学院の魔女の日常的非日常

只野誠

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非日常と精霊王との邂逅

非日常と精霊王との邂逅 その4

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 マーカスは途中で捕まえた大きな猪に荷車をひかせて自身はその荷車の上で横になっていた。
 ただここは山道で獣道だ。荷車の上はかなり揺れる。
 一応、この荷車も魔術学院が山中で扱えるようにと用意した登山専用の物で揺れは少ないはずなのだが、それでも揺れる。
 少なくとも転寝できるような環境ではない。
 ただマーカスはその酷く揺れる荷車の上でも、くつろいでいるようにも見える。
 酷く揺れて頭をぶつけても気にもしない。なんなら荷車から放り出されても、石を道端で踏んだ程度にしか思わないかもしれない。
 跳ねるように揺れる荷台の上で横になり、文字通り激しく揺られながら、木々の枝や葉で見え隠れする空を眺めている。
 その荒々しくもちゃんと道なりに進んでいる荷車がゆっくりと速度を落としていき最後には止まった。
「おや、どうしたんだい、大猪のグレイスくん?」
 そう言ってマーカスが身を起こすと、少し先に黒い塊のようなものがいた。
 捕まえて使役している野生の大猪はそれを警戒しているようだ。
 それはマーカスの目から見ても黒い小山のような毛むくじゃらの塊だった。何かの獣の後ろ姿にも見える。
 が、どこかおかしい。
 それは動いてはいる。正確には毛むくじゃらが蠢いている、だが。
 ただそれは遠目では、やはりただの黒い毛むくじゃらの獣、それの後ろ姿に見えるだけだ。その大きさから成獣した熊であることは見当はつく。
「おや、おやおや、熊かな……? なら、捕まえてグレイスくんの代わりにでもなってもらおうかな。体が大きいぶん安定するかもしれないし…… 交代で走らせれば効率もいいはずだ」
 と、熊を使役しようとして魔術具、それも呪具とも言うべき物を荷物袋から取り出そうとしたところで、マーカスはやっと熊の異変に気付く。
 その毛むくじゃらの背中から、細い節くれだった細い何か、大きな虫の脚のようなものが出ていて、それがあたりを探るように蠢いている。
「って、あの熊は虫憑きか。ここは精霊の領域だっていうのに、虫ときたら遠慮がない。はぁ、やだやだ、これだから虫種って奴は」
 そう独り言をつぶやいて、マーカスは呪具を取り出すのをやめて、その代わりにボロボロの腰布に差し込んでおいたやはりボロボロの杖を取り出し、熊に向けて右手で構える。
 そのボロボロの杖は本来、腐食防止用のためにか塗装されていたようだが、その塗装のほとんどが剥がれ落ちている。ただ先端についた深緑の石だけは綺麗に磨かれている。
 そして、左手を人差し指と中指を立て、薬指と小指だけを握り込む。杖の先端についている深緑の石と左手の人差し指と中指で狙いをつけるように、その対角線上の延長に熊の、その頭部らしき場所を狙うようにする。
「大気よ、踊れ集まれ、はじけて飛んで、敵を打て」
 マーカスが鋭くそれでいて歌うように呪文を唱えると、杖の先端の空間が歪む。その歪みは球体の形をなした。次の瞬間それは凄まじい速度で熊の方へと飛んでいく。
 そして、それは毛むくじゃら、正確には遠くてわからないが頭部らしき場所にそれは命中する。
 熊に当たった歪みは甲高い音を立ててはじけ飛んだ。それに合わせて熊らしき黒い毛むくじゃらも弾き飛ばされる。
「んー、当たったようだけどちゃんと頭部を破壊してくれているかな? ちょっと見てくるので、グレイスくんはここにいてくれよ。俺に何かあったら助けるなり逃げるなりしてくれ、自身で判断するんだぞ」
 そう大猪に優しく声をかけると、グレイスはその言葉がわかるかのように一度頭を下げた。
 グレイスと呼ばれた大猪には首飾りのような物がかけられている。これは呪具で獣を使役することができるものだ。
 その効果はともかく、製法の方法が少々禁呪紛いのものだ。
 マーカスはボロボロの杖の深緑の石をじっと見つめる。
「もう追加で魔力を先払いしておかないといけない頃合いか。とはいえこんな山中じゃなぁ……」
 魔力の先払いをするには、契約した天使なり悪魔なりを再度呼び出して魔力を渡さないといけない。
 だがマーカスは呼び出すための召喚陣を暗記していない。
 普通の人間は魔導書などに書かれている、安全を考慮しいくつかに分かれて書かれている、見本の陣を見ながら書く、もしくは簡易魔法陣を使うのが一般的だ。
 ミアのように陣その物を暗記している人間の方が珍しい。
 なので、マーカスには今のままでは魔力の先払いはできない。持ち込んでいた様々な魔道具も精霊王に捕まった時にほとんどなくしてしまっている。
 触媒の様子から見て、恐らく次に使徒魔術を使うと杖の先端の触媒は魔力不足から契約破棄され壊れてしまう。
 ただ他の魔術と同じように、魔力を借り自身にまとわせ魔術を使う直前にそこから魔力を支払うことは可能だ。
 次からは拝借呪文を先に唱え神より力を借りないといけない。
 ひと手間掛かるが発動できないわけではない。が、とっさには発動できなくなる。
 それがわかっていながらも、マーカスは杖を熊に向けたまま、ゆっくりと毛むくじゃらの塊に近づいていく。
 最悪触媒が破棄されるときその破壊は周囲にまで及ぶ。それを利用しようと考えているからだ。
 ある程度近づくと凄い臭いが漂ってくる。それは獣臭ではなく腐敗臭だ。
 熊の死骸の近くまで行くと、その全容を見ることができた。
 その熊の死骸は既に腐り始めていて、蛆も湧き腐り始めている。
 熊の体から虫の脚のようなものが胴体の中央に、胸と背中両方から対になって規則的な配置で何本も生えている、それは未だジタバタと蠢いている。
 マーカスが放った使徒魔術は熊の頭部に命中し、その個所を完全に破壊している。
 ただ頭蓋骨の内部には脳などの内臓はなく、大きな蚰蜒のような虫がやはり頭部を完全に破壊された状態で、その長く細い無数にある脚のようなものをのたうち回させていた。
 当たりに飛び散っているのは熊の皮と骨、それと虫頭部とその内容物の緑色の何かだけのようだ。
 熊の脳みそなどそういった物はどこにも飛び散ってはいない。熊の頭の中はすべてこの虫に既に喰われた後のようだ。
 虫の頭部が完全に破壊されていることを確認したマーカスは杖を腰布に差し込み仕舞い込んだ。
