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生まれる疑念
猿飼誠
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「次投稿する動画、もう編集はだいたい終わってるんだよね?」
「だいたい終わってるっす」と犬塚が運転しながら答える。
「うーん、もうちょっとで着くと思うんだけどなぁ」と鳥山が言う。iPhoneを注意深く覗き込み、操作していた。
「MAPにちゃんと登録されてないんだよね。どこをどう行けば良いのか・・」
東名高速大井町インターを下りてから車で30分ほど、MAPを頼りに目的の心霊スポットに向かっていたがまだ到着していなかった。
「いつもだけど、ホントよく見つけてくるよね」と俺は鳥山に言う。心霊スポットを見つけてくるのは大抵鳥山だった。そもそも、このYouTubeの企画を計画したのも鳥山だ。猿飼さん、ちょっと有名になってみませんか、と言われその日のうちに東京都内の心霊スポットに連れ去られたのが丁度一年ほど前だった。
鳥山とは同じ職場の同僚という認識のみでとりわけ仲が良いというわけではなかった。入社年月では俺の方が鳥山より4年ほど早く、年も俺が今年33だから、鳥山は29くらいであろう。仕事は真面目にこなしてはいたが特に誰かと親しげにコミュニケーションをしている姿は見たことがなかった。だから声をかけられたときは驚き、何を言っているのだこいつはという不信感すら少しあった。
企画について話を聞くと、確かに面白そうではあった。ホラー系のyoutuberというのはかなりありきたりではあるが、もともと俺たちは映像系の仕事をしているため、編集も本格的に行えるし、なにより俺はもともと地上波のホラー番組の構成を担当していた時期もある。クオリティでいえば本格的なテレビ番組くらいのものは作れる自信があった。
初回の撮影から今まで数箇所の心霊スポットを回り、二人より三人の方が楽だからもう一人増やそう、増やすなら
犬が付くやつにしよう、という意見から入社二年目の犬塚をメンバーに誘い、現在は俺と犬塚が進行しながら各所でコメントをし、鳥山が主に撮影担当、という形に収まった。
チャンネル開設から訳半年ほどで再生数が伸び、奇しくも鳥山が最初に言っていたように、俺たちはある程度有名になったのだ。
「今回行く場所って相当やばいんスよね?」
「うん。相当ヤバいね。まぁ詳細は動画撮影してから教えるけどさ」
鳥山からはいつも、向かう場所は教えられるがその場所がどのようなところなのかは事前には教えられない動画を撮影する上で、特にホラー系ではその場所がどのような場所なのかを知るところから始まるのが定石だった。出演者が最初から心霊スポットのバックグラウンドを知っていても良いリアクションは取れないのだ。
「場所がちょっと本当にわかんないな」
車は住宅街を離れ山へ向かっていた。周囲には田んぼが広がり、まだ植えられたばかりであろう青い稲が顔をのぞかせている。田んぼの所有者であろう民家もちらほらと見受けられる。長閑な田舎町だった。 さらに数分車を走らせると一面の田んぼ地帯からは抜けた。徐々に山に近くなってきているらしく、生い茂る木々が道路の右側にでてきた。
鳥山は依然としてiPhoneとにらめっこをして唸っている。
「どっかで停まって地元の人に話でも聞くか?」
「あー、そうしますか。」と鳥山が反応する。
「MAPによるとこのまままっすぐ走ると橋が出てくるんで、そこでOP撮りましょう。たぶん森がバックになってるから雰囲気良いと思う。そのついでに人に道聞く感じで。」
「了解っす」と犬塚が返答すると同時に、確かに前方に橋のようなものが見えてきた。
橋の手前のスペースに車を停め外へでる。腕時計の針は午後四時を指しているが、日差しはいまだに強く冷房の効いた車内とは打って変わって肌に張り付くような暑さに辟易した。
「あっつ」
「車通りあんまないし、橋の真ん中あたりで撮りましょ」と鳥山が指さす。
橋はアーチ型の構造となっており、そこまで大きくはない。橋の長さは50メートルほどだろうか。がっちりとした作りだ。下には流れの早い川が通っている。鳥山が言うには狩川と呼ばれる河川らしい。
「大手橋、って書いてるっすね」犬塚は橋の横に建っている看板を見ながら言った。
橋の真ん中に立つと、涼しい風が吹き抜ける。車から出てまだ数分しかたっていないのに、汗をかいていることに
気が付いた。木々の揺れる音に合わせてセミの鳴き声が聞こえた。都内ではなかなか聞けない音量だった。
「じゃ、撮りますよ」鳥山がハンディカムを向ける。
俺と犬塚は軽く身なりを整えた。ピッと音が鳴る。撮影開始の合図だった。
