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試験が終わった後の夏休みと海でのいつもとちょっと違う日常
試験が終わった後の夏休みと海でのいつもとちょっと違う日常 その1
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ここは前年度までシュトゥルムルン魔術学院で使徒魔術、しかも珍しくも天使と悪魔両方の使徒魔術を教えていた老教授の家だ。
その老教授は歳からか教授の職を引退し、故郷へと帰って行った。
今、この家の主はオーケンという男だ。
古くはあるが趣のある良い家だ。
そんな家の居間でオーケンは昼間から酒をあおっている。それを呼び出されたマーカスが迷惑そうにしながらも、直前に手渡された物を観察する。
「師匠、なんですか、コレ?」
マーカスはオーケンから手渡されたのは革製の券のような物だった。
とても豪華な作りで、焼き印までされている。なんなら複製防止の呪いまでかけられている。
何かの引換券のようだが、かなり高価な品に思える。少なくとも庶民に出回るような物ではないように思える。
「海水浴券だ。高かったんだぞぉ、大事に使えよ」
オーケンはにやけ顔でそんなことを言ってくる。
マーカスは率直に何を言ってるんだ、と思った。
そもそもこの世界の海は人間の領域ではない。海は海に属する精霊の物で、人間が許可なく立ち入れば精霊に見つかり次第に襲われるような場所だ。
海に属する精霊は、地に属する精霊のように人間に友好的ではなくとても排他的だ。
ただ海神の加護というか、許しがあれば襲われるような事はなくなる。それでも友好的とはとても言い難い。
海を行く船の先端には必ず取り付けられるような物だし、大なり小なりの船に関わらず取り付けなければまともに航海はできない。
船でなくとも、海に関わるような人間は全員、指輪や首飾りにして海神のお守りを身に着けていなければならないような場所だ。それがこの世界の海というところだ。
そんな場所での水浴をするための券。しかも高かったとのことだ。マーカスからしてみれば訳が分からないし、理解もしがたい。
それ以前に、
「いや、そうじゃなくて。直接関与しないって話じゃなかったでしたっけ?」
そのような話だったはずだ。
あれから一ヶ月もたたないうちにオーケンはそれを破ろうとしている。なんならこういった干渉は今回が初めてではない。
「こんなもん関与に入らんだろう? それに、いい実験になるしなぁ」
そう言って顔をにやけさせている。どうなるか楽しみで仕方がないっていう顔をしている。
そして杯の底の酒を舌でなめとろうとし始めたので、仕方なくマーカスはまだ入っている酒瓶を机の上から探し出し、酒をオーケンが手に持つ杯に注いでやった。
それでちょうど酒瓶の中も空になる。似たような酒瓶が部屋中に転がっている。マーカスは空になった酒瓶を床に置いた。
それこそ関与している証拠では、と、マーカスは思うが口には出さない。言ったところでオーケンに怒鳴られるだけだ。
師匠がああいった、にやけるような顔を見せているときは、もう一つか二つ、裏に何かがあるときだと言うことも知っている。
何か考えがあっての事だろうけれども、そのほとんどがろくでもない事だけは確かだ。
それを考えるとマーカスも気が重くなる。厄介ごとな事だけは確かだ。いや、行く場所が海というだけで厄介なことは確実している。
「はぁ…… 一応騎士隊の方にも連絡しますよ? いいですよね、そういう取り決めのはずですし。にしても、海ですか。海なんて人が入る場所じゃないでしょうに」
マーカスも海に入ったことはない。
見てる分にはいい場所だと思うが、小さい頃より海は危険な場所として教えられてきている。
そして実際海は危険だ。許可なく入れば命がいくつあっても足りない。
それでも見返りは多い場所なので、漁なども行われているが、命がけだという話だ。
「なんだ、んな事信じてんのかよ。まあ、それはそうだが、沖にでも出ない限りは襲われたりしねーよぉ。それに陸まで逃げれば海の精霊はそれ以上追ってこねーよ。あいつらは執念深いわけでもないしなぁ。そもそも、その券持ってくと水着っていうもんを貸してくれんだよぉ」
オーケンは注がれた酒をまるで水でも飲むかのように一気に飲み干した。
ついでに、海に属する精霊が執念深くない、というのは嘘だし、たとえ陸に逃げても津波を起こされてそのまま海へ連れ去らわれた、という話もある。
師匠の話はやはり信用に値しない、とマーカスは再度認識する。
「水着…… ですか? なんですそれ?」
その言葉からなんとなく意味は推測できる。水場で着るための服なのだろうと。
それがどんなものなのかまではマーカスには想像できない。普段あまり聞かない言葉だ。もしかしたらそれもオーケンの嘘かもしれない。
「本来は海や湖なんかに入るための専用の衣服、らしい。俺もよく知らん。それには神の加護が施されてあって海の精霊達からの干渉を防ぐんだとさ」
マーカスのおおよその見当通りだが、神の加護までついているとなると相当高価な物なのだろう。
この海水浴券とやらの豪華さも頷けるという物だ。
だけれど、マーカスはそんな水着という服の話などは聞いたこともない。
「なんですか、それは。ただの水遊びに随分と手の込んだ贅沢ですね」
そう言いつつ、もしオーケンの言っていることが本当であるのならば、マーカスには、いや、庶民には早々手が出ない娯楽なのだろう、と推測できる。
富豪か貴族辺りを対象にした娯楽なのだろうか。
ただの水浴でそんな商売が成り立つとはマーカスには理解できない。
海に安全に入れるとはいえ、たかが水浴びだ。子供のお遊びだろうとマーカスには思える。
師匠の話に信憑性をまるで感じることができない。
ただ単に師匠がからかっているだけかもしれないが、それにしてはこの革製の券は豪華な作りになっている。
この券を学院の事務員にでも確認してもらえば、嘘か本当かくらいはすぐにわかるはずだ。そのためにこんな豪華そうな物をわざわざ用意するとも思えないし、なによりこの券は使いまわされているのか年季もそれなりに入っている。
偽物と簡単に判断することもできない。
「ここ数年…… だったかな。お貴族様たちを中心に流行ってるらしいぞ」
マーカスの思案顔から思考を読まれたのか、オーケンがそう言って来た。
マーカスはそれに驚きはしたものの、もう慣れた、とばかりにそれ自体には反応しない。
「はぁ…… 眠らされている間にそんな物はやってたんですねぇ」
確かにここの領地は比較的に平和で裕福な領地ではある。
貴族達が暇を持て余すのも分からない話ではない。
「そんなわけで行ってこい。その券一枚で三人迄水着を貸してくれるらしいぞ。んだからな、ダーウィックの犬も連れて行って来いよ」
オーケンはそう言った後、何か意味ありげな下種な笑いを見せた。
マーカスにはその嫌な笑顔の意味は理解できなかったが、面倒ごとを考えている事だけはわかった。
「犬って、スティフィのことですか? 彼女何者なんです? まだ若いのに恐ろしく強いですよね?」
マーカスはスティフィを美人とは認識しているが、それ以上に恐怖の方が勝る。
彼女がその気になれば自分などたわいもなく殺せるほどの実力者だと言うことを肌で感じている。
「元狩り手だそうだ。デミアス教でも闇の部分だな。わかりやすく言うとクラウディオの奴の暗殺部隊だか懲罰部隊だか、とにかくそう言った感じだな。幼い頃より鍛え上げられた本物の暗殺者だよ」
「はー、まあ、そう言う話であれば深くは聞きませんよ。面倒ごとは嫌ですので」
暗殺部隊と聞いてマーカスは納得し、これ以上深く話を聞くことを即座にやめる。
関わってもいいことはなさそうだ。
「まあ、とにかく行って来いよ、海。で、ちゃんと顔だけはミアちゃんの方をむいてるんだぞ。俺も見てるからな。あとミアちゃんには手を出すなよ? あの娘に手を出したら恐らくおまえ死ぬぞ、下手したら俺も巻き込まれかねん」
何やら物騒に脅されているが、そもそも手を出す気もないのでマーカスはそれを無視する。
そして、さっきまでオーケンが浮かべていた下種な笑みと、スティフィを連れていけと言っていた意味を理解する。
マーカスもミアのことは人として嫌いではないが、異性としては見ていない。
スティフィのことは異性としては認識しているが、それ以上に恐怖の方が勝っている。マーカスから二人に手を出すことはないだろう。
とりあえず、そのことは無視して、見ている、という言葉にだけ反応しておく。
「おでこのこれですか?」
マーカスは額に無理やり入れられた刺青を思い出す。
目の形をした刺青で、魔術というよりは呪い、呪いというよりは呪術の類らしい。
「そそ、その目を通して俺も見守っててやるからよぉ」
そう言ってまた下衆な笑みを浮かべる。
この眼を通してオーケンにもマーカスが見た物を見ることができるという話だ。呪術が高度すぎてその原理はマーカスにはよく理解できていない。
が、今も浮かべている下衆な笑いの意味がやっとマーカスにも分かった。
ミアに手を出すと死ぬ可能性すらあるので、スティフィも連れて行ってスティフィで済ませろ、とオーケンは言っていたのだ。