「んー、ちゃんと当たってたか。これ、確か毒虫だよな。半分以上腐っているようだし、もはや喰ってやることもできないか。しかし、この辺りでこの手の虫憑きは珍しいな。しかも、もう精霊の領域のはずだよな、ここいらは。ふむ、帰ったら一応は師匠にも話しておこうか。土産話にはなるだろうし。あの人なら面白がるかもしれない」
 そう言った後、再びクマの死骸を確認する。
 本来はかなり北のほうに生息する大型の寄生虫に乗っ取られた熊の死骸。
 それ自体が寄生虫の家で食料で、それが朽ちるとき共に寄生虫自体も朽ちるのだが、大量の卵を同時にばらまくので非常に厄介な種だ。
「しっかし、参ったな。獣道とはいえ、そのど真ん中で倒れられるとは、はなはだ迷惑な奴だ。この手の虫は触りたくないんだよな。はぁ、ほんと厄介だな、虫種って奴はさぁ」

 第二野営地を出たミア達一行はやはり獣道を進んでいた。
 この辺りまでくると人工的に造られた道は既になく、また違う意味からもこの獣道を行くしかない。獣道ではあるが決まった、いや、決められた道なのだ。
 もちろん地図などもないため、案内役がいなければただ山中を彷徨うだけになってしまう。
「なあなあ、これ道あってるのか? さっきっから同じところを彷徨ってんじゃない?」
 エリックが周りを見回しながら誰に言うでもなくそう言ってきた。
 確かに判断がつかないような似たような景色が続く獣道だ。
 山遊びに慣れているらしいエリックがそう言うものわからなくはない。いや、逆に多少慣れているからこその違和感があるのかもしれない。
 特にもうすでに精霊の御所に近づいてきている。既にここは精霊の領域で招かざるものを通さない天然の迷路のような物だ。
「大丈夫ですよ。そう言いたくなるのはわかりますが、何度も行き来したことある所です。とにかくこの獣道から外れないでください、道から外れない限り安全ですので」
 と、インラムがサリー教授にかわって答え、なんどかした注意をもう一度する。それは相手がエリックだからだ。
 インラムもエリックのことを少しは理解してきている。
 ただ何度も注意したからと言って安心できる相手でもない。何しろエリックは話を聞かない。
「けど、ここ獣道ですよね? 変わってしまうんじゃないんですか?」
 山に慣れているミアですら少し心配になる。
 所詮獣が通ることでできる道だ。その道を作っている獣が変われば、その道自体も変わってしまうことをミアは知っている。
「まあ、獣道は獣道なのですが、この道は精霊王が用意してくださったものなんですよ。道が変わることもありますが、それでもこの道に沿ってゆけば、いえ、この道を通らなければ安全に精霊の御所へはたどり着けません、そう言うものです」
 と、インラムはにこやかに説明する。
 ある意味、精霊の道とも言うべき道だ。この道は精霊王が客人用に用意した道で逆に安全な道だ。
 この道が用意されているということは、精霊王は人間に友好的な証拠でもある。こちら側からわざわざ手を出さなければ、はぐれ精霊に因縁をつけられることもない。
 この道に入り精霊王への謁見を目指す限り、精霊と敵対でもしなければだが、安全な道である。
「どうやって区別してるの?」
 と、体中にラナダ草の葉を刺し、歩く草むらのような恰好、ある意味迷彩効果があるような恰好のスティフィが聞いてきた。
 確かに精霊と縁の遠い人間には普通の獣道とそう区別付くものではない。
「契約している精霊が教えてくれますね」
 インラムは特に隠し立てするとこでもないので素直に答えを教える。
「インラムさんは精霊魔術使えるんですか?」
 と、ミアが目を輝かせて聞いてくる。
 どうもミアは様々な魔術に興味があるようだ。先日無事契約が完了したばかりの使徒魔術の触媒である杖も持ってきている。
 余り同時に複数の魔術の系統を学ぶのはあまり良くないことなのだが、まだミアが学んでいるのは魔術の初歩の部分であり、どの魔術が自分に合うか確かめる時期でもある。
 そうやって一番自分に合った魔術を見つけてその系統を極めていくのが魔術の基本となる。
 そう言った意味で、今は逆に様々な魔術を学んだ方がいいのかもしれないのだが、ミアはどうもどの系統の魔術も極めたがっているところも見受けられる。
 ただ、それは人間には不可能なことだ。複数の魔術を極めようとするとどの系統の魔術も中途半端なところで人間の寿命は尽きてしまうからだ。
 複数の魔術を同時に究めようとするならば、どうしてもどの魔術も中途半端な状態でその人生を終えてしまう魔術師がほとんどだ。
 魔術や神の恩恵で寿命を延ばすこともできるが、それは限られた才能ある人間だけであり、そういった人間ほど更に一つの魔術を極めようとする傾向にもある。
 自然魔術の助教授であるインラム的には、もちろん有能そうなミアには自然魔術を学んで欲しいとは思っている、が、ミアが崇めている祟り神と思しき神のことはやはり気がかりでもある。
「ええ、精霊魔術も使えますよ。ですが本職は自然魔術の方ですよ。サリー教授を前にして本職と言ってしまうのは憚れますが」
 精霊魔術は初歩だけなら、精霊王から精霊を貸し与えてもらい精霊に魔力を渡して働いてもらうだけでいい。かなりお手軽な魔術だ。
 精霊の維持に毎朝ちょっとした儀式をするだけでいいので、とりあえず精霊と契約している者も多い。
「自然魔術って、よくわからないんですよね」
 そう言ってミアは少し不思議そうな表情を浮かべた。
 自然魔術はかなり少数派の魔術であり、しかもその系統もやたらと多く、さらにその魔術の効果も安定しにくい物が多い。自然魔術を扱うならば魔術の才能だけでなく、豊富な知識、熟練された経験、天性の勘といった物まで必要になってくる。
 あまり魔術の初心者にお勧めできる魔術でない事だけは確かだ。
「ハハッ、他の魔術とはかなり毛色が違いますからね。占いやまじない、そういった分野も一緒くたにされてしまっていて更にわかりにくくなっていますしね」
 インラムはそう言いつつ困った顔をした。
 そして心の中で、それもこれも学会の奴らがなんでもかんでも自然魔術に分類しがちのせいだ、と毒づく。
「でも魔術具を作るんですよね?」
 ミアは魔術具作成に興味あり、という感じだ。
 ただそれは本来の自然魔術とはあまり関係がない。のだが、自然魔術の結果として魔術具が出来上がることも多いので、自然と魔術具作成の分野が自然魔術に吸収されていった感じだ。
「んー、それは否定できませんが、本来は、というか本質はあんまり関係ないですね」
「そうなんですか? 魔術具を作る魔術の分野とばっかり思ってました」
 ミアが行っている魔力の水薬作成も、初歩中の初歩だが自然魔術の分野となっている。
 この世界では医者の代わりとなる薬師なども自然魔術を学んでいる事が多い。
