが、グランドン教授もつまらない物を見る様にその使い魔を見る。
「使い魔格闘大会で不定形ですか、つまらないですな。格闘の名が泣きます。不定形自体はまだ開発の余地がある型ですので、そこは否定しませんがね。ただ現状では不定形に格闘は無理です。仕込みやすい電撃でも仕込んであるのではないでしょうかね。不定形の定番ですし」
不定形の使い魔は元は精霊から発想を得て作られたと言われる使い魔で、比較的新しい分類の使い魔の型だ。
ただまだ実用性と言われると、首をかしげる程度のものしかない。
将来はわからないが、現段階ではただただ倒しずらい使い魔の一つ、という位置づけでしかない。
メイアードも元は鉄騎を操る操者だったが、どう頑張ってもライアンの足元にも及ばなかったため、不定形という使い魔に目を付け使いだしたのだ。
それまで瞬殺されていた試合が、泥沼試合にまで持ち込めることになったため、メイアードもそれを気に入り、ついには、泥沼試合大好きおじさんなどという不名誉な二つ名迄付けられる始末だ。
そして、グランドン教授の予想通り、使い魔ジェルソースに仕込まれているのは、不定形に仕込みやすい電撃だ。
これは電気沼蛇と呼ばれる魚類の能力を真似て作られたものであるが、生物にならともかく使い魔に対する効果は微妙な物だ。ただ今のところ他に使い魔相手に優れた攻撃手段がないだけだ。
メイアードの目的も勝つことよりどれだけ粘れるか、どれだけ泥沼試合を演じられるか、に変わってきてしまっている。
「ええーっと、まあ、私は試合をよく見ているので存じていますが、流石は教授、概その通りです、と言っておきます! 今日も人気は最下位のメイアード操者です。ええっと、では使い魔の準備を終わったようなので、試合開始の鐘を願いします!!」
実況役の男のその言葉で再び、カァーーーン!! と甲高い金属製の鐘が鳴らされる。
「へへ、ライアンよ。今日も勝ちは譲るが泥沼には付き合ってもらうよぉ」
土俵場ではなくメイアードは薄気味の悪い笑みを浮かべつつ、ライアンを見ながら大声でそう言うが、ライアンは相手にしていない。
「……」
「まずは、核隠しの魔術を……!! へっ?」
メイアードが核を隠し、長期戦にするための魔術を発動しようとしたが、試合は既に終わっていた。
使徒魔術を仕込んでいた。
すぐに発動できる魔術であったはずだ。それで核を隠し長期戦に持ち込むはずだった。
距離も、土俵場の端と端で、かなりあったはずだ。
なのに、メイアードの目には、その核ごと真っ二つにされたジェルソースが見えている。
「もう終わっています。メイアード。あなたの使い魔にも、もう飽き飽きしています。そろそろ新しいのを用意すべきですね」
土俵場の上には開始の鐘と同時に瞬時に動き、ジェルソースの核が魔術によって隠される前に、核ごとその鎌で一閃していた。
制御刻印を失ったジュルソースは、解ける様にその粘液をその場に力なく広がらせている。核を壊されては、もうその姿を取り戻すこともないだろう。
本当に一瞬の出来事だ。一瞬で距離を詰め、その鎌で一刀両断して見せたのだ。
その動作を認識できた観客すら少ない。
「え? えええええええ!? 早い! 本当に早い!! 何だこの速さは!? わ、私には、その動きが本当に見えませんでした!!」
実況の男がやっと認識して、その言葉を紡ぎ出し、それで、なお、数舜の間をおいて歓声が沸き上がった。
「ぼ、僕のジェルソースが!? そ、そんなバカな……」
メイアードは信じられないものでも見る様に、土俵場で真っ二つにされ、力なく広がっている自分の使い魔を見ている。
「あなたの手口はわかっていましたので、早々にかたを付けさせてもらいました。悪く思わないでください」
不定形の使い魔はその構造から、核の位置も自由に移動させることができる。
魔術で隠され移動させられたら面倒だ。余計な魔力を浪費することになる。
ただ刻印、魔法陣である以上、その制御刻印は形の変わらない物に記さなければならない。それを破壊されてしまえばいかにしぶとい不定形であろうと一巻の終わりだ。
そのことが分かっているライアンは速攻で試合を終わらせたのだ。
そして、それこそが、このレジェドの本質である。
距離をものともしない、その驚異的な瞬発力で一気に距離を詰め、精霊銀の刃の鎌で致命的な一撃を入れる。
まさに強襲用使い魔だ。だが常人ではここまでレジェドを理想的に使うことはできない。
天才的な感覚の持ち主であるライアンだからこそできる芸当なのだ。
「ぐぬ…… ああ、僕もそれは理解していたつもりだ…… さすがにあの速さ反則だ。なぜライアン操者のような強者にあれほどの使い魔をお貸しに!?」
メイアードはグランドン教授に向かい、講義の声を上げる。
グランドン教授はそれを鼻で笑いつつも答える。ただその答えはメイアードに向けての物ではない。
「わかってもらうためです。世界は広いと言うことを。そのライアン君は私の貸し与えた使い魔をもってしても、今日、この場で、荷物持ち君に完膚なきまでに負けて頂くためです。言い訳にならないように、今現在、我が所有している中で一番強い使い魔をライアンに貸し与えました。それでも、ライアンは今日負けます。皆さんも見ていてください。歴史的な試合となりますよ」
グランドン教授はライアンを見ながらそう言ったが、それに対しライアンはじっと不服そうな顔でグランドン教授を見るだけだった。
不満も抗議の声も上げることはない。
代わりに実況の男がその場を繋げる。
「そ、それほどまで荷物持ち君一号のことを? 確かに、荷物持ち君は特別だと、第一試合を見て私もそう思いましたが…… グランドン教授のレジェドの動きについていけるのでしょうか、そもそも、あの速度で動かれては攻撃を防げるとは思えないのですが…… まあ、それも…… お楽しみの一つというところでしょうか?」
「その通りですな。あと、メイアード君のこの先の対応はいかに?」
グランドン教授はどうせ今言っても何も理解されることはない、とばかりに解説を破棄し、ただ茫然としているメイアードの話を振る。
「あっ、ああっと、すいません。あまりもの出来事に進行を忘れていました。ええー、核を破壊されたとのことで、以後の試合も続行は不能と判断させていただきます。メイアード操者は以降の試合は全て不戦敗とさせていただきます、メイアード操者に賭けていただいた方々は申し訳ありません!」
ここで怒声が少数上がるが、メイアード操者に対する者は更に少なく、どちらかというとグランドン教授に対して、なぜライアンにそんな使い魔を貸した、という怒声が大かった。
そもそもメイアードに賭けている層もメイアードが勝つとは思っていないのかもしれない。もし、万が一勝ってしまった時に用に毎回少額かけているだけなのだろう。
グランドン教授はそれを冷ややかに流しつつその時を待つ。
次の、その次の試合にそれはやってくる。
レジェドという使い魔にはそれなりに思い入れがある使い魔だ。
うまく使うにはかなりの練度が必要な使い魔ではあるが、使いこなせれば場所や相手を問わず戦える強襲用の使い魔だ。
特殊な合金を繊維のように引き伸ばしそれを編み込んで装甲としているので、その装甲は軽く想像以上に硬く耐久力がある。
また人間には少々操りずらいが多脚ではあるが、多脚ならではの安定性は非常に高い上に、恐ろしいほど素早く音もなく静かにどこでも移動することが可能だ。
特にその瞬発力は目を見張るものがある。下手をしたら人間の目にはとらえきれないほどの速さを瞬時に出すことができる。
しかも、そのような素早くも力強い可動を可能にしているのは、内部に竜の腱にあたる部分を使っているためだ。軽く強靭な素材は力強くも繊細な動きも可能とする。
そして最大の武器である鎌には希少な精霊銀を使っており、物理的な身体を持たない精霊ですら切り裂くことが可能となる。
攻撃力、装甲、素早さ、技量、どれをとっても一級品の使い魔だ。