さすがは欲望に忠実なデミアス教の大神官だ、理性の欠片もない。
あんまりひどいようなら、サリー教授にでも相談するのがいいかもしれない。
なんだかんだでオーケンは娘のサリー教授に酷く甘い。
不貞腐れながらもサリー教授に言われたことだけはしっかりと守っていたりする。ああ見えて、子煩悩なのかもしれない。
いや、オーケンも己の欲望に忠実な結果なのかもしれない。
「盗み見の間違いでしょう」
そう言ってマーカスは軽くため息をつき、言葉を続ける。
「俺にこんなもんつけるより、スティフィにつけた方がいいんじゃないんですか? 彼女の方がミアちゃんに近いですよ」
デミアス教徒であるスティフィなら、大神官の一人であるオーケンの頼みを断りはしない、というか、断れないだろう。
そっちの方がオーケンにとっても都合が良さそうな物だが、現状はそうなっていない。
「んー、それができないからオマエなんだよ」
少しめんどくさそうな表情をオーケンは浮かべた。
何らかの理由がありそうだけれども、マーカスはそれを聞きたいとは思わない。聞いたところで良い事もないだろうし、深入りもしたくない。
「まあ、深入りはしたくないので理由は聞きませんよ。あー、あと一応誘ってみますが、断られても怒らないでくださいよ」
「あっ、ミアさんちょうど良かったです。渡したい物があるんですよ」
ミネリアは事務室にやって来たミアを見つけて声をかけた。
ミアにはやっぱり精霊が引っ付いている。それもとてつもない力を持ったはぐれ精霊がだ。
けれども、その精霊はミアを守護するだけで、ミアに危害を加えない限りその精霊が人間に手出しすることはないらしい。
そんな精霊を見ることができるミネリアは、緊張はするもののその精霊にも大分慣れてきてはいる。少なくとも取り乱すようなことはなくなった。
教授達より説明があった通り、ミアについている精霊はミネリアにもその他の人間にも手を出すことはない。
ミネリアにはあまり信じられない話だが、教授達が言うからにはそうなのだろう、と割り切ることにした。
ついでにミア対応の特別手当も多少額が上がっていたりもする。
「え? はい、なんですか?」
事務員であるミネリアにミアが話しかける前に呼び止められるなど、余り体験してなかったことだ。それでミアが驚いていると、ミネリアに手招きをされた。
ミアはそれに従って足早に受け付け口に向かった。
そうするとミネリアは笑顔を浮かべながら一枚の書類に目を通し始めた。
「まずは…… おっ、凄いですね、全部の試験合格ですね、おめでとうございます」
「本当ですか? ありがとうございます!! 頑張ったかいがあります!」
そう答えるミアだが、ミアにとって今回のが人生で初めての試験という物だった。
なので、試験勉強という概念すらミアにはなかった。ただ試験が近くなった時、スティフィが珍しく机に向かい必死に講義の復習をしていたのを目撃している。
ミアは普段通りの生活をしていただけだ。普段から頑張っていた、と言えばそれだけのことだ。
「って、本当に凄い量の講義受けてるのね、ほんとよく全部合格できてるわね……」
ミネリアはそう言ってミアの受けた試験の結果が書かれた紙を丁寧に確認し何かを数えている。
「スティフィも全部合格したって言ってましたよ」
ミアにそう言われて、ミネリアは目線を泳がせ、スティフィ・マイヤーの情報が書かれた紙を机の上から探す。
そしてすぐ見つけ、その内容にも目を通す。
ミアの言っていた通り全て合格している。が、試験の点数自体はすべてミアの方が上だ。
ここで、ミネリアは少し疑問に思う。まだ試験の結果は生徒に知らされていないはずだ、と。
ただ自己採点することは可能なので、その結果からある程度予想することはできるので不可能なことではないのでその疑問を破棄する。
「ほんとだ、二人とも優秀ね。で、今回の試験でミアさんは、一応卒業の基準を満たしたから、これね、第八等卒業許可証」
そう言って一枚の用紙を手渡される。
そこにはミアの名前と必要最低限の情報が書かれ、シュトゥルムルン魔術学院の第八等魔術師の卒業基準を満たした、という旨の文章が堅苦しく書かれている。
「え? もう卒業しないといけないんですか?」
それを渡されたミアの素直な感想がそのまま言葉に出た。
ミネリアはそれに笑顔を返しその言葉を否定する。
「違う違う、卒業も可能になった、というだけですね。魔術の才能があっても全員が全員、職業的魔術師やミアさんのように巫女を目指すわけではないので。中には魔力の制御方法だけ学んで、それで卒業って人もいるんですよ。本人が望めば気が済むまで学べるのが魔術学院です。ついでに今の段階でも卒業すると就職がちょっとだけ有利になりますね。その卒業許可書を持っていると、魔力の制御がある程度できて魔術の知識も多少ある、って言うのが世間での認識かな。だから生徒書と共に無くさないで大事にしてくださいね」
「なるほどです。わかりました。大事にしまっておきます!」
そう言いながら、ミアは卒業許可証を丁寧に鞄の中に仕舞い込んだ。
「で、ミアさんが今回の試験で一番の成績だったのがいくつかあるので、賞品としてこれが学院より送られます。全部で…… えーと、七科目ね。七科目での筆記試験で一番だったので七枚ですね、ほんと凄いわね」
ミネリアから数枚の券が手渡される。
それには福引券と書かれていて複製不可な魔術印が押されている。
ミアにはこれがなにか分からないが、魔術印のおかげでそれなりに価値があるものだと言うことが理解できる。
「なんですか、この券は?」
「福引券ですよ。第一購買部で福引できますので、ぜひご利用してくださいね。夏休み前なので賞品も豪華になってたはずですよ」
ミネリアはそう言ってミアに微笑みかけた。
ミアは訳も分からずとりあえず、
「ありがとうございます?」
と曖昧ではあるけれども感謝の言葉を述べた。
「そんなわけで福引券を七枚も貰いました」
ミアはとりあえずスティフィに福引券とやらを見せびらかす。
スティフィはミアから少し離れた位置を歩きながら、少し遠目でその券を確認する。
「七科目ってほとんどの講義で一番だったってこと? 凄いわね」
「むー、まだ距離を取るんですか?」
そう言ってミアがスティフィに近寄ろうとすると、スティフィは更に距離を取った。
ミアとスティフィからは見えてないが、スティフィが取っている距離はミアに絡みついている精霊の大きさとほぼ同じくらいの距離だ。
スティフィは精霊の存在をその危機管理能力の高さで感じ取り本能的に避けている。
「し、仕方がないじゃない! 未だに下手に近づくと鳥肌が凄いのよ。ほら見てよ、こんなに蒸し暑いのに凄い鳥肌が立ってるんだから」
遠目ではあるが確かにスティフィの腕が鳥肌になっているのがミアにも分かる。
スティフィを安心させたいためにこの精霊を配下にしたのに、スティフィから距離を取られるようになってしまった。
以前は割とべたべたとスティフィはミアに触れてきていたので、それが急になくなるとなにか寂しく感じてしまっている。
「でもスティフィには精霊さんは見えないんですよね? 怒りの矛先ももう向いてないはずですよ?」
カール教授の話でもミアについている精霊は非常に安定し満足した状態でいるとの話だ。
怒りの感情など微塵も感じないという話ではあるが、スティフィにとってはまた別の話なのかもしれない。
「見えないけど、なんとなく肌で感じるのよ!!」
ミアもスティフィはダーウィック教授の命令で自分と仲良くしてくれている、というのは理解できている。
理解はできていてもミアにとって初めての親しい友人だ。それになんだかんだで気が合うことは事実だ。
ダーウィック教授の命令がなくとも、親友とは言わないまでも友達になれていたかもしれない、と思っているくらいだ。
そんな親友が理由はわかっているが急に、物理的にではあるが、距離を取られると寂しいものがある。
「むぅ、夜も一緒に寝てくれなくなりました!」
ミアが頬を膨らませて不満気に言う。
「子供みたいなこと言わないでよ。もうこんなに蒸し暑いっていうのに一つの寝台で寝るほうがおかしいのよ? そもそも、もう私が守らなくても、人間じゃミアに傷一つつけられないわよ」
ミアを守っている精霊は、カリナとの話し合いで、ミアが完全に制御できるようになるまでだが、ミアが害されそうになったとき、それと同等の力で対処するという取り決めになっている。
例えばだが、ミアを殴ろうとすれば、精霊に殴り飛ばされ、ミアを剣で斬ろうとすれば、その者は精霊に切り裂かれる、そう言った具合だ。
山で落石にあえば、それに対処できる、落石を弾き返せるだけの力を精霊が振るって対処してくれるということだ。
これであればミアの日常生活において精霊の暴走もまずおきない。
また、この精霊が暴走する程の力を振るうような危険が迫った時は、他の何よりもミアを優先して守るべきなので、それは仕方のないことだ。
ミアは世界を完成させるための文字通り鍵なのだから。
そもそもこれほどの大精霊に守られているミアには剣も魔術も精霊に阻まれミアを傷つけることなどはない。ミアを傷つけることは人の身では不可能に近いともいえる。
もうスティフィが護衛する必要もない。
「なんか寂しいです」
ミアはそう言って本当に寂しそうにしている。
それだけを見るとスティフィにとっては親友というよりも、出来の悪い妹を持った気分だ。
「あー、もうめんどくさいわね。本当に今まで友達いなかったのね。いや、まあ、私も居なかったし、ダーウィック大神官様にはより良き友でいる様に言われてるんだけどさぁ…… こっちにも心の準備があるのよ」
そう言われると、ミアも強く出れはしない。
スティフィの以前の同僚達を葬り、スティフィ自身にも恐怖を植え付けた存在が、自分に絶えずまとわりついているのだから無理もないことだ。
それにあのスティフィがダーウィック教授の命でも近寄ってこないと言うことは相当な事なのだろう。
それにスティフィはデミアス教徒なので基本的に、命令でもなければ何事も素直で我慢などしない。
だからこそ、ミアも気楽に付き合えているところがある。スティフィが自分から距離を取るのも理解はできる。
「まあ、いいです。最近はジュリー先輩が良くしてくれていますので」
理解ができるが、寂しいという感情はまた別だ。
ミアは少し拗ねた様にそう言ってそっぽを向いた。
「くっそ、あの女…… ロロカカ神が門の守護神と分かるや否やミアに取り入りやがって」
ロロカカ神が門の守護神の一柱であることがわかり、学院内、特に教授達の中でも色々動きがあった。
まずミアが巫女科の神術学の講義を受らけれるようになった。とはいえ、内容はダーウィック教授が教えている物と基本重複するので講義を受ける意味合いは薄い。
さらに言ってしまうと、ミアから見てもエルセンヌ教授の講義はダーウィック教授の物と比べ数段質が落ちるし、偏見に満ちていると感じられてしまう。
ダーウィック教授の講義はその内容に多少偏りはあるものの偏見などはなく、あくまで公平であり信頼できるとミアが思えるような内容だった。
それでも一応は両方の講義に出て今回の試験も両方合格している。
巫女科の専用の女子寮への入居も認められたが、スティフィと離れ離れになるのでそれは断っている。
それでも光の勢力の教授達、特にエルセンヌ教授からのミアへの勧誘は手厚くなっている。
それに伴いエルセンヌ教授に気に入られないといけないジュリーもなし崩し的に、ミアと仲良くはなってきているのだ。
ただジュリーからは余り必死さを感じないが。
「まあ、ジュリー先輩もスティフィと同じく上に言われて…… って、感じなんですが」
そう言ってミアは虚無的な表情を浮かべた。
ミアも上からの命令がなければ今も友人などできず、一人で孤独に学院生活を送っていたことが容易く予想できてしまっている。
「ミア、私は私自身、ミアの親友でいたいって本気で思ってるわよ」
と、少し離れた位置からスティフィに声をかけられる。
余りにも慌てて取り繕うように言われ、ミアは噴き出してしまう。
それをミアは隠して、
「スティフィも必死ですね」
と、意地悪そうにこたえた。
スティフィもわざとらしく悩む表情を見せ、
「ぐぐぐっ、と、とにかく、福引でも引きに行きましょう」
この話はここまでとばかりにミアを福引へと誘う。
ミアも理解はしているので、スティフィを本気で責めることなどできない。
ただ少し距離があるので大声で話し合わなければならないことには思うところはある。
「福引ってなんです?」
「クジよ、クジ。当たりが出たら、かなりいいもの貰えるはずよ! 今は…… 旅行券だったかしら?」
旅行、つまりは旅。ミアには余りいい印象はない。
この魔術学院に来るのも大変だった。それこそ命を懸けた旅だった。
それに旅行など行っている暇はない。ミアは遊ぶためにこの魔術学院に来たわけではない。
「旅行券? それなら文具の方が嬉しいんですけど?」
最近はそれなりに金銭的余裕はできてきたが、文具も何かと高い。
基本的に雑記帳なども含め、決まった場所でしか生産されていない。
神々が与えてくれた機械によってつくられているせいだ。
生産自体はかなりの数量作られていて安価との話だが、それを輸送するのにも費用が掛かり、結局はそれなりの値段がする。
「どうせこれから夏休みじゃない、三ヶ月近く講義はないわよ?」
「へっ?」
ミアは少し遅れて学院に入学してきているので、学院の説明会を受けていない。
だから知らないのだ。魔術学院は一年を通してみると、その半分は休みである。
それは教授を含め魔術師とは本来、探究者であり自身の研究や鍛錬を欠かせないためでもあるし、生徒もこの孤立した魔術学院という場所で生計を立てていかなければならない。
金銭的余裕がない者は働きながらその講義を受けなければならないためだ。
「へっ、じゃなくて。知らなかったの?」
ミアの反応に逆に驚いたスティフィが聞き返す。
「そ、そんなに休みが多いんですか?」
三ヶ月という長くもあり、ミアにとって中途半端な期間は時間を持て余してしまうものである。
「なんだかんだで里帰りする人もいるからね」
スティフィは少し遠い目をしている。故郷である北側の領地の事でも考えているのかもしれない。
「私は帰れるほど近くないです」
もし仮にリッケルト村に帰ったとしても、再びシュトゥルムルン魔術学院に一人で再び来る自身はミアにはない。
ミアも死に物狂いで、このシュトゥルムルン魔術学院にたどり着いている。
それをもう一度と言われるとさすがに自身がない。
そもそも三ヶ月だけだと、片道でもあやしい期間かもしれない。
「私はそもそも北へは帰る気ないけど。まあ、当たるかどうかなんてわからないし、とりあえず福引引きに行きましょうよ」
「そうですね」
第一購買部、この学院で一番大きな購買部で、そこらの大型店舗よりも広く品ぞろえも良く購買部と言うには少し違和感のある場所ではある。
そこまで来たミアがふと一つの商品に目をやる。
そして、その商品を見て自慢げにスティフィを見る。
「あっ、スティフィ、見てください、私の作った軟膏が購買部で売られてますよ!」
ミアが指さす商品をやはり少し離れた位置からスティフィはそれをみた。
その商品には、スティフィの顔を歪めるような文字が書かれていた。
「ミアちゃん印の万能蜜蝋軟膏…… 結構いい値段なのね。でも、ミアちゃん印ってなに?」
作った品に自分の名前を付ける神経がスティフィには理解できなかった。
しかし、それなりの値段がついてるし、いくつか売れている形跡も見れる。
それなりに人気の商品なのかもしれない。
「ロロカカ様印って名前にしたかったんですが、却下されてそうなりました。擦り傷から吹き出物、虫刺されや日焼け、軽度の火傷、ひび、しもやけ、あかぎれ、その他肌荒れ、水虫なんかにも効果ありです! サリー教授の太鼓判付きの商品ですよ!」
ミアが得意げに自慢してくる。
スティフィはその軟膏の入った瓶を手に取る。微弱にだけれども魔力が籠っているのが感じられる。
「へー、本当に万能ね」
そう答えたものの、軟膏なんて大体そんな物かも、ともスティフィは考え直す。
ただサリー教授が認めているとなると、その効果は本当に期待できるものなのだろう。
虫さされように一つ買っておいてもいいかもしれない、とも思う。
蜜蝋が主成分だからだろうか、値段はそれなりに高くはある。
「とりあえず、つけておけばなんでも治ると評判です」
ミアは自慢げに胸を張っているが、
「そう聞くと、途端に怪しくなるけどね」
と、スティフィがそう言うと、ちょっと驚いた表情を見せた後、その軟膏について説明しだした。
「ラダナ草の抽出油やクラムボンの木の樹脂なんかも使ってるんですよ! これらは裏山で採取しているので実質ただなのですが…… 蜜蝋自体がそこそこ高くてあんまり利益率良くないんですよね。魔力の水薬に比べると手間も随分かかりますし。まあ、これも勉強のうちなんですけど!」
最初こそ説明だったが、最後の方は相談とも愚痴とも取れるような物になっていた。
そんなにお金に困っているなら、今からでもパンの売り上げの一部だけでも貰えばいいのに、とスティフィは思うのだが口に出さない。
ミアは頑固なので、一度決めたことは本人が納得できる理由がない限り変えないのを知っているからだ。
「そんなことより、ほら、特賞はやっぱり旅行券よ、行き先はティンチルだって、凄いわね」
スティフィは話題を変えようとばかりに福引のことが書かれている看板を指さした。
ティンチルというのは海沿いの街の一つで貴族御用達の避暑地で最近では海水浴という物が楽しめるところだという。
「ティンチルってどこです?」
もちろんミアはそんなところは知らない。
ミアにとっては避暑地の情報など無意味なものでしかない。たとえ聞いたとしてもすぐにその記憶から消えていってしまう。
「普段私達が都って呼んでるリグレスから少し西に行った海岸沿いの都市で貴族の避暑地として有名なところね」
「海から暑い風が吹いてくるのに、海の近くが避暑地なんですか?」
この地域がこれほどまで蒸し暑いのは日差しのせいではなく、海から湿った暖かい風が吹いてくるからだ。
なので湿度が高く蒸し暑い。
もちろんそれは海に近い方が影響も大きい。海が近い都市なのに避暑地というのはおかしな話である。
「その街自体が入り江ようなところにあって、その風を防いでくれてるんだってさ」
