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第3章 祖母
お前の嘘はすぐバレる
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担当医が時間を読み上げ、源文枝の死を確認した。
眠っているような死に顔、というのは良く聞くが、源文枝の顔にはしっかりとした死があった。もう、目を開けることはない。その事実が重く突きつけられる。
源さん、恵さんと洋介君最期まで居てくれましたよ。源さん、源さん。伊藤渚が源文枝の耳元で囁いている。心臓が止まってもしばらく聴力は生きている、と言っていた事を思い出した。心臓が止まり、源文枝という意識がこの世から消えた。それでも聴力は生きている。言葉を正確に鼓膜は聞き取っている。一体、その言葉は源文枝のどこに届いているのだろうか。人は死ぬとどうなるのだろう。燃えて灰になる。だが、それは生きている側から見た死後だ。死んだ人間から見る死後はどのようなものなのだろう。
今、源文枝は天井付近から私たちを見下ろしているのだろうか。そうして私の嘘に気付いたのだろうか。
溢れる涙を拭いもせずに、私はそんな事を考えていた。
それから少しして、源文枝の所持品から伊藤渚宛の手紙が出てきたらしい。内容は伊藤渚への看護をしてくれた感謝と謝罪だったという。文中には何度も伊藤渚のことを本当の娘のように思っていた、と書かれていたらしい。そしてその手紙の最後の締めくくりの言葉は「お前の嘘はすぐバレる」だったという。
なぜか心臓を掴まれたようにどきっとした。全てを見透かされていたのだろうか、という気持ちになってくる。きっと、伊藤渚によく言っていたことを書いただけなのだろう、と思い直しながら無意識に空を見上げていた。伊藤渚も空を見上げる。
天国というものがあるのならば、今頃は親子3世代でよろしくやっているだろう。全く騙されたよ、と笑いながら私たちを見下ろす源文枝の顔も、お前たちの嘘はすぐ分かる、バレバレだったよ、と言っている顔の両方が頭に浮かび、私は苦笑した。
伊藤渚はしばらく空を見つめた後、やはり小さく笑った。その綺麗な笑顔を、私は一生忘れないだろう。
眠っているような死に顔、というのは良く聞くが、源文枝の顔にはしっかりとした死があった。もう、目を開けることはない。その事実が重く突きつけられる。
源さん、恵さんと洋介君最期まで居てくれましたよ。源さん、源さん。伊藤渚が源文枝の耳元で囁いている。心臓が止まってもしばらく聴力は生きている、と言っていた事を思い出した。心臓が止まり、源文枝という意識がこの世から消えた。それでも聴力は生きている。言葉を正確に鼓膜は聞き取っている。一体、その言葉は源文枝のどこに届いているのだろうか。人は死ぬとどうなるのだろう。燃えて灰になる。だが、それは生きている側から見た死後だ。死んだ人間から見る死後はどのようなものなのだろう。
今、源文枝は天井付近から私たちを見下ろしているのだろうか。そうして私の嘘に気付いたのだろうか。
溢れる涙を拭いもせずに、私はそんな事を考えていた。
それから少しして、源文枝の所持品から伊藤渚宛の手紙が出てきたらしい。内容は伊藤渚への看護をしてくれた感謝と謝罪だったという。文中には何度も伊藤渚のことを本当の娘のように思っていた、と書かれていたらしい。そしてその手紙の最後の締めくくりの言葉は「お前の嘘はすぐバレる」だったという。
なぜか心臓を掴まれたようにどきっとした。全てを見透かされていたのだろうか、という気持ちになってくる。きっと、伊藤渚によく言っていたことを書いただけなのだろう、と思い直しながら無意識に空を見上げていた。伊藤渚も空を見上げる。
天国というものがあるのならば、今頃は親子3世代でよろしくやっているだろう。全く騙されたよ、と笑いながら私たちを見下ろす源文枝の顔も、お前たちの嘘はすぐ分かる、バレバレだったよ、と言っている顔の両方が頭に浮かび、私は苦笑した。
伊藤渚はしばらく空を見つめた後、やはり小さく笑った。その綺麗な笑顔を、私は一生忘れないだろう。
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