一番の弱点と言えば、その操作の難しさくらいだが、ライアンであればそれはものともしない。
ある意味、天才操者であるライアンに最も適した使い魔なのかもしれない。だからこそグランドン教授はそれをライアンに貸し与えた。
それでも、荷物持ち君には決して、その足元にも、届かないことをグランドン教授は知っている。
朽木様により最適化される前であるのであれば話はまた別だが、今の荷物持ち君には遠く及ばないし、及ぶはずもない。
事前に、グランドン教授は荷物持ち君にはレジェドを破壊しても構わないので、完膚なきまでに叩きのめして欲しいとお願いしてある。
その様子を少しでも長く、上位種の使い魔という特異な存在の戦いを目に焼き付けなければならない。
そんなことをグランドン教授が考えていると次の試合の操者と使い魔の紹介が始まる。
第一試合に出ていた、カイル操者と鉄騎グランスルス、ヘムド操者と鉄人アイアスだ。
鉄人。鉄騎と似ているが、鉄騎が鎧の内部に様々な稼働部を作るのに対して、鉄人の体は鉄その物だ。
関節部分の可動部こそ人形のような仕組みで曲がるようにはなっているが、その体の大部分全てが鉄でできている。泥人形の鉄版ともいえる。
簡単に言ってしまうと、鉄の人形を魔力で無理やり動かす。そう言ったものだ。
なので非常に燃費が悪い。ただ機甲などを仕込んでない、単純な鉄の塊であるため、非常に強固で頑健である。
行動不能に陥らせるより、魔力切れを狙ったり、場外に押し出すのが得策ともいえる。
かといって動きが鈍いかというと、魔力で動かしているため消費を考えなければ素早い動きも可能だし、やはり魔力の消費を考えないのであれば強い力を出すことも可能だ。
そんな鉄人の弱点は燃費の悪いさだ。現状では特殊な素材でも使わない限り、全力で稼働させたら五分も持たないような物だ。
なので鉄人の操者には燃費を抑える戦い方が求められる。例えばだが、腕を振り上げて後はその重い自重に任せて振り下ろすだけでもそれなりの破壊力を産むことができる。
そう言った操者の技術や工夫も必要となってくる使い魔だ。
この二人の戦いは普段なら白熱した物になり、かなり見どころのある試合になるのだが、今日は観客の反応は今一だ。
使魔魔術の権威であるグランドン教授があれほど煽っているのだ。観客も次の試合を早く見たくてたまらないのだ。荷物持ち君とレジェドの試合を。
ついでに今回の試合の結果はカイル操者がヘムド操者のアイアスを場外に押し出し、カイル操者が勝利している。
「とうとうやってきましたね、ミア操者とライアン操者の試合です。二人とも二戦目の戦いとなっておりますが、その使い魔の消耗も両社ともほぼみられてないと思います! 教授のお話では、やはり荷物持ち君一号に分があるとの話ですが、もう一度詳しい解説をお願いしてもよろしいでしょうか?」
実況の男は、あまり解説してくれないグランドン教授に、少し困りながらも話をふる。
ただ実況の男もここまで特殊な使い魔が、二体も出てきているので、グランドン教授の思わせぶりな対応もちゃんと理解はしている。
してはいるのだが、立場上話を振らない訳にもいかないというだけだ。
「詳しいと言われましてもな。荷物持ち君は機密の集合体のような使い魔で、我もそれほど把握できていないのですよ。ただ我にわかるのは、ライアン君には悪いですが、一分の勝ち目もないと言うことだけです。すいませんな。まともな解説ができなくて。それほどの使い魔だと言うことですよ」
グランドン教授も実況の男の苦労を理解できているのが、素直に謝罪して見せる。
だが、そんなことよりも実況の男は、グランドン教授ですら、荷物持ち君のことを把握できていない、という言葉に気を取られてしまう。
「は、はあ? な、なるほど? 要はその目でしかと見ろと? そう言うことですね?」
「ハハッ、あなた、いい実況ですね。まさしくその通りです。我も荷物持ち君が戦うところをこの目に焼き付けたいのですよ」
その言葉に実況の男も再度言葉を失う。
これだけ自信たっぷりに荷物持ち君のことを押しているのにも可かららずその戦いぶりを見たことが無いような言い様だ。
「え? 教授も荷物持ち君が戦うところを見たことが?」
「ええ、あの第一試合が初めて…… いえ、格闘術の訓練で組手などをしているところは見たことはありますがね」
グランドン教授は素直に答える。
そもそも今の荷物持ち君が全力で戦えるような相手がまずいないのだ。
スティフィとの組手もただの練習でしかない。
それこそ外道種や竜でも相手でなければ、その本気とやらを見ることはできない。
それはレジェドでも同じで、本気は見れないまでも、その片鱗くらいは見れる物とグランドン教授は期待している。
「格闘術ですか? 組手? ああ、ミア操者の練習…… って、荷物持ち君一号には勝手に動くんでしたか?」
使い魔が組手の練習をするとか、通常では訳の分からない話だ。
だが、自ら動くという使い魔である荷物持ち君であるならば、それも分からなくはない話だ。
ただ通常はやっぱり操者の方の操作方法の練習が思いつかれるのが常識だ。
「はい、その時のミア君は…… 授業の復習を武道場の片隅でしてましたね。勉強熱心ですな」
そう言って、少し呆れた表情をグランドン教授は見せた。
争いごとににそもそもミアは興味がないのか、スティフィと荷物持ち君の組手をよそに、ミアは騎士隊の武道場の隅で、教本と雑記帳を開き、講義の復習をしていたのをグランドン教授は思い出す。
まあ、確かに荷物持ち君の性能を図る一環でグランドン教授から持ち掛けた話ではあるが、あまりにもミアらしい対応に変な笑顔を浮かべていた自分をグランドン教授は思い出す。
「は、はあ? なんて言うか、確かに色々と常識に囚われない操者という事だけは理解できました! いえ、そもそも操者と呼んでいいのかも謎ですが。まあ、恐らくは事実上の決勝戦ですが、まだ四戦目です。四戦目にして事実上の決勝戦と言っても過言ではないでしょうか」
そこで、実況の男は一呼吸して、その後の言葉を一気にまくしたてる。
「これ以上は言葉も不要、その目で実際にみて確かめて欲しい、そんな試合が…… おっと、準備も終わったようですので、本当に歴史的瞬間になるか!? 飛び入り参加者ミア操者と荷物持ち君一号、対、格闘場の覇者ライアン操者のレジェド! 早速、試合を開始してください! では、鐘を!!」
実況役の男もこれ以上はグランドン教授に解説をお願いしても意味はなさそうだし、観客も次の試合を心待ちにしているようなので、手早く口上を切り上げて、試合の合図を促したのだ。
その日、四度目にして、その日、最後の、カァーーーン!! と甲高い金属製の鐘が鳴らされる。
まずはレジェドの速攻からだった。
その百足のような多脚から繰り出される瞬発力は試合開始の合図とともに、荷物持ち君との距離を一瞬で詰める。
蟷螂が一瞬で獲物をその鎌で捕獲するように、二本の鎌で同時に襲いかかるが、それを最小の動きで荷物持ち君は右手だけで二つの高速で迫りくる鎌を事もなく払いのける。
人間が反応できる速度でもなく、恐ろしく正確な動作だったが、荷物持ち君はそもそも人間ではない。
いとも簡単に払いのけられたことで、ライアンは驚愕しつつも一度距離を取る。
百足のようなその足は後退するのも早い。一瞬のうちに距離を取る事ができる。そしてライアンは相手の、荷物持ち君の出方を見る。
一応ミアを横目でチラリと見たが、操者台の上で頬けたままだ。
その視線は格闘場に向けられておらず現実逃避するように、星が見え始めた夜空へと向けられている。
その様子から本当に操作がいらない使い魔だと言うことがライアンにも改めて理解ができた。
ライアンは確かに、師匠が執着する程の使い魔だとこの時やっと認めた。
だが、神の如き師匠から貸し与えられた神機ともいえるこのレジェドがあれば、何者にも負けないと強く確信もしている。
自分は決して負けやしない、と、ライアンはまだ思っていた。
対するミアだが現実逃避しているのには実は理由があった。グランドン教授が高そうな特別製の使い魔を、荷物持ち君に完膚なきまでに叩きのめして破壊して欲しいと頼んでいたからだ。
どこか、若干ではあるがロロカカ神の姿と似通ったところのある使い魔、それを壊せというのだ。
似通ると言っても長い胴に虫の足が付いているというところくらいだが。
それでもミアは若干ではあるがレジェドを一目見たときから、なんだか親和性を感じてしまっていた。
ロロカカ神の元を離れ心恋しくなっていたのかもしれない。
しかし、親和性を感じたそれを破壊して欲しい、しかも完膚なきまでにとの話だ。
とはいえミアもレジェドという使い魔とロロカカ神に関係があるとは本気で思っていない。ただ少し、ほんの少しだけ、似通ったような姿を、と思ってしまっただけだ。
なんなら実はミアもロロカカ神の姿は尻尾の辺りを一度チラリと見ただけだ。
ミアが今、似通っていると勝手に思っている足の部分など、伝承でしか聞いたことない話だ。
だからこそ、逆に異形の使い魔相手に似通っているのでは、と思ってしまっただけだ。
もちろん、レジェドの持ち主であるグランドン教授の頼みなので、荷物持ち君がレジェドを破壊することに、若干の抵抗はあるものの、止めるようなことはしない。
ただその目で少しでもロロカカ神と共通点があるようなないような使い魔が破壊されるところ見たくはない、とミアは思っているし、なんなら使い魔同士を戦わせるという行為自体にそもそも興味がない。
なので、視界に入れないように夜空を見上げ何も考えないようにして頬けているのだ。
ミアがそうしている間にも試合は続く。
荷物持ち君は主の思考に気が付いている。
主が敬愛してやまないロロカカ神に、相手の使い魔が若干ではあるが似ているらしいと言うことに。
ただ倒すことも破壊することも是としてくれている。
相手はそれなりに強い。人間が造った使い魔なれど、それなりの創意工夫がなされ虫種の特性を取り入れたその使い魔は、練習相手にはぴったりだと考えている。
特にその瞬発力は素晴らしいと荷物持ち君は評価している。
確かに親である朽木様に自由に動けるように刻印を最適化してもらいはしたが、古老樹の本質はやはり動かない樹木である。
四肢を動かすのには未だに慣れてはいない。何度か主の友である人間と訓練したことはある。
だが主の友人であるがゆえに、訓練でも本気を出すことはできない。
しかし、今目の前にいる使い魔は破壊してよいと言われており、それなりの強さを持った相手だ。
この体の動かし方を練習するには、ちょうど良い相手ではある。
しかも、それを破壊することで自身を強化できる素材を得ることすらできる。
主には少し申し訳ないが、ここは新しく与えられ自由を得た体の性能を確かめる良い機会である。
これも主を守るための事だと荷物持ち君も割り切っている。
荷物持ち君はそう考え、レジェドではなくそれを操っているライアンに、その武骨な指で、指さし、かかってこい、と挑発するような仕草をして見せた。
それを見たライアンは、もちろん激高する。
まさか使い魔に、操るべき使い魔に挑発されるとは思っていなかった。
嫉妬、誇り、傲慢、そして強い思い込み。そのすべてを刺激した挑発となった。
ライアンは怒りに任せてレジェドを操作する。
両手と同じく鋭い鎌となっている足でそこらじゅうを突き刺すように荒々しくも素早く走り回り、最大の武器であるその鎌で、まずはその憎たらしい右手を狙う。
対して荷物持ち君はその攻撃を敢えて受けた。
レジェドの鎌は荷物持ち君の右腕に深く突き刺さる。
「おっと、レジェドの素早い攻撃が荷物持ち君の右腕を今度は捕らえた!!」
解説の男がそうか叫ぶ。
実際にレジェドの鎌が、荷物持ち君の体、その右手、その芯であり支えである陶器にまで深く刺さり込んだ。
だが、荷物持ち君は慌てない。
その刃に精霊銀が使われていたとしてもだ。胴体にある精霊の社を攻撃されたら焦っていたかもしれない。その場合は事前に攻撃を避け攻撃その物を受けやしないが。
人間で言うところの骨にあたる支えは陶器でできている。
レジェドの一撃を受け止めはしたが貫かれ、砕け全体にヒビが入っている。
荷物持ち君自身の根も粘土の中に這わしているが、それは避けている。古老樹であっても精霊銀の一撃は痛いからだ。
支えを貫いた手応えがあったライアンは勝機とばかりにもう一方の鎌を荷物持ち君の頭部に振り下ろす。
それを荷物持ち君は左手で簡単に払いのけた。まるで羽虫を払うかのようだ。
そして右手に魔力を集める。
レジェドの鎌を押し出すように支えの再生が始まる。
砕かれた部分が繋がり、ヒビなどはじめっからないかのように元通りになっていく。
サリー教授によって作り出された超陶器ともいえるこの支えには破壊されても元の形に戻る魔術が仕込まれている。
通常の使い魔では魔力を消費しすぎて使えたものではないが、古老樹である荷物持ち君にとっては魔力など、人間に貸してくれてくれてやるほど持っている。
例え、地脈から吸い上げられなくとも、親である朽木様から貰ったこの体には既に十分に魔力は貯えられている。
それに主がくれる腐葉土からも上質な神の魔力を得ることができている。
何より、神の強い祝福を受けた主の髪の毛は半ば無尽蔵な魔力を有しているようなものだ。
それがこの体全身に張り巡らされている。
荷物持ち君が魔力不足になりえることなどあり得ない。
瞬く間に刃を押し戻し支えは再生し終える。
支えの再生の実験も上手くいった。精霊銀の刃すら押し戻し完全に修復させることができる。
人間が作りだした物ではあるが、中々良きものであると荷物持ち君はその性能に満足する。
さらに次の段階に進める。
壊れた物を再生できるのであれば、その魔術を少し書き換えれば、形を置き換えるのも容易いことだと。
無論古老樹である荷物持ち君だからこそできる話で、人間ができるような話ではない。上位種としての高い魔術への理解力がそれを可能にしている。
荷物持ち君が右腕の支えの魔術を書き換える。
そうすることでそれは伸び、さらに先端をとがらせる。
傍から見ると、荷物持ち君の右手から槍のようなものが生成された。
「なっ、荷物持ち君一号の右手からから槍が生えた!? あれでレジェドの一撃を防いでいたとでも言うのでしょうか!? 隠し武器を仕込んでいたのか!?」
それを見た実況の男がそう言うが、数瞬の間があってから、それをグランドン教授が、狼狽えながらも否定する。
「いいえ、違います…… あれは支えです、泥人形の。それを…… 我も、し、信じられません」
グランドン教授もその詳細をわかっていつつも解説することを避ける。
それを口にしてしまえば、それこそ正気を疑われるような話だから。荷物持ち君がやったことはそれこそ、上位種の領域でもない限りできない奇跡のような魔術だ。
いや、もはや魔術と呼んでいい物でもない。まさしく奇跡の一つなのだろう。
まさか一使い魔が、魔術そのものを書き換え、支えから武器を作り出すなど、信じられる話ではない。
右手から生え出て来た槍のような物を見て、ライアンは未だに荷物持ち君の右手に刺さっている鎌を引き抜こうとするがびくともしない。
少し遠目ではあるがよく見て見ると、黒い何か糸のような物が鎌に絡みつき、その動きを封じているのが分かった。
それをライアンが目にしたとき、何か底し得ぬ恐怖を感じた。
背筋が凍り不吉な、混沌から這い寄るような、そんな薄気味悪い気配を感じずにはいられない。
「私は何を相手にしているんだ?」
ライアンの口から自然とその言葉が漏れ出す。
黒い糸のようなもの、ミアの髪の毛は自ら意識を持っているかのように動き、鎌に絡みつき、そして、強く締め付ける。次第にそれが増えていくのがわかる。
レジェドの装甲にヒビが入り、嫌な音を発し始める。
ライアンは慌てて力任せに鎌を引き抜こうとするが、びくともしない。
逆にレジェドの方が悲鳴を上げるような高音の異音を発する。