スティフィも実際に行ったことはない。又聞きしたくらいの知識で答える。そしてそれが本当だとも思えない。
風が直接当たらなくても蒸し暑いのは間違いないはずだ。
そうは言っているが、さすがに特賞がでるとはスティフィも思っていない。あくまで特賞が当たったらの会話を楽しんでいるだけだ。
「へー、なるほどです。あっ、でも私は四等の薬草詰め合わせの奴が欲しいです! 結構珍しい物も入っているので! ハズレ枠の文具詰め合わせでも構いません!!」
福引の賞品の目録を確認しながら、ミアは楽しそうにしている。
どれが当たってもミア的には嬉しそうな雰囲気だ。
「じゃあミアにとってはなんでも当たりじゃん。七回も引けるんだから四等くらいは当たるんじゃない? あ、ほら、五等は学食のお食事券よ」
スティフィは福引の景品だけ見て、やけに特賞だけ豪華に思える。
その内容やティンチルという場所と旅館、そして泊まれる日数を考えると少なくとも一人だけでも金貨五枚以上の価値があるように思えてくる。
それが四人まで同行可能と書かれている。相当な金額になる商品だ。
「三等は購買部のお買物券ですし、二等は…… あれなんです?」
ミアもワクワクしながら福引の景品の目録に夢中だ。
ただ二等の賞品の描かれた絵は見た目はただの丸い石に見える。
「使徒魔術の触媒ね。杖型じゃないからわかりにくいけど」
絵ではなく福引の賞品ための奥にある飾り棚で現物を見ながらスティフィが答える。
素材は紫水晶だろうか、それなりに優秀な触媒のようだ。
すでに加工済みであり触媒としてすぐに使えるが、その分利便性に欠ける。
触媒にも契約する御使いとの相性があるため、用途が限られるという欠点が生まれてくる。
この触媒を欲している者から見れば一位の賞品より価値があるのだろうが、万人向けの賞品とは言い難い。
「なら、二等だけ外れですね」
ミアの持つ杖は間違いなく世界有数の杖であり最高峰の使徒魔術の触媒でもある。
また壊れても再生するため変えもいらない。
ミアにとっては二等の賞品は不要な物なのだろう。
「二等が当たったらそのまま購買部に売ればいいのよ。銀貨五枚から十枚くらいにはなるんじゃない。
一等は宝石の原石の詰め合わせね。高価だろうけど扱いには困る品よね、やっぱり売るくらいしかないんじゃない?」
魔術師としては未加工の原石の方が、色々とありがたかったりするが、それは熟練の魔術師、自分の魔術の研究を始めたような者にとってはの話だ。
ミアのような魔術師としては初心者である者にとっては無用の長物である。
特に使用目的がないのであれば、今はスティフィが言うように売ってしまって金に換えてしまった方がいいのかもしれない。
「じゃあ、どれも当たりです! さあ、行きましょう! 引きましょう! すいません、福引をお願いします!!」
揺れはするが道は石畳に舗装されており乗り心地はそれほど悪くはない。
生暖かく湿った風を受けて馬車は進んでいく。
「本当に私も来てよかったのかしら?」
少し遠慮した顔でジュリーがそう言いつつも今はリグレス行の馬車の中だ。
気持ちはわからなくはないが、今、それを言われてももう遅い。
「嫌なら来なくても良かったのよ?」
と、スティフィが突き放す。が、スティフィの肌はこの蒸し暑い中、なぜか全身鳥肌になっている。その理由をジュリーは知らない。
狭い馬車の中では流石に逃げ場所がないせいだ。
だからというわけではないが、スティフィは今、ミアの隣に腰かけてはいる。
ただ落ち着きはないし、なんなら少し苛立っているようにも思えるし、顔色もあまり良くない。
嫌味を言って来たスティフィをジュリーが心配するくらいにはスティフィの具合が悪そうに見える。
はじめは馬車に酔ったのかと思ったが、違うとのことだ。本人もあまり触れられたくなさそうなのでジュリーも込み入っては聞いていない。
ミアは心配していそうなものだが、なぜかニコニコと笑顔でいるのでジュリーにはよくわからない。
「いや、そうではなくて…… ティンチルで海水浴だなんて夢のような話ですよ? 嫌なわけはないんですが、高価すぎて遠慮してしまうんですよ、今更っていうのもわかっていますが」
ティンチルでの海水浴。
お金を持っている貴族たちの間では流行っているらしい。その話は聞いたことはある。
生憎とジュリーには縁の遠い話だったが、ミアとマーカスに誘われてこの旅行に参加している。
旅費自体はかからない、と言われれば断る理由もない。この馬車賃も旅行券に含まれているらしい。
嬉しくはあるが、ジュリーからすると申し訳なさすぎる。
「まあ、色々偶然が重なった結果ではありますねぇ。エリック君も来たがってはいましたが」
都合よくティンチルの海水浴券を持ってきたマーカスと、特賞が当たり大騒ぎしていたミアとスティフィに合流したことでこの旅行が計画された。
特賞の旅行券は四人まで同行可能だったため、最後にジュリーが誘われたのだ。
ミアの友人と呼べるような人間は後は、エリックとその他は幾人かの教授達くらいなものだ。
エリックはまず最初に除外され、教授達にとって夏休みは自身の探求の時間でもある。邪魔するのも忍びない。
そう言う訳でジュリーが必然的に誘われたわけだ。
「そう言えば自費でもいいからついていくって言ってたのに来てないわね」
どこからか旅行の計画を聞きつけたエリックは自費で自分も参加すると喚いていたが今ここにはいない。
「ええ、彼は今頃、実技試験で山狩りをしていますので」
マーカスは軽薄な笑いを浮かべてそう言った。
騎士隊の試験はまだ終わっておらず、今は危険な虫種が存在するかもしれないとのことで大掛かりな山狩りが実務試験の代わりに行われている。
かなり長期間行われており、本来ここにいないはずの虫種が数種類発見されたという話だ。中にはクマカブリなんかよりもずっと危険な虫種もいたとの話だ。
ただその侵入経路が明らかになったという話は聞かない。
「マーカスさんは良いんですか?」
ミアの知る限りではこのマーカスも騎士隊の訓練生のはずだ。
なのにこの旅行に同行しているし、何なら海水浴券という高価な物まで持参してくれている。
ただその入手元が、デミアス教の大神官のオーケンらしい。
それで何かあるかもしれないので注意してください、とマーカス本人から忠告されるくらいだった。
「んー、実のところあんまり騎士隊には余り未練がなくてですね、今は休学扱いにしてもらっています。師匠から解放されてから色々と考えますよ」
マーカスは今はオーケンから与えられた木札も持っていない。
サリー教授に没収されたまんまだそうだ。
マーカスはオーケンに何か言われる度にミアに絡んでくるが、エリックとは違いマーカスはしつこくなく話も通じる。
ミアには話が通じるようで全く通じないエリックより断然マシと判断されている。
「まあ、女だけだと何かと面倒だから、いてくれると便利は便利だけどね」
スティフィが意味ありげにそんなことを言った。
「護衛役なら荷物持ち君がいるじゃないですか」
マーカスはそう答え、荷台に乗せられている荷物持ち君に目をやる。
まるで動かない人形のように、微動だにせずに鎮座してる。
何度か荷物持ち君の訓練にと、武器のみでの近接戦闘で戦ったことがあるのだが、既にマーカスでは相手にならなかった。
最近ではスティフィにすら迫りつつあるという話だ。ついでになんでもあり、で勝負するのならスティフィですら相手にならないらしい。
見た目からでは想像もつかないほど、その戦闘能力は高い。
「これから行くような場所にはね、若い女ってだけで声をやたらとかけてくる男がわんさかいるのよ」
スティフィがめんどくさそうに言った。
それでマーカスも理解する。確かにこれから向かう場所はそう言う輩は多そうだと。
「ああ、なるほど。あ、そうそうこれが例の海水浴券です。これ一枚で三人迄水着というのを借りれるそうですよ。えーと、スティフィさんでいいですよね、渡しておきます」
マーカスはそう言って革製の券をスティフィに手渡した。
「なんで私?」
と、スティフィはめんどくさそうな表情を浮かべた。
「一番安全そうですので。なんか結構高いとのことで。師匠がそう言ってました」
「師匠…… あの方は未来か何かがわかるの? さすがにミアが福引の特賞あてるとかわかるわけないわよね?」
それが暗黒神の導きであれば良い。もし不幸の女神の導きともなれば、それこそ本当にろくな結果にならないはずだ。
スティフィはそれを不安に思う。
占いが得意との話だったが、流石に占いがどうのこうので終わる話ではない。それこそ状況的に未来を完全に予知でもしない限り出来ないほどのものだ。
「さあ? でも師匠ですからねぇ…… 否定はできないですよ」
マーカスはどうでもいいとばかりに適当に返事をする。
師匠の事であれこれ悩むことほど意味のないことだと、マーカスは既に知っている。
「それに三人分なんでしょう? あんたはいいの?」
スティフィもダーウィック大神官様が言っていたことを思い出す。
関わらないほうが良いとは言われていたが、ミアが行く気になってしまった以上ついていくしかない。
ダーウィック大神官様もこの旅行を特に止めるような事は言わなかった。何が思惑でもあったのかもしれない。