 ただし本来の自然魔術を学ぶ者からすると、そこには異論を唱えたくなるところなのだ。
「自然魔術を行った結果として魔術具ができるのであって、魔術具を作るのが目的ではないんですよ」
 自然魔術の講義を受ける人間のほとんどは魔術具作成をおこないたいから、という理由だ。
 ただ本来の自然魔術を専門に学ぶ側の人間からすると、魔術具作成など後から勝手に付け加えられた分野で、それほど専門でもない、ということが事実となる。
 その事実を知ると、ほとんどの人間は本来の自然魔術を学ぶのをやめていってしまう。
 特にシュトゥルムルン魔術学院では本格的な自然魔術を学べる、と一部界隈では言われ有名でもある。
 その言葉には嘘偽りはない。
 サリー教授は自然魔術の魔術師としては稀代の天才なのだから。
 だが、それを聞いて魔術具作成の専攻を期待して来る者には失望しか与えない、のも事実だ。
 その結果、サリー教授の講義は生徒には余り人気がない。
 が、他の魔術学院の教授や助教授が度々講義を受けに来るくらいには質が高く難しくも有益なものだ。
 ただサリー教授としては色々な生徒にも講義を受けて欲しいと常々思っている。
「あっ、あの…… きょ、興味あるなら…… い、一度講義に…… ま、魔術具の作り方も…… 教えてます…… ので……」
 何かと話題のミアが講義を受けてくれればいい宣伝になるかもしれない、とサリー教授は考えていた。
 さらに、ミアが講義を受けるならミアちゃん係の他の三人もおまけで着いてくることも十分にあり得る話だ。
 ぜひともミアには講義を受けて欲しい。
「はい! 魔力の水薬だけだと売り上げが余りないので、その辺の種類を増やそうと思っていたところなので、ぜひとも!」
 そう言ってくるミアにサリー教授とインラムは苦笑いを見せるしかない。
 ただミアは魔術全般に興味があるように思えるので、本来の自然魔術のほうも知れば、興味を持ってくれるかもしれない。
「そ、そうですか…… でも、まあ、きっかけはそんなものですし…… ね。ミアさん…… なら、いい、自然魔術師になれると、思います…… 自然魔術や精霊魔術なんかは…… どの神とも競合しない…… ので、気軽に学べます…… よ?」
 ミアが信心深いことはわかっている。
 他の神やそれらの御使いに頼らない分、ミアにも自然魔術を学ぶ抵抗は少ないはずだと、サリー教授は強く勧めたい。
「はい! 地脈の力を使うんですよね?」
 ミアの反応もいい様に思える。サリー教授は自分より口が達者なインラムに目線で合図を送る。
 インラムもそれを受けて力強く頷き、ミアの問いに答える。
「地脈だけではないですよ、世界に満ちている力、そのすべてを利用するんです」
 自然魔術の本質は、この世界本来の力を利用するものだ。その中でも一番地脈の力が強力で有名なだけだ。
「でも、それって元々は神の力で、拝借して使われることなく霧散していった魔力が地脈に流れ込むって話よね?」
 ここでスティフィも会話に入り込んでくる。
 これ以上受ける講義を増やされたくはないための介入だが、ミアを止められるとは既に思っていない。
 それに学びたい、という知識欲もまた欲望であり、デミアス教徒のスティフィはそれを本来は止めるべきではない。
 止めるべきではない、のだがスティフィにもこれ以上受ける講義を増やして欲しくない、という欲望というか切なる願いがある。無駄だと分かっていてもだ。
 なのでスティフィはかなり遠回しで、地脈なんかの力を使うくらいなら、神々から力を借りたほうが良いのでは、と言っているのだ。
「それは一概に肯定も否定もできません。確かに拝借され使われずに霧散していった魔力が地脈に流れ込むのは確かです。学会でも確認された事実ですね。ですが、太古の昔から、それこそ拝借呪文よりも昔から、地脈には魔力と同等の、神の御力と同じような力が流れてるとも言われています。それに先ほども言った通り、自然魔術で地脈の力を利用するのが有名ですが、それ以外の力も利用できるんですよ! この世界の自然は、力に満ち溢れているのです!!」
 ここで生徒候補を逃すつもりはないとばかりにインラムは力説し、更に語り続ける。
 その対象であるはずのスティフィはうんざりした表情で既に聞き流している。
「魔力は基本的にほとんどのものに宿ります。水や植物、石や宝石、大気にも。その最後に行きつく場所が地脈というだけであり、自然魔術ではそれらすべての力を利用して超常的な力を行使します。上位存在に左右されることなく行使するのは大きな利点となりますよ」
 と、インラムは力説する。
 サリー教授が魔術具関連以外の講義の時に教室に行くと生徒が誰もいない、そういった時すらある。その時のいたたまれない表情のサリー教授の顔を見るのはインラムも辛い。
 サリー教授が望むのであれば、祟り神の巫女だろうと何だろうと、サリー教授の講義を受けてくれるならそれでいい、とインラムも覚悟を決める。
「というか、いろんな零細魔術を一緒くたにされて訳の分からない魔術よね」
 ただそれだけでスティフィも際限なく受ける講義を増やされてしまうとたまった物ではない。
 専門的な話になっていけば、付け焼刃の知識ばかりのスティフィに勝ち目などない。
 少しでも不利と判断できれば、違う角度から切り崩していくつもりでいる。
 それもこれも、これ以上受ける講義をこれ以上増やして欲しくない一心からだ。スティフィも生徒としては優秀な方だが、本当に優秀で稀有な才能を持つミアについていくのは大変なことだ。
「それも、否定できませんね。一部の教授からは、雑多魔術とか、その他魔術なんて言われているくらいですからね」
 と、インラムが少し苦笑をしながら自虐的にそういう。
 そこでちょうどミアが使い魔の異変に気づく。
「ん? どうしたんですか、荷物持ち君?」
 少し先を進んでいた荷物持ち君が止まったため、ミアが自らの使い魔にそう声をかけた。
 荷物持ち君は振り返り、声には出せないが、一旦止まれ、とそういった表情、が、わかるわけではないがそういった物を視線だけで語り掛けてくる。
 ただその無言の警告も主であるミアには伝わってくるものだ。
 ミアは周りを見渡した後、獣道の先を注意深く見つめる。
「この臭い…… 腐臭ね」
 が、今回はミアがそのことを理解するよりも早く、スティフィがその異常に気付く。
「ほんとだ、腐臭がしますね」
 続いてミアもその臭いに気づく。まだかなり距離がありその姿はまだ見えないが、その臭いだけはうっすらと漂ってくる。
「よくそんなにラダナ草を身に着けていて臭い分かりますね……」
