狼騎士は人の王にひざまずく

えん

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王に捧げる騎士の想い

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 諸々の後始末のためにルーファスをイェドに残して、エルシャとジュノと近衛兵だけで王都まで帰ってきた。
王都に着いた頃に、ちょうどルーファスから伝令が届き、エルシャを攫った男たちは、洞窟の三人も含め全て捕まった。
 イェドから周辺の森や山を徹底的に人海戦術で捜索し、森の隠れ家や町の酒場に散り散りに潜む野盗の一派を次々と捕まえて行った。
 ルーファスの執念に現地の誰もが閉口したらしい。
「こいつら、おそらく前から人身売買もやっていたはずだ。
一人でも多くの被害者を救うために、売った相手も徹底的に調べてくれ」
「かしこまりました。
しかし、陛下のことは誰かの命令で最初から狙っていたとか」
「そうなんだ。私の正体は知らされていなかったようだし、捕まえた後もどうするかは知らされていなかったようだった。
命令したのが誰だったかわかったか?」
「今、吐かせております」
「頼む。
鉄鋼を横領していた主犯はわかったか?」
「ランドールだというところまでは突き止めたのですが、爵位剥奪の書状を持って訪れると屋敷はもぬけの殻、ランドールの行方が未だ掴めておりません」
「そうか。ラクダルとの繋がりはなにか出たか?」
「それについても、現在調査中ではありますが、ランドールだけでは到底、あの量の鉄鋼を売買することはできません。
裏に人員や他国の武器商人などと繋がっている人物がいると見ています。
つきましては、城の内部での陛下の暗殺未遂も、城の内情に肉薄できる人物の仕業だとルーファス様は睨んでおります」
「そうだな……。
引き続き、ルーファスたちに任せると伝えてくれ」
「はっ、失礼いたします」
 調査部からの報告にもなんだかきな臭さが窺える。掴めるのが末端のしっぽだけ、というのが嫌な感じだ。その気になれば切って逃げることは計算のうちなのだろう。
 気が付けば、執務室の中は西日も落ちて薄暗くなっていた。
「ランプを着けましょうか、陛下。
それとも、もうこの辺でご公務を終わりになさっては?」
 王都に帰ってきてすぐに調査部の報告を聞いていたので、実はろくに休んでもいない。
 いつもエルシャの言動にほとんど口出ししない侍従長のマジドまでが苦言を呈した。
 イェドでエルシャが野盗に攫われたという報告は限られた人間だけが受けていた。侍従長のマジドもその一人だ。
「お休みになってください、陛下。
お身体ももちろんですが、お心も疲れましょう。
どれほどの苦痛を受けたか私共には計り知れませんが、陛下がご無理なさっているかと思うと……」
 とうとうマジドまで涙ぐみ始めたか、と思う。
 実のところ、確かに身体は疲弊していたが、皆が思うほど心の傷は深くない。
 それはきっと、ジュノが助けに来てくれ、その後もジュノに告白をされ、晴れて恋人同士……となったはずなのだから。
 恋人同士、になっているのだろうか。
 ジュノは相変らず、エルシャの執務机の右斜め前で待機のポーズで立っている。
 攫われて酷いことをされそうになったことは確かに少しは恐怖として残るだろうが、今のエルシャにとっては、ジュノに愛を告白されたことが嬉しくて、頭の中はジュノとのことでいっぱいだ。