強靭な竜の腱によってその体を動作するレジェドが異音を発するなど通常ではありえないことだ。それだけ強い、とてつもなく強い負荷がかかっているのだ。
鉄人や泥人形は魔力でその体、鉄や粘土といったその体を構成するものを動かす。
それ故に魔力効率は悪く、動かせばとても燃費が悪い。
だが、魔力は無尽蔵にあり、その体に古老樹の根が張り巡らされ、神の祝福を受けた髪の毛まで張り巡らされているのだとしたら。
その力は一体どこまで出すことができるのだろうか。
泥人形の場合、骨の代わりである支えの強度がその力の最大値に直結していると言われている。
それすらも魔力さえあれば再生できてしまう支えであるのならば、その最大値など誰にも計り知れない。
荷物持ち君はレジェドの鎌が刺さったままの右手を強引に振り払う。
髪の毛がまとわりついていた鎌だが、髪の毛が引きちぎられることはない。逆にレジェドから簡単に、嫌な甲高い音を立てて、その鎌自体が引きちぎられる。
そして、その蠢く髪の毛は鎌を破壊しつくし、精霊銀の刃だけを荷物持ち君の体内へと取り込んでいった。
「え?」
その光景に実況の男が絶句する。
いや、グランドン教授ですら絶句した。
「精霊銀を取り込んだのですか? しかも戦いの中で?」
精霊銀は銀に精霊が溶け込み変異した金属だ。
その性質は、もはや銀でもなければ精霊でもない。新しい金属とでもいうべき物になったもので非常に希少な金属だ。
人にとっては謎な部分が多く解明できていない金属ではあるが、肉体を持たない精霊やその種類の外道にも傷を負わさせることができる希少な存在として知られている。
それを荷物持ち君は取り込んだのだ。
しかも、それをすぐさま利用する。
支えの形を変えた要領でその刃の形を変え、支えを変え作り出した槍の先に刃として、歯や爪のように生やして見せた。
「なっ、精霊銀の形状を変えて利用しているのですか? ははは…… 凄い、素晴らしい、これが…… この力こそが……」
上位種の御力。
グランドン教授はそう言いそうになるのを何とか堪える。
とてもじゃないが、人間がどうこうできる存在ではない。
グランドン教授にとっては、新しく護衛者になった精霊なんかよりも、荷物持ち君の方がより強大な存在に思えて仕方がない。
これでまだ苗木のような状態なのだ。これが育ってしまえば、どうなるかなど人間には想像できるものではない。
「な、なんなんだ、私は何と戦わされている?」
ライアンは畏怖しつつも、鎌を破壊され自由になったレジェドをいったん引かせ距離を取る。
いや、意図せずに、ライアンのこれまでの経験が勝手に、自己防衛のために、その使い魔から距離を取らせたのかもしれない。
そんなレジェドに荷物持ち君は追撃せず、作り出した槍を素振りし、その使用感を確かめているようだ。
そのおかげでライアンも冷静さを取り戻す時間ができた。
ライアンとてこの格闘場の覇者としての誇りがあるし、敬愛する師匠から借りたこの使い魔もいる。
確かに師匠はライアンに破壊されても気にしないように、とレジェドを貸し出すときそう言っていた。
師匠はこうなることが分かっていたのだ。
それでいて、全力で立ち向かってください、ともライアンは言われている。
ならば、ライアンがやることは一つだ。
尊敬し、敬愛し、神と同じように崇めている、師匠に勝利を捧げるために、立ち向かう事だけだ。
ライアンには初めから選択肢などない。
しかし、実際はただのレジェドを解体する見世物でしかなかった。
荷物持ち君の興味はもう一方の右手の鎌についている精霊銀の刃。それとレジェドを直接動作させている体内にある竜の腱だ。
荷物持ち君はその竜の腱を自分の関節の緩衝材、軟骨の代理にと仕込もうと考えている。それでよりよく動くことができるようになるはずだ。
それらを得るために、レジェドを解体し、貪り食うように取り込んでいくという作業が土壌場の上で繰り広げられた。
試合ではない。ただの一方的な捕食であり解体作業だ。
そうなるまでに、まず荷物持ち君はレジェドの多脚を、動き回れないように創り出した槍で破壊していった。
どんなにレジェドが素早く動き、距離を取ろうが、まるで移動先がわかっているかの如く荷物持ち君は先回りし確実に一本一本、脚を破壊し、中にある竜の腱を取り込んでいく。
多脚の半数が壊された時点でレジェドはほぼ動けなくなる。そうすると荷物持ち君はレジェドの胴をかち割り、開き、その体内に仕込んである竜の腱のみをもぎ取っていく。
ライアンは泣きながらも最後まで抵抗するものの、どうすることもできなかった。
会場は最初こそ盛り上がりはしたが、その凄惨さに静まり返っていた。
ライアンは使い魔の大破で負け、その後、その試合を見た二人の操者からも辞退を申し出て、この大会は幕を閉じた。
無論、それ以降は荷物持ち君は当初の予定通りティンチルでの使い魔格闘大会を出禁となった。
この頃からだろうか。
シュトゥルムルン魔術学院には魔女のような生徒がいると、噂され始める様になったのは。
ライアンの操る使い魔は、独特な姿形をしている。
簡単に言ってしまえば虫型、しかも二種類の虫種が混ざり合った異形をしている。
人ほどの大きさの百足のような下半身に、やはり人ほどの大きさほどの蟷螂の上半身。
そんな使い魔だった。ただそれらはあまり見かけない見かけない金属のような材質で作られていて全身鈍く光る銀色で、そこだけは虫とかけ離れている。
百足の足も手、というか、蟷螂の鎌も、いや、全身すべてが鋭い研ぎ澄まされた刃でできているようだ。
様々な姿の使い魔が存在しているが、その中でも異形として飛びぬけている。
対するメイアード操者の使い魔は不定形と呼ばれる形を持たない使い魔で粘度の高い粘液の集合体のような使い魔だ。
粘液その物、その全てを除去するか、核を破壊するか、もしくは魔力切れを起こすかでしか活動停止しない。
ただその分、動きも非常に遅く、力も大して出せず何らかの別の攻撃方法を準備しなければならない。また本当に力がないため複雑な機甲のような重い物を体内に仕込むこともできない。
そのため攻撃にも魔力を消費するような物しか組み込むことは難しい。
様々な可能性はあるが、今のところあまり実用性は無いような使い魔でもある。
使い魔格闘大会に出場すると、大体の場合、泥沼試合になるので、観客からは余り好かれてはいない使い魔の種類でもある。
そんなわけでメイアードの人気は今日も最下位位だ。
「さてさてさてさてぇ~、第二回戦は一番人気のライアン操者と泥沼試合大好きおじさんメイアード操者だ!! で、気になるのは、やはりライアン操者の操る使い魔ですが、あれはグランドン教授がお造りになった使い魔ですよね? あまり見ない型の使い魔ですが、なんという型の使い魔なのでしょうか?」
そう言われたグランドン教授は実況の男を見る。
多少なりとも使魔魔術のことを学んでいることに、少しばかりの感心を持った。
実況の男が言うように、ライアンに貸し出した使い魔は少し特殊な型の使い魔だ。
「ふむ、あの使い魔の名は、レジェドと言いますが、分類する型は今のところありません。実際に、その他で登録した使い魔ですな」
新しく使い魔を作った場合は、魔術学院か騎士隊に申し出て登録しないといけない決まりがある。
これはどの領地でもだ。そう言う決まりになっている。
荷物持ち君もしっかりと泥人形という型で魔術学院に登録してある。
その他という分類は、それまで体系だっていない、新しい種類の使い魔が登録される場所で、その他で認証されるような使い魔は他の分類に比べて厳しい審査となる。
大概の場合は、色々な理由を付けて既存の分類に無理やり分類されることが多い。
そんな中で、グランドン教授の使い魔は、その他という分類に登録された、まさしく新しい種類の使い魔と言うことだ。
「その他ですが。あまりその他の分類はあまり認証されないと聞きますが、レジェドは認証され登録された使い魔なのですね?」