 と、インラムがスティフィの姿を、青臭くもあり酷く嫌な臭いをさせているその姿を見ながら言った。
「この道の先に、獣か何かが死んでるようだけど?」
 と、スティフィが声を上げる。
 まだ実際にその姿を見たわけではないし、それがすでに死んでいるものなのかもしれないが、荷物持ち君が警告してくる、という事はミアに危険が及ぶ可能性があるという事だ。
 スティフィも臨戦態勢にはいり警戒を強める。
 腰につけている鉈を取り出し構えておく。
「精霊の領域の道で、ですか? 珍しいですね…… とりあえずここでの争いはあまり好ましくないので、むやみに争いは、特に魔術は使用しないでください」
 インラムは注意しつつも少し訝しむ。
 この獣道は、精霊王が客人のために用意しておいた道だ。
 そんな道の途中に獣とはいえ死骸が放置されることの方が珍しい。
 獣道なのだが、この道を実際に獣自体が通ることは少ない。
 実際は下位精霊が精霊王の命で、道を作っているだけだ。
 その道を野生の獣が通ることはあるし、それを精霊達が止めることもない。
 ただその道のさなかでその獣が死骸となることは稀なことで、仮に死して死骸になっても精霊達によってすぐに葬られているはずだ。
 なのに腐臭がするまでその死骸が放置されていると言うこと自体が異常なことなのだ。
「警戒して様子を見ながらゆっくりと行きましょう。何かあってもまずは様子見を優先しましょう、ここは既に精霊の領域なんですよ、なんども言いますが魔術は極力控えてくださいね。特にエリック君、キミは…… 荷車に乗って荷物でも守ってください」
「ん? よくわからんが任された! 荷車のことは俺に任せてくれよ!」
 と、言う軽い返事が返ってきた。
 魔術は使うな、という点は理解できているのか、騎士隊から支給される訓練生用の鉄剣を鞘から抜き放った。
 扱いは慣れているように見えるが、剣を握っているのがエリックなだけにどうも心配になる。
 訓練生用の剣ではあるが歴とした剣で、もちろん鉄製の本物の剣だ。その刃が潰されているわけでもない。
 ただ切れ味よりは頑丈さを優先して作られていて、通常の剣よりも訓練用にわざと重く作られている。
「念のため、ジュリーさんも、エリック君をお願いします」
 と、インラムがそう言うと、
「あ、はい、しっかりと見張っておきます」
 と、ジュリーがエリックが握っている抜き放たれた剣を見ながら言った。
「では、皆さん、注意して進みましょう」
 心配はあるものの、もたもたしていたら日が暮れてしまう。
 いくら安全な道とはいえ、さすがに野宿する気にはなれない。

 荷物持ち君を荷車から外し、荷物持ち君を先頭にして一行は注意深くゆっくりと進む。
 しばらく進むと黒い毛むくじゃらの大きな死骸が道をふさぐように倒れ込んでいる。
 既に周りには蠅がかなりの数たかっていて、あたりを飛び回っているのが確認できた。
 それだけなら普通の死骸なのだが、その死骸からは細長い節くれだった何かが規則正しく生えている。
「これは虫憑きですか……」
 インラムがそれを一目見ただけで判断する。
 あの虫の脚のようなものは熊に寄生、いや、あの熊の肉体を乗っ取っている虫の触覚だ。その触覚も微動だにしていないところを見ると虫自体も死んでいるようだ。
 ただこの手の虫は死んだだけではその脅威は終わらないから厄介だ。
「ち、近づかないように…… き、寄生される…… 可能性が…… あるかもしれません……」
 サリー教授が注意を促す。
 その注意で荷物持ち君を含めた全員がその場に足を止め立ち止まる。
 熊の死骸まではまだ少し距離があるが、酷い腐臭だけは臭ってくる。
「教授、あの虫の種類、お分かりになりますか? 恐らくはですが、あれは…… ですよね?」
「あの死体は熊…… で、触覚も出ているので、恐らく…… 熊カブリ…… ですが……」
 サリー教授はそう言いながらも、いつにもまして自信がない表情を浮かべている。
 本来この辺りにはいない種なので、自信がないのも当たり前だ。
「熊カブリはもっと北の、本当に北、それも山の方じゃないといないって話じゃないの?」
 北の出身だからスティフィもそれなりに詳しい。
 この世界では北に行けば行くほど虫は多くいる傾向にある。
 あの熊の死骸に寄生している虫はかなり大きいように思えるし、本来この辺りの地域にいていい種の虫でもない。
「はい、で、ですから、恐らくは…… です…… とにかく近づかないで…… ください。体液…… にも、毒があります…… 非常に、強力な…… 毒です…… 緑色の液体には…… 絶対に触らないで…… ください…… どう…… しましょうか、熊カブリであるなら、あの死体…… 周辺を、焼かなければ…… なりません……」
 あの熊の死体には恐らく熊カブリの卵が至る所に産み付けられている。
 それを他の野生動物が食べれば、熊カブリに寄生されてしまう。
 非常に強い繁殖力を持つ虫なので発見次第、適切に処分しなければならない危険な虫種だ。
「ちょっと待ってください。こちらで処理していいか、契約している精霊に聞いてみます」
 インラムは目を瞑り、自ら契約している精霊に心中から語り掛け、精霊と心を同調させていく。
 そして、その精霊に危険な虫種がいることを伝える。
 すぐに返事が頭の中に返ってくる。それは言葉ではなく感情や心象に似たような物だ。インラムが契約している精霊は言葉を理解できるが、まだそれを発することができるだけの自我は持ち合わせていない。
 なので帰ってくる答えも抽象的な物でしかない。
 何度か同じ質問をし、何度かその答えを確認をする。そうすることで、その答えに確信を持つようにしている。
 ただあまり長い間精霊と同調しているとやはり魔力酔いを起こしてしまう。
 精霊から返ってきたいくつかの答えで確信を持てたものだけを答えていく。
「わかりました。あの虫が動かなくなってから、まだそれほど時間がたっていないそうです」
「え? でも、もう腐ってますよね?」
 とミアが驚いて聞き返してくる。ミアからすると腐り始めた獣が動くはずがないのだから、驚いて当然かもしれない。
「熊は、そうですね。ただ熊に寄生していた虫はつい最近、少なくとも今日のうちに死んだようです。ついでに、何者かによって仕留められたとのことです。精霊達がそれを目撃しています」
 熊カブリという寄生虫は宿主の体内に入ると背骨まで移動し背骨の内側に沿って成長する。
 そのまま背骨と同程度まで成長しきると宿主の脳を食べて殺し、その体を完全に乗っ取る。
 脳を食べた栄養を基に産卵し、その脚のような触覚から微弱な電気信号を出し宿主の体を、ぎこちなくではあるが動かし、弱っている動物を演じる。