 公務を半ばむりやり切り上げられて、食事をとり、ネイによる少し長めの風呂から上がり、ようやく自室に戻った頃にはもう夜更けだった。
 久しぶりの自分のベッドは確かに寝心地も良く整えられていて落ち着く。
 しかし。
 城に付いてからろくにジュノと話せていない。確かにエルシャはイェドの後始末に、調査部の報告に、溜まっていた公務に、従者たちからの手厚い世話にと忙しかったが、ジュノも普段より無口だったように感じる。
 エルシャの水差しに毒が混入された暗殺未遂事件以降、ジュノの部屋はエルシャの部屋の二つ向こうだ。エルシャの普段独りでくつろぐ居室があり、その横に寝室と浴室が設けられており、その向こうがジュノの部屋だ。
 会いに行こうと思えばすぐに会いに行ける距離ではある。
 しかし、ジュノも疲れているだろうしとか、もう眠っているかもしれないしとか、さっきまで会っていたしとか、考えているうちにいつも止めてしまうのだ。
 なにか良い口実はないかと、酒などに誘ってみることを考えもしたが、つい馬車の中でのことを思い出してしまう。深夜に二人きりで酒を飲まないか、などと言うと、あの夜と同じことをしないかと言っているのと同じような気がする。
 いや、同じような、ではなくむしろそちらが本音なのかもしれない。
 ジュノとあの夜のようなことをしたい。
 それが本音だ。
 恋人になったのだから、なにもおかしいことはないはずだ。
 だが、それをあからさまに誘うのははしたないということくらい、エルシャにもわかる。
それではどうやって誘えばいいのか。ほかの者たちはいったいどうしているのか。
(気持ち良かったな……、ジュノ殿の、手、とか……)
 身体が、むずむずとする。
 寝返りを何度か打って、それでも身体がどこかふわふわむずむずしていて、きっとこのままでは眠れない。
(確かジュノ殿の手が……)
 目を瞑ると、ジュノの手つきや低くて甘い声、熱い舌の感触が思い出される。
 柔らかい被毛の感触は肌をくすぐるようだったし、爪の先で引っかかれると痒いのに気持ち良かったし、舌は濡れていて首も耳も胸も飴のように舐められて溶けるかと思った。
 エルシャの手がぎこちなく自分の身体を撫でる。
 その手が下半身にのびると、少しジュノの手つきを思い出しただけですでに形を変えようとしていた。
(ここも、触られたんだった……)
 夜着として着ているのは簡易な薄布の羽織りと紐で腰に留めているだけのズボンである。その中に手を入れてしまうと簡単に脱げてしまった。
 エルシャはこういった行為もあまりするほうではなかった為に、知識が乏しく、ジュノの手つきを思い出すしかない。
 ジュノの手が芯を握るようにして上下させていた。
「……は、……ん、っん……」
 先端に親指を軽く突き立てていた。
「! っあ、……や、……ん、ん、ジュノ……」
 時折、きつく扱いたり。
「っは……!」
 ランプのわずかな光が揺らぐ。
 触れられたい。もっともっと奥まで、深くまで触れて欲しい。もっとずっと長い時間、夜の間中、一日中、ジュノに触れられていたい。
 背を丸めて、夢中で手を動かす自分の影が視界に入り恥ずかしく思うのに、手が止まらない。
 そのとき、扉が控えめにノックされた。
「あー……、こほん、エルシャ殿、……もう寝てしまったか?」
 抑えてもよく通る低い声を間違えようもない。
 慌てて手を拭き、夜着の乱れを直す。
「ジュノ殿、どうされました、こんな夜更けに」
 どうか気付かれていませんように、と心の中では慌てふためきながらも、顔では何事もないかのように振る舞う。
