14 / 21
瀬戸際の泥棒と窓際の彼女
しおりを挟む
「中は二部屋あったわ」と家に帰ってきた神田美咲は言った。
「二部屋?」倉庫なのだから漠然と大きな一つの空間だと思っていたが分けられていたのか、と甲田は思う。
「元は一つの大きな空間だったんだと思うんだけど、無理矢理作ったのか一応倉庫の三分の二くらいのところから壁になってて、そこにドアが付いてた。そのドアの向こう側で取引をしてたわ。取引してる空間の方は人は数人。倉庫入口から入る空間は数十人は人がいたわ。」
甲田は倉庫の形を思い出す。倉庫は長方形で入口から縦に長い。その内部も実際は倉庫の形に沿って長方形の筈だが、神田美咲の話では入ってから三分の二ほどの所に壁が作られてあるということだ。つまり内部は正方形の空間と、その奥に、横に長い小さな長方形の空間というような形になっている。入口に通じる正方形の空間は侵入者への対策のため人が配置され、奥の横に長い長方形の空間で取引が行われている。
そもそも、律儀に正面の入口から入る侵入者はいないだろうが、甲田が見たところあの倉庫には他に入れそうなところはない。窓にしても、人が通れるほどの大きさでもなければ、万が一通れたとしても、窓は高いところに設置されており、かなりの高さを飛び降りなくてはならない。
「侵入口は正面からしかないか」
「無理よ。あの部屋にいた人たち、全員なにかしら武器を持ってたわよ。金属バットにナイフに日本刀みたいなのも持ってる人もいたわ」きっと、拳銃を持っている者も数人はいるだろう、と甲田は当たりをつける。音が鳴るとはいえ、サイレンサーを付ければいいだけの話だ。
「まぁ、あそこ暗かったけどね」
「あそこって金属バットとナイフを持った人たちがうようよいる空間?」
「あと、日本刀もね」と神田美咲は付け加え「そう、取引してる空間は電気がついていたんだけど、ガードマンがうようよいる空間は電気じゃなくてろうそくが数本と窓から入ってくる月明かりだけだったから、結構暗かったわ」ガードマン、という言い方に甲田は暗い倉庫内にうようよと黒いスーツ姿でサングラスをかけた屈強な男達がいるのを想像せずにはいられない。
「もしかすると、取引の空間は窓がなかった?」
「あぁ、かもしれない。そこは、よく見てなかったけど」
たぶんないだろうと甲田は思い出す。光が漏れていた窓はなかった。倉庫後方は窓がなく、万が一にも外から見られないようその窓がない空間に合わせ取引場所を作ったのだろう。
「どうやって入ればいいのかな。私ならどこからでも入れるんだけどね」と神田美咲は言い、はぁ、と溜息をついた。
「あ」と甲田は神田美咲の口を見ながら声を出す。
「なに?」
「なんとかなるかもしれない」
「え? なんとかって、どうやって中に入るの?」
「そりゃあ入口からだよ」
だから無理だってば、と顔をしかめクロのそばに近づいていく神田美咲を見る。はぁ、ともう一度溜息をつく。その息がクロの耳に触れ、耳がピクッと動いた。
「二部屋?」倉庫なのだから漠然と大きな一つの空間だと思っていたが分けられていたのか、と甲田は思う。
「元は一つの大きな空間だったんだと思うんだけど、無理矢理作ったのか一応倉庫の三分の二くらいのところから壁になってて、そこにドアが付いてた。そのドアの向こう側で取引をしてたわ。取引してる空間の方は人は数人。倉庫入口から入る空間は数十人は人がいたわ。」
甲田は倉庫の形を思い出す。倉庫は長方形で入口から縦に長い。その内部も実際は倉庫の形に沿って長方形の筈だが、神田美咲の話では入ってから三分の二ほどの所に壁が作られてあるということだ。つまり内部は正方形の空間と、その奥に、横に長い小さな長方形の空間というような形になっている。入口に通じる正方形の空間は侵入者への対策のため人が配置され、奥の横に長い長方形の空間で取引が行われている。
そもそも、律儀に正面の入口から入る侵入者はいないだろうが、甲田が見たところあの倉庫には他に入れそうなところはない。窓にしても、人が通れるほどの大きさでもなければ、万が一通れたとしても、窓は高いところに設置されており、かなりの高さを飛び降りなくてはならない。
「侵入口は正面からしかないか」
「無理よ。あの部屋にいた人たち、全員なにかしら武器を持ってたわよ。金属バットにナイフに日本刀みたいなのも持ってる人もいたわ」きっと、拳銃を持っている者も数人はいるだろう、と甲田は当たりをつける。音が鳴るとはいえ、サイレンサーを付ければいいだけの話だ。
「まぁ、あそこ暗かったけどね」
「あそこって金属バットとナイフを持った人たちがうようよいる空間?」
「あと、日本刀もね」と神田美咲は付け加え「そう、取引してる空間は電気がついていたんだけど、ガードマンがうようよいる空間は電気じゃなくてろうそくが数本と窓から入ってくる月明かりだけだったから、結構暗かったわ」ガードマン、という言い方に甲田は暗い倉庫内にうようよと黒いスーツ姿でサングラスをかけた屈強な男達がいるのを想像せずにはいられない。
「もしかすると、取引の空間は窓がなかった?」
「あぁ、かもしれない。そこは、よく見てなかったけど」
たぶんないだろうと甲田は思い出す。光が漏れていた窓はなかった。倉庫後方は窓がなく、万が一にも外から見られないようその窓がない空間に合わせ取引場所を作ったのだろう。
「どうやって入ればいいのかな。私ならどこからでも入れるんだけどね」と神田美咲は言い、はぁ、と溜息をついた。
「あ」と甲田は神田美咲の口を見ながら声を出す。
「なに?」
「なんとかなるかもしれない」
「え? なんとかって、どうやって中に入るの?」
「そりゃあ入口からだよ」
だから無理だってば、と顔をしかめクロのそばに近づいていく神田美咲を見る。はぁ、ともう一度溜息をつく。その息がクロの耳に触れ、耳がピクッと動いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる