瀬戸際の泥棒と窓際の彼女 短編集

yasi84

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瀬戸際の泥棒と窓際の彼女

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「中は二部屋あったわ」と家に帰ってきた神田美咲は言った。
「二部屋?」倉庫なのだから漠然と大きな一つの空間だと思っていたが分けられていたのか、と甲田は思う。
「元は一つの大きな空間だったんだと思うんだけど、無理矢理作ったのか一応倉庫の三分の二くらいのところから壁になってて、そこにドアが付いてた。そのドアの向こう側で取引をしてたわ。取引してる空間の方は人は数人。倉庫入口から入る空間は数十人は人がいたわ。」
 甲田は倉庫の形を思い出す。倉庫は長方形で入口から縦に長い。その内部も実際は倉庫の形に沿って長方形の筈だが、神田美咲の話では入ってから三分の二ほどの所に壁が作られてあるということだ。つまり内部は正方形の空間と、その奥に、横に長い小さな長方形の空間というような形になっている。入口に通じる正方形の空間は侵入者への対策のため人が配置され、奥の横に長い長方形の空間で取引が行われている。
 そもそも、律儀に正面の入口から入る侵入者はいないだろうが、甲田が見たところあの倉庫には他に入れそうなところはない。窓にしても、人が通れるほどの大きさでもなければ、万が一通れたとしても、窓は高いところに設置されており、かなりの高さを飛び降りなくてはならない。
「侵入口は正面からしかないか」
「無理よ。あの部屋にいた人たち、全員なにかしら武器を持ってたわよ。金属バットにナイフに日本刀みたいなのも持ってる人もいたわ」きっと、拳銃を持っている者も数人はいるだろう、と甲田は当たりをつける。音が鳴るとはいえ、サイレンサーを付ければいいだけの話だ。
「まぁ、あそこ暗かったけどね」
「あそこって金属バットとナイフを持った人たちがうようよいる空間?」
「あと、日本刀もね」と神田美咲は付け加え「そう、取引してる空間は電気がついていたんだけど、ガードマンがうようよいる空間は電気じゃなくてろうそくが数本と窓から入ってくる月明かりだけだったから、結構暗かったわ」ガードマン、という言い方に甲田は暗い倉庫内にうようよと黒いスーツ姿でサングラスをかけた屈強な男達がいるのを想像せずにはいられない。
「もしかすると、取引の空間は窓がなかった?」
「あぁ、かもしれない。そこは、よく見てなかったけど」
 たぶんないだろうと甲田は思い出す。光が漏れていた窓はなかった。倉庫後方は窓がなく、万が一にも外から見られないようその窓がない空間に合わせ取引場所を作ったのだろう。
「どうやって入ればいいのかな。私ならどこからでも入れるんだけどね」と神田美咲は言い、はぁ、と溜息をついた。
「あ」と甲田は神田美咲の口を見ながら声を出す。
「なに?」
「なんとかなるかもしれない」
「え? なんとかって、どうやって中に入るの?」
「そりゃあ入口からだよ」
 だから無理だってば、と顔をしかめクロのそばに近づいていく神田美咲を見る。はぁ、ともう一度溜息をつく。その息がクロの耳に触れ、耳がピクッと動いた。
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