 そうすることで別の獲物に襲わせ、その肉と自らの卵を食べさせることで繁殖していく寄生虫だ。
 人にも寄生する非常に厄介な虫種だ。野生動物の肉を生食することだけでなく、傷口に熊カブリの卵が触れる事だけでも寄生された事例もある。
 また頭部を潰さなければ、その他の部位は数日程度で再生する。仕留める場合は必ず頭部を破壊しなければならない。
 のだが、頭部のみその体液に強い毒性を持っている。その毒は少量でも肉を溶かし全身を麻痺させるほど強力な毒で、非常に厄介な虫となっている。
「精霊ってそんなことまでわかるの?」
 と、スティフィが少し疑わしいように思っているのか聞いてくる。
 それも分からない話ではない、普通の下位精霊は、インラムが今話した内容のようなことを事細かく伝えたりはしてこない。
「僕が契約している精霊はそういったことが得意なんです」
 インラムが契約している精霊は火を起こしたり、水を操れたりすることはないが、物事を覚えそれを伝えることに長けた精霊だ。
 インラムと契約する前は精霊王の命令を他の精霊に伝えたりするような役割をしていた伝令役の精霊だ。
 なので他の精霊よりも色々な物事を覚え記憶し聞き伝えることに秀でている。
「そんな精霊もいるのね、で、どうするの?」
 スティフィはまだ半信半疑のようだが、一応は納得してくれたようだ。
 ミアの護衛役ということで一応の確認をしただけなのだろう。
 インラムは今だ精霊と同調しているせいか、少し眩暈にも似た物を感じ始めた。気分もあまり良くはない。
 が、まだ精霊に聞きたいことは山ほどある。
「道を急ぐのであれば、こちらで処理しても構わないそうです。待っていればここの精霊達が処理してくれるそうですが、それはいつになるかまではわからない、とのことです。こちらで処理する場合は、火や魔術を使うことも容認してくれるそうです。精霊としてもこの手の虫が増えるのは好ましくないそうです」
 精霊から返ってきた答えをインラムは答える。
 これだけのことを契約主にとは伝えてくれる精霊は本当に珍しい事だ。ある意味インラムに貸し出された精霊は特別な精霊という事でもある。
「熊カブリってどんな虫種なんですか?」
 その名を知らないミアは異様な熊の死骸に背筋を冷やしながらも聞く。
「遠い北の雪山で稀に見られる大型の寄生虫です。いろんな獣、主に肉食獣ですが、それを宿主とします。最終的には熊に収まることが多いので熊カブリと呼ばれています。宿主となる獣の至る所に卵を産み付けて、それを食べた者を新しい宿主としていきます。本来はこの辺にはいない種なのですが…… あの特徴的な触覚は恐らく間違いないです。あれです、見えますか、背中かから細い、虫の足のような何かが生えていますよね、あれが熊カブリの触手で、周辺の情報を得て他の獣が多い場所へと移動していくんです。熊カブリは頭を潰さない限り死なないそうですが、目の前のあれは既に頭部を破壊され死んでいるそうです。精霊の話なので間違いはなく、虫はすでに死んでいると考えていいですね」
 インラムはそう言って熊の死骸を指さす。
 そして話を続ける。
「ただその卵や飛び散っている体液は強い毒性を持っているので、やはり近づくのは危険です。卵を経口摂取しなくても寄生されたなんて話もあるので、不用意に近づかないでください。後、精霊の話では、ですが、何者かが先に遭遇し、仕留めはしましたが後処理ができずに放置した、という感じらしいです」
 そう言った後、インラムは頭痛がしはじめたので精霊との同調を一度切り、頭を左右に強く振るう。
 少し精霊と長く同調しすぎたのかもしれない。
「えっと、この獣道を外れてはいけないのよね? で、その死体はつい最近できたものと?」
 スティフィはそう言って今度は辺りを周辺の様子を伺う。
 この獣道に入ってからというもの、逆に精霊からの敵意もあまり感じなくなっている。
 精霊王が作った道というのも本当の事なのだろう。スティフィ的にはいいことだが、インラムの話を聞く限りスティフィにはこの辺りにまだ何者かがいるように思えてならない。
 この精霊が用意した道は一本道なのだから。そして、自分たちはこの道に入ってから誰とも出くわしていない。
「ええ、そのようですね」
 インラムはスティフィの問いに答えながらも、頭に手を当てて一息ついている。
「その虫を倒した者はどこへ? あの死体を超えて先に行ったってこと? 毒っていう体液も、かなり飛び散っているみたいだけど?」
 スティフィは熊カブリのことを知識として知ってはいるが、実際に見たことはないし、詳しいわけでもない。
 人里離れた北の山奥に稀にでるという事ぐらいしかわからない。ただ非常に厄介だ、という事は一応知っている。
「精霊王の御所が目当てでないのなら、この獣道を外れても問題はないですね、安全は保障されませんが」
 インラムもそうは言いつつも辺りを伺うような仕草をしだした。
 熊は自分たちがいる方から進行方向へと向かってなぎ倒されている。
 恐らく角度的にはだけれども、今自分たちが立っている辺りから魔術で攻撃でもしたのだろう。
 そして、その人物は熊を超えてその先の道へとは行っていない。
 スティフィは改めてこの辺りの地面を注意深く観察し始める。
 観察しながら考えていることを口にする。
「例えば、第三野営地や第四野営地が目的の場合、この道を外れても平気ってこと?」
「なるほど。スティフィさんは熊カブリを倒したのが、備蓄を持っていった犯人だと?」
「可能性の話よ」
 そう言っている間にも、スティフィは地面に自分たちが引いてきたものとは別の荷車の跡と四足獣の足跡を発見するが、その跡は不自然に消えている。
 戻った後もなければ進んだ様子もない。どうやったかはわからないが、その痕跡は突然と消えている。
「あるかもしれませんね。そして、その答えはその通りです。精霊の御所を目指さないのであれば、多少道を外れても問題ないです。うーん、そんな輩と余り出くわしたくはないですね。でも、今はそんなことよりも、目の前の問題です。あの熊カブリのほうを先に対処しなくてはいけないですね。特に僕たちは精霊の御所が目的地なので。しかし、どうしますか、サリー教授、燃やすにしてもかなりの巨体ですよ、一苦労です。ここは周りに木々も多いですし」
 精霊王が作ってくれた道といっても見た目は獣道でしかない。
 熊が倒れている場所は多少ひらけてはいるが、周りに木がないわけでもない。
 いくら精霊達が容認してくれるとはいえ、ここで山火事でも起こしでもしたら話はまた別で精霊達も怒りだすに違いない。
