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生まれる疑念
大湾勉③
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カップヌードルを啜りながら、俺はiPhoneの画面に目をやる。パッと画面が明るくなり、顔認証が反応する。いつも通り、通知は来ていなかった。
今日はあれから2軒のアパートを周った。1日で3軒となると、少なく感じることもあるが敷地の広いアパートを2軒終わらせたので、妥当と言えば妥当だった。先ほどまでは夕焼けだった空も薄暗くなってきた。ジメジメとした生温い風が網戸を通り抜け肌に当たる。微かに踏切が鳴る音が聞こえてきた。
慣れた動作でiPhoneを操作し、YouTubeを開く。今日は更新されているだろうかと少しの期待を抱きながら、動画を探す。
「あっ」あった、と俺は声を出す。
動画をタップすると、軽快な音楽と共に男性の声が六畳1Kの部屋に流れた。
『さぁ、今回もやって参りました。鬼退治のお時間です』
『えーっと今日は?どこ?』
『今日は埼玉県に来ております。この先にまたとんでもない心霊スポットがあると、噂を聞いております。』
聴き慣れた声とセリフに自然と顔が緩む。俺が観ているのは、鬼退治というチャンネル名でここ一年ほどで有名になってきたYouTuberの動画だ。内容はシンプルで、3人の男が全国の心霊スポットを周るというありきたりな動画であった。だが3人とも本業が映像系の仕事ということで編集が上手く、テンポがいいのだ。ヤラセを疑うような心霊現象が起きたり、本当なのかと信じてしまうほど絶妙な現象が起きたり、と見所は毎回あった。
俺がこの番組を見つけたのは数ヶ月前だった。実は、南足柄市にも心霊スポットがあり、それをネットで調べていたところ巡り巡ってこのチャンネルに行き着いたのだ。最初は特に期待もせずに動画を観た。たしか、再生数も数千回だったはずだ。予想に反して面白く、今では更新を待ちわびるほどのファンだった。
本日の動画は埼玉県にある心霊スポットに行っているようだ。どうもネット界隈では有名なお化けトンネルらしい。特に心霊現象と呼べるような現象が起こることはなかったが、現場のおどろおどろしい雰囲気や異常な空気感が画面越しで伝わってくるような見ごたえがあり、今回も楽しむことができた。
『では、猿飼さん。今回の心霊スポットは、きびだんご何個でしょう』
『きびだんご三個かな』
動画の登場人物の男たちは、それぞれ猿飼、犬塚、鳥山という名前で、桃太郎のお供の名前がそれぞれ入っている。だからチャンネル名も鬼退治チャンネルなのだろう。動画の最後、心霊スポットを巡った後は、司会進行役の猿飼がいつも5段階で心霊スポットを評価していた。単位がきびだんごなのも、桃太郎に因んでいるのだろう。
猿飼のきびだんごの評価が終わると、おどろおどろしい音楽が流れ、血飛沫を模した赤い背景に『次回予告』と映し出される。毎回、動画の最後には次回予告がありそこもまた興味をそそるような編集がされていて期待が高まる。
『今回、我々は神奈川県にあります・・・』
『噂では20年ほど前、当時高校二年生だった女子高生が惨殺された・・・・』
『ここはマジでやばいでしょ』
『有名な心霊スポットではあるものの、その事件の生々しさから人の立ち寄りが少なく』
『えっ、えっ、えっ、なに、あれ』
『うわっ、うわっ』
目まぐるしく変わる場面とそれに合わせて3人が慌てふためく声が流れ、次の瞬間動画は砂嵐に変わり止まった。画面の右下には『次の動画まで10秒』とカウントダウンを始めていた。
俺はもう一度次回予告を見直す。上手く編集されており、背景の建物は予告の段階ではいつもあまりわからないのだが辛うじてみえた場所は確実に知っている場所であった。それに、神奈川県、20年前、女子高生殺害というキーワードが出てきたということはほぼ確実であった。
螢田美玖が殺された、あの場所に彼らは来たのだ。俺が彼らを知るきっかけになったときに探していた心霊スポットというのは、この蛍田美玖が殺された場所だった。
