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最終章
絶望
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頭がガンガンと痛い。何かに押し潰されそうだ。
「明美、ずっと私のこと頼ってたよね。あれ、すごいうざかったよ」
走馬灯のように緑川は今までの記憶を思い出していた。優子がいじめの相談に乗ってくれたこと。私に対してもっとやり返せ、と真剣に行ってくれたこと。なによりも、いじめをしている相手に対しての憤り。
あれが嘘だった?
「主犯かどうかは分からないけど、三崎絵里には近寄らない方がいいかもしれない。あの日、放課後に女子トイレから男子生徒数人と彼女が出てきたのを見たって人がいるの」まるで紙に書かれた言葉を読むような平坦さで優子が言った。
「私がこう言ったの、覚えてる?」
男子生徒数人に襲われそうになったことを優子に話した後に優子が言った言葉だ、とすぐに思い出す。
「つまりね、男子生徒数人と三崎絵梨がトイレから出てきたんじゃなくて、男子生徒数人と私がトイレから出てきたの。それを、三崎絵梨に見られたってわけ」
風が吹いたのか、頭上を覆う木々がざわめいた。
「明美、すぐ信じてたよね。あれは本当笑えた。三崎絵梨も根暗でしょ? 自己主張しないタイプだから、勝手に明美からいじめの主犯だと思われてもなんも言えないのよね」
「なんで…」辛うじて出た言葉は掠れていた。
「なんで? これも言ったよね。いじめに理由なんかないのかもしれない、って。その通りよ。理由なんかない。強いて言うなら暇潰しとか、退屈凌ぎのゲームみたいな感じ。それが結構面白くて、卒業してからもいろいろしたんだけどね」
優子はちらりと後ろに立つ慎吾を見た。
「慎吾と明美が運命的な出会いをしたのも、あれ、私が仕組んだこと」
「どうゆう…」
「歓迎会が終わる時間は聞いてたから、その時間に慎吾を向かわせたの。上手いこと知り合ってってね。そしたら予想通りというかなんというか、いい具合に運命的な出会いしてくれたから面白かったわ。次の日の電話も滑稽だった」
状況がうまく把握できなかった。頬が濡れた。雨が降ってきたと思ったら、涙だった。
「残念だったのはおばあちゃんに慎吾を会わせられなかったことね。本当はあそこでネタばらしするつもりだったんだけど、その前に死んじゃったからね。せっかく看護師の1人にお金渡して慎吾に明美からおばあちゃんに会ってもらうように促してまでしたのにね」
溢れ出る涙に視界が霞む。優子の顔がよく見えない。その後ろに立つ慎吾さんの顔もはっきりとしない。
全てが作り物だったということなのか。優子が、作ったものだったのか。私の信じていた世界は、なんだったのか。なにも変わっていなかった。優子が手を差し伸べてくれて、私の世界は変わった。優子という存在が私の光になってくれた。それなのに。その光は。偽りだった。
緑川の頭には、あの時のカーテンの隙間から漏れる光が浮かんだ。
「いい顔よ明美」
緑川の頭は靄が掛かっているように思考が働いてくれない。自分は今どのような顔をしているのだろうか。悲しみ。怒り。自分の感情が分からない。そんな風に緑川の意識は漠然と考えていると、その答えは優子が口にした。
「絶望に満ちた顔。いいわね。あんたさ、いつも私は平気なのみたいになにがあってもポーカーフェイスを通して、私に相談してる時もあんまり取り乱したりしなかったよね。それが本当ムカつくの。でも、今やっと見たい顔が見れてる」きゃはは、と優子が笑う。
絶望。そうか、私は今絶望しているんだ。でも、何に対して私は絶望しているのだろう。緑川は不明瞭な頭で考えた。
「おばあちゃんが死んじゃったから計画が狂っちゃって1ヶ月放置してたけどいい感じで明美が落ち込んでるみたいだからさらに追い討ちかけてみようって慎吾と話したのよ」
この絶望は、単に優子に今まで騙されていたことじゃない。この絶望は私自身に対しての絶望だ。
「満足よ。その顔見れて。何せ3年? くらいの長期的な計画だったから。遊び半分でやるには手間のかかることだったけど、面白かったからいいわ」
私は、こんなことになってもまだ。優子から真実を聞いてもまだ。どこかで、優子を信じたいと思う自分に絶望している。
「じゃあ、あとは頑張って下山してね。自殺しても警察は身内の死の後を追ったとしか思わないから、好きにして」
そう言って優子は車に乗り込んだ。少し遅れて慎吾も運転席のドアを開けた。緑川は何もできずにただ立ち尽くしていた。運転席に乗り込む前に、慎吾は一瞬緑川の方を見た。どんな表情をしていたのか、緑川は分からなかった。
「明美、ずっと私のこと頼ってたよね。あれ、すごいうざかったよ」
走馬灯のように緑川は今までの記憶を思い出していた。優子がいじめの相談に乗ってくれたこと。私に対してもっとやり返せ、と真剣に行ってくれたこと。なによりも、いじめをしている相手に対しての憤り。
あれが嘘だった?