「あ、まだ契約したてなのですが、私が契約している御使い様は炎の御使い様みたいで、燃やすの得意ですよ!」
 ミアは出番とばかりに持っている真新しい杖を掲げてそう言ってきた。
 インラムはそれを見ても苦笑いしかでない。
 ミアの魔術の才能がどの程度かわからないが、契約したての使徒魔術を頼るわけにも行かない。
「ミア、まだ慣れてもいない使徒魔術を使うのは危険だって言ってるでしょう? 安全な場所で何度も練習してからよ。その杖だって置いて来いって何度も言ってたでしょう?」
 スティフィがミアに注意を促す。護衛役で着いてきているとのことで使徒魔術の心得はそれなりにあるようだ。インラムもスティフィの意見と同意見だ。
「だ、だって、ロロカカ様の御使い様ですよ? その方と契約した杖を置いていくなんてできないですよ!」
 と、ミアは杖を大事に抱え込んでそういった。
 持ってきても使わないでくれたらそれでいい、とインラムは思うが他に方法が思い浮かばない。
 何よりここは精霊の領域なのでサリー教授やインラムの得意とする自然魔術では調整が非常に難しい。この辺りの地脈は精霊の影響からかかなり荒々しくも力強い、その扱いがとても難しい。
「どうします? サリー教授?」
 と、インラムがサリー教授の指示を仰ごうとするが、ミアがそこに割り込んでくる。
「だ、大丈夫です! 指定した場所だけを燃やせる凄い魔術ですよ! 山火事なんかにはなりにくいと思います!」
 ミアは自信ありげに自身を売り込んでいく。
 恐らくはロロカカ神の御使いの力を見せつけたいのだろう。そのことがスティフィにはわかる。
「指定した場所だけを燃やす使徒魔術? ミア…… あんたまたすんごい契約したのね……」
 さすがのスティフィも御使いと契約したその場まではついて行ってはいない。
 その御使いとの契約の内容を知っているのはミアと付き添いのカーレン教授くらいのものだ。本来御使いとの契約は秘密裏に行われる物なのだから。
 初めての契約なのでスティフィは暖炉に火を着火できる程度の物だと思い込んでいた。
 いきなり高難易度な魔術を契約しても制御に失敗して契約破棄されるのが落ちだからだ。
 つまり、先ほどスティフィが言った言葉は驚きではなく呆れからでた言葉だ。
「そうですよ! なんたってロロカカ様の御使い様であられますので!!」
 と、ミアは喜んでいる。
 スティフィは別にロロカカ神の御使いを褒めたわけでもないのだが、ミアが嬉しそうにしているのでそれを否定したりもしない。
「指定した場所だけ燃やせるだなんて、あまり聞かないですね。どうしますか、サリー教授?」
 使徒魔術、とくに悪魔と魔術的に呼ばれる御使いとの契約でなされる魔術は破壊的な物が多い。
 それは御使い達が神の先兵として創られたので当たり前のことだ。なので、場所を指定して燃やす、などという契約内容はあまり聞かない話だ。
 ましてや初心者が結ぶ契約内容ではない。
 まず初めはそれこそ、火の扱いが得意な御使いと契約するなら、暖炉や竈に着火できる火種だけ起こすような契約から練習していくのが基本だ。
「す、少し考えさせて…… ください…… ミアさん、その魔術はいつ契約したのですか?」
 サリー教授も少し困り顔だ。
 だけれどもあの大きさの熊を燃やすとなるとそれなりに準備がいるし、その選択肢の中で使徒魔術という選択肢自体は悪くはない。
 ただし術者が生徒でなければの話だ。
 生徒でもミアでなくスティフィであれば、また話は別だ。彼女の使徒魔術の腕前はかなりのもので、助教授たちなどよりも高いかもしれないという話だ。
「四日前です! で、その次の日に試しに使ってみました! 薪をいくつか一列に並べて、指定した場所の薪だけを燃やすことに成功しました!」
「そ、それは…… 凄いですね」
 と、サリー教授は返事しつつ、つい最近とある人物から同じようなことを聞かされた話を思い出す。
 術者の名前はその時は聞かされなかったが、話をしてくれた人物がかなり興奮して褒めていたことも思い出す。
「え? それいつよ? 私しらないんだけど?」
 使用できる使徒魔術の内容は仲間内にでもあかさない。それが狩り手としての常識だ。
 だからスティフィも、ミアがどんな使徒魔術を使えるようになったか詳しくは知らないし聞いてもいない。
 それにやはりミアはまだ初心者なのだ。それほど手の込んだ契約を結んでいるとは思っていなかった。
 なのにミアの話を聞く限りでは、手の込んだ契約を結んでいるように聞こえる。
 しかも、スティフィの知らないところで試し打ちまでしているようだ。
「スティフィがダーウィック教授に報告しに行っている間にですよ。手持ちぶたさだったので試しに使ってみました」
「あ、あんたね、使徒魔術は便利だけど危険なのよ?」
 使徒魔術を失敗すれば危険なことはスティフィ自身が身をもって知っている。
 契約破棄で起こされる触媒の破壊はその周囲を巻き込んで破壊をばらまくのだから。
 だから、一般的には杖の先端に触媒となるものを置いておき、その破壊から逃れるようにするのだ。
 慣れない初心者が一人で扱おうとするのはとても危険な行為でしかない。
「ちゃんとカーレン教授とフーベルト教授に見てもらっていたので大丈夫ですよ」
 とミアがにこやかに答えた。
「え? 教授二人に見てもらってたの?」
 とスティフィが驚く。ついでにインラムも驚く。
 魔術学院の教授は、かなり高い地位を持っていてその人数も制限されている。
 学院内と限定ではあるがその権力もかなり高い。その教授が二人も一人の生徒に付き添うなど通常はありはしないことだ。
 ただサリー教授だけはやっぱりと確信する。
「はい、ちょうど事務室にお二人がいたので」
 ミアがそう言ったことでサリー教授はクスリ笑う。いつも聞いている話だ。
「いつもの…… 事務室…… ですか?」
 サリー教授は笑いをこらえる様にミアに聞き返してくる。
「え? はい? いつもの? 事務室?」
 逆にミアの方が訳が分からないといった表情を浮かべた。
「ああ、いえ…… そういえば、この間フーベルトが…… 何か言ってたのを…… 思い出しまして…… ね…… ところで…… カーレン…… 教授の、評価は…… どう…… でした?」
 話を聞かせてくれた人物、フーベルト教授の評価をサリー教授は思い出す。
 そして、その評価はかなり高かった。
「これは素晴らしい、と一言褒めてくれました!」
 ミアは目を輝かせてそう答えた。
「あのカーレン教授が…… ですか?」
 にわかに信じられないが、フーベルト教授の話とも一応は合致する。
 が、あの寡黙な教授が褒めるところがサリー教授には想像できなかった。ただ世辞で褒めるような人物でないことも知っている。