「水浴びに興味がある年齢でもないですし、その様子だけ見ていますよ」
マーカスは海水浴という物がなんでこんなに流行っているのか理解できていない。
この時のマーカスはまだ知らない。水着がどんなものであるのかを。
その老教授は歳からか教授の職を引退し、故郷へと帰って行った。
今、この家の主はオーケンという男だ。
古くはあるが趣のある良い家だ。
そんな家の居間でオーケンは昼間から酒をあおっている。それを呼び出されたマーカスが迷惑そうにしながらも、直前に手渡された物を観察する。
「師匠、なんですか、コレ?」
マーカスはオーケンから手渡されたのは革製の券のような物だった。
とても豪華な作りで、焼き印までされている。なんなら複製防止の呪いまでかけられている。
何かの引換券のようだが、かなり高価な品に思える。少なくとも庶民に出回るような物ではないように思える。
「海水浴券だ。高かったんだぞぉ、大事に使えよ」
オーケンはにやけ顔でそんなことを言ってくる。
マーカスは率直に何を言ってるんだ、と思った。
そもそもこの世界の海は人間の領域ではない。海は海に属する精霊の物で、人間が許可なく立ち入れば精霊に見つかり次第に襲われるような場所だ。
海に属する精霊は、地に属する精霊のように人間に友好的ではなくとても排他的だ。
ただ海神の加護というか、許しがあれば襲われるような事はなくなる。それでも友好的とはとても言い難い。
海を行く船の先端には必ず取り付けられるような物だし、大なり小なりの船に関わらず取り付けなければまともに航海はできない。
船でなくとも、海に関わるような人間は全員、指輪や首飾りにして海神のお守りを身に着けていなければならないような場所だ。それがこの世界の海というところだ。
そんな場所での水浴をするための券。しかも高かったとのことだ。マーカスからしてみれば訳が分からないし、理解もしがたい。
それ以前に、
「いや、そうじゃなくて。直接関与しないって話じゃなかったでしたっけ?」
そのような話だったはずだ。
あれから一ヶ月もたたないうちにオーケンはそれを破ろうとしている。なんならこういった干渉は今回が初めてではない。
「こんなもん関与に入らんだろう? それに、いい実験になるしなぁ」
そう言って顔をにやけさせている。どうなるか楽しみで仕方がないっていう顔をしている。
そして杯の底の酒を舌でなめとろうとし始めたので、仕方なくマーカスはまだ入っている酒瓶を机の上から探し出し、酒をオーケンが手に持つ杯に注いでやった。
それでちょうど酒瓶の中も空になる。似たような酒瓶が部屋中に転がっている。マーカスは空になった酒瓶を床に置いた。
それこそ関与している証拠では、と、マーカスは思うが口には出さない。言ったところでオーケンに怒鳴られるだけだ。
師匠がああいった、にやけるような顔を見せているときは、もう一つか二つ、裏に何かがあるときだと言うことも知っている。
何か考えがあっての事だろうけれども、そのほとんどがろくでもない事だけは確かだ。
それを考えるとマーカスも気が重くなる。厄介ごとな事だけは確かだ。いや、行く場所が海というだけで厄介なことは確実している。
「はぁ…… 一応騎士隊の方にも連絡しますよ? いいですよね、そういう取り決めのはずですし。にしても、海ですか。海なんて人が入る場所じゃないでしょうに」
マーカスも海に入ったことはない。
見てる分にはいい場所だと思うが、小さい頃より海は危険な場所として教えられてきている。
そして実際海は危険だ。許可なく入れば命がいくつあっても足りない。
それでも見返りは多い場所なので、漁なども行われているが、命がけだという話だ。
「なんだ、んな事信じてんのかよ。まあ、それはそうだが、沖にでも出ない限りは襲われたりしねーよぉ。それに陸まで逃げれば海の精霊はそれ以上追ってこねーよ。あいつらは執念深いわけでもないしなぁ。そもそも、その券持ってくと水着っていうもんを貸してくれんだよぉ」
オーケンは注がれた酒をまるで水でも飲むかのように一気に飲み干した。
ついでに、海に属する精霊が執念深くない、というのは嘘だし、たとえ陸に逃げても津波を起こされてそのまま海へ連れ去らわれた、という話もある。
師匠の話はやはり信用に値しない、とマーカスは再度認識する。
「水着…… ですか? なんですそれ?」
その言葉からなんとなく意味は推測できる。水場で着るための服なのだろうと。
それがどんなものなのかまではマーカスには想像できない。普段あまり聞かない言葉だ。もしかしたらそれもオーケンの嘘かもしれない。
「本来は海や湖なんかに入るための専用の衣服、らしい。俺もよく知らん。それには神の加護が施されてあって海の精霊達からの干渉を防ぐんだとさ」
マーカスのおおよその見当通りだが、神の加護までついているとなると相当高価な物なのだろう。
この海水浴券とやらの豪華さも頷けるという物だ。
だけれど、マーカスはそんな水着という服の話などは聞いたこともない。
「なんですか、それは。ただの水遊びに随分と手の込んだ贅沢ですね」
そう言いつつ、もしオーケンの言っていることが本当であるのならば、マーカスには、いや、庶民には早々手が出ない娯楽なのだろう、と推測できる。
富豪か貴族辺りを対象にした娯楽なのだろうか。
ただの水浴でそんな商売が成り立つとはマーカスには理解できない。
海に安全に入れるとはいえ、たかが水浴びだ。子供のお遊びだろうとマーカスには思える。
師匠の話に信憑性をまるで感じることができない。
ただ単に師匠がからかっているだけかもしれないが、それにしてはこの革製の券は豪華な作りになっている。
この券を学院の事務員にでも確認してもらえば、嘘か本当かくらいはすぐにわかるはずだ。そのためにこんな豪華そうな物をわざわざ用意するとも思えないし、なによりこの券は使いまわされているのか年季もそれなりに入っている。
偽物と簡単に判断することもできない。
「ここ数年…… だったかな。お貴族様たちを中心に流行ってるらしいぞ」
マーカスの思案顔から思考を読まれたのか、オーケンがそう言って来た。
マーカスはそれに驚きはしたものの、もう慣れた、とばかりにそれ自体には反応しない。
「はぁ…… 眠らされている間にそんな物はやってたんですねぇ」
確かにここの領地は比較的に平和で裕福な領地ではある。
貴族達が暇を持て余すのも分からない話ではない。
「そんなわけで行ってこい。その券一枚で三人迄水着を貸してくれるらしいぞ。んだからな、ダーウィックの犬も連れて行って来いよ」
オーケンはそう言った後、何か意味ありげな下種な笑いを見せた。
マーカスにはその嫌な笑顔の意味は理解できなかったが、面倒ごとを考えている事だけはわかった。
「犬って、スティフィのことですか? 彼女何者なんです? まだ若いのに恐ろしく強いですよね?」
マーカスはスティフィを美人とは認識しているが、それ以上に恐怖の方が勝る。
彼女がその気になれば自分などたわいもなく殺せるほどの実力者だと言うことを肌で感じている。
「元狩り手だそうだ。デミアス教でも闇の部分だな。わかりやすく言うとクラウディオの奴の暗殺部隊だか懲罰部隊だか、とにかくそう言った感じだな。幼い頃より鍛え上げられた本物の暗殺者だよ」
「はー、まあ、そう言う話であれば深くは聞きませんよ。面倒ごとは嫌ですので」
暗殺部隊と聞いてマーカスは納得し、これ以上深く話を聞くことを即座にやめる。
関わってもいいことはなさそうだ。
「まあ、とにかく行って来いよ、海。で、ちゃんと顔だけはミアちゃんの方をむいてるんだぞ。俺も見てるからな。あとミアちゃんには手を出すなよ? あの娘に手を出したら恐らくおまえ死ぬぞ、下手したら俺も巻き込まれかねん」
何やら物騒に脅されているが、そもそも手を出す気もないのでマーカスはそれを無視する。
そして、さっきまでオーケンが浮かべていた下種な笑みと、スティフィを連れていけと言っていた意味を理解する。
マーカスもミアのことは人として嫌いではないが、異性としては見ていない。
スティフィのことは異性としては認識しているが、それ以上に恐怖の方が勝っている。マーカスから二人に手を出すことはないだろう。
とりあえず、そのことは無視して、見ている、という言葉にだけ反応しておく。
「おでこのこれですか?」
マーカスは額に無理やり入れられた刺青を思い出す。
目の形をした刺青で、魔術というよりは呪い、呪いというよりは呪術の類らしい。
「そそ、その目を通して俺も見守っててやるからよぉ」
そう言ってまた下衆な笑みを浮かべる。
この眼を通してオーケンにもマーカスが見た物を見ることができるという話だ。呪術が高度すぎてその原理はマーカスにはよく理解できていない。
が、今も浮かべている下衆な笑いの意味がやっとマーカスにも分かった。
ミアに手を出すと死ぬ可能性すらあるので、スティフィも連れて行ってスティフィで済ませろ、とオーケンは言っていたのだ。
さすがは欲望に忠実なデミアス教の大神官だ、理性の欠片もない。
あんまりひどいようなら、サリー教授にでも相談するのがいいかもしれない。
なんだかんだでオーケンは娘のサリー教授に酷く甘い。
不貞腐れながらもサリー教授に言われたことだけはしっかりと守っていたりする。ああ見えて、子煩悩なのかもしれない。