「はい、もちろんです。まあ、見てわかる通り虫種を元として組み合わせた使い魔で、戦闘特化、それも強襲用の使い魔です。実際に、我、自らが操り数種ほどの外道種を単体で屠っている使い魔でもありますな」
実戦での使い魔の使用目的は、大体おとり役か盾役だ。なので頑丈で多様性のある鉄騎が騎士隊でも正式採用されている。
余り攻撃役として用いられることは少ない。それはやはり既存の動きを組み合わせて動いているからで、摂理や常識の外にいるような外道種には、そもそも攻撃自体を当てずらいからだ。
なので盾役が実戦での役割となってくる。
場合により偵察役としても使われることもあるが、操者から離れすぎると動きが緩慢になる為、発見され撃破されることを織り込み済みの場合となる。
そのような理由から、使い魔単体での外道種撃破などはあまり聞かない話だ。
「え? 単体で外道種をですか? それはすごい! そんな実践向きの使い魔をライアン操者にお貸になったようですが、私には、そのー、上手く操れるのでしょうか? 人型からは遠く離れているのでそう操作は難しいように思えるのですが?」
使い魔は、特に繊細な動作も要求されがちな戦闘用の使い魔は人型であることが多い。
それは偏に操りやすいからだ。
足を無駄に増やしたり、手を何本も使い魔につけることは可能だ。
だが人間が基本的に自由に扱え認識できるのは、やはり人と一緒で腕が二本、脚が二つまでなのだ。
それ以上は、意識外になりがちで、ほとんど使われなく、無駄に魔力だけ消費するようなことになりがちである。
それだけでなく操者の方にも影響がでて、あまりにもその使い魔の操作に慣れてしまうと、操者自身が日常生活でないはずの三本目の腕を動かそうとしたりすることがでてくる。
なので、繊細で多彩な動きも要求されるような戦闘用の使い魔は、人と同じ人型であることが多いのだ。
だが、グランドン教授のレジェドという使い魔は人型からは離れた異形をしている。
あそこまで違うと、動かすだけならともかく、戦闘するともなるとかなりの技術と慣れが必要になってくるはずだ。実況の男はそれを気にしているのだろう。
だが、グランドン教授はその点は全く気にしていない。
「なに、心配ありません。ライアン君には夕刻前には貸し与えているので、もう操作も完全に会得している事でしょう。彼はなんだかんだで操者としては天才ですからな」
そう、ライアンは操者と言うことに関しては天才なのだ。
どんな異形の使い魔だろうと、すぐに慣れ、コツをつかみ、その本質を見抜き、巧みに操ることができる。
「天才というのは私もこの眼で見て来たからわかります、教授がそう仰るなら操作に関しては問題ないと言うことでしょうか。ええー、対するは不定形使い魔のメイアード操者ですね。教授の目から見て、メイアード操者の使い魔、ジュルソースはどう見えていますか?」
そう言いつつも、半分悪い意味で名物となっている不定形の使い魔を実況の男は見る。
それにつられたわけでもないが、グランドン教授もつまらない物を見る様にその使い魔を見る。
「使い魔格闘大会で不定形ですか、つまらないですな。格闘の名が泣きます。不定形自体はまだ開発の余地がある型ですので、そこは否定しませんがね。ただ現状では不定形に格闘は無理です。仕込みやすい電撃でも仕込んであるのではないでしょうかね。不定形の定番ですし」
不定形の使い魔は元は精霊から発想を得て作られたと言われる使い魔で、比較的新しい分類の使い魔の型だ。
ただまだ実用性と言われると、首をかしげる程度のものしかない。
将来はわからないが、現段階ではただただ倒しずらい使い魔の一つ、という位置づけでしかない。
メイアードも元は鉄騎を操る操者だったが、どう頑張ってもライアンの足元にも及ばなかったため、不定形という使い魔に目を付け使いだしたのだ。
それまで瞬殺されていた試合が、泥沼試合にまで持ち込めることになったため、メイアードもそれを気に入り、ついには、泥沼試合大好きおじさんなどという不名誉な二つ名迄付けられる始末だ。
そして、グランドン教授の予想通り、使い魔ジェルソースに仕込まれているのは、不定形に仕込みやすい電撃だ。
これは電気沼蛇と呼ばれる魚類の能力を真似て作られたものであるが、生物にならともかく使い魔に対する効果は微妙な物だ。ただ今のところ他に使い魔相手に優れた攻撃手段がないだけだ。
メイアードの目的も勝つことよりどれだけ粘れるか、どれだけ泥沼試合を演じられるか、に変わってきてしまっている。
「ええーっと、まあ、私は試合をよく見ているので存じていますが、流石は教授、概その通りです、と言っておきます! 今日も人気は最下位のメイアード操者です。ええっと、では使い魔の準備を終わったようなので、試合開始の鐘を願いします!!」
実況役の男のその言葉で再び、カァーーーン!! と甲高い金属製の鐘が鳴らされる。
「へへ、ライアンよ。今日も勝ちは譲るが泥沼には付き合ってもらうよぉ」
土俵場ではなくメイアードは薄気味の悪い笑みを浮かべつつ、ライアンを見ながら大声でそう言うが、ライアンは相手にしていない。
「……」
「まずは、核隠しの魔術を……!! へっ?」
メイアードが核を隠し、長期戦にするための魔術を発動しようとしたが、試合は既に終わっていた。
使徒魔術を仕込んでいた。
すぐに発動できる魔術であったはずだ。それで核を隠し長期戦に持ち込むはずだった。
距離も、土俵場の端と端で、かなりあったはずだ。
なのに、メイアードの目には、その核ごと真っ二つにされたジェルソースが見えている。
「もう終わっています。メイアード。あなたの使い魔にも、もう飽き飽きしています。そろそろ新しいのを用意すべきですね」
土俵場の上には開始の鐘と同時に瞬時に動き、ジェルソースの核が魔術によって隠される前に、核ごとその鎌で一閃していた。
制御刻印を失ったジュルソースは、解ける様にその粘液をその場に力なく広がらせている。核を壊されては、もうその姿を取り戻すこともないだろう。
本当に一瞬の出来事だ。一瞬で距離を詰め、その鎌で一刀両断して見せたのだ。
その動作を認識できた観客すら少ない。
「え? えええええええ!? 早い! 本当に早い!! 何だこの速さは!? わ、私には、その動きが本当に見えませんでした!!」
実況の男がやっと認識して、その言葉を紡ぎ出し、それで、なお、数舜の間をおいて歓声が沸き上がった。
「ぼ、僕のジェルソースが!? そ、そんなバカな……」
メイアードは信じられないものでも見る様に、土俵場で真っ二つにされ、力なく広がっている自分の使い魔を見ている。
「あなたの手口はわかっていましたので、早々にかたを付けさせてもらいました。悪く思わないでください」
不定形の使い魔はその構造から、核の位置も自由に移動させることができる。
魔術で隠され移動させられたら面倒だ。余計な魔力を浪費することになる。
ただ刻印、魔法陣である以上、その制御刻印は形の変わらない物に記さなければならない。それを破壊されてしまえばいかにしぶとい不定形であろうと一巻の終わりだ。
そのことが分かっているライアンは速攻で試合を終わらせたのだ。
そして、それこそが、このレジェドの本質である。
距離をものともしない、その驚異的な瞬発力で一気に距離を詰め、精霊銀の刃の鎌で致命的な一撃を入れる。
まさに強襲用使い魔だ。だが常人ではここまでレジェドを理想的に使うことはできない。
天才的な感覚の持ち主であるライアンだからこそできる芸当なのだ。
「ぐぬ…… ああ、僕もそれは理解していたつもりだ…… さすがにあの速さ反則だ。なぜライアン操者のような強者にあれほどの使い魔をお貸しに!?」
メイアードはグランドン教授に向かい、講義の声を上げる。
グランドン教授はそれを鼻で笑いつつも答える。ただその答えはメイアードに向けての物ではない。
「わかってもらうためです。世界は広いと言うことを。そのライアン君は私の貸し与えた使い魔をもってしても、今日、この場で、荷物持ち君に完膚なきまでに負けて頂くためです。言い訳にならないように、今現在、我が所有している中で一番強い使い魔をライアンに貸し与えました。それでも、ライアンは今日負けます。皆さんも見ていてください。歴史的な試合となりますよ」