「はい」
 とミアが返事をする。
 サリー教授はミアの目を見つめる。じっとミアも見つめ返してくる。
 その真剣でまっすぐな眼差しは信じてあげたくもなるほど実直なものだ。
「熊カブリは、毒も…… ですが、卵が特に…… 危険ですので、あまり近づきたくは…… ないので、ここは…… ミアさんに……」
 魔術を使わないであの熊を燃やすとなると、かなり近づかないといけない。
 しかも頭部が破壊されたときに肉片などもかなり飛び散ってしまっている。
 その中に熊カブリの卵が付着してないとも限らない。
 それで何かの拍子に寄生されでもしたら、それこそたまった物ではない。
 熊カブリの毒は皮膚を焼き溶かし、その個所に卵が触れることで寄生されることもあるのだ。
 使徒魔術の初心者の魔術に頼るのと、魔術なしであの巨体の熊を焼くことの危険を天秤にかけた結果、サリー教授はミアを信じることにした。
 もっと言えば、二人の新人教授のことを信じることにしたのだ。
「本気? ミアはこの間契約したばかりなのよ?」
 スティフィは信じられない、という表情をしている。
 スティフィの身の上話を聞いているのでそれも当然のことだが、サリー教授にはミアを選んだ更に別の理由もある。
「ま、まあ…… ミアさんなので…… 多分、気に…… いられている…… ことでしょうし……」
 ミアはミアが崇めている神にかなり気に入られている。
 一番ミアと親しい教授であり、いろんな神の研究家でもあるフーベルト教授の意見だ。
 それはサリー教授も同意見だ。なら、その御使いにも気に入られているはずだ。
 使徒魔術において、契約する御使いに気に入られる、という事は大きな強みをえる。
 それは初心者と熟練者の差を埋めることができるほどの強みだ。
「確かに、それは…… そうだけれども! 訓練もしてない使徒魔術をあてにするとか、どうなのよ?」
 と、スティフィが納得できてない中、ミアは既にやる気のようだった。
 新しく得た魔術を、いや、ミアのことなので新しく得たロロカカ神の御使い、その力を誰かに見てもらい、そして、認めて欲しいのだろう。
 スティフィはミアを止めようとするが、既に杖を構えてしまっている。邪魔して暴発でもしたら元も子もない。もう見守るしかできない。
「では、早速……」
 ミアはスティフィの制止を意にも介さず、まだ真新しい杖を右手でしっかりと構え深呼吸をする。
 先端の水晶を熊の死骸の方を向ける。左手の親指と人差し指で円を作りそれを通して水晶が見えるようにする。
「大いなる御方、その御威光をお示しください」
 呪文というよりは祈りにも似た言葉をミアが唱える。
 ミアの視界が暗く閉ざされていく、その代わりミアが注視する場所だけが色鮮やかに、そして鮮明に、遠くまでもが詳細に見通すことができるようになる。
 ミアは前方にある熊の死骸、それとそれに寄生している虫に意識を向ける。
 自然と視界がどんどん狭まり最後には熊と寄生している虫だけが視界に映り、しまいには地面までもが暗く塗りつぶされていく。
 飛び散った破片や体液などまでもがしっかりとミアには把握出来ている。それは御使いの力と同調することで得られる超感覚のようなものだ。
 余すことなく把握したミアは、最後にミアが目を一度しっかりと閉じ、そしてその瞼をゆっくりと開く。 
 そうすると、視界が元に戻り、熊の死骸が紅蓮の炎に包まれていた。
 ミア以外の視点では、いきなり火柱が立ち上ったように見えた。
 火の渦となって猛々しく熊の死骸の周辺のみを燃え盛らせている。
 その業火ともいえる炎は他に燃え広がることなくただただ熊の死骸の周辺のみに留まり焼き尽くしている。
「た、確かにこれは…… 凄い……」
 インラムが驚きながらそう言葉をもらす。
 火柱、そう言っても過言ではない炎が渦を巻いて燃え上がっている。普通なら燃え広がりそうなものだが、その様子はまるでない。
 炎自体が意志でも持っているかのようにその場に留まり続けている。
 数分の後その炎はぱたりと消え、その後には骨も残っていない。その場にあったものすべてを焼き尽くしている。その火力は見た目以上の火力なのかもしれない。
 その場にあった物を燃やし尽くしたという跡のみを残している。その場所だけは地面も焼け焦げ熱を発しているが、少しずれた場所には青々とした雑草が全く焼けずに生えたままなほどだ。
 通常の炎では考えれない火の燃え方だ。
「ど、どうです?」
 とミアは誇らしげに胸を張った。
 ミアの手応え的にも問題ない、と感じている。
「ほ、本当に最近契約したばかりなのですか?」
 と、インラムが驚いている。すでに熟練者の域に達しているかのような腕前だ。
 あれだけの炎を、成獣した熊の骨まで残さず数分で焼き切るほどの火力を有しながらも、それを完全に制御して他に被害を出さないなど、簡単にできる芸当ではない。
「ま、まあ、使徒魔術は、契約した相手に気に入られれば気に入られるほど優遇されるって聞くけど…… これはもう優遇っていうより贔屓って感じよね」
 スティフィも驚きを隠せないし、ミアの魔術の才能に嫉妬もする。
 自分が散々苦労してたどり着いた領域に簡単に、しかも、その一歩目で踏み込んで来たのだ。
 ミアの魔術の才能は本物で、疑いようのないほど確かなものだ。ダーウィック教授が目を付けるのも納得できることだ。
 確かにこの才能は、神に好かれる才能も含めて、希代の魔術師のものだ。ミアは間違いなく天才だと、スティフィも認めざる得ない。
「あの…… 炎は……」
 ただサリー教授だけが別の意味で驚いていた。
 それに心当たりがあるからこそ漏らした言葉だったのだが、ミアはそれを勘違いした。
「御使い様の操るこの世ならざるもので、理から外れた炎とのことです」
 と、自慢げに説明する。
 そして、サリー教授もその言葉で確信する。
 今、ミアが呼び出した炎が、禁断の火である、巨人の火であることに。
 たぐいまれなる自然魔術の才能を持つサリー教授であるから気づけたことだが、あの火は普通の火と異なっている。また異世界の炎である竜炎ともまたどこか違う。
 この世界で生まれながらにして、現在の火とは違う構造をし、別の異なる摂理を持った火であり、神々に否定された火でもある。
「な、なるほど…… 納得です…… 色々と…… これは…… 後で……」
 親しくしている友人達に相談しなければならない。
 もしかしたらまた教授達全員で会議を行わなくてはならない話だ。
 熊カブリの件だけでも厄介ごとなのに、それ以上の厄介ごとを目の辺りにしてしまった。ある意味、サリー教授はこの場にいたのが自分で良かったと思う。
