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出会い
第三話 涙の理由
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はるかは、涙を白いハンカチで拭いながら、ゆっくりと話し始めた。
「実は…首輪なんです」
「首輪?」
「はい…私、前、犬を飼ってまして…」
「はい」
「その犬が、この間、亡くなりました」
「そうなんですか…それは悲しいですね」
リョウは慌てずに聞くことにした。
「その犬は、白い花の刺繍が入った、赤い首輪をしていたんです」
「なるほど」
「犬の名前は、ジョンと言いました。ジョンが亡くなって、首輪を外して家の庭に埋めたんですが、いつの間にか、その首輪が見当たらなくなっていました。家中くまなく探しましたが、とうとう見つかりませんでした」
「うーん、そうですか」
「本当に、私が幼いころから世話をして、遊んだりして、親友のような存在でした。だから、ジョンの首輪はずっと、そばに取っておきたかったんです」
「そうでしょうね、わかりますよ」
リョウは、なかなか話が見えなかったが、辛抱強く聞いた。はるかは時折、目と鼻にハンカチを当てて話を続けた。
「その首輪が、見つかったんです」
「ああ、良かったじゃないですか」
「それが…」
彼女の瞳から、また大粒の水滴が頬をつたう。
「どうしたんですか?」
「あのさっきの砂浜の、売店の近くのゴミ箱の近くに落ちてたんです」
「ええっ…、では、はるかさんの家は、この近くなんですか?」
「いえ、私の家は横浜の近くなんです。どうやって、あの首輪がここまで運ばれて来たのか…」
リョウも首をかしげた。そんなことがあるだろうか。
「すみません、疑う訳ではないですが、本当にその首輪はジョン君のものだったんですか?見間違いということはないんですか?」
彼がそう言うと、はるかはちょっと強い口調で言った。
「間違いありません!だって…」
「どうしたんですか?」
「首輪には筆記体でジョンの名前も刺繍してあったんです。絶対、間違いないです」
その言葉には、彼も少なからず驚いた。確かに、それでは間違いないであろう。
「それで…」
また彼女は、言葉に詰まった。
「それで、なんですか?」
「その首輪に、べったりと血が付いていたんです」
リョウは、さらに仰天した。
「ええっ?ど、どういうことですか?ジョン君は病気で亡くなったんじゃないんですか?なんとなく病気だったとばかり…怪我で亡くなったんですか?」
「はい、ジョンは肝臓の病気で亡くなったんです。出血などはありませんでした」
「はあ…うーん…どういうことでしょう…?」
「わかりません。私、驚いてしまって…それを見て、何がなんだかわからなくなってしまいました」
はるかは息を詰まらせて、また、うつむいてしまった。リョウは、かける言葉も、しばらく見つからなかったが、ひと呼吸おいて、声をかけた。
「そうですか…それは驚く、というか、かなりショックですよね。一体どういうことなんでしょうね…」
ほっておくと、彼女が、また過呼吸になってしまうかもしれないと考え、リョウは言葉を続けた。
「誰かが運んだとしか考えられませんね。もしかして、はるかさんの近くの海に落ちて、このお台場の浜辺に流れ着いた、ということも考えられますが」
はるかはまだ、静かに、肩を震わせている。さらにリョウは語りかけた。
「はるかさん、しっかりしてください。気を強く持って。考えましょう、というか…ここでいくら考えても、答えは出ないかもしれませんが、私も一緒に調べますよ。きっと、真実はわかります」
はるかは、ちょっと上目遣いになって、懸命に涙を拭いながら、
「ジョンは…ジョンは天国に行ったんでしょうか。神様がジョンに呪いをかけて、殺してしまったのかな、と…私…私…」
と、かすれた声で言った。
「大丈夫ですよ。そんなことはありません。はるかさんが、心の綺麗な人だということは、この短い時間でもわかりました。そんな人の大切なワンちゃんを、神様が殺したりするはずがありませんよ。一緒に真相を探りましょう。私が力になります」
リョウは、できるだけ明るい声で言った。
「本当ですか?真相なんてわかるんでしょうか?」
「わかりますよ。大丈夫です」
彼女は、少し元気が出たようで、表情が若干明るくなった。
「ありがとうございます!ジョンのこと、一緒に調べてください!」
「わかりました。私におまかせです」
「本当に、いろいろありがとうございます。影浦さんって、頼りになるんですね!」