いや、オーケンも己の欲望に忠実な結果なのかもしれない。
「盗み見の間違いでしょう」
そう言ってマーカスは軽くため息をつき、言葉を続ける。
「俺にこんなもんつけるより、スティフィにつけた方がいいんじゃないんですか? 彼女の方がミアちゃんに近いですよ」
デミアス教徒であるスティフィなら、大神官の一人であるオーケンの頼みを断りはしない、というか、断れないだろう。
そっちの方がオーケンにとっても都合が良さそうな物だが、現状はそうなっていない。
「んー、それができないからオマエなんだよ」
少しめんどくさそうな表情をオーケンは浮かべた。
何らかの理由がありそうだけれども、マーカスはそれを聞きたいとは思わない。聞いたところで良い事もないだろうし、深入りもしたくない。
「まあ、深入りはしたくないので理由は聞きませんよ。あー、あと一応誘ってみますが、断られても怒らないでくださいよ」
「あっ、ミアさんちょうど良かったです。渡したい物があるんですよ」
ミネリアは事務室にやって来たミアを見つけて声をかけた。
ミアにはやっぱり精霊が引っ付いている。それもとてつもない力を持ったはぐれ精霊がだ。
けれども、その精霊はミアを守護するだけで、ミアに危害を加えない限りその精霊が人間に手出しすることはないらしい。
そんな精霊を見ることができるミネリアは、緊張はするもののその精霊にも大分慣れてきてはいる。少なくとも取り乱すようなことはなくなった。
教授達より説明があった通り、ミアについている精霊はミネリアにもその他の人間にも手を出すことはない。
ミネリアにはあまり信じられない話だが、教授達が言うからにはそうなのだろう、と割り切ることにした。
ついでにミア対応の特別手当も多少額が上がっていたりもする。
「え? はい、なんですか?」
事務員であるミネリアにミアが話しかける前に呼び止められるなど、余り体験してなかったことだ。それでミアが驚いていると、ミネリアに手招きをされた。
ミアはそれに従って足早に受け付け口に向かった。
そうするとミネリアは笑顔を浮かべながら一枚の書類に目を通し始めた。
「まずは…… おっ、凄いですね、全部の試験合格ですね、おめでとうございます」
「本当ですか? ありがとうございます!! 頑張ったかいがあります!」
そう答えるミアだが、ミアにとって今回のが人生で初めての試験という物だった。
なので、試験勉強という概念すらミアにはなかった。ただ試験が近くなった時、スティフィが珍しく机に向かい必死に講義の復習をしていたのを目撃している。
ミアは普段通りの生活をしていただけだ。普段から頑張っていた、と言えばそれだけのことだ。
「って、本当に凄い量の講義受けてるのね、ほんとよく全部合格できてるわね……」
ミネリアはそう言ってミアの受けた試験の結果が書かれた紙を丁寧に確認し何かを数えている。
「スティフィも全部合格したって言ってましたよ」
ミアにそう言われて、ミネリアは目線を泳がせ、スティフィ・マイヤーの情報が書かれた紙を机の上から探す。
そしてすぐ見つけ、その内容にも目を通す。
ミアの言っていた通り全て合格している。が、試験の点数自体はすべてミアの方が上だ。
ここで、ミネリアは少し疑問に思う。まだ試験の結果は生徒に知らされていないはずだ、と。
ただ自己採点することは可能なので、その結果からある程度予想することはできるので不可能なことではないのでその疑問を破棄する。
「ほんとだ、二人とも優秀ね。で、今回の試験でミアさんは、一応卒業の基準を満たしたから、これね、第八等卒業許可証」
そう言って一枚の用紙を手渡される。
そこにはミアの名前と必要最低限の情報が書かれ、シュトゥルムルン魔術学院の第八等魔術師の卒業基準を満たした、という旨の文章が堅苦しく書かれている。
「え? もう卒業しないといけないんですか?」
それを渡されたミアの素直な感想がそのまま言葉に出た。
ミネリアはそれに笑顔を返しその言葉を否定する。
「違う違う、卒業も可能になった、というだけですね。魔術の才能があっても全員が全員、職業的魔術師やミアさんのように巫女を目指すわけではないので。中には魔力の制御方法だけ学んで、それで卒業って人もいるんですよ。本人が望めば気が済むまで学べるのが魔術学院です。ついでに今の段階でも卒業すると就職がちょっとだけ有利になりますね。その卒業許可書を持っていると、魔力の制御がある程度できて魔術の知識も多少ある、って言うのが世間での認識かな。だから生徒書と共に無くさないで大事にしてくださいね」
「なるほどです。わかりました。大事にしまっておきます!」
そう言いながら、ミアは卒業許可証を丁寧に鞄の中に仕舞い込んだ。
「で、ミアさんが今回の試験で一番の成績だったのがいくつかあるので、賞品としてこれが学院より送られます。全部で…… えーと、七科目ね。七科目での筆記試験で一番だったので七枚ですね、ほんと凄いわね」
ミネリアから数枚の券が手渡される。
それには福引券と書かれていて複製不可な魔術印が押されている。
ミアにはこれがなにか分からないが、魔術印のおかげでそれなりに価値があるものだと言うことが理解できる。
「なんですか、この券は?」
「福引券ですよ。第一購買部で福引できますので、ぜひご利用してくださいね。夏休み前なので賞品も豪華になってたはずですよ」
ミネリアはそう言ってミアに微笑みかけた。
ミアは訳も分からずとりあえず、
「ありがとうございます?」
と曖昧ではあるけれども感謝の言葉を述べた。
「そんなわけで福引券を七枚も貰いました」
ミアはとりあえずスティフィに福引券とやらを見せびらかす。
スティフィはミアから少し離れた位置を歩きながら、少し遠目でその券を確認する。
「七科目ってほとんどの講義で一番だったってこと? 凄いわね」
「むー、まだ距離を取るんですか?」
そう言ってミアがスティフィに近寄ろうとすると、スティフィは更に距離を取った。
ミアとスティフィからは見えてないが、スティフィが取っている距離はミアに絡みついている精霊の大きさとほぼ同じくらいの距離だ。
スティフィは精霊の存在をその危機管理能力の高さで感じ取り本能的に避けている。
「し、仕方がないじゃない! 未だに下手に近づくと鳥肌が凄いのよ。ほら見てよ、こんなに蒸し暑いのに凄い鳥肌が立ってるんだから」
遠目ではあるが確かにスティフィの腕が鳥肌になっているのがミアにも分かる。
スティフィを安心させたいためにこの精霊を配下にしたのに、スティフィから距離を取られるようになってしまった。
以前は割とべたべたとスティフィはミアに触れてきていたので、それが急になくなるとなにか寂しく感じてしまっている。
「でもスティフィには精霊さんは見えないんですよね? 怒りの矛先ももう向いてないはずですよ?」
カール教授の話でもミアについている精霊は非常に安定し満足した状態でいるとの話だ。
怒りの感情など微塵も感じないという話ではあるが、スティフィにとってはまた別の話なのかもしれない。
「見えないけど、なんとなく肌で感じるのよ!!」
ミアもスティフィはダーウィック教授の命令で自分と仲良くしてくれている、というのは理解できている。
理解はできていてもミアにとって初めての親しい友人だ。それになんだかんだで気が合うことは事実だ。
ダーウィック教授の命令がなくとも、親友とは言わないまでも友達になれていたかもしれない、と思っているくらいだ。
そんな親友が理由はわかっているが急に、物理的にではあるが、距離を取られると寂しいものがある。
「むぅ、夜も一緒に寝てくれなくなりました!」
ミアが頬を膨らませて不満気に言う。
「子供みたいなこと言わないでよ。もうこんなに蒸し暑いっていうのに一つの寝台で寝るほうがおかしいのよ? そもそも、もう私が守らなくても、人間じゃミアに傷一つつけられないわよ」
ミアを守っている精霊は、カリナとの話し合いで、ミアが完全に制御できるようになるまでだが、ミアが害されそうになったとき、それと同等の力で対処するという取り決めになっている。
例えばだが、ミアを殴ろうとすれば、精霊に殴り飛ばされ、ミアを剣で斬ろうとすれば、その者は精霊に切り裂かれる、そう言った具合だ。
山で落石にあえば、それに対処できる、落石を弾き返せるだけの力を精霊が振るって対処してくれるということだ。
これであればミアの日常生活において精霊の暴走もまずおきない。
また、この精霊が暴走する程の力を振るうような危険が迫った時は、他の何よりもミアを優先して守るべきなので、それは仕方のないことだ。
ミアは世界を完成させるための文字通り鍵なのだから。
そもそもこれほどの大精霊に守られているミアには剣も魔術も精霊に阻まれミアを傷つけることなどはない。ミアを傷つけることは人の身では不可能に近いともいえる。
もうスティフィが護衛する必要もない。
「なんか寂しいです」
ミアはそう言って本当に寂しそうにしている。
それだけを見るとスティフィにとっては親友というよりも、出来の悪い妹を持った気分だ。
「あー、もうめんどくさいわね。本当に今まで友達いなかったのね。いや、まあ、私も居なかったし、ダーウィック大神官様にはより良き友でいる様に言われてるんだけどさぁ…… こっちにも心の準備があるのよ」