「あー……、いや、その、……。
以前、獣人の香油の話をしただろう」
「はい、ジュノ殿の香油がいい匂いだ……という……」
 ちょうどそのときのことを思い出して自分で慰めていましたなどと言えない。
 顔はおそらく真っ赤になっているだろうが、部屋のランプの灯り一つの薄暗い状態で気付かれていないことを祈る。
「それで、俺の香りしかなくて選びようがないのだが、これでマッサージでもと思ってな。エルシャ殿も疲れが溜まっているはずだ。
足先や手だけでもマッサージすると少し解れる」
 そう言って、小さな陶器の小瓶を手渡してくれる。
「ありがとうございます」
 ジュノの匂いだ! と喜んで小瓶を嗅ぐ。嗅ぎなれた甘い香りがすけれど、やはりジュノ自身を嗅いだときの匂いとは違っていた。
「それでは、おやすみ。
風邪をひかないようにな」
 ジュノが優しい手つきで夜着の肩ががずれているのを直してくれた。
 その手つきに、素肌の肩にわずかに触れたジュノの指先に、どうしようもなく我慢できなくなる。
「あの! もう少し、……。
あ、マッサージ! マッサージのやり方を……あの、教えて……もらえませんか」
 ジュノが固まる。
 いつもの無表情からさらに眉間に皺を作ったしかめ面になっている。
「入っても?」 
「……どうぞ」
 エルシャが身体を少しだけずらすと、ジュノは自分の巨躯を滑り込ませ、後ろ手に扉を閉めた。
「俺がマッサージをしよう。
どこかに腰かけてもらえるか?」
 エルシャは一瞬考え、揺り椅子や長椅子のある居室を通り抜け、寝室でベッドに腰かけた。
 ジュノはエルシャの足元に跪くように片膝を付く。エルシャの片足を自身の付いた膝の上に乗せた。
 小瓶からはとろりとした液体が流れてジュノの手のひらに落ちる。
 ふわりと一帯に甘く濃厚な花のような香りがむせ返るほど濃く香る。
「蒸発していくから濃厚に作ってある。
最初は香りが強すぎると感じるかもしれんが、すぐに馴染んだ香りになる」
「……はい」
 香りはどれほど濃厚でも良い香りだと思ったし、ジュノがどれだけ説明してくれても頭はほかのことでいっぱいだった。
 ジュノの手が足に触れている。
 ジュノの香りが溺れるほどこの部屋を満たしている。
 エルシャのゆったりとした布使いの裾をたくし上げると、白い素足がランプの灯りに浮かび上がった。
 上まで足先から滑らせるように、ジュノの手が撫でていく。
 足の指も一本一本丁寧に香油を馴染まされ、足の裏、ふくらはぎと何度も手のひらが撫でる。
 ジュノの被毛も香油に濡れていて、柔らかくエルシャの足をくすぐる。
 脛は痛くないようにことさらゆっくりと撫で上げられていく。
 ジュノの手は膝から上には来なかった。
 しかし、エルシャの感覚は気付かぬうちにどんどん鋭敏になっていた。
「美しい足だな」
 ジュノがからかうように、爪先にキスをする。
 片足を持ち上げられるとズボンの裾はさらに付け根の方へとずり落ち、付け根に近い、きわどいところまで露わになる。
 エルシャは慌てて裾を押さえ、上衣の布も真ん中に集めた。
 ジュノが剥き出しになった足の至るところにキスをする。
「…………んっ」
 ついに声が出てしまって、手の甲を口に押し付けた。
 ジュノが顔を上げてエルシャの顔を見る。真っ赤になりながら、瞳は快楽と期待に潤み、震えながら必死に声を我慢する様は、ジュノの我慢の限界を迎えさせた。
「ふぁっ……!?」
 エルシャから妙な声が漏れる。