リョウは照れ笑いを浮かべながらも、はるかに力強くうなずいた。彼女は、心から嬉しそうな様子に見えたが、彼は内心では、あまり自信が湧いて来なかった。
「実は…首輪なんです」
「首輪?」
「はい…私、前、犬を飼ってまして…」
「はい」
「その犬が、この間、亡くなりました」
「そうなんですか…それは悲しいですね」
リョウは慌てずに聞くことにした。
「その犬は、白い花の刺繍が入った、赤い首輪をしていたんです」
「なるほど」
「犬の名前は、ジョンと言いました。ジョンが亡くなって、首輪を外して家の庭に埋めたんですが、いつの間にか、その首輪が見当たらなくなっていました。家中くまなく探しましたが、とうとう見つかりませんでした」
「うーん、そうですか」
「本当に、私が幼いころから世話をして、遊んだりして、親友のような存在でした。だから、ジョンの首輪はずっと、そばに取っておきたかったんです」
「そうでしょうね、わかりますよ」
リョウは、なかなか話が見えなかったが、辛抱強く聞いた。はるかは時折、目と鼻にハンカチを当てて話を続けた。
「その首輪が、見つかったんです」
「ああ、良かったじゃないですか」
「それが…」
彼女の瞳から、また大粒の水滴が頬をつたう。
「どうしたんですか?」
「あのさっきの砂浜の、売店の近くのゴミ箱の近くに落ちてたんです」
「ええっ…、では、はるかさんの家は、この近くなんですか?」
「いえ、私の家は横浜の近くなんです。どうやって、あの首輪がここまで運ばれて来たのか…」
リョウも首をかしげた。そんなことがあるだろうか。
「すみません、疑う訳ではないですが、本当にその首輪はジョン君のものだったんですか?見間違いということはないんですか?」
彼がそう言うと、はるかはちょっと強い口調で言った。
「間違いありません!だって…」
「どうしたんですか?」
「首輪には筆記体でジョンの名前も刺繍してあったんです。絶対、間違いないです」
その言葉には、彼も少なからず驚いた。確かに、それでは間違いないであろう。
「それで…」
また彼女は、言葉に詰まった。
「それで、なんですか?」
「その首輪に、べったりと血が付いていたんです」
リョウは、さらに仰天した。
「ええっ?ど、どういうことですか?ジョン君は病気で亡くなったんじゃないんですか?なんとなく病気だったとばかり…怪我で亡くなったんですか?」
「はい、ジョンは肝臓の病気で亡くなったんです。出血などはありませんでした」
「はあ…うーん…どういうことでしょう…?」
「わかりません。私、驚いてしまって…それを見て、何がなんだかわからなくなってしまいました」
はるかは息を詰まらせて、また、うつむいてしまった。リョウは、かける言葉も、しばらく見つからなかったが、ひと呼吸おいて、声をかけた。
「そうですか…それは驚く、というか、かなりショックですよね。一体どういうことなんでしょうね…」
ほっておくと、彼女が、また過呼吸になってしまうかもしれないと考え、リョウは言葉を続けた。
「誰かが運んだとしか考えられませんね。もしかして、はるかさんの近くの海に落ちて、このお台場の浜辺に流れ着いた、ということも考えられますが」
はるかはまだ、静かに、肩を震わせている。さらにリョウは語りかけた。
「はるかさん、しっかりしてください。気を強く持って。考えましょう、というか…ここでいくら考えても、答えは出ないかもしれませんが、私も一緒に調べますよ。きっと、真実はわかります」
はるかは、ちょっと上目遣いになって、懸命に涙を拭いながら、
「ジョンは…ジョンは天国に行ったんでしょうか。神様がジョンに呪いをかけて、殺してしまったのかな、と…私…私…」
と、かすれた声で言った。
「大丈夫ですよ。そんなことはありません。はるかさんが、心の綺麗な人だということは、この短い時間でもわかりました。そんな人の大切なワンちゃんを、神様が殺したりするはずがありませんよ。一緒に真相を探りましょう。私が力になります」
リョウは、できるだけ明るい声で言った。
「本当ですか?真相なんてわかるんでしょうか?」
「わかりますよ。大丈夫です」
彼女は、少し元気が出たようで、表情が若干明るくなった。
「ありがとうございます!ジョンのこと、一緒に調べてください!」
「わかりました。私におまかせです」
「本当に、いろいろありがとうございます。影浦さんって、頼りになるんですね!」
リョウは照れ笑いを浮かべながらも、はるかに力強くうなずいた。彼女は、心から嬉しそうな様子に見えたが、彼は内心では、あまり自信が湧いて来なかった。
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