異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成

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※※※


 私は今、王宮の一室で恐れ多くもマリオ殿下と向き合ってお茶をしている。ここは王宮内でローガンに与えられている彼の私室でもある。
 室内に誂えられた大きなソファの中央には悠々と長い足を組んで座るマリオ殿下がいて、その表情は忌々しく歪められていた。


「本当に信じられないよ。巷ではこういう悪行を『借りパク』っていうらしいよ。ワカメちゃん、あの狼はやめた方がいいね。苦労するのが目に見えてると思わない?」
「す、すみません……」
「伝承石は元々親父の宝物だったんだよ? それを私室の金庫から無断で持っていって無くした挙句、見つけてきたと思ったら今度は自分の部屋に置いてるなんてあり得ない。親父もキースに異様に甘いから王宮内に石があるなら良いって、何も言わないんだ。実子の俺には厳しいのにさぁ、えこひいきしてるんだ」
「そうなんですね……」

 その勝手にローガンが設置した伝承石によって王都に転移してきたので大変申し訳ない気持ちになる。
 私は魔力がないけれど、ローガンの力を蓄積させた魔石を使う事で転移することができている。
 使ってみるとこれがすごく便利なのだ。

 さすが王都。
 王族のお膝元であるため煌びやかで豊かな花の都である。
 子供用の洋服もいろんなデザインがあるし、王都で流行りのスイーツは最先端でお土産に買って帰ると小さな港町の人達はとても喜んでくれる。
 だから最近は、ちょいちょい都会を満喫しに来てしまっているのだ。
 
 ただ、転移先が王宮内なのが気が引ける。本来なら私が足を踏み入れる事など出来ない場所だ。
 完全フリーパス状態で王宮に出入りしている不届き者にも関わらず目溢ししてもらっているのは、きっとマリオ殿下の計らいなんだろうけれど、そのマリオ殿下に見つかる度にこうしてローガンの愚痴を聞くのもお決まりとなっていた。

「キースが俺を構ってくれない」「キースを怒らせたら口聞いてくれない」などの謎の相談が混じる時があるけれど、本来はキッチリとした真面目な性格なのだろうなと思われるマリオ殿下は、自由気ままな黒狼にどうやら相当振り回されていらっしゃるようだ。

 初めてお会いした時はマリオ殿下の方が自由に見えたけど、王太子っていうのは、きっと色々あるんだろうなぁ……。





「あの、今日はローガンは……」

 ローガンには今日王都に来る事は内緒にしていた。
 伝えてしまうとずっと私の傍にいて仕事をしなくなると以前マリオ殿下から苦情を受けたからだ。


「ああ、キースなら今日は遠方の仕事に飛ばしておいたからしばらくは纏わり付かれずに済むと思うよ。安心してゆっくりしていくといい」
「あ、ありがとう、ございます……?」
「あれでもうちの狼は、嫌そうな顔しながらもちゃんと頼まれた事はこなしてくるところが可愛いんだよねぇ。他の黒狼なんて好奇心と探究心が旺盛で基本的に自由だからつるまないし、属さないでしょ? こっちの言う事なんて聞かないよねー。それに比べるとキースは珍しい部類のお人好しって言えるのかもしれないな」
「お、お人好し……?」
「一応ねぇ」

 マリオ殿下が悪戯っぽくウインクを決めた。
 さすが、本物の王子様は大変様になる。どこかの乙女ゲームのスチルのようだ。


 なんだかんだでマリオ殿下はローガンを信頼してくれているのはもうわかっているのだけれど……実は、それらの仕事をローガンは任された予定よりかなり早く終わらせて、伝承石を使って頻繁にウチに出入りしているのだ。

「マリオにバレるとすぐに次の仕事を入れてくるのが煩わしい」

 と、わざと王都には戻らず期限いっぱいまでウチでのんびり過ごしているとは言えない。

 ちゃんと依頼は済ませて来ているから本人はサボりじゃないと言っていたけれど、本来であれば終わり次第上司に報告する義務があったのではないだろうか。

 子供達をふたりとも抱き上げて買い物にも付き合ってくれるし、重い荷物ももってくれるしで大変助かっているから私も甘えてしまっていたけれど、きっとマリオ殿下が知ったら怒られてしまいそう。

 これからは出来るだけ私がローガンを諭して早めに王都へ送り返すようにします! ごめんなさい! と、胸の内でマリオ殿下に懺悔しながら曖昧に笑って彼の話に相槌を打っていた。




「さて、そろそろお茶の時間も終わりにしよう。ワカメちゃん、付き合ってくれてありがとね」
「いえ、とんでもないです! こちらこそ!」

 マリオ殿下はお仕事に戻るべく、先に席を立った。
 本当なら秒単位でお忙しいのに相手をしてもらってるのは私の方だ。

「そうそう、都に出るなら騎士を護衛に連れていってね。あとその髪、わかってると思うけど見えないように気をつけて。また拐われでもしたらキースが王都を破壊しかねないからねぇ」

 そして、ローガンが傍にいない時は毎回護衛をつけてくれて、私の珍しい髪色にも気を配ってくれる。
 とても有難いのだけれど、日本人にはありふれた色合いだし地元の港町では誰も気にしないので、拐われるほどというのには未だに違和感を感じてしまうところがある。

「はい、気を付けます。私の髪色の人間は、本当に珍しいんですね。あまり実感がなくて」

 頭髪全体を隠すようにストールで覆いながら、なんとなく溢した言葉に部屋を出かけていたマリオ殿下が反応してくれた。

「そうだね、珍しい……というか、俺は黒狼と同じ色彩の人間を文献でしか知らないかなぁ」
「文献、ですか?」
「その文献の中に描かれていた人間は、異なる世界から来たと記録されている。ずっと気になってたんだけど……君、もしかして、そういう類の人だったりするの?」

 ギクリと心臓が嫌な音を立てた。
 それは隠している訳ではないけれど、誰も信じてくれないからとローガンにだけ打ち明けていた私の真実だ。 
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