そう言われると、ミアも強く出れはしない。
スティフィの以前の同僚達を葬り、スティフィ自身にも恐怖を植え付けた存在が、自分に絶えずまとわりついているのだから無理もないことだ。
それにあのスティフィがダーウィック教授の命でも近寄ってこないと言うことは相当な事なのだろう。
それにスティフィはデミアス教徒なので基本的に、命令でもなければ何事も素直で我慢などしない。
だからこそ、ミアも気楽に付き合えているところがある。スティフィが自分から距離を取るのも理解はできる。
「まあ、いいです。最近はジュリー先輩が良くしてくれていますので」
理解ができるが、寂しいという感情はまた別だ。
ミアは少し拗ねた様にそう言ってそっぽを向いた。
「くっそ、あの女…… ロロカカ神が門の守護神と分かるや否やミアに取り入りやがって」
ロロカカ神が門の守護神の一柱であることがわかり、学院内、特に教授達の中でも色々動きがあった。
まずミアが巫女科の神術学の講義を受らけれるようになった。とはいえ、内容はダーウィック教授が教えている物と基本重複するので講義を受ける意味合いは薄い。
さらに言ってしまうと、ミアから見てもエルセンヌ教授の講義はダーウィック教授の物と比べ数段質が落ちるし、偏見に満ちていると感じられてしまう。
ダーウィック教授の講義はその内容に多少偏りはあるものの偏見などはなく、あくまで公平であり信頼できるとミアが思えるような内容だった。
それでも一応は両方の講義に出て今回の試験も両方合格している。
巫女科の専用の女子寮への入居も認められたが、スティフィと離れ離れになるのでそれは断っている。
それでも光の勢力の教授達、特にエルセンヌ教授からのミアへの勧誘は手厚くなっている。
それに伴いエルセンヌ教授に気に入られないといけないジュリーもなし崩し的に、ミアと仲良くはなってきているのだ。
ただジュリーからは余り必死さを感じないが。
「まあ、ジュリー先輩もスティフィと同じく上に言われて…… って、感じなんですが」
そう言ってミアは虚無的な表情を浮かべた。
ミアも上からの命令がなければ今も友人などできず、一人で孤独に学院生活を送っていたことが容易く予想できてしまっている。
「ミア、私は私自身、ミアの親友でいたいって本気で思ってるわよ」
と、少し離れた位置からスティフィに声をかけられる。
余りにも慌てて取り繕うように言われ、ミアは噴き出してしまう。
それをミアは隠して、
「スティフィも必死ですね」
と、意地悪そうにこたえた。
スティフィもわざとらしく悩む表情を見せ、
「ぐぐぐっ、と、とにかく、福引でも引きに行きましょう」
この話はここまでとばかりにミアを福引へと誘う。
ミアも理解はしているので、スティフィを本気で責めることなどできない。
ただ少し距離があるので大声で話し合わなければならないことには思うところはある。
「福引ってなんです?」
「クジよ、クジ。当たりが出たら、かなりいいもの貰えるはずよ! 今は…… 旅行券だったかしら?」
旅行、つまりは旅。ミアには余りいい印象はない。
この魔術学院に来るのも大変だった。それこそ命を懸けた旅だった。
それに旅行など行っている暇はない。ミアは遊ぶためにこの魔術学院に来たわけではない。
「旅行券? それなら文具の方が嬉しいんですけど?」
最近はそれなりに金銭的余裕はできてきたが、文具も何かと高い。
基本的に雑記帳なども含め、決まった場所でしか生産されていない。
神々が与えてくれた機械によってつくられているせいだ。
生産自体はかなりの数量作られていて安価との話だが、それを輸送するのにも費用が掛かり、結局はそれなりの値段がする。
「どうせこれから夏休みじゃない、三ヶ月近く講義はないわよ?」
「へっ?」
ミアは少し遅れて学院に入学してきているので、学院の説明会を受けていない。
だから知らないのだ。魔術学院は一年を通してみると、その半分は休みである。
それは教授を含め魔術師とは本来、探究者であり自身の研究や鍛錬を欠かせないためでもあるし、生徒もこの孤立した魔術学院という場所で生計を立てていかなければならない。
金銭的余裕がない者は働きながらその講義を受けなければならないためだ。
「へっ、じゃなくて。知らなかったの?」
ミアの反応に逆に驚いたスティフィが聞き返す。
「そ、そんなに休みが多いんですか?」
三ヶ月という長くもあり、ミアにとって中途半端な期間は時間を持て余してしまうものである。
「なんだかんだで里帰りする人もいるからね」
スティフィは少し遠い目をしている。故郷である北側の領地の事でも考えているのかもしれない。
「私は帰れるほど近くないです」
もし仮にリッケルト村に帰ったとしても、再びシュトゥルムルン魔術学院に一人で再び来る自身はミアにはない。
ミアも死に物狂いで、このシュトゥルムルン魔術学院にたどり着いている。
それをもう一度と言われるとさすがに自身がない。
そもそも三ヶ月だけだと、片道でもあやしい期間かもしれない。
「私はそもそも北へは帰る気ないけど。まあ、当たるかどうかなんてわからないし、とりあえず福引引きに行きましょうよ」
「そうですね」
第一購買部、この学院で一番大きな購買部で、そこらの大型店舗よりも広く品ぞろえも良く購買部と言うには少し違和感のある場所ではある。
そこまで来たミアがふと一つの商品に目をやる。
そして、その商品を見て自慢げにスティフィを見る。
「あっ、スティフィ、見てください、私の作った軟膏が購買部で売られてますよ!」
ミアが指さす商品をやはり少し離れた位置からスティフィはそれをみた。
その商品には、スティフィの顔を歪めるような文字が書かれていた。
「ミアちゃん印の万能蜜蝋軟膏…… 結構いい値段なのね。でも、ミアちゃん印ってなに?」
作った品に自分の名前を付ける神経がスティフィには理解できなかった。
しかし、それなりの値段がついてるし、いくつか売れている形跡も見れる。
それなりに人気の商品なのかもしれない。
「ロロカカ様印って名前にしたかったんですが、却下されてそうなりました。擦り傷から吹き出物、虫刺されや日焼け、軽度の火傷、ひび、しもやけ、あかぎれ、その他肌荒れ、水虫なんかにも効果ありです! サリー教授の太鼓判付きの商品ですよ!」
ミアが得意げに自慢してくる。
スティフィはその軟膏の入った瓶を手に取る。微弱にだけれども魔力が籠っているのが感じられる。
「へー、本当に万能ね」
そう答えたものの、軟膏なんて大体そんな物かも、ともスティフィは考え直す。
ただサリー教授が認めているとなると、その効果は本当に期待できるものなのだろう。
虫さされように一つ買っておいてもいいかもしれない、とも思う。
蜜蝋が主成分だからだろうか、値段はそれなりに高くはある。
「とりあえず、つけておけばなんでも治ると評判です」
ミアは自慢げに胸を張っているが、
「そう聞くと、途端に怪しくなるけどね」
と、スティフィがそう言うと、ちょっと驚いた表情を見せた後、その軟膏について説明しだした。
「ラダナ草の抽出油やクラムボンの木の樹脂なんかも使ってるんですよ! これらは裏山で採取しているので実質ただなのですが…… 蜜蝋自体がそこそこ高くてあんまり利益率良くないんですよね。魔力の水薬に比べると手間も随分かかりますし。まあ、これも勉強のうちなんですけど!」
最初こそ説明だったが、最後の方は相談とも愚痴とも取れるような物になっていた。
そんなにお金に困っているなら、今からでもパンの売り上げの一部だけでも貰えばいいのに、とスティフィは思うのだが口に出さない。
ミアは頑固なので、一度決めたことは本人が納得できる理由がない限り変えないのを知っているからだ。
「そんなことより、ほら、特賞はやっぱり旅行券よ、行き先はティンチルだって、凄いわね」
スティフィは話題を変えようとばかりに福引のことが書かれている看板を指さした。
ティンチルというのは海沿いの街の一つで貴族御用達の避暑地で最近では海水浴という物が楽しめるところだという。
「ティンチルってどこです?」
もちろんミアはそんなところは知らない。
ミアにとっては避暑地の情報など無意味なものでしかない。たとえ聞いたとしてもすぐにその記憶から消えていってしまう。
「普段私達が都って呼んでるリグレスから少し西に行った海岸沿いの都市で貴族の避暑地として有名なところね」
「海から暑い風が吹いてくるのに、海の近くが避暑地なんですか?」
この地域がこれほどまで蒸し暑いのは日差しのせいではなく、海から湿った暖かい風が吹いてくるからだ。
なので湿度が高く蒸し暑い。
もちろんそれは海に近い方が影響も大きい。海が近い都市なのに避暑地というのはおかしな話である。
「その街自体が入り江ようなところにあって、その風を防いでくれてるんだってさ」
スティフィも実際に行ったことはない。又聞きしたくらいの知識で答える。そしてそれが本当だとも思えない。
風が直接当たらなくても蒸し暑いのは間違いないはずだ。
そうは言っているが、さすがに特賞がでるとはスティフィも思っていない。あくまで特賞が当たったらの会話を楽しんでいるだけだ。