 大きな舌が足を爪先からゆっくりと舐め上げてくる。
「じゅ、ジュノ殿っ!」
 いけないといさめるのか、嫌だと拒むのか、一瞬混乱しているうちに、ジュノの舌は膝を通り過ぎ、太腿を舐め始める。
 マッサージをする為にベッドには浅く腰かけただけで、片足をジュノに掴まれているから、不安定な体勢のエルシャは足の間を布で隠すので精一杯だ。
 内側をキスをされたり、舐められたり、甘く噛まれたりする度に、エルシャから鼻に抜けるような声がする。
 片足はジュノの肩の上まで抱え上げられて、ついにベッドに倒れかけて肘で支える格好になった。
「あっ!」
 手が離れたそこは、形を変えて布を持ち上げていた。
 ジュノが容赦なく布を捲り、ズボンの腰紐を取り、脱がせてしまう。
「ジュノ殿、待って……!」
 今度は両足を高く抱え上げられ、その反動で上半身はベッドに沈んでしまい、簡易な夜着は全くその役目を果たそうとしなくなって初めて、エルシャが抵抗らしい抵抗をした。
 ジュノがそのまま足の間に顔を埋めてきたのだ。
「あ……っ、んんっ!」
 今までに感じたことのない快感が背筋を駆けあがって来る。
 狼の裂けた大きな口で、鋭い牙の間で、エルシャの茎を咥えられていた。
 熱い口の中で舌で扱かれ、吸い上げられ、先端を舌先でぐりぐりとほじられる。
「あっん! や、ジュノ、まって……! も、むり、はなし……ひぁっ、ん、んー、ふ、っん、……あ、でる、でるから……! んんんっ!」
 経験の少ないエルシャは翻弄されるままに追い上げられ、すぐに達した。
 ジュノはそれを自分の手に吐き出し、香油と一緒に尻のあわいに擦りつけた。
「ふぁっ!?」
 未だ片足はジュノに掴まれたままのエルシャはもう自分が今どんな恰好なのか、なにをされていて、なにをしているのか、なにもわからなくなっていた。
 尻の間の後孔をジュノの指がぬるぬると滑る。ぬめりがあるからか、簡単に入口がほころびジュノの指先が入るのを許した。
「あっ、ジュノ、じゅの、どの……」
 たまらず、目元を覆った。
 我慢しようと思えば思うほど、じわりと熱く滲む。
 せめてジュノに気付かれないように、と思っていたけれど、目聡いジュノはすぐにエルシャの様子に気付いてしまった。
 ジュノが慌てて、エルシャの顔に口元を寄せて目元の雫をべろりと舐めとる。
「すまん、性急過ぎたか」
 そう言ってべろべろと顔中舐めてくれる。
 それが本当に、はしゃいで力任せに遊んで子供を泣かせてしまった大型犬のようで、エルシャは泣きながら笑ってしまった。
「ふは、くすぐったい、ジュノ。
……はあ、すみません、俺も、泣くつもりなんてなかったのに」
 恥ずかしくて手で顔を覆う。
「嫌だったか?」
 ジュノの声が本当に落ちこんで聞こえて、頭を横に振った。
「ちょっと、初めてのことばっかりで……驚くというか、……心と身体がばらばらで。
俺の身体、持ち主のことなんか放っといて、ジュノのいうことばっかり聞くんです」
 ジュノが息を呑むのが空気で伝わる。
 今度は愛おしそうに、大事そうに、柔らかく頬を舐められる。
「俺も、全く自制ができていなかった。
怖がらせてすまなかった。
エルシャ殿、俺が部屋を訪ねる前に、一人でしていただろう?」
「えっ!?」
 驚き過ぎて目元を覆っていた手を取ってしまう。今こそ恥ずかしさから隠すべきときだったのに、と直後に思ったが、もう腕をジュノに掴まれていた。
「なん……、なぜ…………?」