「後でなんですか?」
「いえ、こちらの話…… ですね。もしかしたら、その使徒魔術…… の件で追々、お話が…… あるかもですが…… 怒られる…… とか、そういう…… 話では、ありませんので……」
 と、サリー教授は笑顔を作ってそう言うが、仮に今の使徒魔術が使用禁止となったらミアはどんな顔を浮かべるか、それを思うとサリー教授は気が重い。
 さらに言うなら、カリナに巨人の火のことを伝えねばならない事の方が気が重い。どういった行動をとるかなども想像すらできない。
 これから朽木様にミアの使い魔を見せに行くだけでも大変だと言うのに学院に帰ってからも面倒ごとが後を絶たない。
 サリー教授は心労でふらふらと無言で揺れた。
「そんなことより、危険は去ったのかしら? ミア、荷物持ち君に聞いてみてよ?」
 と、なんとなく嫌な感じを察したスティフィが話を変える。サリー教授がミアの魔術を見て何か感づいたこともダーウィック大神官に秘密裏に報告しなければならない。
「はい。 荷物持ち君、これで危険は去りましたか?」
 荷物持ち君はミアを見上げゆっくりと頷いた。
 ミアの使い魔、古老樹がそう判断するのならもう安全なのだろう、と、その様子をみた者達が安堵する。
 次の瞬間、ピシッと高い音が小さく聞こえる。
 それはミアの心の中まで響く。
 痛みはないがミアがよろめく。なにか心の一部に亀裂が入ったような感覚に陥る。
 スティフィが慌てて手に持っていた鉈を投げ捨ててミアを支える。そして、その時に気づく。
 ミアの真新しい杖、その先端についている水晶にひびが入っていることに。
 ミアもそのことにすぐ気づく。スティフィに支えられながらも慌てふためく。
「え? どうして、け、契約破棄されたんですか?」
「これは…… 契約破棄じゃないわね。杖の方が魔術の負荷に耐えれなかっただけね……」
 契約破棄されていれば、ひびが入るだけでは済まされない。
 その触媒は二度と使えないように徹底的に破壊されるものだ。
「ど、どういうことです? 御使い様は怒っていないってことですか?」
 ミアは慌てふためき、スティフィにしがみ付いて聞いてくる。
「ミアが契約した御使いは怒ってないわよ。契約破棄されたら、跡形もないほど破壊される物だから……」
 実際に契約破棄されたスティフィの左手甲の触媒は、スティフィの左肘辺りまですべて破壊していった。
 今あるスティフィの左手は本当に形だけ模して造られたまがい物の左手でしかない。
「じゃあ、どうして!?」
 触媒にひびが入り慌てるミアを見て、スティフィは思い出したくないものを思い出しつつも、ミアを叱咤して落ち着かせる。
「とりあえず落ち着きなさいよ! 後、自分で立って!」
「は、はい……」
 スティフィに怒られ、ミアは一旦落ち着き、スティフィに支えられるのを止め自分の足で立つ。
 だがその視線はひびが入った水晶から離れないし、なんなら涙が少し溢れてきている。
「簡単に言うと御使いから流れ込んでくる力が高すぎてその安物の杖ではそれに耐えきれずに壊れかけた、ってことね。まあ、確証はないけど……」
 少し呆れながらスティフィがわかる現状を説明する。
 スティフィの憶測でしかないが、恐らくは間違いではない。
「じゃあ、御使い様はお怒りになられていないってこと…… で、いいんですか?」
 と、ミアは希望に満ちた目でスティフィを見つめてくる。
「そういうこと」
 その視線にため息をつきながらスティフィは返事をした。
 ミアは神関係の話になると喜怒哀楽の差が激しすぎて疲れるせいだ。
「確かにあれほど凄まじい炎でしたからね、その練習用の杖では耐えれない可能性は高いですね」
 インラムもスティフィと同意見のようだ。
「安物って言っても結構したんですよ?」
 確かに学院の購買部で買える練習用の杖だが、それなりの価格はする。
 特にミアにとってはかなり手痛い出費だった。
 その手痛い出費で買った品も今はひびが入ってしまった。
「ミアが契約している御使い、それと神様、相当神格が高いのね…… 前々から思ってはいたけど想像以上ね……」
 スティフィも常々思っていたことだ。
 特にスティフィは生贄にされるとき、呼び出されたその御手を至近距離で確認している。
 思い出しただけで心がざわつくあの不吉な御手がただの祟り神というだけでは済まされない、なにかとても深い、それこそ、どこまでも深い深淵のようなおぞましさを感じさせてくる。
 なんにせよ、どんな神にせよ、ロロカカ神はかなり神格が高い神だと言うことはスティフィも思っていたことだが、その御使いの力を改めてみて、それが想像以上のものだったと実感できる。
「ロロカカ様ですからね、当たり前です!」
 と、ミアはこれでもかというくらいのしたり顔をしている。先ほどまで泣きそうなほど狼狽していたとは思えない表情をしている。
 スティフィは再度ミアの杖の触媒を見る。まだ淡い光は失ってはいないが、触媒としての使用は避けたほうが良さそうだ。
 この状態で先ほどと同じような出力で術を使えば、間違いなく魔術は暴発する。
 しかも、あんな化け物じみた火力の炎が制御を失いどうなるのか、スティフィにも見当がつかない。
「けど、その杖でもう魔術は使わないようにね。次使ったら暴発しかねないからね。契約している御使いにも迷惑かかるからね? わかった? ミア、絶対使っちゃだめよ!」
「え? は、はい!! わかりました、そう言うことであれば絶対に使いません!」
 本当は触媒も安全のために破棄してしまった方が良いのだが、ミアがロロカカ神の御使いと契約した証である触媒を自ら破棄するとは考えにくいし、それを進言すればまず間違いなくミアの反感を買う。
 学院に帰ったら丁寧に封印でもして、部屋に飾らせてしまうのがいいかもしれない。
「サリー教授? どうしたんですか?」
 深く考え込んでいるサリー教授にインラムが気づき声をかける。
「い、いえ…… 大丈夫です…… 先を…… 急ぎましょう……」
 そう言ってサリー教授が深く息をついたところで、後方からエリックが引き留めるジュリーをひきずりながらやってきた。
「おーい、なんかすごい火柱上がってたけど!!」
 エリックの目は好奇心で輝いていて、有事だから、というよりは面白そうだから来た、というのがまるわかりだった。
「す、すいません! 止めたんですけど、言うこと聞かなくて!!」
 と、ジュリーがエリックを必死にしがみついてエリックを止めながら悲鳴のように叫んだ。



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