「へー、なるほどです。あっ、でも私は四等の薬草詰め合わせの奴が欲しいです! 結構珍しい物も入っているので! ハズレ枠の文具詰め合わせでも構いません!!」
福引の賞品の目録を確認しながら、ミアは楽しそうにしている。
どれが当たってもミア的には嬉しそうな雰囲気だ。
「じゃあミアにとってはなんでも当たりじゃん。七回も引けるんだから四等くらいは当たるんじゃない? あ、ほら、五等は学食のお食事券よ」
スティフィは福引の景品だけ見て、やけに特賞だけ豪華に思える。
その内容やティンチルという場所と旅館、そして泊まれる日数を考えると少なくとも一人だけでも金貨五枚以上の価値があるように思えてくる。
それが四人まで同行可能と書かれている。相当な金額になる商品だ。
「三等は購買部のお買物券ですし、二等は…… あれなんです?」
ミアもワクワクしながら福引の景品の目録に夢中だ。
ただ二等の賞品の描かれた絵は見た目はただの丸い石に見える。
「使徒魔術の触媒ね。杖型じゃないからわかりにくいけど」
絵ではなく福引の賞品ための奥にある飾り棚で現物を見ながらスティフィが答える。
素材は紫水晶だろうか、それなりに優秀な触媒のようだ。
すでに加工済みであり触媒としてすぐに使えるが、その分利便性に欠ける。
触媒にも契約する御使いとの相性があるため、用途が限られるという欠点が生まれてくる。
この触媒を欲している者から見れば一位の賞品より価値があるのだろうが、万人向けの賞品とは言い難い。
「なら、二等だけ外れですね」
ミアの持つ杖は間違いなく世界有数の杖であり最高峰の使徒魔術の触媒でもある。
また壊れても再生するため変えもいらない。
ミアにとっては二等の賞品は不要な物なのだろう。
「二等が当たったらそのまま購買部に売ればいいのよ。銀貨五枚から十枚くらいにはなるんじゃない。
一等は宝石の原石の詰め合わせね。高価だろうけど扱いには困る品よね、やっぱり売るくらいしかないんじゃない?」
魔術師としては未加工の原石の方が、色々とありがたかったりするが、それは熟練の魔術師、自分の魔術の研究を始めたような者にとってはの話だ。
ミアのような魔術師としては初心者である者にとっては無用の長物である。
特に使用目的がないのであれば、今はスティフィが言うように売ってしまって金に換えてしまった方がいいのかもしれない。
「じゃあ、どれも当たりです! さあ、行きましょう! 引きましょう! すいません、福引をお願いします!!」
揺れはするが道は石畳に舗装されており乗り心地はそれほど悪くはない。
生暖かく湿った風を受けて馬車は進んでいく。
「本当に私も来てよかったのかしら?」
少し遠慮した顔でジュリーがそう言いつつも今はリグレス行の馬車の中だ。
気持ちはわからなくはないが、今、それを言われてももう遅い。
「嫌なら来なくても良かったのよ?」
と、スティフィが突き放す。が、スティフィの肌はこの蒸し暑い中、なぜか全身鳥肌になっている。その理由をジュリーは知らない。
狭い馬車の中では流石に逃げ場所がないせいだ。
だからというわけではないが、スティフィは今、ミアの隣に腰かけてはいる。
ただ落ち着きはないし、なんなら少し苛立っているようにも思えるし、顔色もあまり良くない。
嫌味を言って来たスティフィをジュリーが心配するくらいにはスティフィの具合が悪そうに見える。
はじめは馬車に酔ったのかと思ったが、違うとのことだ。本人もあまり触れられたくなさそうなのでジュリーも込み入っては聞いていない。
ミアは心配していそうなものだが、なぜかニコニコと笑顔でいるのでジュリーにはよくわからない。
「いや、そうではなくて…… ティンチルで海水浴だなんて夢のような話ですよ? 嫌なわけはないんですが、高価すぎて遠慮してしまうんですよ、今更っていうのもわかっていますが」
ティンチルでの海水浴。
お金を持っている貴族たちの間では流行っているらしい。その話は聞いたことはある。
生憎とジュリーには縁の遠い話だったが、ミアとマーカスに誘われてこの旅行に参加している。
旅費自体はかからない、と言われれば断る理由もない。この馬車賃も旅行券に含まれているらしい。
嬉しくはあるが、ジュリーからすると申し訳なさすぎる。
「まあ、色々偶然が重なった結果ではありますねぇ。エリック君も来たがってはいましたが」
都合よくティンチルの海水浴券を持ってきたマーカスと、特賞が当たり大騒ぎしていたミアとスティフィに合流したことでこの旅行が計画された。
特賞の旅行券は四人まで同行可能だったため、最後にジュリーが誘われたのだ。
ミアの友人と呼べるような人間は後は、エリックとその他は幾人かの教授達くらいなものだ。
エリックはまず最初に除外され、教授達にとって夏休みは自身の探求の時間でもある。邪魔するのも忍びない。
そう言う訳でジュリーが必然的に誘われたわけだ。
「そう言えば自費でもいいからついていくって言ってたのに来てないわね」
どこからか旅行の計画を聞きつけたエリックは自費で自分も参加すると喚いていたが今ここにはいない。
「ええ、彼は今頃、実技試験で山狩りをしていますので」
マーカスは軽薄な笑いを浮かべてそう言った。
騎士隊の試験はまだ終わっておらず、今は危険な虫種が存在するかもしれないとのことで大掛かりな山狩りが実務試験の代わりに行われている。
かなり長期間行われており、本来ここにいないはずの虫種が数種類発見されたという話だ。中にはクマカブリなんかよりもずっと危険な虫種もいたとの話だ。
ただその侵入経路が明らかになったという話は聞かない。
「マーカスさんは良いんですか?」
ミアの知る限りではこのマーカスも騎士隊の訓練生のはずだ。
なのにこの旅行に同行しているし、何なら海水浴券という高価な物まで持参してくれている。
ただその入手元が、デミアス教の大神官のオーケンらしい。
それで何かあるかもしれないので注意してください、とマーカス本人から忠告されるくらいだった。
「んー、実のところあんまり騎士隊には余り未練がなくてですね、今は休学扱いにしてもらっています。師匠から解放されてから色々と考えますよ」
マーカスは今はオーケンから与えられた木札も持っていない。
サリー教授に没収されたまんまだそうだ。
マーカスはオーケンに何か言われる度にミアに絡んでくるが、エリックとは違いマーカスはしつこくなく話も通じる。
ミアには話が通じるようで全く通じないエリックより断然マシと判断されている。
「まあ、女だけだと何かと面倒だから、いてくれると便利は便利だけどね」
スティフィが意味ありげにそんなことを言った。
「護衛役なら荷物持ち君がいるじゃないですか」
マーカスはそう答え、荷台に乗せられている荷物持ち君に目をやる。
まるで動かない人形のように、微動だにせずに鎮座してる。
何度か荷物持ち君の訓練にと、武器のみでの近接戦闘で戦ったことがあるのだが、既にマーカスでは相手にならなかった。
最近ではスティフィにすら迫りつつあるという話だ。ついでになんでもあり、で勝負するのならスティフィですら相手にならないらしい。
見た目からでは想像もつかないほど、その戦闘能力は高い。
「これから行くような場所にはね、若い女ってだけで声をやたらとかけてくる男がわんさかいるのよ」
スティフィがめんどくさそうに言った。
それでマーカスも理解する。確かにこれから向かう場所はそう言う輩は多そうだと。
「ああ、なるほど。あ、そうそうこれが例の海水浴券です。これ一枚で三人迄水着というのを借りれるそうですよ。えーと、スティフィさんでいいですよね、渡しておきます」
マーカスはそう言って革製の券をスティフィに手渡した。
「なんで私?」
と、スティフィはめんどくさそうな表情を浮かべた。
「一番安全そうですので。なんか結構高いとのことで。師匠がそう言ってました」
「師匠…… あの方は未来か何かがわかるの? さすがにミアが福引の特賞あてるとかわかるわけないわよね?」
それが暗黒神の導きであれば良い。もし不幸の女神の導きともなれば、それこそ本当にろくな結果にならないはずだ。
スティフィはそれを不安に思う。
占いが得意との話だったが、流石に占いがどうのこうので終わる話ではない。それこそ状況的に未来を完全に予知でもしない限り出来ないほどのものだ。
「さあ? でも師匠ですからねぇ…… 否定はできないですよ」
マーカスはどうでもいいとばかりに適当に返事をする。
師匠の事であれこれ悩むことほど意味のないことだと、マーカスは既に知っている。
「それに三人分なんでしょう? あんたはいいの?」
スティフィもダーウィック大神官様が言っていたことを思い出す。
関わらないほうが良いとは言われていたが、ミアが行く気になってしまった以上ついていくしかない。
ダーウィック大神官様もこの旅行を特に止めるような事は言わなかった。何が思惑でもあったのかもしれない。
「水浴びに興味がある年齢でもないですし、その様子だけ見ていますよ」
マーカスは海水浴という物がなんでこんなに流行っているのか理解できていない。
この時のマーカスはまだ知らない。水着がどんなものであるのかを。
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