「獣人の耳や鼻は、おそらく人族の想像の及ばぬところだろうな。
なぜ俺があの部屋にしてもらったと思う。
あの距離なら、エルシャ殿の生活音から寝息まで聞こえるからだ」
 嘘だ……。
 寝息が聞こえるということは、エルシャのあの小さな噛み殺した喘ぎ声さえ聞こえていたということか。
「あのように甘い声で名前を呼ばれてはたまらん」
 ジュノが鼻先をエルシャのこめかみや耳の後ろの髪の中に突っ込み匂いを嗅いでいる。
「ちょうど俺も部屋を訪ねようかどうしようか迷っていた。
エルシャ殿も疲れているだろうから、と言い聞かせて今夜は止めようと考えていた。
だが、あれで我慢ができなくなった」
 顔が一気に熱くなる。あの声を聞かれていただなんて思いもよらない。
「しかも、いざ訪ねてみると、このように肌を上気させて、籠った熱やエルシャ殿の匂いが充満している部屋に誘われただろう。
正直マッサージなどしている場合ではないぞ」
 ぐるるる、と苦悩の喉が鳴る。
 エルシャは真っ赤な顔のまま口をぱくぱくさせる。エルシャだってプライバシーについて抗議したかったが、なにも言葉が出てこなかった。
「ゆっくりする。
陛下のお身体には傷一つつけない。
陛下にとって気持ち良くなることだけをお教えすると誓う。
だから、もう一度、触れさせて頂きたい」
 ジュノの手が頬を包み込むと、これ以上ないくらい優しく触れられているのに、エルシャの心はいやらしいことでいっぱいになる。
 もっと触れて欲しい。
 ジュノに触れて欲しい。
 ジュノに気持ち良くして欲しい。
 ジュノに愛されたい。
 ジュノに許したい。
「俺も、ジュノ殿と最後までしたいです」
 ジュノが自分のシャツを脱ぐ。
 胸の飾り毛だけでなく、全身のふさふさとした毛でエルシャを包み込んでくれた。
 エルシャの方も中途半端な上衣も脱がされて全裸でジュノと抱き合う。
 身体中あちこちが上質の柔らかい毛に触れて、ゆっくりと背中を撫でられ、世界で一番安心する場所に帰ってきたような気持ちになった。
 じんわりとあたたかいものに全身包まれて、身体の中にまで熱が広がってくる。
 もともとジュノに触れてもらいたくて一人で慰めていた心が、ようやくジュノに触れてもらえると悦んでいる。
 そうなると、身体の方もじわじわと感度が上がって来て、全身に触れているジュノの毛にさえむずむずとした快感を覚えてしまう。
 こういう毛足の長い上等な毛布を見つけてしまったら、きっと毎夜それに腰を擦りつけてしまう気がする。
「ジュノ、もう大丈夫です。
続き、して欲しい、です」
 エルシャはジュノの固い腹に自分の下半身を擦りつけ、自分で慰めている。
 だが、まだほとんど使い方を知らない腰は、力任せに押し付けるだけだ。
 ジュノは当然気付いていて、あえてなにも指摘せず、手を背中から脇腹へ、尻から太腿へと滑らせる。
「……ジュノ殿」
 エルシャが一層潤んだ瞳でジュノを見上げる。
 グルルルル、とジュノの喉が鳴る。
 ジュノが手に香油を追加し、また部屋の中が濃厚な甘い香りで満たされ、エルシャはジュノの体臭と混ざる胸元に顔を埋めた。
 香油のついた手がエルシャの全身からも同じ匂いがするように擦り付けてゆく。
 背中から腰と手が滑り、小さな尻をするすると撫で、再びそのあわいに指を這わせる。
「ん、……はぁ、あぁ、……ん」
 ジュノの腹に擦りつけているエルシャのものが濡れて、ジュノの被毛がぐちゅぐちゅと音を立て始めた。