次の動画は確実に観なくてはならない、という興奮のまま俺は静止した砂嵐の画面を見続けた。
今日はあれから2軒のアパートを周った。1日で3軒となると、少なく感じることもあるが敷地の広いアパートを2軒終わらせたので、妥当と言えば妥当だった。先ほどまでは夕焼けだった空も薄暗くなってきた。ジメジメとした生温い風が網戸を通り抜け肌に当たる。微かに踏切が鳴る音が聞こえてきた。
慣れた動作でiPhoneを操作し、YouTubeを開く。今日は更新されているだろうかと少しの期待を抱きながら、動画を探す。
「あっ」あった、と俺は声を出す。
動画をタップすると、軽快な音楽と共に男性の声が六畳1Kの部屋に流れた。
『さぁ、今回もやって参りました。鬼退治のお時間です』
『えーっと今日は?どこ?』
『今日は埼玉県に来ております。この先にまたとんでもない心霊スポットがあると、噂を聞いております。』
聴き慣れた声とセリフに自然と顔が緩む。俺が観ているのは、鬼退治というチャンネル名でここ一年ほどで有名になってきたYouTuberの動画だ。内容はシンプルで、3人の男が全国の心霊スポットを周るというありきたりな動画であった。だが3人とも本業が映像系の仕事ということで編集が上手く、テンポがいいのだ。ヤラセを疑うような心霊現象が起きたり、本当なのかと信じてしまうほど絶妙な現象が起きたり、と見所は毎回あった。
俺がこの番組を見つけたのは数ヶ月前だった。実は、南足柄市にも心霊スポットがあり、それをネットで調べていたところ巡り巡ってこのチャンネルに行き着いたのだ。最初は特に期待もせずに動画を観た。たしか、再生数も数千回だったはずだ。予想に反して面白く、今では更新を待ちわびるほどのファンだった。
本日の動画は埼玉県にある心霊スポットに行っているようだ。どうもネット界隈では有名なお化けトンネルらしい。特に心霊現象と呼べるような現象が起こることはなかったが、現場のおどろおどろしい雰囲気や異常な空気感が画面越しで伝わってくるような見ごたえがあり、今回も楽しむことができた。
『では、猿飼さん。今回の心霊スポットは、きびだんご何個でしょう』
『きびだんご三個かな』
動画の登場人物の男たちは、それぞれ猿飼、犬塚、鳥山という名前で、桃太郎のお供の名前がそれぞれ入っている。だからチャンネル名も鬼退治チャンネルなのだろう。動画の最後、心霊スポットを巡った後は、司会進行役の猿飼がいつも5段階で心霊スポットを評価していた。単位がきびだんごなのも、桃太郎に因んでいるのだろう。
猿飼のきびだんごの評価が終わると、おどろおどろしい音楽が流れ、血飛沫を模した赤い背景に『次回予告』と映し出される。毎回、動画の最後には次回予告がありそこもまた興味をそそるような編集がされていて期待が高まる。
『今回、我々は神奈川県にあります・・・』
『噂では20年ほど前、当時高校二年生だった女子高生が惨殺された・・・・』
『ここはマジでやばいでしょ』
『有名な心霊スポットではあるものの、その事件の生々しさから人の立ち寄りが少なく』
『えっ、えっ、えっ、なに、あれ』
『うわっ、うわっ』
目まぐるしく変わる場面とそれに合わせて3人が慌てふためく声が流れ、次の瞬間動画は砂嵐に変わり止まった。画面の右下には『次の動画まで10秒』とカウントダウンを始めていた。
俺はもう一度次回予告を見直す。上手く編集されており、背景の建物は予告の段階ではいつもあまりわからないのだが辛うじてみえた場所は確実に知っている場所であった。それに、神奈川県、20年前、女子高生殺害というキーワードが出てきたということはほぼ確実であった。
螢田美玖が殺された、あの場所に彼らは来たのだ。俺が彼らを知るきっかけになったときに探していた心霊スポットというのは、この蛍田美玖が殺された場所だった。
次の動画は確実に観なくてはならない、という興奮のまま俺は静止した砂嵐の画面を見続けた。
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