グランドン教授はライアンを見ながらそう言ったが、それに対しライアンはじっと不服そうな顔でグランドン教授を見るだけだった。
不満も抗議の声も上げることはない。
代わりに実況の男がその場を繋げる。
「そ、それほどまで荷物持ち君一号のことを? 確かに、荷物持ち君は特別だと、第一試合を見て私もそう思いましたが…… グランドン教授のレジェドの動きについていけるのでしょうか、そもそも、あの速度で動かれては攻撃を防げるとは思えないのですが…… まあ、それも…… お楽しみの一つというところでしょうか?」
「その通りですな。あと、メイアード君のこの先の対応はいかに?」
グランドン教授はどうせ今言っても何も理解されることはない、とばかりに解説を破棄し、ただ茫然としているメイアードの話を振る。
「あっ、ああっと、すいません。あまりもの出来事に進行を忘れていました。ええー、核を破壊されたとのことで、以後の試合も続行は不能と判断させていただきます。メイアード操者は以降の試合は全て不戦敗とさせていただきます、メイアード操者に賭けていただいた方々は申し訳ありません!」
ここで怒声が少数上がるが、メイアード操者に対する者は更に少なく、どちらかというとグランドン教授に対して、なぜライアンにそんな使い魔を貸した、という怒声が大かった。
そもそもメイアードに賭けている層もメイアードが勝つとは思っていないのかもしれない。もし、万が一勝ってしまった時に用に毎回少額かけているだけなのだろう。
グランドン教授はそれを冷ややかに流しつつその時を待つ。
次の、その次の試合にそれはやってくる。
レジェドという使い魔にはそれなりに思い入れがある使い魔だ。
うまく使うにはかなりの練度が必要な使い魔ではあるが、使いこなせれば場所や相手を問わず戦える強襲用の使い魔だ。
特殊な合金を繊維のように引き伸ばしそれを編み込んで装甲としているので、その装甲は軽く想像以上に硬く耐久力がある。
また人間には少々操りずらいが多脚ではあるが、多脚ならではの安定性は非常に高い上に、恐ろしいほど素早く音もなく静かにどこでも移動することが可能だ。
特にその瞬発力は目を見張るものがある。下手をしたら人間の目にはとらえきれないほどの速さを瞬時に出すことができる。
しかも、そのような素早くも力強い可動を可能にしているのは、内部に竜の腱にあたる部分を使っているためだ。軽く強靭な素材は力強くも繊細な動きも可能とする。
そして最大の武器である鎌には希少な精霊銀を使っており、物理的な身体を持たない精霊ですら切り裂くことが可能となる。
攻撃力、装甲、素早さ、技量、どれをとっても一級品の使い魔だ。
一番の弱点と言えば、その操作の難しさくらいだが、ライアンであればそれはものともしない。
ある意味、天才操者であるライアンに最も適した使い魔なのかもしれない。だからこそグランドン教授はそれをライアンに貸し与えた。
それでも、荷物持ち君には決して、その足元にも、届かないことをグランドン教授は知っている。
朽木様により最適化される前であるのであれば話はまた別だが、今の荷物持ち君には遠く及ばないし、及ぶはずもない。
事前に、グランドン教授は荷物持ち君にはレジェドを破壊しても構わないので、完膚なきまでに叩きのめして欲しいとお願いしてある。
その様子を少しでも長く、上位種の使い魔という特異な存在の戦いを目に焼き付けなければならない。
そんなことをグランドン教授が考えていると次の試合の操者と使い魔の紹介が始まる。
第一試合に出ていた、カイル操者と鉄騎グランスルス、ヘムド操者と鉄人アイアスだ。
鉄人。鉄騎と似ているが、鉄騎が鎧の内部に様々な稼働部を作るのに対して、鉄人の体は鉄その物だ。
関節部分の可動部こそ人形のような仕組みで曲がるようにはなっているが、その体の大部分全てが鉄でできている。泥人形の鉄版ともいえる。
簡単に言ってしまうと、鉄の人形を魔力で無理やり動かす。そう言ったものだ。
なので非常に燃費が悪い。ただ機甲などを仕込んでない、単純な鉄の塊であるため、非常に強固で頑健である。
行動不能に陥らせるより、魔力切れを狙ったり、場外に押し出すのが得策ともいえる。
かといって動きが鈍いかというと、魔力で動かしているため消費を考えなければ素早い動きも可能だし、やはり魔力の消費を考えないのであれば強い力を出すことも可能だ。
そんな鉄人の弱点は燃費の悪いさだ。現状では特殊な素材でも使わない限り、全力で稼働させたら五分も持たないような物だ。
なので鉄人の操者には燃費を抑える戦い方が求められる。例えばだが、腕を振り上げて後はその重い自重に任せて振り下ろすだけでもそれなりの破壊力を産むことができる。
そう言った操者の技術や工夫も必要となってくる使い魔だ。
この二人の戦いは普段なら白熱した物になり、かなり見どころのある試合になるのだが、今日は観客の反応は今一だ。
使魔魔術の権威であるグランドン教授があれほど煽っているのだ。観客も次の試合を早く見たくてたまらないのだ。荷物持ち君とレジェドの試合を。
ついでに今回の試合の結果はカイル操者がヘムド操者のアイアスを場外に押し出し、カイル操者が勝利している。
「とうとうやってきましたね、ミア操者とライアン操者の試合です。二人とも二戦目の戦いとなっておりますが、その使い魔の消耗も両社ともほぼみられてないと思います! 教授のお話では、やはり荷物持ち君一号に分があるとの話ですが、もう一度詳しい解説をお願いしてもよろしいでしょうか?」
実況の男は、あまり解説してくれないグランドン教授に、少し困りながらも話をふる。
ただ実況の男もここまで特殊な使い魔が、二体も出てきているので、グランドン教授の思わせぶりな対応もちゃんと理解はしている。
してはいるのだが、立場上話を振らない訳にもいかないというだけだ。
「詳しいと言われましてもな。荷物持ち君は機密の集合体のような使い魔で、我もそれほど把握できていないのですよ。ただ我にわかるのは、ライアン君には悪いですが、一分の勝ち目もないと言うことだけです。すいませんな。まともな解説ができなくて。それほどの使い魔だと言うことですよ」
グランドン教授も実況の男の苦労を理解できているのが、素直に謝罪して見せる。
だが、そんなことよりも実況の男は、グランドン教授ですら、荷物持ち君のことを把握できていない、という言葉に気を取られてしまう。
「は、はあ? な、なるほど? 要はその目でしかと見ろと? そう言うことですね?」
「ハハッ、あなた、いい実況ですね。まさしくその通りです。我も荷物持ち君が戦うところをこの目に焼き付けたいのですよ」
その言葉に実況の男も再度言葉を失う。
これだけ自信たっぷりに荷物持ち君のことを押しているのにも可かららずその戦いぶりを見たことが無いような言い様だ。
「え? 教授も荷物持ち君が戦うところを見たことが?」
「ええ、あの第一試合が初めて…… いえ、格闘術の訓練で組手などをしているところは見たことはありますがね」
グランドン教授は素直に答える。
そもそも今の荷物持ち君が全力で戦えるような相手がまずいないのだ。
スティフィとの組手もただの練習でしかない。
それこそ外道種や竜でも相手でなければ、その本気とやらを見ることはできない。
それはレジェドでも同じで、本気は見れないまでも、その片鱗くらいは見れる物とグランドン教授は期待している。
「格闘術ですか? 組手? ああ、ミア操者の練習…… って、荷物持ち君一号には勝手に動くんでしたか?」
使い魔が組手の練習をするとか、通常では訳の分からない話だ。
だが、自ら動くという使い魔である荷物持ち君であるならば、それも分からなくはない話だ。
ただ通常はやっぱり操者の方の操作方法の練習が思いつかれるのが常識だ。
「はい、その時のミア君は…… 授業の復習を武道場の片隅でしてましたね。勉強熱心ですな」
そう言って、少し呆れた表情をグランドン教授は見せた。
争いごとににそもそもミアは興味がないのか、スティフィと荷物持ち君の組手をよそに、ミアは騎士隊の武道場の隅で、教本と雑記帳を開き、講義の復習をしていたのをグランドン教授は思い出す。
まあ、確かに荷物持ち君の性能を図る一環でグランドン教授から持ち掛けた話ではあるが、あまりにもミアらしい対応に変な笑顔を浮かべていた自分をグランドン教授は思い出す。
「は、はあ? なんて言うか、確かに色々と常識に囚われない操者という事だけは理解できました! いえ、そもそも操者と呼んでいいのかも謎ですが。まあ、恐らくは事実上の決勝戦ですが、まだ四戦目です。四戦目にして事実上の決勝戦と言っても過言ではないでしょうか」
そこで、実況の男は一呼吸して、その後の言葉を一気にまくしたてる。
「これ以上は言葉も不要、その目で実際にみて確かめて欲しい、そんな試合が…… おっと、準備も終わったようですので、本当に歴史的瞬間になるか!? 飛び入り参加者ミア操者と荷物持ち君一号、対、格闘場の覇者ライアン操者のレジェド! 早速、試合を開始してください! では、鐘を!!」
実況役の男もこれ以上はグランドン教授に解説をお願いしても意味はなさそうだし、観客も次の試合を心待ちにしているようなので、手早く口上を切り上げて、試合の合図を促したのだ。
その日、四度目にして、その日、最後の、カァーーーン!! と甲高い金属製の鐘が鳴らされる。
まずはレジェドの速攻からだった。
その百足のような多脚から繰り出される瞬発力は試合開始の合図とともに、荷物持ち君との距離を一瞬で詰める。
蟷螂が一瞬で獲物をその鎌で捕獲するように、二本の鎌で同時に襲いかかるが、それを最小の動きで荷物持ち君は右手だけで二つの高速で迫りくる鎌を事もなく払いのける。
人間が反応できる速度でもなく、恐ろしく正確な動作だったが、荷物持ち君はそもそも人間ではない。
いとも簡単に払いのけられたことで、ライアンは驚愕しつつも一度距離を取る。
百足のようなその足は後退するのも早い。一瞬のうちに距離を取る事ができる。そしてライアンは相手の、荷物持ち君の出方を見る。
一応ミアを横目でチラリと見たが、操者台の上で頬けたままだ。
その視線は格闘場に向けられておらず現実逃避するように、星が見え始めた夜空へと向けられている。
その様子から本当に操作がいらない使い魔だと言うことがライアンにも改めて理解ができた。
ライアンは確かに、師匠が執着する程の使い魔だとこの時やっと認めた。
だが、神の如き師匠から貸し与えられた神機ともいえるこのレジェドがあれば、何者にも負けないと強く確信もしている。
自分は決して負けやしない、と、ライアンはまだ思っていた。
対するミアだが現実逃避しているのには実は理由があった。グランドン教授が高そうな特別製の使い魔を、荷物持ち君に完膚なきまでに叩きのめして破壊して欲しいと頼んでいたからだ。
どこか、若干ではあるがロロカカ神の姿と似通ったところのある使い魔、それを壊せというのだ。
似通ると言っても長い胴に虫の足が付いているというところくらいだが。
それでもミアは若干ではあるがレジェドを一目見たときから、なんだか親和性を感じてしまっていた。
ロロカカ神の元を離れ心恋しくなっていたのかもしれない。
しかし、親和性を感じたそれを破壊して欲しい、しかも完膚なきまでにとの話だ。
とはいえミアもレジェドという使い魔とロロカカ神に関係があるとは本気で思っていない。ただ少し、ほんの少しだけ、似通ったような姿を、と思ってしまっただけだ。
なんなら実はミアもロロカカ神の姿は尻尾の辺りを一度チラリと見ただけだ。
ミアが今、似通っていると勝手に思っている足の部分など、伝承でしか聞いたことない話だ。
だからこそ、逆に異形の使い魔相手に似通っているのでは、と思ってしまっただけだ。
もちろん、レジェドの持ち主であるグランドン教授の頼みなので、荷物持ち君がレジェドを破壊することに、若干の抵抗はあるものの、止めるようなことはしない。
ただその目で少しでもロロカカ神と共通点があるようなないような使い魔が破壊されるところ見たくはない、とミアは思っているし、なんなら使い魔同士を戦わせるという行為自体にそもそも興味がない。
なので、視界に入れないように夜空を見上げ何も考えないようにして頬けているのだ。
ミアがそうしている間にも試合は続く。
荷物持ち君は主の思考に気が付いている。
主が敬愛してやまないロロカカ神に、相手の使い魔が若干ではあるが似ているらしいと言うことに。
ただ倒すことも破壊することも是としてくれている。
相手はそれなりに強い。人間が造った使い魔なれど、それなりの創意工夫がなされ虫種の特性を取り入れたその使い魔は、練習相手にはぴったりだと考えている。
特にその瞬発力は素晴らしいと荷物持ち君は評価している。
確かに親である朽木様に自由に動けるように刻印を最適化してもらいはしたが、古老樹の本質はやはり動かない樹木である。
四肢を動かすのには未だに慣れてはいない。何度か主の友である人間と訓練したことはある。
だが主の友人であるがゆえに、訓練でも本気を出すことはできない。
しかし、今目の前にいる使い魔は破壊してよいと言われており、それなりの強さを持った相手だ。
この体の動かし方を練習するには、ちょうど良い相手ではある。
しかも、それを破壊することで自身を強化できる素材を得ることすらできる。
主には少し申し訳ないが、ここは新しく与えられ自由を得た体の性能を確かめる良い機会である。
これも主を守るための事だと荷物持ち君も割り切っている。
荷物持ち君はそう考え、レジェドではなくそれを操っているライアンに、その武骨な指で、指さし、かかってこい、と挑発するような仕草をして見せた。
それを見たライアンは、もちろん激高する。
まさか使い魔に、操るべき使い魔に挑発されるとは思っていなかった。
嫉妬、誇り、傲慢、そして強い思い込み。そのすべてを刺激した挑発となった。
ライアンは怒りに任せてレジェドを操作する。
両手と同じく鋭い鎌となっている足でそこらじゅうを突き刺すように荒々しくも素早く走り回り、最大の武器であるその鎌で、まずはその憎たらしい右手を狙う。
対して荷物持ち君はその攻撃を敢えて受けた。
レジェドの鎌は荷物持ち君の右腕に深く突き刺さる。
「おっと、レジェドの素早い攻撃が荷物持ち君の右腕を今度は捕らえた!!」
解説の男がそうか叫ぶ。
実際にレジェドの鎌が、荷物持ち君の体、その右手、その芯であり支えである陶器にまで深く刺さり込んだ。
だが、荷物持ち君は慌てない。
その刃に精霊銀が使われていたとしてもだ。胴体にある精霊の社を攻撃されたら焦っていたかもしれない。その場合は事前に攻撃を避け攻撃その物を受けやしないが。
人間で言うところの骨にあたる支えは陶器でできている。
レジェドの一撃を受け止めはしたが貫かれ、砕け全体にヒビが入っている。
荷物持ち君自身の根も粘土の中に這わしているが、それは避けている。古老樹であっても精霊銀の一撃は痛いからだ。
支えを貫いた手応えがあったライアンは勝機とばかりにもう一方の鎌を荷物持ち君の頭部に振り下ろす。
それを荷物持ち君は左手で簡単に払いのけた。まるで羽虫を払うかのようだ。
そして右手に魔力を集める。
レジェドの鎌を押し出すように支えの再生が始まる。
砕かれた部分が繋がり、ヒビなどはじめっからないかのように元通りになっていく。
サリー教授によって作り出された超陶器ともいえるこの支えには破壊されても元の形に戻る魔術が仕込まれている。
通常の使い魔では魔力を消費しすぎて使えたものではないが、古老樹である荷物持ち君にとっては魔力など、人間に貸してくれてくれてやるほど持っている。
例え、地脈から吸い上げられなくとも、親である朽木様から貰ったこの体には既に十分に魔力は貯えられている。