 ジュノがエルシャの片足を抱え上げて開かせる。そうすると後孔に触れやすくなり、ぬるぬるとそこを前後させるだけで、先ほどと同じようにほころび始める。
 いつの間にかジュノの大きな身体に見合う大きな獣の雄芯が、エルシャの袋の下や後孔を擦りながら往復している。
「っあ、ぁ、ン、……はぁ……」
 エルシャの後孔はまだなにも知らないはずなのに、ジュノの雄芯が擦られる度に吸い付く。
 ジュノがエルシャの後孔に、戯れのようにほんの指先を沈める。痛みも、大した抵抗もなくジュノの指を飲み込んだ。さらに深く潜り込ませていく。
「んんっ! ……は、ジュノ、あっ、ん」
 実際には違和感しかないのに、ジュノに愛撫されていると思うだけで、繋がれると思うだけで、不安も痛みも忘れてもっととねだってしまう。
 だって、ジュノがエルシャを傷つけるわけはないのだから、ジュノのする行為は全て気持ち良いことなのだとエルシャは教えてもらった。
 もどかしいほどにゆっくりと指を動かされる。
 ぬるぬると浅い所を出し入れされ、入口の粘膜を丁寧に広げられる。
 緊張で身体に力が入っていたのがゆるゆると解かれ、ジュノの指を中へ誘い込むように緩んだり、喰い締めたりをし始める。
「ふ、ぅ、んん、は、ジュノ、口づけしてほし……」
 エルシャの言葉に応えて、ジュノの大きな舌が口元を舐め、薄く開いた唇の間にその舌を潜り込ませた。口の中がいっぱいになるので、自分の舌を使ってその大きな舌をしごくと、すぐ間近で狼がぐるぐると喉を鳴らす振動が伝わる。
 ジュノも気持ちいいだろうか。ジュノも気持ち良くなってもらいたい。その一心で、ジュノの舌を舐めしゃぶる。
 ジュノの指がふやけるほどの奥まで一気にぐうっと潜り込んできた。
「んん……っ!  は、は、……あ」
 きちんと爪の手入れをされた指先が、エルシャの中を掻き回す。
 ジュノの宣言通り、エルシャの後孔は痛みもなく、太い指の感触だけが中で蠢いているのがわかる。
 しかし、気持ち良いかと言われれば、まだわからない。未開発のエルシャの身体は、快感をうまく拾えなかった。
 唯一、エルシャにもわかる快感はジュノの柔らかい被毛に覆われた固い腹に擦りつけていた自身のものだけだ。
 ジュノがそのエルシャの前の芯も握りこんでくれて、同時に愛撫してくれる。
「あっ、ん、んう、あ、は、あ、だめ、も、すぐいっちゃう……」
 くちくちと粘度の高い水音が部屋に響き、そこに重なるエルシャの声も、蕩けるほどに甘くなってきた。
 いつのまにか、後孔の中で蠢く指も増えている。ジュノの指が小さなしこりを見つけ、軽く押し潰した。
 その途端、エルシャの腰の奥から脳のてっぺんに向かって快感が突き抜ける。
「はっ……? 
ああぅ、ぅっ、っあん、んんんっ!」
 腰が勝手に跳ねる。
 エルシャの中心からはとぷとぷと白濁が溢れ、腹を汚す。
 その腰ををジュノの手が再びベッドに縫い付け、指の動きを再開する。
同じ場所ばかりを狙ってすりすりと擦ったり、押し潰したり、二本で挟んで摘まんだりと、動かし始める。
「ああぁっ! あっ、 ん、そこ、も、やぁ……、はっ、ん……あん、もう……」
 前を触られているような強い快感なのに、そこだけでは達することが出来ず、ジュノの指でなんとか達しようとエルシャは知らず知らずのうちにジュノの手に自分の尻を押し付けて、動かしていた。
 気持ちいい。
 どうしよう。なんでこんなに気持ちいいのだろう。
 エルシャの中心では、早々にまた首をもたげ始めている。
「……じゅの、ジュノ、どの……、どうし、どうすれば……?