「主犯かどうかは分からないけど、三崎絵里には近寄らない方がいいかもしれない。あの日、放課後に女子トイレから男子生徒数人と彼女が出てきたのを見たって人がいるの」まるで紙に書かれた言葉を読むような平坦さで優子が言った。
「私がこう言ったの、覚えてる?」
男子生徒数人に襲われそうになったことを優子に話した後に優子が言った言葉だ、とすぐに思い出す。
「つまりね、男子生徒数人と三崎絵梨がトイレから出てきたんじゃなくて、男子生徒数人と私がトイレから出てきたの。それを、三崎絵梨に見られたってわけ」
風が吹いたのか、頭上を覆う木々がざわめいた。
「明美、すぐ信じてたよね。あれは本当笑えた。三崎絵梨も根暗でしょ? 自己主張しないタイプだから、勝手に明美からいじめの主犯だと思われてもなんも言えないのよね」
「なんで…」辛うじて出た言葉は掠れていた。
「なんで? これも言ったよね。いじめに理由なんかないのかもしれない、って。その通りよ。理由なんかない。強いて言うなら暇潰しとか、退屈凌ぎのゲームみたいな感じ。それが結構面白くて、卒業してからもいろいろしたんだけどね」
優子はちらりと後ろに立つ慎吾を見た。
「慎吾と明美が運命的な出会いをしたのも、あれ、私が仕組んだこと」
「どうゆう…」
「歓迎会が終わる時間は聞いてたから、その時間に慎吾を向かわせたの。上手いこと知り合ってってね。そしたら予想通りというかなんというか、いい具合に運命的な出会いしてくれたから面白かったわ。次の日の電話も滑稽だった」
状況がうまく把握できなかった。頬が濡れた。雨が降ってきたと思ったら、涙だった。
「残念だったのはおばあちゃんに慎吾を会わせられなかったことね。本当はあそこでネタばらしするつもりだったんだけど、その前に死んじゃったからね。せっかく看護師の1人にお金渡して慎吾に明美からおばあちゃんに会ってもらうように促してまでしたのにね」
溢れ出る涙に視界が霞む。優子の顔がよく見えない。その後ろに立つ慎吾さんの顔もはっきりとしない。
全てが作り物だったということなのか。優子が、作ったものだったのか。私の信じていた世界は、なんだったのか。なにも変わっていなかった。優子が手を差し伸べてくれて、私の世界は変わった。優子という存在が私の光になってくれた。それなのに。その光は。偽りだった。
緑川の頭には、あの時のカーテンの隙間から漏れる光が浮かんだ。
「いい顔よ明美」
緑川の頭は靄が掛かっているように思考が働いてくれない。自分は今どのような顔をしているのだろうか。悲しみ。怒り。自分の感情が分からない。そんな風に緑川の意識は漠然と考えていると、その答えは優子が口にした。
「絶望に満ちた顔。いいわね。あんたさ、いつも私は平気なのみたいになにがあってもポーカーフェイスを通して、私に相談してる時もあんまり取り乱したりしなかったよね。それが本当ムカつくの。でも、今やっと見たい顔が見れてる」きゃはは、と優子が笑う。
絶望。そうか、私は今絶望しているんだ。でも、何に対して私は絶望しているのだろう。緑川は不明瞭な頭で考えた。
「おばあちゃんが死んじゃったから計画が狂っちゃって1ヶ月放置してたけどいい感じで明美が落ち込んでるみたいだからさらに追い討ちかけてみようって慎吾と話したのよ」
この絶望は、単に優子に今まで騙されていたことじゃない。この絶望は私自身に対しての絶望だ。
「満足よ。その顔見れて。何せ3年? くらいの長期的な計画だったから。遊び半分でやるには手間のかかることだったけど、面白かったからいいわ」
私は、こんなことになってもまだ。優子から真実を聞いてもまだ。どこかで、優子を信じたいと思う自分に絶望している。
「じゃあ、あとは頑張って下山してね。自殺しても警察は身内の死の後を追ったとしか思わないから、好きにして」
そう言って優子は車に乗り込んだ。少し遅れて慎吾も運転席のドアを開けた。緑川は何もできずにただ立ち尽くしていた。運転席に乗り込む前に、慎吾は一瞬緑川の方を見た。どんな表情をしていたのか、緑川は分からなかった。
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