それに主がくれる腐葉土からも上質な神の魔力を得ることができている。
何より、神の強い祝福を受けた主の髪の毛は半ば無尽蔵な魔力を有しているようなものだ。
それがこの体全身に張り巡らされている。
荷物持ち君が魔力不足になりえることなどあり得ない。
瞬く間に刃を押し戻し支えは再生し終える。
支えの再生の実験も上手くいった。精霊銀の刃すら押し戻し完全に修復させることができる。
人間が作りだした物ではあるが、中々良きものであると荷物持ち君はその性能に満足する。
さらに次の段階に進める。
壊れた物を再生できるのであれば、その魔術を少し書き換えれば、形を置き換えるのも容易いことだと。
無論古老樹である荷物持ち君だからこそできる話で、人間ができるような話ではない。上位種としての高い魔術への理解力がそれを可能にしている。
荷物持ち君が右腕の支えの魔術を書き換える。
そうすることでそれは伸び、さらに先端をとがらせる。
傍から見ると、荷物持ち君の右手から槍のようなものが生成された。
「なっ、荷物持ち君一号の右手からから槍が生えた!? あれでレジェドの一撃を防いでいたとでも言うのでしょうか!? 隠し武器を仕込んでいたのか!?」
それを見た実況の男がそう言うが、数瞬の間があってから、それをグランドン教授が、狼狽えながらも否定する。
「いいえ、違います…… あれは支えです、泥人形の。それを…… 我も、し、信じられません」
グランドン教授もその詳細をわかっていつつも解説することを避ける。
それを口にしてしまえば、それこそ正気を疑われるような話だから。荷物持ち君がやったことはそれこそ、上位種の領域でもない限りできない奇跡のような魔術だ。
いや、もはや魔術と呼んでいい物でもない。まさしく奇跡の一つなのだろう。
まさか一使い魔が、魔術そのものを書き換え、支えから武器を作り出すなど、信じられる話ではない。
右手から生え出て来た槍のような物を見て、ライアンは未だに荷物持ち君の右手に刺さっている鎌を引き抜こうとするがびくともしない。
少し遠目ではあるがよく見て見ると、黒い何か糸のような物が鎌に絡みつき、その動きを封じているのが分かった。
それをライアンが目にしたとき、何か底し得ぬ恐怖を感じた。
背筋が凍り不吉な、混沌から這い寄るような、そんな薄気味悪い気配を感じずにはいられない。
「私は何を相手にしているんだ?」
ライアンの口から自然とその言葉が漏れ出す。
黒い糸のようなもの、ミアの髪の毛は自ら意識を持っているかのように動き、鎌に絡みつき、そして、強く締め付ける。次第にそれが増えていくのがわかる。
レジェドの装甲にヒビが入り、嫌な音を発し始める。
ライアンは慌てて力任せに鎌を引き抜こうとするが、びくともしない。
逆にレジェドの方が悲鳴を上げるような高音の異音を発する。
強靭な竜の腱によってその体を動作するレジェドが異音を発するなど通常ではありえないことだ。それだけ強い、とてつもなく強い負荷がかかっているのだ。
鉄人や泥人形は魔力でその体、鉄や粘土といったその体を構成するものを動かす。
それ故に魔力効率は悪く、動かせばとても燃費が悪い。
だが、魔力は無尽蔵にあり、その体に古老樹の根が張り巡らされ、神の祝福を受けた髪の毛まで張り巡らされているのだとしたら。
その力は一体どこまで出すことができるのだろうか。
泥人形の場合、骨の代わりである支えの強度がその力の最大値に直結していると言われている。
それすらも魔力さえあれば再生できてしまう支えであるのならば、その最大値など誰にも計り知れない。
荷物持ち君はレジェドの鎌が刺さったままの右手を強引に振り払う。
髪の毛がまとわりついていた鎌だが、髪の毛が引きちぎられることはない。逆にレジェドから簡単に、嫌な甲高い音を立てて、その鎌自体が引きちぎられる。
そして、その蠢く髪の毛は鎌を破壊しつくし、精霊銀の刃だけを荷物持ち君の体内へと取り込んでいった。
「え?」
その光景に実況の男が絶句する。
いや、グランドン教授ですら絶句した。
「精霊銀を取り込んだのですか? しかも戦いの中で?」
精霊銀は銀に精霊が溶け込み変異した金属だ。
その性質は、もはや銀でもなければ精霊でもない。新しい金属とでもいうべき物になったもので非常に希少な金属だ。
人にとっては謎な部分が多く解明できていない金属ではあるが、肉体を持たない精霊やその種類の外道にも傷を負わさせることができる希少な存在として知られている。
それを荷物持ち君は取り込んだのだ。
しかも、それをすぐさま利用する。
支えの形を変えた要領でその刃の形を変え、支えを変え作り出した槍の先に刃として、歯や爪のように生やして見せた。
「なっ、精霊銀の形状を変えて利用しているのですか? ははは…… 凄い、素晴らしい、これが…… この力こそが……」
上位種の御力。
グランドン教授はそう言いそうになるのを何とか堪える。
とてもじゃないが、人間がどうこうできる存在ではない。
グランドン教授にとっては、新しく護衛者になった精霊なんかよりも、荷物持ち君の方がより強大な存在に思えて仕方がない。
これでまだ苗木のような状態なのだ。これが育ってしまえば、どうなるかなど人間には想像できるものではない。
「な、なんなんだ、私は何と戦わされている?」
ライアンは畏怖しつつも、鎌を破壊され自由になったレジェドをいったん引かせ距離を取る。
いや、意図せずに、ライアンのこれまでの経験が勝手に、自己防衛のために、その使い魔から距離を取らせたのかもしれない。
そんなレジェドに荷物持ち君は追撃せず、作り出した槍を素振りし、その使用感を確かめているようだ。
そのおかげでライアンも冷静さを取り戻す時間ができた。
ライアンとてこの格闘場の覇者としての誇りがあるし、敬愛する師匠から借りたこの使い魔もいる。
確かに師匠はライアンに破壊されても気にしないように、とレジェドを貸し出すときそう言っていた。
師匠はこうなることが分かっていたのだ。
それでいて、全力で立ち向かってください、ともライアンは言われている。
ならば、ライアンがやることは一つだ。
尊敬し、敬愛し、神と同じように崇めている、師匠に勝利を捧げるために、立ち向かう事だけだ。
ライアンには初めから選択肢などない。
しかし、実際はただのレジェドを解体する見世物でしかなかった。
荷物持ち君の興味はもう一方の右手の鎌についている精霊銀の刃。それとレジェドを直接動作させている体内にある竜の腱だ。
荷物持ち君はその竜の腱を自分の関節の緩衝材、軟骨の代理にと仕込もうと考えている。それでよりよく動くことができるようになるはずだ。
それらを得るために、レジェドを解体し、貪り食うように取り込んでいくという作業が土壌場の上で繰り広げられた。
試合ではない。ただの一方的な捕食であり解体作業だ。
そうなるまでに、まず荷物持ち君はレジェドの多脚を、動き回れないように創り出した槍で破壊していった。
どんなにレジェドが素早く動き、距離を取ろうが、まるで移動先がわかっているかの如く荷物持ち君は先回りし確実に一本一本、脚を破壊し、中にある竜の腱を取り込んでいく。
多脚の半数が壊された時点でレジェドはほぼ動けなくなる。そうすると荷物持ち君はレジェドの胴をかち割り、開き、その体内に仕込んである竜の腱のみをもぎ取っていく。
ライアンは泣きながらも最後まで抵抗するものの、どうすることもできなかった。
会場は最初こそ盛り上がりはしたが、その凄惨さに静まり返っていた。
ライアンは使い魔の大破で負け、その後、その試合を見た二人の操者からも辞退を申し出て、この大会は幕を閉じた。
無論、それ以降は荷物持ち君は当初の予定通りティンチルでの使い魔格闘大会を出禁となった。
この頃からだろうか。
シュトゥルムルン魔術学院には魔女のような生徒がいると、噂され始める様になったのは。
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