も、いきたい、さわって、じゅの……」
 拙い動作で腰を動かしてみたり、自分の手で前を触ってみたりしたけれど、ジュノが与えてくれる感覚に翻弄されるばかりで、なにも上手くできない。
 しかし、絹の敷布を掴みながら、立たせた茎から蜜を垂らし、腰を揺らせてもっととねだるエルシャの痴態はジュノの理性を溶かせるには充分だった。
 ぐるるる、と喉の奥で聞こえて、指が引き抜かれた。
「あっん、あ、……いや、いかないで、じゅの……」
 もっと近くでもっと満たして欲しいのに、ジュノが離れていってしまう。
 そう思っただけで、寂しさや不安を感じる。
「わかっている、大丈夫だ。
ほら、エルシャ殿」
 エルシャの頬を大きな舌でべろんと舐められる。
「陛下のお望みとあらば、陛下がお好きなだけ、ご満足頂けるまで、何度でも、私が満たして差し上げます。
私の命も、愛も、身体も、全て陛下のもの」
 エルシャの心も下腹部も、切なく疼く。
 頬を包んでくれているジュノの手に自分の手を重ねて、摺り寄せる。
「ジュノ殿、来て、欲しい。
ジュノ殿の全部、俺が、欲しいです」
 ジュノの雄芯がエルシャの身体を貫いているんじゃないかと思うほどの圧迫感で挿ってきた。
「はっ、んんんっ……!」
 やはり一度には入らず、浅い所でじっと止まり、浅い所だけで出し入れされたり、ゆるく腰を揺すられたりする。
 それだけでもエルシャにとっては今まで感じたことのない衝撃と快感だった。
 正常位のままジュノの首に抱きつき、足をジュノの腰に巻きつかせた。
 体格差があるので、ジュノに覆いかぶされるとエルシャの身体はほとんど覆われてしまう。
 全身をふわふわとした被毛に包まれて、皮膚の全てがジュノに触れて気持ち良さを感じてしまう。
 じゅぷ、とジュノの雄がさらに深くへ挿ってきた。
「……っあ、ひ、……っん、んん、は、は、ぁ、あっ、ああっ!」
 傘の張った一番太いところがエルシャの弱いところに当たっている。
「ん、ん、あっ、ひっ、や、待って、」
 ジュノが腰をわずかに揺らすだけでも、エルシャには突き上げられているような衝撃で、途切れ途切れになる上ずった声に甘さが混じる。
 そうしながらも、エルシャの気付かぬうちに奥の方にまでジュノの自身が深く挿入されていた。
 くん、とジュノが下腹を突き上げると、それに伴ってエルシャが甘い嬌声を上げる。
「ああ、あっ、は、んん、……ああ……は、ん……んん、や、あぁ」
 エルシャが声を上げる度、ジュノの感度も上がっているように見える。
 まともに思考することも言葉にすることもできないのに、ジュノの低く囁く甘い声だけで胎の奥はぐずりと溶ける。
「可愛い」「本当に美しいな」「俺をずっと傍に置いてくれ」
 エルシャの身体が動かないようにジュノによって抱きすくめられると、快感を逃がすこともできず、より深く重たくエルシャの中を抉ってくる。
 ジュノの中に閉じ込められているようで、ジュノの匂いと、声と、肌に触れる滑らかな被毛が世界の全てになる。
「愛してる、エルシャ殿」
「ん、あ、俺も、俺も好き、愛してる、ジュノ」
 傍に居て欲しい。
 自分だけの騎士として、一番近くに居て欲しい。
 ジュノがいっそう強く掻き抱いたまま、グルルルと美しい音を鳴らす。
 その気持ち良さそうな音がなにより、エルシャの幸福感を高めた。
「ああ、あっ、ん、んん、は、ん、ん、ああ、あっん、……あ、あああ……!」
 細かく震える身体全てを密着させたまま、エルシャはジュノの腹との間に精を吐き出した。
「っ、く、エルシャ……」
 収縮するエルシャの中で、その締め付けによってジュノも限界を迎える。さらに膨張した雄を一番奥にあてがってぴたりとくっつけたままエルシャの中に注いだ。
「あ、……ん、あつい……、ジュノのが中に、たくさん……」
 グルルルル、ウルルルル。
 吐精しながらもぐっぐっと突き込まれて、その度にエルシャの蜜がじわりじわりと漏れた。
「はぁ……、きもちいい、です、じゅの、好き、大好き」
 余韻の中でぼんやりとジュノの滑らかな被毛を手でたくさん撫でて堪能していると、まだ入ったままだったジュノのものがまた硬度を持ち始めた。
 胎の中で生き物のように蠢く感触に身震いして、ジュノの顔を見上げる。
「……すまん。
いや、しかし、仕方ないだろう、愛しい我が王にそんな風に触られたり撫でられたりするとだな……。
待て、すぐに抜く」
 ジュノはそう言ったが、エルシャが足をジュノの腰に絡みつかせ、離れるのを許さなかった。
「エルシャ殿、初めてだったんだろう、無茶はさせたくない」
「無茶じゃありません。
……足りない」
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タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

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三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

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