「さぁ、猿飼さん。犬塚さん。本日も、鬼退治の時間がやってまいりました。」
「だいたい終わってるっす」と犬塚が運転しながら答える。
「うーん、もうちょっとで着くと思うんだけどなぁ」と鳥山が言う。iPhoneを注意深く覗き込み、操作していた。
「MAPにちゃんと登録されてないんだよね。どこをどう行けば良いのか・・」
東名高速大井町インターを下りてから車で30分ほど、MAPを頼りに目的の心霊スポットに向かっていたがまだ到着していなかった。
「いつもだけど、ホントよく見つけてくるよね」と俺は鳥山に言う。心霊スポットを見つけてくるのは大抵鳥山だった。そもそも、このYouTubeの企画を計画したのも鳥山だ。猿飼さん、ちょっと有名になってみませんか、と言われその日のうちに東京都内の心霊スポットに連れ去られたのが丁度一年ほど前だった。
鳥山とは同じ職場の同僚という認識のみでとりわけ仲が良いというわけではなかった。入社年月では俺の方が鳥山より4年ほど早く、年も俺が今年33だから、鳥山は29くらいであろう。仕事は真面目にこなしてはいたが特に誰かと親しげにコミュニケーションをしている姿は見たことがなかった。だから声をかけられたときは驚き、何を言っているのだこいつはという不信感すら少しあった。
企画について話を聞くと、確かに面白そうではあった。ホラー系のyoutuberというのはかなりありきたりではあるが、もともと俺たちは映像系の仕事をしているため、編集も本格的に行えるし、なにより俺はもともと地上波のホラー番組の構成を担当していた時期もある。クオリティでいえば本格的なテレビ番組くらいのものは作れる自信があった。
初回の撮影から今まで数箇所の心霊スポットを回り、二人より三人の方が楽だからもう一人増やそう、増やすなら
犬が付くやつにしよう、という意見から入社二年目の犬塚をメンバーに誘い、現在は俺と犬塚が進行しながら各所でコメントをし、鳥山が主に撮影担当、という形に収まった。
チャンネル開設から訳半年ほどで再生数が伸び、奇しくも鳥山が最初に言っていたように、俺たちはある程度有名になったのだ。
「今回行く場所って相当やばいんスよね?」
「うん。相当ヤバいね。まぁ詳細は動画撮影してから教えるけどさ」
鳥山からはいつも、向かう場所は教えられるがその場所がどのようなところなのかは事前には教えられない動画を撮影する上で、特にホラー系ではその場所がどのような場所なのかを知るところから始まるのが定石だった。出演者が最初から心霊スポットのバックグラウンドを知っていても良いリアクションは取れないのだ。
「場所がちょっと本当にわかんないな」
車は住宅街を離れ山へ向かっていた。周囲には田んぼが広がり、まだ植えられたばかりであろう青い稲が顔をのぞかせている。田んぼの所有者であろう民家もちらほらと見受けられる。長閑な田舎町だった。 さらに数分車を走らせると一面の田んぼ地帯からは抜けた。徐々に山に近くなってきているらしく、生い茂る木々が道路の右側にでてきた。
鳥山は依然としてiPhoneとにらめっこをして唸っている。
「どっかで停まって地元の人に話でも聞くか?」
「あー、そうしますか。」と鳥山が反応する。
「MAPによるとこのまままっすぐ走ると橋が出てくるんで、そこでOP撮りましょう。たぶん森がバックになってるから雰囲気良いと思う。そのついでに人に道聞く感じで。」
「了解っす」と犬塚が返答すると同時に、確かに前方に橋のようなものが見えてきた。
橋の手前のスペースに車を停め外へでる。腕時計の針は午後四時を指しているが、日差しはいまだに強く冷房の効いた車内とは打って変わって肌に張り付くような暑さに辟易した。
「あっつ」
「車通りあんまないし、橋の真ん中あたりで撮りましょ」と鳥山が指さす。
橋はアーチ型の構造となっており、そこまで大きくはない。橋の長さは50メートルほどだろうか。がっちりとした作りだ。下には流れの早い川が通っている。鳥山が言うには狩川と呼ばれる河川らしい。
「大手橋、って書いてるっすね」犬塚は橋の横に建っている看板を見ながら言った。
橋の真ん中に立つと、涼しい風が吹き抜ける。車から出てまだ数分しかたっていないのに、汗をかいていることに
気が付いた。木々の揺れる音に合わせてセミの鳴き声が聞こえた。都内ではなかなか聞けない音量だった。
「じゃ、撮りますよ」鳥山がハンディカムを向ける。
俺と犬塚は軽く身なりを整えた。ピッと音が鳴る。撮影開始の合図だった。
「さぁ、猿飼さん。犬塚さん。本日も、鬼退治の時間がやってまいりました。」
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